今後の方針や作りたいものに関して話し合った結果、娯楽という点について意見が合致しまして。
そこで、小さなレジャーランドを作る話になったのでございます。
少し前までは色々とおっかなびっくりしておりましたが、今となってはできる幅が増えて好奇心が刺激されるばかりです。
さて、どんな物を作りましょうか…。
ガバッ。私は掛け布団をどかして体を起こした。そして台所まで行くと水道の蛇口を捻り、水をコップに注いで飲んだ。何をしてるんだろうな、私は。
力なく笑うと、私はまた寝ようと寝床に戻る。すると、球磨が体を起こしてこちらを見ていた。
「眠れないんですか?」
「まあな。お前もか?」
「ええ…まあ」
私が横になると、球磨も同じ様に体を倒す。2人そろってにとり雑貨店の天井を眺めた。世の中には、真夜中のラブレター現象と言うものがあるらしい。
判断疲れなのか、あるいは時間帯による脳の働きによるものなのか、余計な事まで吐露してしまったり、不可解な物言いをしたり…確かそんな所だ。
ならば、私が球磨に言いたい気持ちもその類なのか。
「球磨…実はこの間夢を見たんだ。とても恐ろしい夢だった」
「夢…ですか」
「そうだ。私の技術への理解を深めた人間の里の人間はやがて兵器を作って行き、次第に妖怪を恐れなくなっていった。絶妙なバランスで保たれた調和が崩れ、戦いになったんだ。付け焼刃の兵器で妖怪は滅ぼされたりしない。だが、人間は滅ぼす訳にも行かない。次第に妖怪の間でも人間に対する対処法で揉めて対立を深めていった」
球磨の元居た世界では、もう妖怪も幽霊も人間の作り話という認識が多いようだ。その世界で生きていく。それは想像もできない。私は自ら人間の里に働きかける事でそうなってしまうことのきっかけを与えてしまうんじゃないかと考えていた。
「妖怪は力を持っているが統率力は人間ほどじゃない。下々が問題を起こすと勘ぐってしまい疑心暗鬼になったりしてしまう。勢力ごとの争いは日に日に増していった。私はというと、人間の立場にも妖怪の立場にも立てず、ただ滅びゆく幻想郷をただ眺めているしかできなかった。…そんな夢だ」
とても怖かった。震える私を球磨が背中をさすってくれる。優しいな、お前は。
「なあ、球磨…怖いんだ私は。この夢が正夢になったりしないか。日に日に募るこの恐怖。虚栄心が顔に張り付いて取れないんだ。吹き荒れる風が、心に空いた穴から入って凍えさせる。私はどうしたらいいかわからなくなる。毎夜毎夜、こうして怯えていればいいのか…?」
切り出せば、溜めた思いが決壊するようになだれ込み言葉として吐き出されて行く。私は奥歯をガチガチと言わせて震える。球磨は私を抱いて頭を撫でる。
「大丈夫です。にとりさん。悪い夢なら私が飲み込んで差し上げましょう」
「球磨…お前は、私のそばからいなくならないよな?ずっと、ずっとそばにいてくれるよな…?」
「もちろんです」
ああ、ああ…。ただこんな奴が1人欲しかった。私は球磨の体温を感じ取り、少しずつ体の震えが止まっていくのを感じた。私は呼吸を整える。
「頼りにならない上司で面倒をかけるな…」
「もっと部下に頼ってくれていいんですよ、にとりさん」
「号外でーす」
射命丸さんがやって来た。今は様々な工事があってにとり雑貨店は当分は休日だ。私は新聞を受け取る。射命丸さんは近くの光景を見てボールペンを落とした。
視線の先にいるのは霊夢さんと早苗さん。ボールを蹴って的に当てている。霊夢さんのシュートはおかしな軌道を描きながらも目標にヒットする。
「はあー?何で今の得点入るんですか!物理の法則どうなってんですか!」
早苗さんがボヤいている。次の早苗さんのシュートでラストになる。次に最高得点の的にシュートできなければ早苗さんの負け。更に、最高得点の的の周りは低得点で、間違えれば霊夢さんとかなり得点が開いた負けになる。
