タンタンタンタンタンタンと机をリズミカルに叩いていた。
今のあたしは明らかに周りから見れば不機嫌だろう。その原因は一つしかない。
時計を見たらもうジュースを買いに行ってから10分も経っていた。いつもなら5分経つ頃には帰ってくるのに今日に限ってはまだ帰ってきてなかった。
前に5分遅れたら頬にビンタをしてわからせてあげたのに、全く反省してしていないのか。
せっかく最近はAfterglowのみんなに断りを入れて昼休みは大庭と食べる様にしているのにこれじゃ意味がない。
ついには10分を超えても帰ってこないのでどうしようか考え始めた。
いや、もしかしたら帰りたくても帰れない理由があるのかもしれない。
それ思ったら少しだけ嫌な予感が背筋をおそった。見た目通り大庭はナヨナヨしている。それこそプールに行った時に男に声をかけられただけで泣くほどにはクソ雑魚メンタルだ。
そんな大庭が誰かに因縁をつけられて絡まれているとしたら。
今頃体育館裏に連れて行かれてしばかれているかもしれない。
日菜先輩に目をつけられて2年の教室に連れて行かれて、リサ先輩たちと一緒におもちゃにされてるかもしれない。
考えれば考えるほど嫌な予感がしてきた。
ついには教室を飛び出して購買に向かった。
少しだけ駆け足できた購買はいつもと変わらずに人でごった返していた。この空間の中に飛び込んで買いに行くなんてとてもじゃないがアタシにはできない。
もちろん大庭にもキツイはずだ。
それでもアタシがお願いすれば渋々行ってくれるのが大庭のいいところだけど。
「あれ〜蘭じゃん。ここで会うなんて珍しいね」
この声は知っている。嫌な予感がして振り返るとそこにはギャルがいた。
リサ先輩とアタシの永遠のライバル(自称)の湊さんが学食の帰りなのか二人でペットボトルを抱えていた。
「どうも…………」
「あはは、相変わらず友希那と一緒で無愛想だね」
「いや、そんなこと」
よしよしと頭を撫でられる。
恥ずかしいので猫の様に首を振るとやっとやめてくれる。
「あ、あの…………リサさんここで男子生徒見ませんでしたか?」
「男子生徒?」
うーん、と首を振ると少しばかり難しい顔つきになる。
「ごめん、見てないなぁ。男子生徒ならそんなにいないからすぐわかると思うんだけど」
「そう…………ですか」
どうしよう。もしかしてもう教室に戻ってるのかもしれない。
アタシが少しばかし眉を潜めているとずっと横でボーッとしていた湊さんが口を開いた。
「そういえばさっき自販機の前で男子生徒いたわよ」
「え、本当ですか」
「ええ、宇田川さんと揉めてたらしいけど」
「巴と?」
大庭と巴が一緒にいた。
それだけで少しだけ嫌な予感がする。
巴は見た目通り猪突猛進タイプだ。それに比べて大葉は陰キャのコミュ障だ。
その二人が出会ったと言うのだから不安しかない。
「湊さん二人はどこにいきましたか」
「確か、階段の方に向かっていったと思うけど」
「すいません。ありがとうございます」
頭を下げて急いで階段に駆け出した。
「あの蘭が友希那に頭を下げるなんて」
「何よリサ、何か言いたげな顔ね」
「ううん、なんでもなーい。ほら、昼休み終わっちゃうから早く行こうよ!!」
「ちょっと引っ張らないでリサ」
階段の方。湊さんがいったことが本当なら大庭と巴が向かったのは屋上だ。
二人で屋上に行くなんて何かあったのだろうか。
それともモカらへんが大庭を連行してこいと命令を出したのだろうか。
どちらにしろ、大庭は問い詰めてビンタは確定していた。
通い慣れた屋上への入り口にやっとたどり着いた。
荒く息が上がっているのを深呼吸をして落ち着かせる。
そしてゆっくりと屋上のドアノブを握る。なぜだろう、中学の頃から散々開けているのにそれでも今更緊張しているなんて。
まるで中学の頃に授業中に抜け出して初めて屋上に行ったとき以上に緊張している。
ガチャっと音を立ててひょこりと顔を向こうからは見えない様に覗き込む。
「なっ!?」
そこにはアタシが想像していた以上にショッキングな光景が広がっていた。
大庭は確かにそこにいた。
つぐみの膝の上に頭を置いてモカにパンをもぐもぐと無理やり食べさせられていた。
それも幸せそうな表情で。
