季節は春から夏にシフトした休日の午後。ジリジリと痛いぐらいの紫外線を肌に感じながらある場所を目指していた。
子供の頃から通い慣れた喫茶店のドアに手をかける。店内に入ると冷房が効いているのか涼しい風が肌を撫でた。外との気温差に少しだけ鳥肌が立った。
いつもの定位置にはすでに見知った顔がいた。でもその中に彼女はいなかった。
最近では5人で集まることは少なくなっていた。それが少しだけ寂しくもあった。
「ひ〜ちゃん遅い〜」
「ごめん、ごめん。あ、ありがとう〜つぐ」
「ううん。今日は暑いからね。しっかり水分は摂らないと脱水症状になっちゃうよ」
パタパタと手で顔を仰ぐと少しだけ汗がひいてきた気がする。
「それにしても今日は一段と熱いな」
午前中まで一緒にバイトをしていた巴は口では熱いと言っているがそんなことは微塵も感じさせないくらいに元気だった。むしろいつもより元気な気がする。
そしていつも一番最初に来ているはずの蘭の姿は相変わらずなかった。
「今日も蘭は来てないね〜」
「「…………」」
モカのその一言で少しだけ空気が重くなる。
「ま、まあ、蘭ちゃんもバイトとかで忙しいんじゃない」
「そうかなぁ〜、こんな頻繁にバイトしてるイメージはなかったけど」
「じゃ、じゃあ家の用事とかじゃ」
「いや、毎週毎週家の用事はないと思うけどな」
「でも…………」
ついに理由がなくなったのか擁護していたつぐみの口からは何も出てこなくなった。
「やっぱりあの子のとこ行ってるのかも」
「「…………」」
そして彼女のことを出したら再び空気が重くなった。
「あたしたちに内緒で蘭が仲良くしてる子でしょ」
「うん、学校でも最近蘭ちゃん楽しそうに話してるの見てるよ」
「この間まではすぐにアタシたちの教室きてたのにな」
あの子というのは最近やけに蘭と一緒にいる子だ。私も遠目でしか見てないからわからないがすごく可愛い子だった。それこそ彩さんに引けを取らないくらいに。
口下手な蘭があれだけ仲良くしているのを見ると嬉しい反面少しだけ悲しくもあった。
「明日少しだけ話してみるか」
「えぇ!?そんなことして大丈夫かな」
「だってこのままだと蘭がアタシたちの元を離れていくかもしれないんだぞ!!」
「そ、それは…………」
巴は誰よりも仲間思いなので蘭がどこかに行ってしまうことが嫌なのだろう。
それに蘭にしても仲良くなった子なら私たちに紹介ぐらいしてくれてもいい気がするし。
それを隠しておくなんてよっぽどやましいことがある時だけじゃないか。
「で、でもあんな可愛い子が蘭と仲良くしてるのもおかしな話だよね〜」
「確かに言われてみればそうかも」
うんうんと首を振るつぐみに釣られるように首を縦に振る。
確かに考えてみればそうだ。あんなに可愛い子が蘭と仲良くしているのも少しだけおかしい。
だってあれだけ可愛いければクラスの中でも人気のはずだ。
それなのに蘭と一緒にいることがおかしい。蘭はどちらかというと口下手の方で自分の気持ちを表に出すことが苦手だ。
だというのにそんな蘭と仲良くしているのは一体どういうことなのだろうか。
「もしかして、ぼっちの蘭に目をつけて脅してるとか…………」
「そ、そんなわけないよひまりちゃん…………多分」
「いやいや案外ひーちゃんが言ってることも間違いじゃないかもしれないよ」
「どう言うことだモカ」
「トモちん考えても見なよ。クラスで一番可愛い子がわざわざ蘭に声をかけてる理由。蘭みたいな子は案外怖がられてるけどそこに目をつけて声をかけたらコッロと落ちちゃうんじゃないかな」
「で、でも蘭にする必要はないだろ」
「チ、チ、チ、わかってませんな〜。蘭の性格を思い出してよ。いつもクラスで孤立している中クラスの人気者から声をかけられて優しくされたら蘭ならきっとすぐに依存しちゃうよ」
「そ、そんな馬鹿なこと…………」
「まあ、これはあくまでモカちゃんの持論だから気にしなくてもいいけど」
「「…………」」
モカはそうは言うが確かにあながち間違いでもない気がしてきた。蘭ならきっとすぐにあの子に依存してしまうだろう。
毎年みんなで一緒に行っていた恒例のお祭りも今年はパスと言って一緒にいかなかったし。
それに体育の授業でも楽しそうに話しているのを見た気がする。それも二人でだ。
「ど、どうしよう、ひまりちゃん」
「え!?」
いきなり悩んでいる時につぐに声をかけられたから少しだけびっくりする。
「そ、そうだなぁ…………やっぱり明日少しだけ話してみるとか」
「でもどうやって話かけよう。もしさっきモカちゃんが言ってたことが本当なら相当腹黒い子かもしれないし」
「それならアタシに任せてくれないか」
「巴」
「みんなは昼休みに屋上にいてそこにアタシが呼び出して話を聞く」
「でも、そんな単純にいくかな」
「いざとなれば力ずくでも連れてくればいいさ」
「うーん、そんなにうまくいくといいけど」
そこからは明日の詳しい作戦内容を話あうことになった。
それにしてもこの新作スイーツ美味しい〜!!
