ストーリー オブ ザ 球磨   作:ヤングコーン

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書きたいものと書くべきものの境界があいまいになった結果、全然筆が進まなくなったので、少し休みがてらの話を書きます。昨日が7日でミステリー記念日で、なのかにかけてルーミア主人公で書き始めてたんですが日付をまたいでしまいましたね(白目)

日付とか時間とか書いてますが適当です。ミステリーなんてぜんぜんわからないわからない 俺たちは雰囲気で小説をやっている←


閑話 宵闇裁判

「あ…ああ…こんな、こんなはずじゃなかった…」

 

鈴仙は足を震わせ目の前の状況を受け入れられないでいる。鈴仙の手には血の付いた杵。臼の前に覆う様に倒れている輝夜。そう…これは殺人事件。意図的ではなかった。しかし、間違いなく殺してしまった。

 

体中から嫌な汗が吹き出し、考えを巡らせる。そうだ…これは何かの間違いだ。私は悪くない。その時、ふと考えが過った。

 

「わ…私は悪くない…だって、あれは…」

 

ふと、今日の来客の事を思い出した。

 

「ふふ…そうよ、そうだ…ふふ…」

 

 

 

 

7月16日10時26分。迷いの竹林。

 

私は永遠亭に向かっていた。寺子屋で体調不良を起こしたためだ。来なくてもいいのに、特別にけーね先生が私に同行している。私の体調を気遣っての事かもしれないが、余計なお世話だ。

 

重度な仮病に必要なのは、暇な時間と楽しい時間だけなのだから。

 

「大丈夫か、ルーミア。お手々握っててやろうか?」

 

仮病だと既に見抜いているけーね先生の目線は「まだしらばくれるか」というものだった。私は手を差し出すと、困惑気味で手を軽く握ってくれる。

 

「先生のお手々、温かぁい!」

 

「お、おう。そうか」

 

いかにも子供っぽい声のトーンで言ってやると、やや恥ずかし気な顔をしながらもしっかり私の手を握ってくれた。ちょろいなぁ、ちょろいなぁ先生。

 

しばらく歩いていると、けーね先生は首をかしげている。どうしたんだろうか。

 

「おかしい。そろそろあいつが来る所なんだが…」

 

「探してるその人なら来ないよ」

 

現れたのはウサギ。パーマボブ?のような髪型の。

 

「今、永遠亭で殺人事件の容疑者になってるんだ」

 

「「え??」」

 

 

 

 

7月16日10時37分。永遠亭。

 

「あの、通してください!関係者です!妹紅に会わせてください!」

 

「ちょちょ、ちょいちょいやめてくださいって。あなた誰なんです、容疑者とはどんな関係なんです!」

 

「あの…伴侶…です」

 

けーね先生は顔を赤らめながら言った。けーね先生を止めていた人は幻想郷のどこから持ってきたか不明なワゴン車の中に入って妹紅とかいう人と話している。しばらくして戻ってきた。

 

「親友だそうだな。分かった、今混んでるから20分ぐらいで済ませてくださいね」

 

通してくれた。やや落ち込んでいるけーね先生と一緒にワゴン車に入ると、簡易的に作られた仕切り越しに妹紅って人と会った。私、もう永遠亭に用事ないし帰っていいかな。

 

「妹紅、妹紅!聞いたよ、あんた殺人容疑をかけられてるんだって!?」

 

「容疑者なんかじゃない。犯人さ。私が殺したんだよ」

 

「嘘だとお言いよ、妹紅!あんたはやさぐれちゃいたけど、やっていい事と悪い事の区別がつくいい子だったじゃないか…」

 

けーね先生は泣き出した。妹紅はきまり悪そうに頭を掻いている。妹紅は容疑を認めている。けーね先生はどれだけあれこれ聞いても適当に話を流されるばかりでまともに取り合おうとしない。これ以上の進展はなさそうだと思い、まずはこのワゴン車から出た。

 

さて、どうしようか…と思った矢先、誰かが庭に倒れているのが見えた。無視して帰ろうとすると、その倒れている人に足を掴まれた。

 

「無視か…、人が倒れているというのに!」

 

「食べていい人?」

 

「しょうがないな」

 

