「あ、落ちた」
昼休み。颯爽とお昼ご飯のお弁当を食べ終わり一人でスマホのゲームをしていた。そのゲームの礼装と言う装備品がドロップした。なかなか確率が低いのでラッキーだ。
今のイベントはBOXイベントといい周回すればするほど素材が集まると言うなんとも神イベなのだ。僕はいつも100箱開けるのが精一杯だ。ガチ勢の人は寝る間も食事も栄養食で1000箱開けると言うのだから驚きだ。
スタミナもなくなり周回もできなくなったので素材でスキルレベルを上げる。このゲームはスキルを上げれば上げるほど恩賜が大きい。
今回の目玉キャラである槍兵もゲットできたし最高だな。しかもこの新しいバニーの姿がたまらなくいい。
教室の隅で一人でニヤニヤしているぼっち。側から見ればただの危ないやつだ。そんな僕に話しかけてくるやつなんかいないだろう。
この間までは一人で友達がいないことを悩んでいたが、最近はもう開き直り一人で学園生活を送ろうと決意した。
予鈴が校舎に鳴り響き学校全体が騒がしくなる。
中庭で食べている生徒は急いで教室に戻り、食堂で駄弁っている生徒はトイレによって教室に戻って、体育館でバスケをしている人は誰がボールを片付けるかジャンケンでもしている頃だ。
みんなが思い浮かべる普通の高校生活を送れていない僕はおかしいのだろうか。
友達もいなく朝学校に来てから誰とも話さないで一日が終わる。そんなことが多い。
そんなことを考えていると騒がしい教室に赤いメッシュを入れた生徒が隣の席に戻ってくる。
今日も屋上に行っていたのだろうか。なんでも屋上は彼女の縄張りで仲間たちと占領しているらしい。そして彼女がそのグループのリーダーだとか。そのテリトリーに近づくと上級生でもお構いなしでヤッてしまうそうだ。そんな噂話を寝たふりをしているときに聞いた。
もしそれが事実なら僕はとんでもない人の隣にいるのではないだろうか。もし彼女の逆鱗に触れるようなことがあれば放課後夕日が照らす屋上に呼び出されて彼女たちのグループにリンチされるかもしれない。
その現場を想像するだけでも背筋が凍る。
そのときに本鈴が校舎に鳴り響いた。
…………スマホで次の時間割を確認すると英語だった。
英語は数学よりは楽だ。先生が教卓の前で一人で延々に英文を訳してCDを流すだけだからよっぽどのことがない限り面倒なことにはならない。
机の中から教科書とノートを取り出してあくびをする。
なぜこの時間は一日の中で一番眠いのだろうか。夜にいざ寝ようとしても全然眠気が来ないのにこの時間は嫌でも眠気が襲ってくる。
重くなってきたまぶたを擦りながら時計を確認すると授業開始から3分も経っていた。
英語の先生はたまに会議があって20分ぐらい遅れることがある。そのことはみんなわかっているのでとくに慌てることもない。逆に授業が潰れるから僕的にはラッキーだ。
片付けたばかりのスマホを取り出して鞄からイヤホンを取り出してコードをさす。最近世間はBluetoothイヤホンが主流だが僕は音質にはこだわりがあって有線のイヤホンを使っている。
オタク気質でぼっちの僕の唯一の趣味と言っても過言ではない音楽を聴くことには妥協をしたくはないからだ。
好きなジャンルは最近ではあまり流行ではないハードロックを歌い続けているグループだ。今のトレンドは機械音を曲全体に取り入れているのがブームだが、僕はどうしてもそのジャンルがあまり得意ではなく昔ながらのロックが好みだ。
休日カラオケに朝から行くとフリータイムで夜までぶっ通しで歌うぐらいには好きだ。
サビに入るとテンションも上がり音量ボタンを押して最大音量にして曲を最大限に楽しむ。
そのとき横の不良さんから肩を叩かれた。
あまりに急なことで椅子をガタンを鳴らしてしまった。クラス全体で騒がしかったので誰も気がついていなかったからそれだけは幸いだ。
「ねえ…………」
「は、はい。何か用でも…………」
とてつもない眼力でこちらを睨みつけてくる。この目は確実にいままで何人かヤッてきた目だ。
そして僕はそんな彼女の逆鱗に無意識のうちに触れてしまっていた。それを理解すると冷や汗が止まらなくなってきた。だんだんと季節は夏に近づいて気温が高くなってはいるが、この汗はそれだけが原因じゃないことは確かだ。
「さっきからイヤホンの音漏れうるさいんだけど」
「ご、ごめんなさい…………もうやめるんで許してください」
「…………別に怒ってはないけど」
絶対に嘘だ。彼女とはこの会話で2回目だが、それほど付き合いが薄い僕でも彼女が怒っているのは察せる。
「それよりさ、なんの曲聞いてんの」
「え、えっと…………最近流行の」
「くだらない嘘つくのやめてくれる…………これでもあたし音楽には少しは詳しいから」
