美竹さんの友達に誘拐されてから少しばかりの時が流れた。
最近では少しずつだけど美竹さんとも仲良くなってきている気がする。
春先の一番最初に話したときはとても不愛想で今とは全くの別人だったのが懐かしい。
それはいいのだが問題が一つあった。
「やっほ~、椿ちゃん」
「わぁ!?」
いきなり後ろから抱き着かれたので振り返るとそこにはピンクの髪の毛でいかにも陽キャな上原さんがいた。
「な、なんですかいきなり…………」
「え~、そこに椿ちゃんがいたから声をかけただけだよ」
「意味不明です」
うりうり~と言って背中をグリグリとしてくる。
正直どうやって反応すればわからない。僕には異性の友達なんかできたことがなかったからこの状況の正しい対処法がわからない。
とてもいい匂いがする。
そして何より隣からの圧がすごい。
いつもより数倍の目つきの悪さで上原さんをにらみつけてるのは美竹さんだった。
「ちょっとひまり離れなよ、大庭嫌がってるじゃん」
「そんなことないよね~椿ちゃん」
「え、えっと」
「…………大庭」
叩くぞと言わんばかりの圧が飛んできた。
「う、上原さん………恥ずかしいから」
「も~まったく椿ちゃんは照れ屋なんだから」
「…………あはは」
やっと離れてくれた上原さんに別れを告げるとドスっとお腹に衝撃が走った。
「み、美竹さん…………な、なにするの」
「別に、ひまりに抱き着かれてデレデレしてる大庭が気持ち悪かっただけ」
「そ、そんな…………僕は別に何も」
「ふん」
「あ、待ってよ、美竹さん」
次は移動教室だから理科室に向かった美竹さんについていった。
そしてやってきた休日。一週間ぶりの休みに僕の気持ちは最大限に高まっていた。
今日は思う存分ゲームをして過ごそう。
そのためには美竹さんからの連絡がこないようにスマホはしまっておかなければならない。
パソコンの電源を押してアプリを立ち上げる。見慣れたロゴとゲーム画面が表示されてヘッドホンを装着する。
そこからはいつも通りだ。集中して敵を倒していく。
それなのになぜか今日はいつもよりキル数が低くすぐにダウンしてしまう。
「おかしいな」
なぜだろう。別に相手が特別強いとかでもない。かといって僕の環境が悪いわけでもない。
その時ピコンとスマホに通知が入った。試合中にもかかわらずキーボードから手を放して画面を確認する。
映し出された文字には荷物の発送のお知らせだった。
「なんだ」
てっきり美竹さんからの連絡だと思ったのに。
がっかりしてスマホをベッドへと投げつけた。そして視線を画面に戻すと僕のチームは案の定負けていた。
lostの文字が目に入った瞬間パソコンの電源を落とした。
「はぁ…………最近はなんかゲームしててもな」
退屈だった。なぜかはわからないがとてもじゃないがゲームだけでは満たされない。
「外行こうかな…………って何馬鹿なこと言ってんだ僕は」
僕が自分から外に行こうなんて何かの間違いだ。きっとそうに違いない。
でも商店街に行ったら美竹さんに会えるかも知れない。
時計を確認するとちょうどお昼時だった。
久しぶりには外で食べてもいいかも。
鞄の中に入っているめったに使わない財布を取り出してポケットに突っ込んでから外に向かった。
「あっつい」
そして案の定木陰で休んでいた。
それもそうだ。いきなり引きこもりが外に出たら体調を崩すに決まっている。
久しぶりに来た商店街はなかなかに人が多かった。
最近はショッピングモールの台頭とかで商店街自体がなくなってきている話も聞くのにここの商店街は例外らしい。
ポケットからイヤホンを取り出して耳につけ、ガンガンにロックを流す。この暑さの中だと逆にここまで激しい曲の方が気分が盛り上がっていい。
お腹も減ってきたので適当な飲食店に入ろうと決めたが、どこにしようか。
僕みたいなコミュ障は一見のお店に入るのには命をかける必要がある。
もし入ったところが昭和気質の頑固親父がやっている店ならば僕は注文もできないでただ席に立ち尽くすことになる。
そんなことを考えながら商店街をぶらぶらして店を探していた。
…………喫茶店か。
角にある喫茶店を遠目に観察しながら入ろうか悩んだ。