その人は目の前で親指が離れるマジックをやって見せる。さすがの私でもそのトリックは知っている。なくなったと見せかけた手の親指をニョキッと生やしたところで舌を出して見せて笑った。私は遠慮なくその人の親指にかみつく。

 

「あだだだだだだだ!お餅!お餅あげるから!」

 

搗きたてのお餅を3つもらった。うむ。中々いいお味。

 

「私はルーミア。仮病を患いここへやって来た」

 

「私は蓬莱山輝夜。月人であり、永遠亭に住む永遠の姫であり、蓬莱人であり、そして今回の殺人事件の被害者よ」

 

「死人と話してるのか…私は」

 

「生きてるよ」

 

「それじゃあ、この取り調べは茶番じゃないか。お前が出て行って私は生きてるって言えばいいじゃないか」

 

「そう思うじゃん?」

 

輝夜は取り調べの人の顔に落書きをしたり、肩を揉んだり、スカートに頭を突っ込んだりしている。取り調べの人はまるでいないものの様に扱っている。脇をくすぐるとわずかに笑うため、必死に無視している様に見える。「ね?」という風にこっちを向く。

 

それから、先ほど私達を案内した因幡てゐってウサギの耳をにぎにぎしても特にリアクションをしない。ただ、凄くイライラしているのがその目では分かる。

 

「この通り、私を無視するのよ皆。何でか知らないけれど」

 

「人望かなぁ」

 

「あはは、永遠亭の永遠のアイドルの私に限って人望がないわけないじゃん 」

 

やだなあ、と私の肩をばしばし叩いた。そゆとこだぞ。

 

蓬莱人であり、死ぬはもないし生きている蓬莱山輝夜。何故か周りは殺人事件で死んだ物として扱いたがっているため困っているのだという。更に、自身の殺害容疑がかかっているのが別人というのがどうにも気に食わないらしい。

 

そして、ついに事件の真犯人を彼女は指差した。彼女はイナバというらしい。餅つきを2人でする所だったが…。

 

『いい、イナバ。私がはいっ…って言ったら杵をおろして餅を搗くの。あなたが杵を持ち上げてる間は私が餅をこね直すから、あなたは私が「はいっ」て言うまでは振り下ろしてはならない。いいね?』

 

『はあ…わかりました』

 

『いい?…「はいっ!」…って言ったら杵をふりおrグエッッ!!!』

 

『あ…ああ…こんな、こんなはずじゃなかった…』

 

という、不慮の事故によるものだったらしい。それから復活して出歩いているものの、なぜか輝夜は死人扱い、ちゃんと白テープまで張ってあるらしい。本当にしょうもない殺人事件だな。

 

「イナバったら、妖怪赤モンペに責任転嫁しちゃうんだもの。別に妖怪赤モンペがどうなろうが知ったこっちゃないけど、私としては真犯人が捕まってくれないと面白くないわけ」

 

「真犯人も何も今回の事故の主因はお前だろ」

 

「いやん♡」

 

馬鹿馬鹿しい。やってられないと思い私は迷いの竹林を出た。…が、何故か永遠亭に戻って来る。輝夜が手を振っている。まあ、そういう事らしい。つまり私に探偵の物真似をさせようと言うのだ。専門外だ。

 

 

 

7月16日11時07分。永遠亭。

 

輝夜の死亡時刻は本日の08時25分。被害者とされる蓬莱山輝夜はこの時刻に加害者による鈍器の様なもので後頭部を殴打され即死。第一発見者は八意永琳、被害者が餅に顔を埋めながら頭が陥没している所を発見。「事件の匂いがする」と知的好奇心で通りがかった四季映姫と連れの小野塚小町による現場捜査が始まった。

 

容疑者は今日、輝夜に招待されやって来ていた妹紅。殺害現場から少し離れた待合室で杵を持っていて怪しまれたが、検査の結果杵からは血液が検出されたため殺害の容疑により逮捕された。時刻は08時48分。今はワゴン車の中で大人しくし、容疑を認めている。

 

というのがとりあえず調査の結果だ。

 

「自分の殺害現場を探索されるってなんだかドキドキするね」

 

