三時間目の授業が終わり教室が騒がしくなる。
その声がする教室から急いで体操着をもって更衣室に向かう。次の授業は体育だからいそいで着替えないといけない。
この学校は男子が少ないから更衣室も小さいのが一つあるだけだ。そしてその更衣室が教室からやけに離れている場所にある。このこともあって僕は体育という授業がきらいだ。
やっと着いた。少し急いできたから息が上がっている。前少し余裕を持っていたら授業に遅れてみんなの前で恥をかくことになってしまったからそれだけはどうしても避けなくてはならない。
僕以外はもう着替えて出ていってしまった更衣室で一人寂しく体操着に着替えていた。
なんで高校生にもなってわざわざ授業でみんなと一緒に運動をしないといけないのか。なんでも聞いた話によると大学に行ったらやらなくても良いらしい。
大学生はいいなぁ、と心の中で考えながら集合場所に向かった。
今日は隣のクラスとも合同だからいつもより人が多い。ただでさえ人が苦手な僕の気持ちはさらに落ち込んだ。
隅っこの方で一人で体育座りをしているとやたら目に付くグループがあった。
いつも僕と同じで一人でいるはずの美竹さんが例のお友達と仲よく話していた。
(怖すぎる)
さすが屋上を一年生のうちから縄張りにしてるだけあり美竹さんのグループはオーラが違った。近づいただけで噛み付かれるような感じだ。そのグループのリーダーに目をつけられている僕は結構危ない立場にいるのではないか。
そんなことを考えていると、やっと授業開始のチャイムが鳴り響き生徒たちが列になる。
「それじゃあA組は卓球でB組はバスケだから移動して〜」
どうやら今日は卓球らしい。バスケよりは楽ができるからまだ僕的には卓球でよかった。ゾロゾロとA組が体育館のギャラリーにある卓球場に移動していく。
めんどくさいと思いながらか階段を上りギャラリーに移動する。
そこから各自にラケットが配られて説明があってから自由にやる感じになった。
先生から見えない死角を探しているとすでにそこには先客がいた。
「美竹さん」
「大庭」
さすがにこの狭い場所に二人は気まずいので大人しく逃げようとすると美竹さんは隣の小さなスペースをポンポンとしている。
ここで断ると下にいるお友達のところに連行されかねないので大人しく手招きされた場所に腰を下ろした。
「サボり?」
「そっちこそどうしてここにいるの」
いや、あなたが呼んだから。とは言えない。
「体育なんて授業この世から消えてもいいと思う」
「それは同感だね」
「美竹さんはスポーツできないの?」
見た目はバリバリ運動できるように見えるのだが、僕と同じでインドア派なのだろうか。
「できるけど、めんどくさいだけ」
「…………そうですか」
どうやら僕とは根本的に違ったらしい。それもそうだよな。美竹さんはきっとなんでもそつなくこなすタイプなのだろう。ただやる気がないだけで。
そこからは会話がなくただ二人でボケーっとしながら座っていた。
どうやら今日の卓球はもう自由にやるスタイルらしく先生も体育教官室に帰ってしまったためみんな好き勝手にやっていた。
そんな中でもこんな風にサボっているのは僕と美竹さんぐらいだが。
下のコートで行われているバスケは違うらしくいきなり今日から試合をやるそうだ。
うちのクラスメイトも数人ギャラリーから隣のクラスの人たちを応援している。
「暇だし行こ」
どうやら座っているだけで退屈なのは美竹さんもだったらしく重たい腰を上げて柵に肘を置いている。観戦するそうだ。それを後ろからついて行く。
「あそこ、あたしの友達」
彼女が教えてくれた方を見てみるとさっきまで美竹さんと一緒にいた人たちがいた。………………怖い。
一人は灰色の髪の毛でのほほんとしているがあれはキレると凶変して一番ヤバいタイプだ。
ピンクの髪の毛の人はいかにもギャルっぽいというかあれで男を手玉にとり裏で金を毟り取った後に美竹さんたちに引き渡すという非道なことをしてそうだ。
