前の席からプリントが配られる。それを受け取ってから後ろの人に回す。
いつもしていることなのにそれがやけにだるく感じた。
なぜかは決まっている。そのプリントに書かれている内容が問題だからだ。
そこに書かれていた内容は来週に迫った林間学校のお知らせだった。
ただでさえ学校行事が嫌いな僕からしたら泊まりで行く林間学校なんか地獄でしかなかった。
「はぁ」
隣から同じようなため息が聞こえてくる。彼女もめんどくさいのだろう。ちらりと見るとその表情は僕以上にやつれていた。
この林間学校の何がめんどくさいかは決まっている。事前にグループを組んでから各自の班で何をするかの計画を立てるのだ。
そんなこともあって僕たちみたいなボッチからしたら既に準備の段階で地獄の林間学校は始まっている。
そして今はそのグループを組む午後の時間だった。
もう言わなくてもわかる。どうせいつものように余って僕は美竹さんと組むことになるだろう。
それを見越して先に美竹さんに声をかけよう。
「美竹さん一緒に組もう」
「……いいよ」
向こうもこちらを見つめてきていたから、こうなることはわかっていたようだ。
さて、残りの人数を集めて。
「大庭……………ちょっといい?」
「え、何、美竹さん」
「あたしたちだけでいいと思う」
「何が?」
「だから、グループの人数」
美竹さんは何を言っているのだろう。僕の耳が正常だったらこのまま二人でグループを組もうといっている。
それなら僕も気が楽だからそれでいいけど。
一つまずいのが明らかに浮くということだ。ほかのグループは最低でも三人はいるから僕たちが二人でグループを組むことになったら周りの視線が痛い。
だけど残念なことに僕には拒否権はない。
「うん。僕もそうしようと思ってたよ」
「そう、よかった」
美竹さんは安心したのかやけに穏やかな表情になっている。
「じゃ、じゃあ先生に報告しに行こう」
「うん」
そして先生のところに二人で報告に行くと案の定まじかという視線を送られた。
せっかくの休日なのになんで僕は外にいるのだろう。今日は一日中引きこもってゲームをしようと思ったのになぜか僕は駅前にいた。
集合時間の十分前には着くように来たけど肝心の相方はまだ来ていない。
「大庭」
声がしたほうを振り返るとそこには私服姿の美竹さんがいた。
「行こっか」
「うん」
美竹さんの後ろを黙ってついていく。なぜこんなことになっているのかというと明日に迫ってきた林間学校の買い出しの為だった。
うちの学校の林間学校は生徒が準備から、何まで全部自分たちで計画するということになっている。
そのせいでせっかくの貴重な休日も僕は美竹さんと一緒に買い出しに行くことになったのだ。
「とりあえず百均でいい?」
「うん。それでいいと思う」
使えるお金の金額も限られているのでできるだけ出費を抑えたい。そのために僕たちは百均に向かった。
さすがに休日ということもあってお店はなかなかに混んでいた。
「キャンプコーナーは」
人のごみの中サクサクと進んでいく美竹さんの背中を追いかけていく。
最近の百均はすごいな。こんな本格的に見えるキャンプ道具も買えるなんて。
「なにを買えばいいの?」
「とりあえずカレーを作ることになってるから、簡単な調理器具とかかな」
二人してどれがいいのかさっぱりわからないので手あたり次第商品を見ていく。
結局30分ぐらい悩んだ挙句簡単なものは一通り買っておいた。それを僕の持ってきたリュックサックに詰め込んで店を出た。
さすがに美竹さんも女の子だからこの荷物は当日も僕が運ぶことになるだろう。そう考えると肩が重くなる。
「それじゃあ美竹さんまたね……」
「もう帰るの?」
「え、まだ買うものあったかな」
「…………せっかくだからどこか行こうよ」
また美竹さんがとんでもないことを言ってくる。最近の美竹さんはどこかおかしい。
この間のグループ決めでも二人っきりでいいとか言ってたし。僕はそんなに都合がいいパシリに見えるのだろうか。
だけど残念なことに僕に拒否権というものはない。だからおとなしくいうことを聞くしかない。
「うん、そうだね。僕もちょうど美竹さんと一緒に出掛けたかったしね」
「そ、そう……………」
「それで、どこに行くの?」
それからは二人でいろいろ回った。
まずはお昼ご飯を食べようということで近くのファミレスに入って簡単な軽食を取ってから、ショッピングモールに行った。
