眠たい目を擦りながら布団から出た。ついに今日は待ちに待ってない林間学校当日だった。
雨が降れば予定が延期になると担任が言っていたのを思い出して最後のわずかな希望を託してカーテンを開いた。
そしてまだ寝ぼけている顔に鬱陶しいぐらいの眩しい日光が直撃してきた。
「最悪だ…………」
気がついたら太陽を睨みつけて自然とそんなことを口にしていた。
学年主任の先生が全体に注意と心意気を大きな声で話していた。周りの生徒はテンションが上がって全く聴いていないが。
今は貸切の体育館に座っていた。
この前、美竹さんと一緒に買いに行ったものを背中に担いでいるためいつもより肩が重い。
その肝心な美竹さんは僕と同じく一人で真面目に話を聞いていた。時折首が上下に動いている。
…………美竹さんのことだ昨日は夜更かしをしていたからこの時間は眠いのだろう。
その証拠にもう完全に寝てしまっていた。
そこから保健の先生にバトンタッチして怪我ともしもの時のための応急処置のやり方のプリントが配られた。パンパンに膨らんだリュックに無理やり押し込んでやっと長い話が終わった。
A組から外に待っているバスに誘導される。
いつものように一人でゆっくり歩いてバスまで行く。どうせ僕は先生の隣でまたいろいろ気を遣われることになるだろう。林間学校の嫌なところはこの移動が半分を占めていると言っても過言ではない。
重い足でバスに乗り込むと案の定先生の隣が空いていた。流れるようにそこに座ろうとした瞬間反対側からいきなり引っ張られた。
いきなり引っ張られたものだからうまくバランスが取れずに窓に両手をついてしまった。
「お、大庭…………何して」
「み、美竹さん」
それは世間でいうところの壁ドンという体制だった。
いや、この場合は窓ドンと言ったほうがいいかもしれない。
美竹さんは今にも怒りそうな表情になっていく。その証拠に顔がどんどん赤くなっていた。
「ご、ごめん」
「い、いやあたしこそ」
結局僕は気まずくなった美竹さんの隣に腰を下ろした。
これから向かう場所まで三時間はあるというのに今から憂鬱だった。
「よ、酔った」
やっとの思いでたどり着いた山は僕たちがいつも住んでいる高層ビルのジャングルとは違い、そこら中に本物の木が生えていた。そのおかげかはわからないが少しは気持ち悪い感覚がなくなっていった。
隣にいた美竹さんはずっとイヤホンをして音楽を聴いていた。そしてやっぱり眠かったのか途中から完全に寝てしまっていた。
その寝顔はいつもの吊り上がった目つきとは違い年相応の女の子の顔だった。そして到着して続々とクラスメイトたちがバスから降りて行ったのを見送った後に美竹さんを起こしたら、寝ぼけたままバスから降りていってしまった。
そして今はいつものヤバイお友達と一緒に楽しく談笑している。
見上げた先にはなんとも高い山が目の間にあった。生まれて初めてこんなに近くで山を見たな。都内で暮らしているとまず見ない。
そこからクラスごとに集合がかかり列を作って登っていくことになる。明日は絶対に筋肉痛になる。すでに登る前からそんなことを考えていた。
クラスごとに簡単な列を作り先生を先頭についに出発した。
例の如く僕は体力がないのでクラスの最後尾にいた。後ろを振り返ると誰もいない。
ちなみにこの山は入山口が複数あって、各クラスごとに別のルートで登っていくことになる。そのためこのルートで登っているのは僕たちのクラスしかいない。
だいぶ先頭集団と離されてしまった。
やっと100メートルは登っただろうか。小さな石のに見知った赤メッシュが座っていた。
「遅い」
「僕が遅くなることぐらいわかるでしょ」
「だとしても」
もう足腰にだいぶ来ていたので彼女の隣に腰を下ろした。リュックから水筒を取り出して一気に喉に流し込む。やっぱり喉が乾いてる時に一番美味しく感じるのは水で満場一致だろう。
「それにしても美竹さんどうしてここにるの?」
僕は最もである疑問を投げかけた。
「別に…………あたしがここに居たっていいでしょ」
「はい」
相変わらずの鋭い目つきで睨みつけてくる。最近はずっと一緒にいるのに全く慣れない。いや、これに関しては美竹さんが怖すぎるのがいけないんだ。
「ほら行くよ」
少しの間ボーッとしていたら美竹さんが先に行ってしまう。
「あ、待ってよ」
慌てて追いかける。
それからはしばらくの間美竹さんを後ろを一生懸命追いかけるがまるで追いつかない。それにしても疲れ知らずなのか全くペースが落ちない。