一見おとなしそうに見える茶髪の子はその優しい雰囲気に流されてついていった男を美竹さんに引き渡してそうだ。笑顔で人の絶望する顔を見るのが楽しみにしてそう。
そして身長の高い人は美竹さんと一緒に連れてこられた男を粛正しているに違いない。
ちらりと隣の不良少女を盗み見ると何とも得意げな顔をしていた。
「と、とても個性的な人たちですね」
「そうかな?」
そうこうしているとさっきの四人がこちらに気が付いて手を振ってきた。美竹さんは嬉しそうに手を振り返している。
こうしていると普通の女の子なのに。
そして隣にいる僕を不思議に思ったのかこそこそ話を始めた。
「ちょっと大庭隠れて‼」
「み、美竹さん⁉」
背中を押されて無理やり地面に丸め込まれる。ギリギリ死角位置的には見えていないぐらいだろう。
「このままでいて‼」
「わ、分かったから椅子にしないで」
丸め込まれた体に美竹さんが座ってくる。これじゃあ完璧にご主人様と奴隷だよ。
僕にはこんな特殊性癖はない。
少しそのままでいると試合が始まったのかコートが騒がしくなる。
「そろそろ戻っていいですか」
「ん~、案外座り心地がいいからこのまま」
「……そうですか」
おとなしく椅子になろう。ここで反抗して美竹さんの怒りを買うほうがまずい。
「よいしょ」
やっと満足したのか美竹さんが解放してくれた。おかげで背中が痛い。
そしてさっきまで引きこもっていた隅っこに二人で戻る。
「ごめん」
「いや、いいよ」
もう美竹さんにパシリに使われるのは慣れている。僕はこれからの学園生活美竹さんにパシリに使われて生きていくことになるんだ。
そう考えると一人でいるほうが楽じゃないかとも思う。
体育館に備え付けられている大きな時計を見ると授業の残り時間までだいぶある。
「卓球やる?」
「えっ⁉」
美竹さんがいきなりそんなことを言ってくる。それを肯定も否定もしない僕をみて肯定と受け取ったのか空いている卓球台に向かってしまった。
それを慌てて追いかけるとやる気十分といった感じでポンポンと球をバウンドさせている。
「いくよ」
「は、はい」
そしてそのままサーブが打ち出される。それを思いっきり空ぶると同時に後ろにずっこける。
「大庭大丈夫⁉」
美竹さんが慌てて駆け寄って来てくれる。
「だ、大丈夫。少し転んだだけだから」
「いや、少しって勢いじゃなかったよあれは」
これで美竹さんもわかっただろう。僕が普通じゃないレベルで運動音痴だということが。
「ほんと大庭ってインドア系にステータス全振りした感じだよね」
「うっ」
美竹さんに気にしていることを正面からぐさりと言われた。
「まあ…………悪いことじゃないと思うけど」
「ごめん」
「なんで謝るの」
「だって僕使えないから」
「はぁ、何を気にしてんのか知らないけど、大庭はいいところいっぱいあると思うよ」
「え」
「あたしがわからない問題一緒に解いてくれたし、この間の美術の時間も一緒にペア組んでくれたし、音楽の趣味もあたしと同じだし」
「美竹さん……」
顔を赤くした美竹さんが不器用ながらに僕を励ましてくれている。それがお世辞だとしてもやけにうれしかった。
「だから、そんなに自分を卑下にしなくてもいいと…………思う」
「は、はい」
「ふ、ふん‼…………あたしもどるから」
そう言って美竹さんはさっきまでいた隅っこのほうに戻ってしまった。
僕も帰りたかったがこの状態で美竹さんの隣に戻るのは恥ずかしいので授業が終わるまでおとなしくしていた。
美竹さんは不良少女だと思ったが案外優しいところもあるのかもしれないと思った。
大庭椿
運動音痴の高校生
美竹さんに指摘された通りステータスはインドア系に全振りしている
最近不良である美竹さんがかっこいいと思い始めた
美竹蘭
めんどくさがりやな高校生
せっかくの合同授業だったのにモカたちと一緒じゃなかったことに落ち込んでいた
最近大庭と一緒にいたから無意識のうちに自分の隣にいた大庭がモカたちに見つかったのかが最近の悩み