「おや〜、椿ちゃんではないか」
「え…………あ、青葉さん」
声をかけられたので振り返るとそこには紙袋一杯に入っているパンを抱えていた。
「学校以外で見るのは初めてだね〜」
「ほとんど外でないからね」
「そんな引きこもりの椿ちゃんが外に出てるなんて何かあったのかな」
「いや、まあたまには外でお昼食べてもいいかなって…………」
「ほうほう…………そしてわざわざ商店街まで来たと」
「う、うん」
明らかに疑われている。
「ん、あれって」
青葉さんが見つめている先には僕が探してもしている人がいた。
「美竹さ…………ん」
せっかく青葉さんと一緒にいるのだから声をかけようと思ったら店から出てきた美竹さんに声をかけようとした。
…………大学生ぐらいの男と一緒に。
「あれ、椿ちゃんお〜い」
ブンブンと手を振られてハッとなる。
「あ、ああ、青葉さん今の人って…………」
「う〜ん、蘭の友達じゃない?」
「いや、そんな話は…………」
僕に話してないだけで美竹さんには男の友達がいた。それも大学生くらいのかっこいい人と。
「とりあえず食べる?」
「うん」
落ち込んだ僕を心配してくれたのかチョココロネをくれた。
カランコロン。
青葉さんに連れられて入ろうか迷っていた喫茶店に連れられてきた。
「いらっしゃいませ〜、あ、モカちゃんと椿ちゃん?珍しい組み合わせだね」
「まね〜ほら、こっち」
慣れた様子で座る青葉さんに連れられてソファーに腰を下ろした。
「…………ここ羽沢さんの家だったんだね」
「そうだよ、何かあったらみんなここに大体くるから」
「そうなんだ」
コーヒー飲む?と聞かれたのになんと答えたか覚えていない。
それほどまでにさっきの光景に脳の処理が追いついていなかった。
「お待たせしました。カフェオレとコーヒーです」
「ありがとうつぐ〜」
「どうぞ椿ちゃん」
「…………ありがとう、美味しい」
カフェオレを受け取ってストローでチューチューと飲むと美味しかった。
「椿ちゃん、相変わらず仕草がいちいち可愛いね」
「そうかな」
「そんなに蘭と一緒にいた人が気になるの?」
「べ、別にそんなこと…………美竹さんが誰と居ようが僕には関係ないし」
「えぇ〜本当かなぁ」
「本当だよ」
「そっかそっか、それならモカちゃん的には蘭が最近練習に来ないから困ってたんだけど」
「練習?」
「うん、練習。あれ、てっきり椿ちゃんと遊んでるから来れてないと思ってたんだけど」
「美竹さんと青葉さん達って何かやってるの?」
「あれ、蘭から聞いてないの。あたし達バンド組んでるんだ〜」
「…………え」
バンド。バンドってあれだよな。
「そ、そんなこと美竹さん教えてくれなかったし」
「ほらこれ〜」
そう言って見せてきたのはどこかのライブハウスのステージの上で歌っている美竹さんの姿だった。
いつのも美竹さんと違ってカッコよさが何倍にもなっている。
でも、どうして美竹さんは僕にバンドをやっていることを教えてくれなかったんだろう。
もしかして教えるにたらない存在だったのかな。
いや、でも僕的には美竹さんとは仲がいいと思ってたのに。
そう思ってたのは僕だけだったんだろうか。
「どうしたの、そんな深刻そうな顔して」
「いや、なんでもないよ」
「う〜ん、よかったらこの後の練習来る?」
「バンドの?」
「うん、今日は蘭は家の用事で来れないから四人だけだけど」
「い、いく。いや連れて行ってください!!」
「了解〜、椿ちゃんが来るならひーちゃんが張り切ると思うからそこんとこよろしく」
こうして僕は青葉さんと羽沢さんとライブハウスに向ったんだ。
大庭椿
外に出た男子高校生
せっかく久しぶりに外に出たのに美竹さんが知らない人といてだいぶショッキングだったらしい
それこそモカにパンをいるか聞かれるほどに
美竹さんがバンドをやっていることをやっと知った
ライブハウスに行くまでにずっとAfterglowの曲を聞いたせいかもうすでに全曲覚えたらしい
美竹蘭
最近忙しい女子高生
バイトやら家のことなどで最近忙しかったらしい
バンドの方にも少し顔を出せていない状況が続いていた
一緒にいた男の人は花道の昔からの知り合いだったらしい
それを大庭が知ることはまだない