蓬莱人の死生観だと、自身の殺害現場を探索されるとドキドキするらしい。妙なダイイングメッセージとか残してなくて良かった。

 

「事件、思ったよりあっけなかったです。灰色の脳細胞がピクリともしませんでした」

 

「まあ事件が難航しなくてよかったじゃないですか。機嫌を損ねられてはこの小町、こまっち…ゃいますね」

 

「…-10ポイント」

 

「映姫様、お茶目なジョークでカルマポイント下げないでくれませんか」

 

「大変よ、ルーミア。あのままじゃ妹紅が犯人のまま捕まってしまう!止めて!」

 

私はワゴン車の給油カバーの隙間に指をねじ込んで無理矢理引きはがす。そして給油口の中にオイルジョッキ1L分のガムシロップを注いだ。そして近くで待っていると車は動かしてすぐ動かなくなり止まった。彼女らは一度車から出てくると車の周りの確認をしている。

 

「何で動くなくなった?」

 

「この事件が…解決していないからでしょうね。ワゴン・マスター」

 

私は話しかけた。

 

「何を言うのです。この場に揃った証拠も、犯人も、状況も真実を語りつくしています」

 

四季はため息をつきながら言った。私は輝夜からもらった煙管を吸い、せき込んだ。

 

「けほ…。いいですか。まず誰が殺したのか。これは妹紅さんですね。どうやって殺したのか。臼にしがみつくように、またはのぞき込む様にして後頭部から一撃。どうして殺したのか…。最後の動機ははっきりしていますか?」

 

「動機も何も、彼女らは日頃から絶え間なく喧嘩する程の仲だったらしいですし。今回もその喧嘩の延長線上、一線を越えてしまったって所なんじゃないですか?」

 

隣の小町さんが呆れながら言った。

 

「はい。彼らの日頃からの人間関係は耳にしました。しかし、それだと状況がおかしいのです。まず妹紅を呼び出したのは輝夜です。計画的な犯罪とするには準備的な面や不確定要素が多く適していません。お二方の言う様に、この事件は計画的ではなかったのです。言い争いの末、行為に及んだのであれば部屋は争った形跡があるはずです。いかがですか」

 

そう。妹紅と輝夜は日頃から喧嘩が絶えない。何の用事で輝夜が妹紅を呼んだかは分からないが、争った形跡もなく後頭部を一撃入れられているというのはおかしいのだ。更に、状況だけで組むなら彼女らは殺害前には仲良く餅つきをしていた事になる。

 

彼女が犯人とする場合、状況は極めて不可解なのだ。輝夜が運んできた机を私は叩いた。

 

「妹紅は容疑を認めています。しかし、この不可解な状況…白黒が完全についたと言えますか」

 

私と四季とにらみ合う。これは賭けだ。あくまで状況を並べただけのこの不自然、ただの偶然が重なったと言えばそこまでかもしれない。彼女がこの事件について納得がいっていると言えばそれまでなのだ。

 

「…いいでしょう。それは些細な矛盾なのかもしれません。しかし、充分に煮詰められていない点でもあります。よろしい、付き合いましょう」

 

「ええ…帰りましょうよ四季様…」

 

「小町、-10ポイント」

 

「いえいえいえ!やりましょう!この小町、全力を尽くしますとも!」

 

「小町、+5ポイント」

 

何のポイント勘定なのかわからないが、とにかく話は通ったようだ。となれば、まず話を聞きたいのは妹紅だ。私は妹紅に対する尋問を要求した。車から出てきた妹紅はため息をつきながら、隣から離れようとしないけーね先生を引きはがそうとしている。

 

けーね先生、このままどこまでついて行くつもりだったんだろう。私は先ほどの状況の不自然さについて説明した。そして、殺害に至るまでの経緯を聞く。

 

「昨日の夕方だ。輝夜から手紙が手紙が来て、遊んでやるから来いって…。翌日の8時頃、私は永遠亭に来たんだ。そしたら、ウサギが輝夜はもち米と臼を持って待ってるって言ってて…。私は杵をもらって奴の部屋に行ったんだ。そして、襖を開けたらあいつがいて…振り返りざまをこう、殴りつけてやったんだ」

 

「その証言、確かですか」

 

