「大庭、ねえ起きて……………ねえってば」
「………………ん」
誰かからユサユサと体を揺らされる。やけに怠く感じる全身が所々に痛みを感じている。
重たいまぶたを開くとそこには今にも泣き出しそうな顔で全身がビシャビシャになっている美竹さんがいた。
そっか。確か僕はあの時彼女を追いかけて川に飛び込んだのか。普段なら絶対に飛ぶことなんかできないのにあの時は美竹さんが心配で。
「…………美竹さん」
「大庭‼︎」
その瞬間勢いよく抱きしめられる。く、苦しい。
「み、美竹さん…………無事でよかった」
「…………ッバカ!!あたしが無事でも大庭が無事じゃなかったら意味ないじゃん!!」
「そっか…………ごめん」
せっかく人生で一番勇気を振り絞ったのに結局怒られちゃったな。
相変わらず僕は間抜けだな。
「でも…………大庭が助けに来てくれてよかった」
「…………美竹さん」
その瞬間緊張の糸が切れたのか小さなすすり声が聞こえた。いつもクールな美竹さんだけどやっぱり根は女の子なんだ。そんな彼女をギュッと優しく抱きしめ返す。
美竹さんの下がり切った体温をしっかりと確認するように。
そこからは美竹さんが泣き止むまで二人で抱きしめ合っていた。
どれくらい時間が立ったのだろうか。だんだんと当たりは暗くなってきており、もうすぐ完全に日が暮れてしまいそうだった。
そろそろ戻らないと完全に日が暮れてしまってからじゃどうしようもない。
「美竹さんそろそろ戻らないと」
「うん…………」
やっと離れてくれた美竹さんは真っ赤に腫れた目を擦りながら空を見上げた。
「なんか天気悪いね」
美竹さんが空を見上げて独り言のように呟く。
つられるように見上げると今にも振り出しそうな天気だった。
その瞬間ポツポツと近くの岩に滴が落ち始めた。
「とりあえず雨が防げる場所に」
「うん」
重たい体を起こすと腕に鋭い痛みが電流のように流れた。
「…………っ」
痛みがした右腕のジャージを捲ってみるとだんだんと赤くなっていた。それは意識すればするほど痛みが増していくようだった。小学生の頃家の階段から落ちた時にも同じ痛みを経験したことがある。
そう、確かあの時はすぐに親に救急病院に連れて行ってもらって先生に見てもらったら案の定骨折だった。
そして今まさにあの時と同じ痛みが腕に来ていた。さすがに小学生の時のように喚きはしないがそれでも痛みを堪えるのに背一杯だ。
少し暗くなった林道を美竹さんが先導してくれているからまだこのことはバレていない。
さっきまであんなに不安そうにしていたんだ。僕が腕が痛いなんて言ったら彼女は自分のせいでと気を使ってしまうだろう。
だからだろうか。この痛みは奥歯を噛み締めて耐えようと思ったのは。
「大庭どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう、ならいいけど。ほらあそこなら雨風凌げるかも」
美竹さんが案内してくれたのは少し入り組んだ場所にあった洞窟のような場所だった。
何年も人が来ていないのだろう。中は枝や枯れ葉が錯乱している。
足で適当に座れる場所を確保してやっと一息つく。
視線を右腕に向けるとさっきよりも痛みが増している気がする。骨折ってどのぐらいの時間で病院に行かないといけないのだろうか。
すでに日の傾き具合で相当の時間が経っているはずだ。
こんな時にスマホがあれば適当に調べられるのに。無意識のうちにいつもポケットに入っている場所に手を突っ込んでも何もない。
そもそもこんな山奥スマホがあったところで電波が通ってないだろう。
「そう言えば大庭は荷物どうしたの?」
「…………ん」
荷物。確か僕は美竹さんを追いかけた時にカバンはその場に置いて飛び込んだ記憶が微かにある。
その時スマホはどうしていたっけ。…………いつものようにポケットに入れていたはずだ。そして川に飛び込んだ拍子に川に水没した。
一度考え始めると悪いことばかりしか思い浮かばなくなってくる。
「飛び込むときにそこに置いてきた気がする…………美竹さんは?」
「あたしは気がついたら大庭が抱きしめてたからわかんない」
「僕がなんだって」
大庭がの後がやけに小声で聞き取れない。
「なんでもない、バカ!!」
結局いつものように怒られてしまった。
そしていつものように沈黙。こんな時にスマホがあればゲームができるのに。
「あ、あぁ…………」
瞬間僕の愛してやまないゲームのことが頭によぎった。
もうスマホは沈没したから戻ってこない。
そうなるともう師匠とも会うことができない。
