泣かずに産まれた。その後も表情というのが良く分からないまま年を取った。
父は親友なんか信じたために家庭を崩壊させて事故死、母はそんな父を想いながら衰弱死した。
特別に悲しくなかった。人の事なんかにかまけるからこうなった。
私は利己的で賢く生きよう。そう誓った。
心身ともに幼かった私が盗み1つで1人で生きていけるほど現実は甘くなく、今に死にかけていたその時だった。父から教えてもらったあの世界への行き方…。
私は半ば迷い込むようにして、幻想郷にたどり着いた。
そしてそこで待っていたのは…。
私は平凡な家庭に生まれた。強いて他と違う事があるとしたら、父親が妖怪、母が人間のと言う両親から生まれたと言う事ぐらいだった。私は産まれた頃から感情が乏しく、出産直後から特に泣く事もなかったため何か体に異常があるのではないかと騒がれたり心配されたりしたのだとか。
父は務めていた職場の後を継いで社長となり忙しく、小学生に上がるまで本当の父だと言う実感がなかった。家事仕事、近所付き合いもあって忙しかった母は私に良くしてくれたが、近所同士のトラブルや子育てに悩みも多く幼少期より割と気を遣えた私は1人でボール遊びをしているフリをしていた。
会社が安定して来ると父と一緒に遊んだり、皆でピクニックに行ったりした。食べる物は一緒でも、生涯を通してもあれほど美味しいと感じた食事はないだろう。
人生のピークが過ぎ、急降下を始めたのは小学の高学年を超えた頃。久しぶりの親友に会えた父は、借金をした親友の口車に乗せられ連帯保証人になってしまった。
国の景気もかなり厳しい時代に入ったため、会社の切り盛りなんてとても難しく倒産した。
母はスーパーで働いていたが、父は良い勤め先に就職てきず荒んで行った。果てには飲んだくれになり私や母に暴力を振るった。殴って、蹴って、そして正気に戻ると泣きながら謝る。
借金もあってとにかく給料の安い所に就職すれば良いと言う訳でもなく、父の葛藤やストレスも今となっては分からなくもない。それでも最低で、哀れな父だったと思う気持ちは変わらない。
やがて父は車に撥ねられ死んだ。運転手が言うには自ら飛び出してきたらしいが、自暴自棄になりかけていた父の事なので充分にあり得た。母は飲む薬の量が増えた。
ご飯も食べていくこともままならず少しずつ痩せて行く私だったが、半分は妖怪の血を継ぐためか人間ほどは食べなくても生きていけた。深刻だったのは母だった。
ある日、母はソファに寝たまま死んでいた。寝ているんだと思ったが…。父の時もそうだった様に、母が亡くなった時もそれほど悲しくなかった。
あれだけ私達を不幸にした父をいつまでも想い、自分が非力だったばかりにと泣いていた。愛なんか知ったばかりに私なんかを生んで、愛に溺れたばかりに苦しみ抜いて死んで行った。
私は利己的に賢く生き抜くと誓った。
ルールを守るのはリスクと良心。その下に潜った世界には自由が待ってると思っていた。しかし、ルールの外にあるのはあまりに複雑であまりに理不尽なルールだった。
自分勝手には生きられない。青空を天井にと大地を寝床として走り回っては窃盗を繰り返していたが、関わっては行けないタイプの連中に恨みを買ってしまい逃げる日々が続いた。
人間より丈夫だとしても体力は無尽蔵じゃない。弱り果てた私は木の実を齧りながらこれからどう生きて行くかを考えていた。
そんな時に頭によぎったのは、かつて父が言っていた幻想郷と言う場所の事だった。
「球磨、お前は半分は人間だが半分は妖怪だ。父さんは数多くの経験を経てこの世界に馴染んでいるが、普通の人間と異なるお前はこれから沢山、異なる死生観や価値観の食い違いに悩む事になる。もし、どうしてもこの世界に合わないと言うなら幻想郷に行きなさい」
「幻想郷?」
「ああ。幻想郷は探し求める者に寛大な場所…」
そう言う父の表情は当時の私にも今の私にもわからないものだった。
「どこにあるの?」
「あ、ああ。それはね…」
気が付いたら幻想郷に来ていた。ここに来るまでの具体的な経緯は覚えてない。迷い込んだ、の方が近い。ここが外の世界と異なるのは入った時点でよく分かった。空気がまるで違う。
初めて来たのにとても懐かしい気がする。とても美しくて、寂しくて、温かくて切ない。この気持ちはなんだろう。
感傷に浸る間もなく、私は妖怪と妖精に追われた。それほど害意や敵意を感じるものはいない。悪戯感覚、テリトリーに入った、好奇心、向けられる気持ちと言えば大方こんなものだろう。