「何で私がうそをつかなきゃいけないんだ」

 

「おかしいですね。その証言が確かなら、輝夜さんの死因となった傷は前頭部になければおかしい!」

 

私は机に拳を叩き付けながら凄むと、意表を突かれたようで思わず表情に動揺が現れた。四季がうなずく。

 

「確かに。その点、どうなんですか妹紅さん」

 

「それはその…記憶違いだ。輝夜なんて殺しても死なないような奴だから…。それであの時は混乱したんだ。言葉を訂正するよ、今度こそしっかり思い出した!」

 

「妹紅はどうして犯人を庇うんだろねー」

 

殺された本人が隣で呑気に言った。皆が輝夜を無視してなきゃ、話はもう終わってるのだが…。仕方がない。訂正された証言とやらを聞こう。

 

「初めての事で気が動転するのは仕方がありません。私も、最近までトウモロコシをトウモコロシと言ったりしていました」

 

そんな言い間違いと殺人事件の証言を一緒くたにされても困るのだが…。

 

「あ、それなら分かりますよ映姫様。私も未だにエレベーターとエスカレーターの区別つかないんです」

 

「あなたへのマイナス評価はエスカレートするばかりです、小町」

 

「私は杵を持って輝夜の部屋に行ったんだ。私は無事に部屋に迎え入れられ、あいつが後ろを向いたちょっとした隙に後ろから殴ったんだ!そしてあいつは床の上に倒れた。私はその間に杵を洗って辺りでしらばっくれてた訳だな」

 

私達は何も言えなくなっていた。当然、この証言もおかしい。後頭部を殴打された時、輝夜は即死していた。その時に床の上に倒れていたなら臼の上に倒れ餅に顔を埋めていた事の理由がつかない。先ほどの証言での致命傷の箇所の間違い、死亡状況の違い…。

 

この気まずい沈黙に妹紅が何か間違った事を言ってしまったのかと不安げな表情で私たちの顔を見比べる。

 

「この証言の矛盾から導き出される答え…それはつまり、この容疑者は殺害現場を見ていない!」

 

「そ、そんな馬鹿な!殺害現場を見ないで殺害なんて…」

 

「はい。この事から、私は妹紅は輝夜の殺害をしていないと主張します。理由は分かりませんが、この証人は何ら目的があって偽証しており信用できません」

 

四季は頷いた。何故かは分からないが、妹紅はイナバを庇っている。妹紅以外に犯人がいる可能性が出てきた。何としてもここから繋げてイナバを容疑として引きずり出さなきゃいけない。そのための次の一手を考えなければ…。

 

小町は顎のあたりをさすりながら唸る。

 

「でも…変ですね。凶器となった杵には確かに容疑者の指紋しかありませんでした。彼女が真犯人でないとするなら、輝夜を殺害時には手袋か何かでもしてたんでしょうか」

 

「気になる所ですね。これは一体どういう事なのか…」

 

「おい、死人。あのウサギはお前を殺した時、手袋をしていたのか」

 

「イキテマス。んまあ、してなかったよ。おかしいね…」

 

輝夜の死体第一発見者は永琳であって、死亡時刻からはそれほど時間は経っていなかったはずだという。工作できる時間は短かったはず。どんな経緯で杵がイナバから妹紅の手に渡ったのか…。何にせよ、凶器に関する情報が欲しい。

 

となれば、その辺の捜査に協力してくれた八意永琳をここに呼ぶしかない。私は四季に頼むと永琳がここへやって来た。後、てゐもイナバも。

 

「あの、映姫様。ミステリーでいつも思うんですが誰もが使用する凶器であれば割と指紋だらけって事ないんですかね。本当に指紋が容疑者だけって…」

 

「おい、そこの赤いの。安心しろ、確かについてた指紋は妹紅ってやつだけだ。血液もぐーやの物で間違いない。餅つきは私達の一種のライフワークだ。毎日使っている。ただ、衛生管理上の問題で杵や臼は特殊な洗浄機にかけられ保管されている。だからその日初めて使ったものなら他の指紋なんか検出されないぞ」

 