それにあるゲームセンターでまた太鼓のリズムゲームをやってからCDショップに行った。
「これおすすめ」
美竹さんが差し出してきたCDを視聴用のCDプレイヤーにセットして聞く。
さすがの選曲で僕の好みドンピシャだった。
そして今度は僕のおすすめを美竹さんに教えてあげる。
そんなことをしているとだんだんと美竹さんと一緒に出掛けているのが楽しくなってきた。
我ながら友達がいないから単純な思考をしていると思うが誰かと出かけるのがこんなにも楽しかったなんて。
「大庭、どうかした?」
「ん、いや美竹さんと一緒にいると楽しいなって」
「え⁉……そ、そう。あ、あたしも大庭と一緒だと楽しいよ」
「「…………」」
なんだか急に気まずい雰囲気になってしまった。ここで気の利いた男だったらさらっとかっこいいことを言えるのだろうけど、あいにく僕にはそんなスキルもトーク術もない。
その無言の気まずい空気の中、美竹さんが向かった場所は楽器屋だった。
中に入ると思ったよりも広く色々な楽器が置いてあった。
「大庭楽器はやらないの?」
「楽器はやらないなぁ」
中学のころギターを買ってもらったが誰も教えてくれる人がいなかったので今では押入れの奥深くにしまっている。
「美竹さんはやるの?」
「ま、まあ少しは」
「へぇ、そうなんだ」
美竹さんの少しとはどのレベルだろうか。彼女のことだから妥協は許さない性格だから案外簡単な曲ぐらいなら弾けるんじゃないだろうか。
(たっか)
僕が買ってもらったのは中古の初心者用セットだったからすごく安かったけどこうやって見ると楽器でやっぱりすごく高い。
このギターなんか0が僕の知っているものより三つも多い。
美竹さんはいつもより真剣な顔つきでギターを見ていた。ロックが趣味でギターもやっている。
僕よりも男らしい美竹さんがなぜだかカッコよく見える。
「ん、なに?」
「いや、別に」
それに比べて僕は引きこもりのインドア人間。
でも最近は美竹さんと一緒にいるだけで少し学校生活が楽しく感じる。
どこに何があるのかわからないので美竹さんの後を黙ってついていく。そしてやってきたのはピックがたくさん置いてある場所だった。
「すごい数……」
「でしょ。ここまで多く取り揃えてる店中々ないから重宝してる」
値段もピンからキリまで様々なものが置いてある。
その中の一つの赤いピックが目に止まった。
「かっこいい」
それは夕日がモチーフだろうか。沈んでいく太陽とギターを持った人のシルエットのピックだった。
美竹さんもガサゴソとピックを漁り色々探している。
「大庭良いのあった?」
「う、うん。これ…………」
遠慮気味に美竹さんに差し出すとそれを受け取ってうなずく。
「これ良いね」
「でしょ。すごいかっこいい」
「大庭がよかったらこれあたしが買っても良い?」
首を傾げて遠慮気味に聞いてくる。
「良いよ。僕は別に買うつもりなかったから」
「そう…………じゃあ、買ってくる」
そう言うと美竹さんはレジに向かって行った。
戻ってくると満足そうな顔をしている。
どちらも何も言わず店を出て駅に向かった。
「大庭…………」
夕日が沈む中僕の前を歩く美竹さんが振り返って声をかけてくる。
「なに?」
「今日は楽しかった……………クラスの誰かと一緒に出掛けたの初めてで」
「うん、僕も今日は楽しかったよ。それに最近美竹さんと一緒にいると落ち着くし」
「えっ⁉︎バカ‼︎」
いきなり怒ってそのまま走り去ってしまった。やはり美竹さんの中では僕は舎弟扱いなのだろうか。そんな僕に一緒にいると落ち着くなんて言われたら怒るのも当然か。
小さくなっていく背中がこちらを振り返った。
「…………じゃあね」
そう言うと今度こそ行ってしまった。
振り返った美竹さんの顔がやけに赤かったのは僕の気のせいだろうか。
大庭椿
学校行事嫌いの高校生
体育祭や文化祭だけでも嫌なのに泊まりで行く林間学校なんて考えるだけでも恐ろしい
美竹蘭
最近大庭の扱いが雑になってきた
本人は自覚していないが大体教室にいる時は大庭の近くにいる
そのせいで大庭が不良に絡まれているパシリに見えているとかいないとか
林間学校
一年生の一学期にあるお泊まり行事
生徒の自主性と絆を育てる目標で毎年開催されている
ぼっちにとっては修学旅行と並んで辛いイベントである
カレーを作りがちである
赤いピック
夕日をバックに人のシルエットが描かれている
自分で買った美竹さんだがもったいなくていまだに練習に持っていってないないらしい