善良なら人と協力したり助けたりするのに使うでしょう。
邪悪なら人を傷つけたり殺めたりするのに使うかもしれません。
人を傷つけるのに特化したナイフ。人を助けるのに特化したナイフ。
作り手の意図するところで変わりようがあるのも事実。
あまりに看過できない様な悪用方があるなら、禁止するのもやむをえません。
まるでいたちごっこ。
如何ともし難い問題ですね…。
「はい、はい…わかりました」
私は電話を切った。最近、香霖堂で買ってきたオフィスチェアでギーコギーコと背もたれの所を揺らして遊んでいるにとりさんがこちらを向いた。
「それで、何だって?」
「私の開発した無線アームが窃盗に利用されたみたいで…。3件目にしてようやく逮捕されたらしく、どうにかしてくれって感じの内容でした」
「はん、バカバカしい」
にとりさんはひょいっとオフィスチェアから降りてメモ用紙とスケジュールを見比べている。私は手元にある無線アームを見ながらどうするべきか考えたりしている。
「言っておくが、その無線アームをいじる必要はないぞ。そのまま量産して売るんだ」
「でも…」
「あのな、包丁で人を刺す事件が起きたからって包丁の切れ味を鈍くしたり販売禁止にしたりするか?道具ってのは扱い方ひとつでどんな風にでもなる。使い手の問題なんだ。私達に何の責任がある」
それはそうだけど…。射命丸さんがプライベートテントからひょっこりと顔を出した。
「球磨さん、私もにとりさんと同じ意見です。妖怪側が儲かっているという現実が面白くない人間も多いんです。あまり真に受けてたら商売なんてやってらんないですよ」
「ううん…確かに」
「今後の課題はその意見に賛同する世論作りを阻止する事ですよ」
そう言ってプライベートテントの中に入っていった。
最近はバイトの子がカウンターで仕事をしているから私も無理なく仕事ができている。今日は時間も余っているし、私は少し気分転換をしに行くことにした。
私は最近買った服に着替えて準備をする。
「すみません、昼過ぎまで出かけてきます」
「人間の里によるならパーツを買ってきて欲しい」
にとりさんはメモ用紙を用意してサラサラと内容を書いた。射命丸さんは自分が買いに行ったほうが早いからいいと言っていた。どうせなら買ってくるけど…まあ射命丸さんならではか。
私は携帯電話を持ったのを確認してからにとり雑貨店を出た。メール音が鳴る。チルノからだ。
〝肌の日焼けを防ぐアレなんだっけ〟
永遠亭で売ってあるアレは…日焼けジェルだ。「日焼けジェル。永遠亭で売ってあるアレだね」打って返信した。すぐに返信が返ってくる。
〝日傘で日中の活動できるなら日焼けジェルでもいけるんじゃね、って言ってフランが聞かないんだけど止めたほうがいいかな〟
「止めた方がいいんじゃないかな」私は返信した。日焼けジェルで日光対策した吸血鬼が出歩くって怖いな。
さすがに薬品までは私達で取り扱えないし、その辺の相談なら直接向こうに相談した方がいいだろうなぁ。地霊温泉とは協力関係にあるし、遠くない未来、私達も店内で永遠亭の薬品を取り扱ったりすることになるんだろうか。なんて考えていた。
人間の里についた。私はここで眼鏡を取る。服装も変えたし、眼鏡も取ったしこれで割と私だって気づかないんじゃないだろうか。この眼鏡と、あの服で分かりやすいぐらい「球磨」というイメージを作らせた。にとり雑貨店がそれなりに有名になって来た今、今のうちに変装はこれぐらいで通じるのか実験してみよう。
私が球磨として話しかけられなければ成功だ。
そんな風に思って出歩いていると気づく事がある。人が集まる飲食店や娯楽施設で1人でいる場合があまりに少ないのだ。困った。幻想郷にもレンタル友達とかレンタル恋人とかそういうサービスがあればよかったのだが…。
自然な雰囲気を装うためにも複数人ほど同行する人が欲しいな。誰か予定が空いている人はいないものか…。私はしばらく考えたものの、ダメ元で複数人に連絡してみた。
唐突な誘いと言う事もあって中々返事はあまり芳しいものではなかったが、何とか1人同行してくれる人がいた。集合場所によさげなモニュメントの近くで待っていると、イメチェンした早苗さんがやって来た。
「いつもと恰好が全然違うんで見つけるのに苦労しましたよ」
「すみません、唐突に無茶を言って」
「別に構いませんよ」
とりあえず大通りを歩きながら、それなりに客入りの多い飲食店に入る。そこで昼食を頼んで、とりとめのない事や最近の事を話しながら周りの客の噂や話し声に耳を傾ける。