てゐが淀みなく言い切った。それに関する資料や、検査の結果などの物も含めて永琳から提出された。詳しい専門の事は分からないが、嘘を言っているわけではないようだ。輝夜殺害に使われた凶器は確かに朝初めて持ち出され、そして使用された。その凶器に唯一残っている指紋が…妹紅。

 

更に、輝夜は自身が殺害された際には確かにイナバは手袋の類を持っていなかったと言っている。この矛盾は…。

 

「妹紅さんも、色々とあって動揺しているんだと思います。しかし、物的証拠がこれだけ揃っているのにどうして他に容疑者がいるなど思うのです」

 

永琳がややとがった言葉で反論する。確かにその通りだ。現状、状況証拠から推測される不自然さを指摘し他の人物による犯行の可能性を広げたに過ぎない。妹紅が犯人であるという可能性は全否定できないのだ。四季は悩んでいる。まずい、このまま押し切られるわけには…。

 

輝夜は黙って行く末を不安げに眺めている妹紅の元にやって来て、膝で太ももの外側辺りをゲシゲシと蹴る。

 

「おい、妖怪赤モンペ。『僕やってましぇえん!』って言えよ。オラオラ」

 

妹紅は輝夜の前髪を掴むと引き寄せ、思い切りキスをした。吸引音が少し離れたここまで聞こえてくるような激しいキスだ。けーね先生も一瞬ギョっとした表情だったがすぐに平生を装う。妹紅はそのまま突き飛ばすと、輝夜はその場でぺたりと座り込んでしまう。

 

「マジかよ…こいつ私にキスしやがった…。やべ、タケノコのえぐみが口内にしみついた」

 

「…妹紅、お前に杵を渡したとかいうウサギはこの中にいるか」

 

私は妹紅に対し、イナバとてゐを指さして言った。

 

「いや、いないな。ウサギなんてどれも一緒だろ」

 

私は机を叩き割らんばかりに叩いた。

 

「てゐは地上のウサギのリーダー格。イナバは見ての通り他のウサギとは大きく容姿が異なり、月の妖怪とあって地上のウサギとは大きく違うはず。それを、この中にいるかいないかも答えられない訳があるか!」

 

杵には妹紅の指紋しかついていなかった。ならば、その杵を持って来て渡したウサギの指紋がついていないとおかしい。もし妹紅を犯人に仕立て上げるために行ったとしたら、そいつが犯人の可能性が高い。もうすぐそこに来ている。そして妹紅に杵を渡した犯人は…イナバ以外ありえない。

 

妹紅をにらみつけるも、彼女には威圧は通じない。このままじゃ…。

 

「…私が渡しました」

 

イナバが俯きながら言った。

 

「朝から薬剤を扱う仕事をしていました。姫様からは来客の話を聞いていましたが、思ったより早く来てしまって…。どうせ新しい手袋に変えればいいやって思って、そのまま消毒アルコールだけして杵を取りに行き渡したんです。手袋はもう捨てました」

 

イナバはその手袋を私達に見せてくれた。ニトリル手袋だそうだ。実際に手渡しに用いた手袋は焼却炉に持っていかれたらしい。てゐは肩をすくめて首を横に振った。

 

「今日の焼却当番は私だよ。でも、ごみを集めたはいいけど肝心な燃料が入ってなくて…。それで買いに行ってたから本来の燃やす時間は遅れててまだ燃やしてないんだ。もしかしたら焼却炉の中を探せばあるかもしれないけど…他にもたくさん捨てられてるからねえ」

 

イナバは確かに妹紅に杵を渡した…。だが、それは事件前ではなく事件後だったはずなんだ。そして、その時は手袋を着用していなかった。朝の仕事に偽証があれば、永琳がそれについて指摘しないはずがない。つまり、朝は確かに手袋をしていた。

 

だが、犯行直前の時には確かに手袋を外し杵を握っていた。なのに、指紋は残っていない。

 

凶器の謎は解けないが…、1つ思う事がある。それは…。

 

「イナバ、本当に手袋は捨てたのか」

 

「う、うん…捨てた」

 

「そこの赤いの、イナバの所持品検査を」

 

「えっ!?」

 