そしてこの前のイベントの最後の最後で”幕末天才病弱剣士”も当てたのに。
行きのバスでやっとの思い出スキルレベルも最大まで上げて次の高難易度の前線で使おうと思ったのに。
あまりにも悲しすぎる別れに自然と視界がぼやけてくる。
「…………大庭、大丈夫だよ。あたしが一緒だから」
その瞬間美竹さんが頭を撫でて抱き寄せてくる。
僕がここにいることが心もとなくなってしまったと勘違いしたのだろうか。
そう思うと彼女に申し訳なくなってくる。そして何より正直にゲームのデータがお陀仏したことを悲しんでいるとわかったらぶっ飛ばされそうだ。
そもそもこの場合僕が不安そうにしている美竹さんを慰てあげるのが普通じゃないのか。
「大丈夫…………大丈夫」
そう言って優しくしてくれる。
なんか優しすぎて美竹さんじゃないみたいだ。いつもの怖いオーラを出している彼女はどこに行ったのか今の彼女には優しさしかない。
もう恥ずかしさが限界になったので離れるようにするとギュっと服の袖を掴まれる。
どうしたのか彼女を見てみると小さく震えていた。
「美竹さん…………」
考えてみれば当たり前だ。いつもは強がって一人でいる美竹さんだが実際にはただの女の子なんだ。
そんな普通の子が荷物も食料もない中、男と二人で雨がふる山の中に遭難したんだ。怖いはずがない。
「大丈夫だよ美竹さん。僕が一緒にいるから」
今度は僕が彼女の震える手を握ってしっかりと目を見て答える。
「何かあっても僕がなんとかするから、そんなに怖がらなくても大丈夫…………まあ、熊でもでたら餌ぐらいにはなるから」
「何それ…………大庭なんて細すぎて餌にもならないよ」
「それもそっか」
ふふっと少しは緊張状態も解けたのかいつものようにクールな美竹さんに戻ってくれた。
それからは二人して色々な話をした。
僕が好きなゲームのこと。美竹さんのギターのこと。共通の趣味の音楽のこと。
外は今までで一番強く雨が川に滴を叩きつけていたけれど、さっきまでの恐怖は無くなった。
「救助来てくれるかな…………」
「この雨だからどうかな。最悪明日になっても来ないかもね」
「…………」
すでに外は真っ暗で明かりの一つもない。もう美竹さんの顔もはっきりと見えない。
「それでもいいかな」
「大庭?」
「美竹さんと二人なら別にいいかな…………」
「えっ…………!?」
お互いを確認するかのようにギュッと強く握った。
少ししてから美竹さんからもギュッと握り返してきてくれた。
背中の痛みが限界に達したのか目が無意識的に開く。
どれくらいの時間が経ったのかわからないけどすでに雨は上がって外からは陽の光が差し込んでいた。
「美竹さん…………」
優しく肩を揺らして美竹さんを起こす。
「ん」
「おはよう、美竹さん」
「大庭…………」
それから二人して洞窟を出ると目の前にあった川が昨日と比べて明らかに流れが強くなっていた。肉眼でこれだけの変化がわかるから昨日の雨はすごかったのだろう。
その時二人のお腹から同時に空腹を知らせる音がした。
「なに…………」
「い、いや別に」
ちらりと美竹さんをみると睨みつけてくる。
確かにお腹が減った。通常通りなら今頃は二人でカレーを作っている頃のはずだ。
それに昨日の朝が最後で何も口に入れていない。
「とりあえず、何か食べれるものがないか探してくるから、美竹さんはさっきの場所で待ってて」
「ダメ!!」
「え?でも美竹さんもお腹減ってるんじゃ」
「空腹より一人にされる方が嫌…………」
すっかり怒った顔でそっぽを向きながらそう言った。
「わ、わかったよ」
あまりの形相だったので大人しく首を縦に振った。
それから二人してさっきの洞窟に戻った。
結局そこで昨日のように駄弁って日が沈みかけた時間に救助隊の人たちが見つけてくれて、僕たちはそのまま病院に運ばれた。
大庭椿
美竹さんと二人っきりで遭難した時はどうなることかと思ったが、意外にもなんとかなってよかったと思っていたらしい
結局スマホは見つからず病院のベットの上でひとりで枕を濡らしたとかいないとか
美竹蘭
気がついたら大庭に抱きしめられて岸にたどり着いていた
最初は男なのに頼りがいのない奴だと思っていた大庭がやけに男らしく見えて困っていたそうだ
事件後アフロのみんなに散々問い詰められたが何一つ口を割らなかったらしい
幕末天才病弱剣士
〇〇さん大勝利〜‼︎
幕末の京都で治安部隊の一番隊隊長をしていたらしい
ことあるごとに血を吐いている
ちなみに中の人は剣士さんの相方の方が好きらしい(まあ儂の方が可愛いから是非もないよね!!)