もしかしなくても巴に無理やり連れて行かれて怯えているんじゃないかと思ったけど、そんなことは全く感じない雰囲気でつぐみにいい子いいこされていた。
ひまりに至っては「可愛すぎ〜」とか言ってパシャパシャスマホのカメラで大庭のことを連写している。
そのどれもがあたしといるときには見せたことがない顔で。
これ以上はここで見ていられなかった。
だから自然に教室に戻っていた。
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終了を意味する鐘の音が学校中に響き渡った。
結局お昼は食べないでボーッとしていたらいつの間にか終わっていた。
そもそもなんだ。
大庭はなんで巴に追っていったんだろう。
確かに怖くて断れないとかだったらわかるのに普通にしていたらあたしのところにきて相談ぐらいしてくれてもいいじゃないか。
それなのにノコノコと幼女が不審者についていくよりちょろくついていったのではないか。
大庭のことだからゲームカセットでも餌にされて犬の様に尻尾をブンブンと振ってついていったに違いない。
ゲームぐらいならバイト代で買ってあげるのに。
考えれば考えるほど嫌な想像が頭の中を支配していく。
気がつくとクラスメイトがこっちを見て怯えている。明らかに自分でもイライラしているのがわかる。
少しだけ申し訳なくなるがこれは全部大庭のせいだ。
そしてやっと帰ってきたのか目が合う。
ガタガタと体が震えているのが遠目に見てもわかる。
クイっと手招きしてあげると震える足を動かしてこちらにやってきた。
「…………遅い」
プルプルと今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる。
控えめにいって可愛い。
「み、美竹さん」
「コーヒーは?」
「え、えっと」
「どこいってたの。あたし早く帰ってきてって言ったよね…………」
「と、トイレに」
「40分もトイレに居たんだ」
「そ、それは…………」
ガバッと席を立ちクンクンと首まわりの匂いを嗅ぐ。
柔軟剤の匂いだろうか柔らかい、いかにも大庭らしい匂いがしてきた。
「…………匂う」
「え、何が…………」
「すごいパンとコーヒーの匂いがする」
「え、えっと…………」
「あとはメイク類の匂いと豚骨スープの匂いもする」
もちろんそんなのは嘘に決まっている。
「大庭のバカ!!!!」
バチんと教室中に大きな音が響き渡った。
「はぁ」
ごろんとベットの上に寝っ転がった。
髪の毛をまだ乾かしていないが、今日はめんどくさいのでこのままでいっか。
全く大庭にはいつも振り回されている気がする。
我ながら単純だと思う。
あの後はひたすら謝ってきたのでしょうがなく許してあげた。
それもそうだ。午後の授業の合間は謝ってきても無視していたが放課後もずっと謝ってきたので流石に可愛そうだったので許した。
挙句の果てには大声で捨てないでとか美竹さんに見捨てられたら死ぬとかメンヘラみたいなことを言って周りからはこっちが悪いみたいな空気になってたし。
許してあげたらあげたで半ベソになりながらニコニコしてた。
大庭はいつからそんなにあたしのことが気に入ったのだろうか。
別に変わったことなんて何もしてない。
最近は朝起きたかチャットして、お昼は一緒に食べて、移動教室は一緒に行って、放課後はたまに二人でどこかに行ってるとかしかない。
小テストがあるときはテスト勉強のついでに家に呼んで一緒に勉強してご飯を食べていくのが日課になっているぐらいだ。
そのせいかわからないけどお母さんが大庭のことをやけに気に入ってる。
別にどれもこれもモカたちとやってることは変わらないのに。
そう思い、いつか一緒に撮ったプリクラを取り出して壁のコルクに飾った。
美竹蘭
無自覚な女子高生
今まで友達が同性しかいなかったのでモカたちと同じ様に大庭と接していた
言ってしまえば無自覚に乙女ゲーの主人公をやっていた
それが明らかに異性の時は普通じゃないことはわからなかったらしい
大庭椿
病みが深い男子高校生
蘭にビンタされた後にずっと無視され続けて少しばかり心の闇が出てメンヘラぽくなってたらしい
自分では気がついてはいないがいつの間にか蘭に依存しているかもしれないとかなんとか
…………普通男女逆ではないだろうか