イナバが飛び上がる。工作の時間は短かった。それに、こうして皆を集めるまでの時間も。てゐがごみを焼却していない事はすでに分かっている。それが分かっていれば、すぐに足がつくかもしれないその証拠品の始末に困っていた可能性があるのだ。

 

もし、彼女が犯行後も冷静だったならてゐの言う様に他の手袋のごみと一緒に捨てればよかった。しかし、妹紅が容疑を認めなきゃそこで詰んでいただろう様な工作をするイナバに一体どれほどの冷静さがあったか…。だからこれは賭けだ。きっと持っている。

 

「あなたに何の権限があって…!」

 

イナバは声を震わせる。

 

「大事な事なんだ!」

 

私は大きな声ではっきりと言った。後ろで輝夜が「蓬莱山の権限を発動する!赤いの、イナバと取り調べよ!」とか言っていたが、皆はやっぱり無視していた。視線は四季の元に集まる。彼女は頷いた。

 

「いいでしょう。認めます。小町、イナバの所持品検査を」

 

「おい、そこの黄色いの!私はこの通り小町だ!赤いのじゃねえ!わーったか!バーカ!」

 

どうでもいい…。

 

持ち物検査が始まった。イナバの所持品から…手袋が発見された。それから、服からは分かりづらかったが服に煤の汚れも発見された。煤の汚れ…。

 

「て、手袋が何だと言うんです。確かに衛生管理上、好ましい事ではありません。その件について捨てるべきだった事は私から叱ります!しかし、事件とは何ら…」

 

私は机を叩いた。てゐが永琳の所に机を運んでくる。

 

「イナバは手袋を持っていた。単なる記憶違いじゃない。そしてそれを隠そうとしていた…。この事には重要な意味がある」

 

永琳が机を叩いた。

 

「単なる言いがかりです!あまりいい加減なことを言うと怒りますよ!」

 

「ねえねえ、永琳。私は生きてるよ。ホラホラ」

 

輝夜が永琳の前でシャゲダンしている。邪魔だなぁ。

 

「イナバは朝、輝夜に頼まれて杵を取りに行った。この時、手袋を着用したまま杵を妹紅に渡したため指紋が点かなかった。妹紅がここへやって来たのは8時頃。それから殺人事件の間、捜査が始まるまでは当然職務に従事していたはずだ。当然、関わる仕事の事から衛生管理上新しい手袋に変えたはず。にも拘らず、どうして後生大事に持っていたのか!」

 

私はビシッと指を差した。ゴオッと風が吹いてイナバはよろめく。

 

「うぐっ、うくく…」

 

「その手袋は捨てなかったんじゃない。捨てられなかったんだ!妹紅に杵を渡したのは、輝夜死亡の後だった。まもなく永琳に発見され、都合悪くも通りがかった裁判官気取りが捜査を始めた。てゐの言う様に他の手袋と一緒に捨てればいい物を、足がつく事を恐れたあなたは一番安全であろう自身の手持ちから手放さなかった!!」

 

「あ、う、うう…」

 

明らかに動揺している。汗を垂らし、あれやこれやと頭を巡らせている。

 

「おうおう、往生せいやー」

 

輝夜が肘でイナバの腕をぐりぐりしている。人望、そうやって失っていったんじゃないか…。永琳は机を叩いた。隣にいたてゐが驚いて跳ね上がる。

 

ついでに遠くにいた輝夜も遅れて少しぴょいんと飛んだ。誰か、もう1つの殺人事件を今すぐ起こしてくれないものだろうか。

 

「それじゃ何、優曇華は殺人犯の犯行を幇助したとでも言うの…?」

 

永琳は頭をくしゃくしゃに掻きながら言った。

 

「違うな。イナバは犯行の幇助をしたんじゃない。今回の殺人事件の真犯人は…イナバだったんだ!」

 

この場が騒然とする。ようやく真犯人として壇上にあげる事が出来た。後もう一歩で決着は着く。

 

「異議あり!!」

 

永琳の鋭い指先からほとばしる風が私を吹き飛ばさんとする。私は必死に机にしがみついたが、机ごと飛ばされてしまった。

 