「よしじゃあ作戦通りに行くぞ!!」
「「「おぉ!!!」」」
そして翌日の昼休み。今は最後の最後に屋上で作戦の内容を確認していた。
「行ってくる」
そう言い残しバタンと重たい扉を押して教室に向かっていった。
「大丈夫かな巴」
「そんなに心配しなくてもいいと思うよひーちゃん。あの気迫のともチンに迫られちゃ誰も断れないよ」
「だといいけど」
長い。
巴が出ていってからすでに10分近く経過していた。
やっぱり危ない子だったのだろうか。これほど巴がてこずっているなんて。
巴だって女子からの人気はすごいからもしかしたら取り巻き通しで喧嘩にでもなってるんじゃ。
「やっぱり遅いね〜」
つぐと私の顔色はどんどんと悪くなっていく一方なのにモカはのほほ〜んとしている。
「私見てこようかな」
「え!?危ないからやめたほうがいいよつぐ」
「だってこのままだと蘭ちゃんと巴ちゃん両方が大変なことになっちゃうかもしれないよ」
「それはそうだけど…………」
それでも大変なことになっているであろう教室付近につぐを行かせるのは怖かった。
「だったら私がいく」
「ひまりちゃんのほうが危ないよ!!」
「ううん、ここは私が行かないといけないよつぐ…………これでも一応Afterglowのリーダーなんだから」
「ひまりちゃん…………」
「もう止めても無駄だよつぐ。こうなったひーちゃんは誰にも止められないから」
ドキドキと鼓動が早くなる心臓を抑えて深呼吸をする。
そうだ。ここで私が行かないとダメなんだ。
口下手な蘭に代わって私がリーダーなんだから。こんなことならやっぱり辞めとけばよかった。
きっとリサさんならもっと上手くできるのだろうか。日菜先輩ならすぐに解決しちゃう。
…………でも私だってメンバーを思う気持ちは誰にも負けてない!!
決しの覚悟で重たい扉のドアノブに手をかけた瞬間勢いよく開かれる。
「きゃあ!?」
咄嗟のことだったので思わず後ろに尻餅をついてしまった。
「っとひまりどうしたんだそんなとこに座って」
声をかけられた方を見てみるとそこには巴の顔があった。
「と、巴〜」
「な、なんだよ急に抱きついてきて!!」
「だって、だって〜」
うわーんと泣きながら巴に抱きつく。それをいつものようによしよしと頭を撫でられる。
「…………あれ、でも巴がここにいるってことは連れてこれたの?」
「あ、ああそれなんだが」
バツが悪そうな顔をして頭を撫でてくれていた反対側の手に繋がれている先をみるとそこには目的の子がいた。やっぱり可愛い。
だが、その可愛さ満点の顔なのにその顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ひっぐ、っぐ、ご、ごめんなさい…………ごめんなさい…………なんでもするから殺さないで」
「ああ!!悪かったってだからそんなに泣くなよ!!」
「ひぃ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
必死に謝るその子を見てなんとなくだが巴が100%悪いことはわかった。
上原ひまり
ポンコツだがやるときはやる女子高生
最近の悩みは夏なのに体重が増えて水着が着れないことらしい
…………その主な原因はつぐみの家の新作スイーツの試食だとかなんとか
青葉モカ
のほほ〜んとしている女子高生
今回の件で誰よりも蘭を心配していたが決してそれは表に出さないようにしていた
毎日毎日パンを山のように食べているのにやけに太らないでいるのは誰かにカロリーを送っているからとかなんとか
羽沢つぐみ
しっかり者の女子高生
家での手伝い、生徒会、バンドなど到底普通の人間にはできないような激務をこなしているが自分は個性がなく普通だと思い込んでいるらしい
蘭のことが心配で最近はつぐっていることがほとんどなかったようだ
宇田川巴
姉御肌の女子高生
いつも暑いのに今年は特に熱いらしい
例の子に直接対決にいったがそこで何があったのかはご想像にお任せしたい
ソイヤ!!