猜疑心に心を支配されていた私は、この世界でも繋がりを拒否したのでございます。
共に暮らす事で、初めてここでの暮らしに触れましたのでした。
しかし…たまに不安になるのです。
久しぶりに自らの体で外に出てきたあの日に見た茜色の夕日は大変美しゅうございました。同時に、肌に感じる温かみも、この居心地の良さも、波打ち際に聳え立つ砂上の城の様に儚い物に感じられたのです。
ただの杞憂であって欲しい。
私はそう願わずにはいられません。
この瞬間が1秒でも長く続く事を…。
私はゲームを開始する。開始直後からぴょんぴょんとその場を跳ねながら次々と敵を倒して行く。うーん、これよこれ。まずは中間ポイント。見慣れたハリボテを破壊する。
この先は画面出現前におよその弾をばら撒いてこう。
「さ、さすがだね。動きに淀みがない」
チルノが褒めてくれた。
「開始はどうしても1面だからね。皆もすぐこうなるよ」
「あたいもこうなるのか…」
困惑してる。
1面のボスは難なくクリア。2面も跳ねながら前に進んで行く。
「当ててくださいと言わんばかりに飛び跳ねて何故当たらない…」
「ギミックも敵の出現位置も固定だから慣れれば見た目に惑わされずにこうやって進めるんだよ。誘導時にも便利だよ?」
行先で敵の出現位置を忘れてて一瞬焦ったが、何とか対処して中ボス戦。敵の狙いを誘導しながらベストポジションで敵を対処、ボス戦まで急ぐ。
2面のボスは敵が降りて来た所をロボをぶつけて破壊。
「そんなプレイの仕方ってある?」
「あるんだなぁこれが」
3面。私は以前のステージより殊更にバッタ跳びをしながら進んで行く。
「動きが洗練され過ぎてて凄いと言うより最早気持ちが悪い」
「ゲーマーにとって気持ち悪いと変態は誉め言葉なのよね。私も同じ筐体に座ってたおっさんのプレイ見てて同じ事思ってた」
3面の中ボス戦。チルノがかなり苦手そうにしてた敵だ。
「こいつは真上を陣取ってこう」
「は?」
「はい撃破」
「は??」
ここの中ボスは機動力があってついついチキって距離を離しがちだが、得意とする間合いは遠距離、中距離、斜め。こうして相手の懐に飛び込んで真上から攻撃を浴びせているだけで勝てる。もっと上手い人になると近距離攻撃、射撃のパターンに入れて倒す。一度失敗すると距離を取られて残機をなくしかねないので私はそこまでしない。
「ね、簡単でしょ?」
「は???」
そしてチルノと交代してプレイを眺める。このゲームをプレイする事そのものが嫌になる事は私も望んで無いので、煽るのはやめて初心者でも分かりやすい攻略情報を教えながら進めさせる。
良い所まで来たが、そろそろ寺子屋に行かなきゃいけないと言う事でプレイをやめて出かけて行った。いつかクリア画面を一緒に見たいな。
今日はにとりさんの家に出かける。途中で魔理沙さんがやって来た。
「よう、あれからどうだ?」
「はい。おっかなびっくりとした日々を送っております」
「全然見えんな。まぁ軽口を叩けるぐらいなら問題ないか。霊夢には会ったか?」
「いえ、まだ会ってませんね」
「規模が大きくなる前に対処したとは言え、異変を起こしてるからな。一応会えたら会っておいた方がいい気はするんだが…」
「あの神社近辺、妖怪が多くて…。私自身はそれほど強くないので近寄るにも近寄れないんですよね」
「あー…。連れて行こうか?」
「でも私はあなたを殺しかけたんですよ?」
「あの時は酷い目にあったな。オリジナルの劣化版とは言え、半日で復活する自身の偽物を3日も倒し続けるのは骨が折れたよ。でも後腐れを残すのは嫌なんだ。ツケはまた今度返すって事にしよう」
魔女の言うツケは怖いが…まあ何をされても文句は言えない立場だ。無理難題な要求もしないだろうと言う浅い期待を持ってその話に乗った。
