ストーリー オブ ザ 球磨   作:ヤングコーン

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発電所、発電機…どうしても言葉にしがたい不安が私たちの心にはありました。
だから、その事について触れるのはもうやめたのです。
しかし、皮肉にも私の頑張りがその必要性を強くさせてしまいました。
そこに奇跡のような出来事が舞い込むのですが、それが良い事なのか悪い事なのか…。私にもわかりません。


15話 文明の灯

あれから、私達はお互いに発電所の事について話さなくなった。何故かは分からないけど、お互いにまるで腫れ物の様に触れたくないものになっている。だから話さない。しかし、くつろぐ縁の下、雨季のタケノコのように問題が発生しているのを身に感じていた。

 

それでも何とか気にしまいと、身を粉何して働く。

 

今日も元気にお仕事だ。てくてくと、にとり雑貨店に向かっていると、射命丸さんに会った。

 

「おはようございます、射命丸さん」

 

「おはようございます、球磨さん。これ今週の新聞です。どうぞ」

 

受け取った。最近の文々。新聞は情報が沢山だ。今年は虫による食害、干ばつで農作物の育ちが悪いらしい。これは食費がかさむかもしれないなぁ…。飢饉になったりしないといいけれど。

 

今度、豊穣の神様に祈りに行こうかな。今からじゃ遅いかもしれない。

 

「あれからどうです、姫海棠さんと」

 

「あの二枚貝がどうかしました?」

 

ああ…どうやら元の関係に戻っている様だ。早い。鴉天狗の恋事情はおそらく秋の空模様なんだろう。

 

私はにとり雑貨店に言った。今日は客入りも多い。にとりさんは店内から私を見つけると大きく手を振って早く来る様にジェスチャーしている。私は走って店に入り、レジを交代した。お会計の最中に隣から質問されたり、普通に扱っていればまず壊れないだろう壊れ方をしている機械の相談もされたりする。

 

隣からにとりさんがフォローに入っては応答してくれるが、この数は凄い。今日は10時ぐらいまでカウンターの前でお客さんの相手をしていた。さすがに疲れた。

 

「儲けた事には設けたが儲けがこの値段じゃ割に合わない気がしてきたな…。もうちょっと値上げしていいかもしれない」

 

「かもしれないですねぇ」

 

小声で言い合ってる間にまたお客さんがお会計に来ている。私が相手をしている間ににとりさんは冷や水を取ってきてくれた。私はお礼を言ってそれを飲んだ。

 

にとりさんは店を構えるにあたって近すぎても遠すぎてもいけない、ということで人間の里から3㎞ほど離れた所に店を作っている。往復6㎞だ。それでも買いに来るというのだから凄い。小型の電気製品が売れると同時に、蓄電器や発電機などの要望も多くなってきた。

 

にとりさんと視線が合った。何も言わなければただ楽しく設けて充実した毎日…も、このまま続くというわけにもいかない。そんな現実が突き付けられてきた。

 

私たちの後ろに並ぶ、お客さんの充電器の数々。たこ足配線で充電している。電化製品を売っているのに人間の里は通電してない。想像以上に売れるようになった弊害がここにやってきた。

 

だが、それを売っている以上「こちらから電気を供給できません」では…。

 

にとり雑貨店にある発電機。これまではそこまで必要とされる電気量もそれほど多かったわけでもなく問題なかったのだが、修理が重なっててそろそろ新しい発電機を作った方がよかったり、発電に使う純度の高い燃料がなく故障の原因になるなさまざまな問題を抱えていた。

 

ここ最近に関してはロクにメンテナンスもできてない。これがもしいきなり壊れたりしたら…。

 

「にとりさん…」

 

「言うな!」

 

「でも…」

 

「分かってる!」

 

お互いに長い沈黙が訪れる。ああ、あの閑古鳥が鳴いていたあの頃。あのままじゃ開発費は取れなかった。今は開発費が取れるようになった分だけ、規模拡大が迫られるようになってきた。どちらがいいのかわからない。ただ頭を抱えた。