「あなたの推理は状況証拠で屁理屈を並べているに過ぎない!あなたの全ての推理は物的証拠による裏付けがなく、根拠に乏しく、推測の域を出ません!!優曇華は…犯行に与している可能性はあったとしても、殺人事件の主犯だなんてありえません!!!優曇華が犯行に直接関わったとする物的証拠はあるんですか!!!」

 

永琳は叫ぶ。全ての言葉からひしひしと肌にしびれるような電撃が走る。私はその威力のある言葉に耐えながらも、机を起こし必死に永琳の目から逸らさなかった。

 

嘘は、つかれる方も辛い。しかし、つく方も辛い。この事件、全ての真相を明かしてこの悲劇から解き放つんだ。さあ、考えろ…イナバが直接犯行を行ったとするその証拠…。この場にいる全ての視線が私に集まる。私は深呼吸をする。

 

そうだ。あの時のあの証拠…。あれはきっとそういう事だったんだ。私は机を叩く。

 

「ある。焼却炉の中に…イナバが犯行に使用した指紋付きの、真の凶器がね!」

 

辺りが静まり返った。そうだ。真の凶器は1つ、偽装された凶器は1つあったのだ。

 

「で、でも…それならここにある凶器は…」

 

永琳が反論しようと考えながら発言するも、イナバは首を横に振った。

 

「いいんです。師匠。ルーミアの言う通り、犯行に使用した杵は焼却炉に。そこの人に濡れ衣を着せるために新しい杵を手袋をつけながら恐ろしい事と思いながらも傷口に当てて血をつけ洗って渡しました。…姫様を殺害したのは…私なんです」

 

「ねーねーイナバ、私生きてるよ。ほらほら。無視してるとパンツのぞ…いや、履いてねえこいつ。何で?何で履いてないの?」

 

「制服の煤は、焼却炉の中に杵を隠す時につきました。目立たないからって思ったんですが…ダメですね、こういうの」

 

「なあ、もういいだろ!輝夜は私が殺したんだ!…あいつは、あいつは…私が…殺すって…決めてて…決めてたのに……くそ、ちくしょう…」

 

妹紅は泣き崩れた。けーね先生が彼女の背中をさする。輝夜は彼女の元に駆け寄った。

 

「ねえねえ、うちのイナバ何故かノーパンなんだけど何で?おい、聞けよ妖怪赤もんぺ」

 

妹紅は立ち上がるとさっきより凄まじいキスをした。そして突き飛ばして泣き崩れる、輝夜は茫然自失になりながらこちらを向いた。

 

「ねぇルーミア…こいつ舌挿れて来た…。喉がタケノコになりそう…」

 

「なっとれ」

 

「まさか…優曇華がそんな…」

 

永琳はぐっと涙を堪えている。

 

「ねーねー永琳、イナバ、パンツ履いてない」

 

永琳は泣きながら静かにポラロイドカメラを輝夜に渡した。輝夜は机の上にカメラを置くと奇妙な呼吸をしながら、「オーバードライブ!」と言いながらカメラを叩き割った。

 

カメラから写真が出て来る。…これは…アスワンツェツェバエの半裸写真だ。確か外の世界にあるって言うエジプトって国のナイル河流域のみ生息するハエだ。何を言っているのかわからねーと思うが、何か恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 

その後、イナバの自供により犯行時の詳しい経緯が説明された。輝夜の死因の真相に関してはほぼ満場一致で「本当にしょうもない」と言う意見だった。いや、本当にしょうもねえ。

 

事件は無事に解決して、ワゴン車を置いて幌馬車に乗って帰った四季と小町によりこの探偵と裁判空間は解け無事に輝夜も無視されなくなった。イナバの処遇に関しては不問とし、輝夜に関しては永琳の説教スペシャルコース3時間となった。

 

ちなみに短時間で最も効率の良い嫌がらせ返しをするために輝夜にキスをしていた妹紅は、輝夜による嫌がらせ返し返しで「キスの味が忘れられない!」とけーねとの間に割って入ってはその場を修羅場にする遊びをしている。そゆとこだぞ。

 

私はと言うと、一件落着という事で煙管で煙を吸ってむせている所をけーね先生にバレ、ついでに仮病もバレ、頭突きを貰い永遠亭にしばらくお世話になるのだった。

 

おしまい。

 

 

 

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