見渡すと、点々と私たちが作った発明品などが置いてあってとても嬉しい。これが当たり前の風景になって行くとしたら、それは一体どんな気持ちなんだろう。無線アームの犯行で少し気が沈んでいたが、こうして自社の製品が使われているのを見るのは嬉しい。
「あ、そうそうこの間のアレ。見てくださいよこれ」
携帯電話の画面をこちらに向けて来た。どう考えても神様クラスの人が私の眼鏡をかけている。思わずむせてしまった。えっと、こっちの写真が加奈子様で…こっちが諏訪子様らしい。あの眼鏡、RPGアイテム画面として表示されたら、文字のあたりが緑色に光ってそう。
「ちなみにその眼鏡、私の能力上でどれだけでも増やせるので欲しければ差し上げます」
「マジですか。じゃあもらいますね!」
そう言いながら早苗さんは私の眼鏡をかけた。やっぱり似合ってる。最初見たときは絶対に似合わないと思うランキング上位だったのになぁ。
「ちなみに壊れると跡形もなく消えるので、修理はできません」
「了解ですです」
ふうむ…。辺りの話を聞いている限り、やっぱりにとり雑貨店の道具について妖怪の作っているものという事に対して抵抗を覚えている人もそこそこいる…という旨を話している人が多い。独断と偏見だが、およそ30代後半から40代前半にそのあたりの意見が集中しているように聞こえる。
若人は案外と妖怪に対して寛容的な意見も多いようだ。とはいえ、ここまで親しまれていると恐れを集める上で問題が起きたりしないのか不安な事もあるな。
程よく親しまれ、程よく恐れを集める…何か面白い方法でもないものか。お化け屋敷でも作る?
…小傘さんがお化け役で立候補して、ショックを受けたりしそうだ。やっぱりやめておこう。
「やがて人間の里の文化レベルを上げて、文明の光を灯す…。最高に胸が熱くなりますね」
「電柱を建てたりするんです?」
「地質上に問題なければ地中に埋める方で何とかできないか考えてるんですよ。景観的にもそっちの方が素敵じゃないですか?」
「私は電線のあの武骨な感じが好きですけど…、確かにこの景観にはちょっと合わないですね」
「そうだ、今度作ろうとしているレジャーランドで試験的に発電床とかやってみません?特定の床を歩くと発電できるってやつです」
どんな仕組みにすればそんな発電ができるんだろう。想像もつかない。後でにとりさんに相談してみよう。早苗さんの話しを聞いていると、客席にある人物を見かけた。あれは確か霊夢さんに聞いた事がある…。
「しかし、あまり目立つ事をやって大丈夫ですかね。八雲紫さんから目をつけられたりしたら怖いです」
「生きた化石じゃないですか。あいつが怖くて悪巧みなんてやってらんないですよ」
私は目線でサインを送る。早苗さんは振り返った。そしてこちらを向く。
「いやぁ、八雲紫さんって絶世の美女ですよね。気品が服を着て歩いてると言うか。憧れちゃうなぁ」
やっぱり話を聞いた事があるだけだったけれど、やっぱりあたりだったようだ。早苗さんもあまり見張られながら話したい内容ではないようで、いい具合に話題を他に変えていっている。もう一度目線をやる頃には元居た場所からいなくなっていた。
ほかの店に回って遊んでみたり、食べたり色んな事をした。ポケットを探ってる時に出てきたメモ用紙でパーツを頼まれてたのを思い出して、ちゃんとそれらを買った。町民の声はもう十分に聞けたのでそろそろにとり雑貨店に戻ることにした。
「それにしても悪だくみだなんて、まるで私達が共犯してるみたいじゃないですか」
「あはは、何言ってるんですかもう!共犯に決まってるじゃないですか」
「「あははははは!!」」
「…いや、聞いてないですよ」
「私達のやっている事は文化レベルの向上です。元来た世界は科学技術の発展により信仰や妖怪への恐れが大きく衰退してしまいました。大妖怪クラスが恐れているのはその事でしょう。しかし、それらを両立する方法はあると思うんです」
「でも、もし人間達が元来た世界の様に恐れや信仰をなくしてしまったら…」
「それをさせないために工夫を凝らすんです。私達は止まった時の中を生きてはいません。改革は痛みを伴うものです。しかし、古き良き時代に囚われ懐古主義に陥ってはならなりません。私達が理性ある霊長類であるならば、文明の灯を恐れるべきではないのです」
それから、にとり雑貨店に着くまで話を聞いていた。外界との境、月の民、移住計画、いろんな話をしていた。あまり主義主張の事はわからないが、私はできるだけ理解しようと聞き入っていた。彼女の意見も賛同できる点やそうでない事、たくさんある。ただ、少し事を急ぎすぎているような気もした。
紫さんという大妖怪が私達の事を見張っているのも、やはりこれらに関する事が異変につながる事だからなんだろうか…。
挿絵ってあった方いいですかね?