 

ようやく人だかりがなくなり時間が出来た頃に、ふと、入り口に影が見えた。緑色のロングヘアーの変なアクセサリーをした女性がニコニコしながら、ドアから半身だけ出してこちらを見ている。

 

「ひっ!何ですかアレ!」

 

「見るな球磨!目を合わせるな!気づかないふりをしろ!」

 

「…何ですか、私をまるで妖怪か何かの様に」

 

ワンツーステップからくるりと回って女性がカウンター前にやって来た。

 

「申し訳ない。具体的に妖怪とどの辺が違うのか教えてくれないか」

 

「しいて言うならデオキシリボ核酸じゃないですか?」

 

その緑色の髪の女性は青と白をメインカラーとした巫女服を着ている。霊夢さんの知り合いだろうか。彼女はこちらをくるりと向くとにっこりと笑った。

 

「お初にお目にかかります、妖怪の山、守屋神社の巫女の東風谷早苗と申します。以後お見知りおきを」

 

優雅におじぎをしてみせる。それから、私とにとりさんを交互に見比べる。何を考えているのかさっぱり分からない。こんな時、さとりさんが隣にいたなら色々教えてくれただだろうか。

 

「妖怪の山に行ったり、博麗神社に行ったり、旧地獄へ行ったり…来るのは今か今かと心待ちにしておりましたがいつまで経っても来ないんでこちらから赴いたというわけです。さて、前置きはこれぐらいにして本題に入りましょうか。正直な所、電気に困っているんでは?」

 

私とにとりさんはドキッとした。あまり急な事で飛び上がってしまう。何も悪い事をしていないのに警察が横を通ると緊張してしまうというか…とにかくそんな感じだ。私たちの反応をみて早苗さんはニマニマと笑っている。

 

それから店内の商品を眺めたり触ったりしながら行ったり来たりする。

 

「にとり雑貨店はすでに需要過多を起こしている…。その問題解決のために最も先に片付けるべき問題は電気だった。そこであなた方は旧地獄に目を付けた!」

 

急にビシッと指を差された。まるで蛇に睨まれたカエルだ。金縛りにあったように動けない。この室内そのものが彼女の舌の上であるかの様にさえ思える。心臓の鼓動音が耳に聞こえてきた。

 

「しかし、残念ですお二方。さとりさんに聞けばわかるでしょうが、あなた方その考えはあまりに荒唐無稽、艱難辛苦、前途多難、実現不可です。理由を挙げればキリがありませんが、そのうちの1つはにとりさんが熟知しているはず」

 

「ああ…考えてなかった訳じゃないさ。不可侵の取り決めだろう」

 

そういえば、今は多少なりと緩くなったとは言え地上と地下で不可侵の決まり事あるんだった…。旧地獄にいるのは鬼。約束を破りの戦いとなってはどんな凄惨な結果が待っているか知れたものじゃない。考えるだけでもぞっとした。

 

加えてどうして実現できないのか、最重要な事柄をピックアップして分かりやすく砕いて説明してくれた。この間の地霊温泉以外では旧地獄なんて探索もしたことなかったので、具体的な見取り図で説明してくれるとわかりやすかった。とにかく頭数もそろえなきゃいけないし、多大な年月もかかるし、そしてそれには不可侵の取り決めをどうにかしなきゃいけないと…。

 

射命丸さんやにとりさんはとても親切で優しいが、何気ない会話の中でも種族間において気になる発言をする事も多い。ましてや旧地獄にいるのはかつて妖怪の山の頂点に立ち、河童と天狗を統べた鬼だ。確かに難航しそうだ…。

 

「でーすーがー!私は親切心からそれを忠告しに来たのではありません!意外かもしれませんが」

 

まあ親切心から私達に苦言を呈してくれているようにはとても見えなかった。わざわざ私達にこの事を伝えようとしているのには何か理由があると…。しかし、それはいったい何だろう。ちょっと想像がつかない。