仮にも僕が男で美竹さんは女の子なのに体力の差が歴然だった。今だって一昔前のロックを軽く口ずさんでるし。どれだけ余裕があるんだ。
背中に背負ったリュックがやけに恨めしい。そうだ。これが原因でこの差ができてるんだ。見るからに美竹さんのリュックは軽そうだからあんなに余裕でいられるんだ。
大体これは二人の荷物なんだから美竹さんも少しは持ってくれてもいいじゃないか。
いっそのこと隣で勢いよく流れている川に投げ捨ててやろうか。この山の川はラフティングができることで有名でそのため勢いがとても強い。くれぐれも川には近付かないように、と朝の注意説明で忠告されていたことを思い出した。
「ほら、早く」
そんな僕の考えてていることを知ってかしらずか、美竹さんが急かしてくる。
「わかってるよ!」
柄にもなく少し大きな声を出してしまった。
「ご、ごめん」
「いや…………こっちこそ」
「「…………」」
やってしまった。まだ半分折り返したぐらいなのに最悪の空気になってしまった。
これまでの人生で友達なんかできたことがないせいでこんな時どうすればいいのかまるでわからない。
これから三日間ほとんど同じ時間を美竹さんと過ごすことになるのにこのままじゃ気まずすぎる。
向こうもこの気まずい空気をどうすればいいのかわからないのか沈黙を貫いてるし。
まあ、頂上についてカレーを作ればこの気まずい空気もなんとかなるだろう。
それからは二人してチラチラ見合って探り合いをしていた。
やっと視界の中で頂上が微かに目視できるところまで来た。
ここまで来ればあとはゆっくり行っても問題ないだろう。先生たちはもう頂上に着いただろうか。今頃点呼を取って僕達がいないことを慌てているかもしれない。
でもまあ僕達はクラスでも友達がいないコンビで認識されているから気がついて無いかもしれないが。
それほどまでに僕達はクラスで存在感がない。
さっきまで軽く口ずさんでいた美竹さんも少しは疲れてきたのか物静かになってしまった。そのせいだろうか。やけに風の音が強く感じられるのは。
朝見た天気予報では残念なことにずっと晴れマークだったが。でも確か、山の天気は崩れやすいと朝の説明で言ってた気がする。
気がついたらさっきまで鬱陶しいぐらい僕たちを照らしていた太陽が雲に隠れてしまい、曇天の空模様になっていた。
「雨降るかもね」
「うん」
美竹さんも空模様を見て少し気分が落ち込んでいる。
「急いだほうがいいかも…………」
「そうだね」
少しだけ歩くペースを上げる。
き、きつい。美竹さんはまだ体力が残っているのか少し余裕そうだ。
徐々に差ができて離されてきた。い、急がないと。
「大庭…………」
「み、美竹さん」
少し行った所で待ってくれている。
その瞬間近くの草むらから一匹の蛇が飛び出してきた。
「ひぃっ!!…………」
余程驚いたのか美竹さんが体勢を崩して後ろの崖に足を取られてしまった。美竹さんの姿が見えなくなると同時に川から水しぶきが高く上がった。
「美竹さん!!」
急いで駆け寄ると川の勢いがすごく美竹さんの姿が見えなかった。
さっきまでそこにいた美竹さんが一瞬でいなくなった。一気に身体中から血の気が引いていったのがわかる。
「ど、どうすれば…………」
今から、急いで頂上に行って助けを呼んでくるか。それとも僕がここでなんとかする。
なんとかってなんだよ。僕みたいな引きこもりオタクに何ができるんだよ。
でも、これ以上時間が経てば美竹さんが危ない。
リュックをその場に下ろして急いで頂上に向かおうとした瞬間、少し離れた場所に赤いメッシュが見えた。
「美竹さん!!」
気がついたら体が動いて川に飛び込んでいた。普段ならこんな高さから飛び込むなんて絶対にできなかっただろう。
きっと無我夢中と言うのはこう言うことだ。
必死で泳いでなんとか追いついた。意識がないのかグッタリしている。
美竹さんをギュッと力強く抱きしめた。
大葉椿
体力のない男子高校生
林間学校の一番の辛いところは長い移動だと思っている
それ以外はもうどうにでもなれと開き直っている
美竹蘭
体力のある女子高生
モカたちと一緒に登ろうとしたらクラスごとに違うルートだったことを直前に知って絶望した
まあ、自分がついていないと大場が一人で可哀想だと開き直った
蛇
爬虫綱有鱗目ヘビ亜目(Serpentes)に分類される爬虫類の総称
普通に怖い