逃げて逃げて、逃げ続けた。
草むらに隠れてやり過ごしているとようやく気付いた。外の世界より元気になっている自分に。お腹が空いてたはずなのに、歩くのもきつかったはずなのに。
妖怪として生きる環境がここにある。改めて実感した。
「ここが、幻想郷…」
…起きた。今でもあの頃を思い出す。
外の世界にいた事、幻想郷に来てからの事。チルノと出会い、変わった事。私は大きく背伸びをした。チルノはまだ眠っている。つい最近まで危害を加えていた私と同棲なんて、人が良いにも程がある。
「…球磨、寝てる時ぐらい眼鏡外せよ」
どんな寝言だ。私は笑っていると、本当につけたままねていた事に気付いた。最近はまともに寝る事がなく仮眠ばかりしていたので、眼鏡をかけたまま寝る事に慣れつつあった。
私は眼鏡をとってレンズを拭く。そしてまたつける。実はここに来てからのこの眼鏡はただのファッションだ。何となくつけたままの自分の方が自分らしい気がしてるだけで遠くまではっきり見える。
今日もにとりさんの手伝いだ。あそこは働いていて楽しい。便利なものからユニークなものまで沢山あるのにどうして売れないんだろう。
そんな事を思って窓際を見ると大妖精さんがいた。
「あ、おはようございます大妖精さん」
「おはよう、球磨さん。今朝は少し冷えるね」
「何か温かいお飲み物を用意しましょうか?」
「いえ、もうすぐ帰るのでお構いなく」
私は自分用ののコーヒーを淹れて飲む。
私はチルノより起きるのが早い。この家に泊めさせてもらって驚いた事の1つは、朝は大妖精が窓からチルノを覗きに来る事だった。最初は怖かったが、もう慣れた。
「大妖精さんとチルノってどんな関係なんです?」
「アイドルとファンかな」
「それだけ想いを寄せられているのであれば、いっそ胸中の想いを告げられては?」
「球磨さん、ファンって何の略だか知ってる?」
「ファナティック…。敬虔な方ですね」
大妖精はにっこり笑った。そうして去って行った直後、チルノは起きた。目を擦り、ボーッとしている。
「おはよう、チルノ。朝は冷えるし、毛布をかけておいたけど余計だったかな」
「いや、あのまま寝てたら風邪を引いたかも。ありがと」
「寒さで風邪をひく…氷の妖精に対する興味は尽きない」
「人に向けられて最も怖い感情は好奇心だ」
チルノは棚の中を探る。それからため息をついた。カッパコインを探しているのだろうが、ついこの間最後の一枚を使ったばかりで手元にない事を忘れてるようだった。
「いるなら入れるよ、カッパコイン」
「言っても登校前の数十分にちょっとゲームがしたかっただけだし。1つ入れると6時間稼働できるのはいいんだけど3時間とか1時間とか分割したり使わない間止めて置いたりできればいいのに」
「向こうも商売だからねぇ」
そういいながら私はコインを入れた。チルノは驚いていた。私が手をひらひらすると彼女は早速とゲームの筐体の電源を入れた。私も見てみたかったのでタイトル画面を見てみる。思わず声が出た。
「これ知ってる!私が子供のころにプレイしたことあるゲームだ!」
「へぇー。まま、私の神プレイを見てみなよ」
私は早速とゲームを開始して1面に挑む。油断した序盤の敵の一撃に当たってしまう。「あれ?」と言っている。私は思わず吹き出してしまうと明らかに機嫌悪そうに続きをプレイする。中ボスは危なげなく撃破。
その後のボス戦も、粗削りながら難なく撃破。やっとペースを取り戻して2面に挑む。トラップ回避直後の雑魚的に攻撃をもらってまた残機が1つ減った。
「あれ、あれれれ?!そんなのってないよぉ!!」
「あっはっは、チルノってば妙な所で負けるよね」
「まだまだこんなもんじゃないって!ノーミスで行くから」
そういって気を取り直してプレイを続行。中間地点でとあるアイテムを逃してしまったのが痛かったが、何とかボスに漕ぎ着けた。冷や冷やするプレイを見せながらも、何とかノーミスで撃破。
続いて第3面。チルノと目が合った。何も言わないでプレイを続行する。
その後、高低差のある場所から落下でゲームオーバーになった。
「…ブランクが空く前なら次のステージのボスまでいけたんだけどね」
「一機やらせてもらってよかですか?」
「え?…いいけど」
こんなの書いていいのかなぁ、書かないほうがいいのかなぁとか内容を振り返りながら添削をを繰り返して書くこの頃。