 

早苗さんがこの事を私達に説明をしに来た理由…。

 

「あれあれ?分かりませんか?少し前に、複数の新聞社の取材を受けたので載っていたはずなんですが」

 

「間欠泉…管理センター…」

 

にとりさんが声を震わせながら言った。

 

「はあい、その通りです!発電所、発電機の機構は既に作られているんですよぉ!そう、間欠泉管理センターでっ」

 

「で、でもあそこは…ただの研究施設で…泉質とか地質とか…」

 

「助かりますねぇ、河童達は研究熱心で。おかげで思わぬ文明の利器が得られました。あんなに価値ある副産物ができてしまうとは」

 

「抜いてやる…貴様の尻子玉を抜いてやるぅー!」

 

河童の技術力は非常に高い。しかし、いつもぶつかっていた問題と言えばエネルギー源。各所、妖怪の縄張りがあるため自由に採掘も捗らない。土地の交渉も続いている。代替エネルギーの案もどれも確実で満足な量の資源を確保できずにいた。

 

そんな事情の中、河童の技術力と労力を借りて研究と銘打って密かに発電所を作っていた。それを作らせた河童たちには利用させず隠しているというのだから、日頃は悪態をつく矛先である同族であっても憤りを感じずにはいられなかったのだろう。

 

にとりさんが早苗さんに向かって走り出すと、早苗さんはいかにも採れたて新鮮のキュウリを3本皿の上に置いて少し下がった。にとりさんはキュウリに向かってダイブして受け取った。

 

「ああっ、この私の体に流れる血が憎いっ!」

 

不覚にもにとりさんに萌えてしまった。

 

早苗さんは倒れたままキュウリを齧りながらすん、すんと泣くにとりさんに歩み寄り、中腰になった。

 

「河童は優れた技術者です。しかし、優れた指導者ではありません。餅は餅屋、桶は桶屋…。力とは推進力、抑止力ともに司るに相応しい所にあってこそ正しく使われるもの。電気もまた、我々の管轄下の下で配給される事によって正しく機能するのです」

 

「何様だお前…」

 

「現人神様です。…あなたはどうして人間の里に固執するんです?故郷に帰れば好きな事を好きなだけできるというのに。人間の里から部品を取り寄せて…、金策に困りながら…、身を粉にして発電機の燃料を集めて…」

 

「お前には関係ない」

 

「あなたは同族との間に確執がある…。自分の正しさを証明するためにこんな無謀な事を繰り返している…。そしてその行いに限界を感じている…」

 

言いながら徐々ににとりさんの耳元に口を近づけながら言う。聞こえやすいように、手で髪を退けて。非常に艶やかで思わず息をのんだ。

 

にとりさんは言い返さない。そうだ。以前、同族に「足るを知れば生きていくのに事欠く事はないだろうに」と言われたと怒っていた。里を出て外での活動を主としている理由。開発品のパーツの受注を人間の里で行っている事。それらには確かに確執があるからだった。同族への愛と嫌悪、相反する感情が渦巻いていた。

 

精神の核、最も核心的な所を突かれてしまっている。にとりさんはただ顔をあげて早苗さんの顔を見る。彼女は手を差し伸べた。

 

「私は、私は…」

 

「あなたの同族にさえ分け与える事がなかった発電所の電気の使用の許可をあなた達に出す。わかりませんか、つまりあなたにはその資格があると私は言っているのです」

 

「私に…その資格が…」

 

脳髄を焼き切るほど甘い囁きに、にとりさんはその手を取ってしまった。まるで深海魚の疑似餌の発行に吸い寄せられる魚の様に。彼女の手を取ったにとりさんお表情は、喜怒哀楽のどれとも言えずとても複雑なものだった。

 




何か早苗さんが悪役っぽくなってしまって、どうにかしようとアレコレと編集で頑張ったけどこれ以上上手くいきそうにない。でも最終回的にはどうなんだろう。頭が混乱してきた。
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