にとりさんもそんなに時間にうるさくないし、多少の遅刻は謝ってやり過ごそう。私は魔理沙さんの箒に跨って神社に向かった。
「地上の縛りから解放され空を飛ぶと言うのも筆舌に尽くしがたい感動がありますね。生身で空を飛んだのは初めてです」
「そうだろうな。分かるぜその気持ち。滅多に味わえるものじゃないから、スリルと高揚感をしっかり噛みしめるんだな。ほら、捕まれ!」
言い終えると急降下する。私は振り落とされないようにしっかりと捕まった。博麗神社に繋がる階段に衝突するや否や浮遊感がして、ゴオッと素早く飛翔する。
あっという間に神社に到着した。
「うん、やっぱり後ろに飛べない奴を乗せた時はこれに限るな」
「滅茶苦茶怖かったですよ…」
「でも楽しかったろ?」
「ええ、まあ…はい。とても刺激的でした」
魔理沙さんは笑う霊夢と呼ばれる巫女さんは私達の目の前にいて、ようやく2人揃って挨拶をした。彼女は快い笑顔で返事した。
「足元を見て」
言われて見てみると、葉っぱが散らばっている。どうやら私達が来た際に集めていた葉を散らしてしまったらしく怒りを買ってしまったようだ。
魔理沙さんは当たりを見渡すと腕を組んだ。
「何か思う事があるんじゃない?」
「風流だなぁ。団子とお茶が欲しくなるぜ」
霊夢さんは魔理沙さんの両肩を掴むとヘッドバットをデコに喰らわせられた。ふらりとするとその場で倒れる。
「あなたはどう思う?」
「喜んで掃除させていただきます」
「……何だ、光が広がっていく…」
魔理沙さんは混乱しているようなので、私は神社の掃除を代わりに行った。霊夢さんは途中まで見ていたけれど、「掃き方がなってない」と言いながら一緒に掃除をした。同じように掃いてるだけなのに、どうしてあんなに早く掃く事ができるんだろう。
こうして掃いていても葉は逆らうように放棄の毛先になぞられるばかりでちっとも集まってくれない。
「ほら、こうするんだよ」
霊夢さんが目の前で丁寧に教えてくれる。同じようにサッサッ…。やっぱり駄目だ。
「ぶきっちょ…」
小声でつぶやかれた。結局ほとんどは霊夢さんが掃いてしまった。
「それで、あなた誰なの」
「ええと…」
私は軽めの自己紹介と、これまでの経緯について話した。彼女はふん、ふんと聞いている。どことなく腑に落ちない表情をしていた。
「…変だな。異変はもう解決してたんだ…。でも…」
「霊夢さん?」
「あ、いや何でもない。そっちが解決したなら良かった」
異変が解決した、という点に何か疑問を抱いているようだ。考えている間に急に魔理沙が走ってきた。
「霊夢、大変だ」
「魔理沙、いつから起きてた?」
「茶葉がないんだ。茶菓子も」
「いつから起きてた?」
「2人の掃き掃除が終わる頃に起きたな。だからついさっきだぜ」
霊夢さんはまた魔理沙さんの両肩を掴んでヘッドバットした。
「あう」
「何か言いたいことは?」
「ごめんなさい」
さすが霊夢さん…。霊夢さんは買い物リストを確認すると買い物に出かけて行った。魔理沙さんは口をとがらせながら私を乗せて一緒ににとりさんの元へ向かう。
「あの、もう頭の方は大丈夫ですか?」
「いや…まだ目から火が出てる」
「えっ、魔理沙さんって頭をぶつけると目から火が出るんですか!?」
「慣用句だよ…」
ああ、そういえばそんな言葉を聞いた事あるような…。私が納得していると笑われた。
「いつもこんな感じなんですか?2人の会話って」
「いつもって程でもないが、まぁ売り言葉に買い言葉は挨拶みたいなもんだ」
「ふーん…」
そうこうしている間ににとりさんの家に着いた。私は箒から降りてお礼を言うと、軽くウィンクをして去っていった。
何というか、あの2人の性格は見てて憧れる。強くてさっぱりしていて、常に遠くを見ているようで。私は空の旅の余韻に浸りながらにとりさんの店に入った。