早苗さんは姿勢を低くし、祈る様なポーズを取る。もちろんだが、何ら小細工をすれば霊夢さんにばれるのでその類のまじないではないようだ。
「へーい、さなちゃんビビってる」
「スカーレットシュート!」
霊夢さんの野次を無視した、どこかの紅いのお嬢様を思い出させる鋭いシュート。真っ直ぐの軌道で最高得点に打ち込まれた。逆転、早苗さんの勝利だ。
「うえぇーい!見ました?!私の勝ちです!見ました?!」
「うざっ」
露骨に悔しがる霊夢さんと、霊夢さんの周りを右腕を突き上げ雄叫びをあげながら走り回る早苗さん。射命丸さんは写真を撮っている。それから落としたペンを拾って早速と取材モード。思うに幻想郷の人間の里には娯楽が少ない。そんな風に感じていた。
だから、小規模ではあるけれどレジャーランドなんて作ったらどうかと考えたのだ。大人から子供まで遊べるちょっとしたもの。守矢神社との連携があれば労力の調達も以前ほど難しくはないかもしれない。
「せっかくテストプレイヤーもいるので、取材してきてみたらどうですか??」
「んー…。正直、ちょっと苦手なんですよね…あの緑色」
「早苗さんですか?」
「ええ。人を食った態度が気に障るんです。どこにでも出てきてボス面しやがるあのふてぇ野郎の一挙一動が」
射命丸さん…あなたも多分大概ですよ…。
「あー、運動後はお腹が減りますね。霊夢さん、この後、お酒飲みませんか?鳥つくねとかを肴に」
そう言いながらグリン、射命丸さんの方を向いた。射命丸さんが手に持っているボールペンが半分に折れた。
「…ちょっと『取材』…してこようかな…」
「おやぁ、カモがネギを背負ってやって来ましたよぉ」
2人は高速で空に飛び上がると、激しい弾幕の撃ち合いを始めた。綺麗だなぁ。霊夢さんは休憩がてらに店内で横になった。私がお茶を持っていくとお礼を言って飲んだ。にとりさんがボードゲームを持ってくると、2人で遊びだした。
私は背伸びをして少し寝ていようかと思っていると電話がかかってきた。受話器を取ると、話し相手がさとりさんだと分かった。この後の用事も特にないので、私は旧地獄へ向かう事にした。前回はレミリアさんの忠告通り危険な目に遭ったが、信用を取り戻すべくあれこれと手を打ってあるらしいのできっと大丈夫に違いない。
そういえば、道中でもし妹を見かけたら連れてきて欲しいと言っていたな。でも偶然居合わせる事なんてあるんだろうか。
「這って動く……白!!」
ブリッジポーズのままワサワサと不気味な音を立てながら少女が道の向こうからやって来た。
「ぎゃああああああ!!!」
腰を抜かしてしまった。よく見ると古明地こいしさんだ。また何か新しい遊びでも思い浮かんだんだろうか。
「えっと…こいしさんだよね?」
「うん。そだよ」
「お姉ちゃんが探してたよ。さとりさんが」
「ちと過保護が過ぎるんだよなァ、姉貴は。お守りって年頃でもねェのによぉ」
カイワレ大根を口に咥えながらドスの利いた声で言った。どこで覚えてきたんだろう、そんな言葉づかいとその仕草。彼女は渋い顔をやめてニパッと笑う。
「私は球磨を探してたんだ。お姉ちゃんが連絡ないって言ったから連れて来ようって」
「そうだったんだ。それはよかった。今から向かう所だよ」
…しばらく話してて気が付いたが、さっきまで素で敬語を忘れていた。何というか、それが普通の様な感覚というか…そんな気になってしまったのだ。しかし、彼女は確実に私より年上ではるかに強い妖怪。やはり敬意は表さねば。
とはいえ、今更謝りづらいな。あまり本人も気にしてる風でもないし。
ふと、急にこいしさんが倒れた。驚いて彼女を介抱しようとするがただ寝息を立てて眠ってるだけらしい。心臓に悪い。私は彼女をおんぶすると旧地獄まで歩き出した。