いきなり質問を受けたから思わず答えたが彼女はそれがお気に召さなかったのかさらに機嫌が悪くなる。
「そ、そのあまり有名ではないですけど…………この」
そう言って不良さんに音楽アプリの僕のプレイリストを見せる。
僕のスマホを奪い取りプレイリストをスクロールして見ている。…………なんだろう。検索履歴を見られるよりプレイリストを見られる方が恥ずかしいと感じるのは僕だけだろうか。
「……ん」
「ど、どうも」
満足したのか不良さんはスマホを返してくれた。よかった気に入らなくて投げ捨てられたりしないで。
「大庭なかなかいい趣味だね」
「えっ」
「そのプレイリスト結構あたし好みっていうか…………あたしも最近の流行のやつは苦手だから」
「そ、そうですか」
さすが不良さんだ。やっぱり不良は最近の流行よりハードロックの方が好きなんだろう。少しばかりの共通点ができたことに、怖くもあり嬉しくもあった。
「あたしでも知らないグループとかあったし」
「ど、どのグループですか?」
恐る恐るスマホを画面を見せて尋ねる。少しでも機嫌を損ねたら屋上行きだから少し声が上ずっている。
「………………これ」
「あ…………」
そう言って指を刺したのは昔から僕が好きなグループだった。お父さんがとてもこのグループが好きでなんでもアマチュア時代から追いかけていたらしい。だけどプロの世界に入ってからはグループの方向性が変わり、発表される曲もどれもイマイチだったらしい。
そのまま忘れ去られるようにこの業界からは姿を消した。
お父さんは最後までプロに入ってからの曲は本人たちの書いたものではなく、無理やり作らされた物だと言っていた。
「このグループは…………この曲が一番おすすめです」
「…………イヤホン貸して」
「は、はい」
言われるがままコードにイヤホンを繋ぐ。それを不良さんに差し出す。すると片方を僕に返してきた。
「えっと…………」
「二人で聞いた方がいいでしょ」
何がいいのか全くわからない。でも屋上行きだけは怖いから素直に従っておく。
片耳にイヤホンを差し込んで曲を再生する。
LOUDERと言う曲だ。
強張っていた不良さんがイントロが流れ始めると真剣な表情に変わった。
思わずその姿にびっくりした。いつもの不良オーラはどこに行ったのか今の彼女はなんと言うかとてもかっこいい。
「………………どうですか」
「いいね…………すごいあたし好み」
「あ、ありがとうございます」
自分が褒められたわけでもないのに思わずお礼を言う。満足したのか彼女は自分のスマホをいじり出した。すると今度は彼女のイヤホンを片方差し出された。
「今度はあたしのおすすめ」
「は、はい」
再生ボタンを押すと同時にイントロが流れ始めた。
初めて聞いた曲だが僕の好みにドンピシャだった。そこからは曲に引き込まれるかのように自然に意識を耳に傾けていた。
「…………………どう」
「…………………」
「ねえ」
「あ、そのすごくよかったです」
「そう。やっぱり大庭とあたし好みが似てるのかもね」
「ふ、不良さんと似てる」
「不良?」
しまった、と思ったときには遅かった。さっきまで機嫌が良かった彼女の顔がみるみるさっきの表情に戻っていく。
終わった。完全に屋上行きだ。それで彼女の仲間たちにボコボコにされてパシリにされるんだ。
「もしかして大庭あたしの名前わからない?」
「そ、そんなことは」
「だったら呼んでみてよ」
「………………………」
「はぁ……………あたしの名前は美竹蘭」
「……………美竹さん」
「うん。これからよろしく大庭………今度またおすすめの曲教えてよ」
「こ、こちらこそよろしくお願いします美竹さん」
このときにはもうすでに遅かったのだ。僕はとんでもない人に目をつけられてしまった。
彼女が発したよろしくが夜露死苦に聞こえたのは気のせいだと思いたい。
大庭椿
相変わらずコミュ障の男子高校生
イヤホンの件から不良少女に目をつけられて、いつ自分が粛清対象になるのかとビクビクしているらしい
やっと不良少女の名前を知った
美竹蘭
赤いメッシュの不良少女
大庭が聞いている曲が自分の好きな曲と被っていたため親近感が湧く
音楽のことになると目付きが変わる
屋上行き
なんでも屋上は不良少女達が占領しているらしい
赤メッシュ、パン狂い、食いしん坊お化け、ソイヤ、エンジェルが確認されている
そしてそこに近づいた者は誰であれ粛清されると言う噂が流れている
とある音楽グループ
かつて存在した音楽グループ。アマチュア時代はその音楽性が受けていたがプロの道に入ってから方向性が変わり解散してしまった
今は一人の少女がボーカルの意志を継いで活動しているらしい
そしてその少女と不良さんは何やら因縁が・・・