「いつもお世話になってます。これ、良かったらどうぞ」
「うむ、ありがとう」
私は物部布都さんに麩菓子を渡した。どこに住んでいるのか分からないので会うのは困難だろうと思っていたものの、案外と遭遇できた。
永琳さんの見解は正しかったようで、あれから少しずつではあるが患者は減って行っている。今回の注意喚起は妖怪だけではどうする事もできなかった。
「それにしても要領を得ないな。人間に寄り添いながら妖怪の肩を持ち、妖怪への強い憧れを持ちながら人間であることに執心している。そこの所はどうなのだ?」
「人間には妖怪扱いされたり、妖怪には人間扱いされたりするんですよね」
「ふむ、それは難儀だの。…ところで噂を聞くに現代っ子は宗教に疎いと聞くが本当か?本当なのか?」
「仏壇と神棚が1つの家にあって、季節が来るとキリスト生誕を祝ったりします」
「お、おおう…。現代人の宗教に対するありかたは随分変わったのだな(?)」
話を終えると、私は会釈をした。正直、信仰の事は良く分からない。でも、もしこの幻想郷でこの暮らしを続けるという願いをかなえてくれる神様がいるのなら、その神様を信仰したい。私はそう思う。
「あれ、球磨じゃないか」
考え込んでいるとチルノと会った。
「チルノ?寺子屋の帰りの時間か」
寺子屋から出てきたチルノと出会った。こまめに連絡しあっていたし、にとり雑貨店でバイトに来ていた時は挨拶ぐらいしてたけどこうやって面を向い合うのは久しぶりな気がする。私たちは近くの茶屋で少しおしゃべりをする事にした。
「球磨、眼鏡外したんだ。私は気に入ってたんだけどな」
「たまに早苗さんがつけてるのを見かける事になるかも」
私は団子を頬張ってもちゃもちゃと噛む。団子、思ったより大きい。ちょっとお茶で流し込まないときついかも。
「ここ最近は立て込んでて忙しそうだな。大丈夫か?」
「割としんどい…」
私は誰かが聞かれても問題ない程度に気を使いつつ、最近自分が置かれてる境遇について話した。もう今はかなり緩くなったけれど、人間に白い目で見られて家に帰りづらかった事や病気が治ってきても人間の里のために尽力をした妖怪達には感謝してくれない事や。
チルノは時々足をパタパタとさせながら、口を挟まずに聞いてくれていた。
「射命丸さんのスケジュール管理で体は酷使せずに済むようになってきたけど精神的に来るよぉ」
「いや、鴉天狗が空けてくれた時間で仕事してるじゃんお前」
「仕事とプライベートの境界が曖昧になって来た…」
そういえば今日休みじゃん私…。この間、にとりさん寝ながら仕事してたな。ワーカーホリック、ダメ絶対。何もしない時間を取るとか、やりたくない事は絶対にやらないとか、色々と念を押されて茶屋を後にした。怖いよう、仕事怖いよう…。
私はそう思いながら、帰りの足がにとり雑貨店に向いている事に気づけなかった。
「酒…お父さんを変えてしまったものだから避けていたけれど、飲んでみようかなぁ」
そうでもしなきゃこの苦境を超えられない気がする。
「よお」
急に声がした。辺りを見渡すと、目の前に小さな女の子がいた。大きな角が生えている。
「グレンダイ…」
「シャイニングガチペドロリコン!」
謎の少女はハリセンで私の頭を叩いた。この力はまさしく鬼。しかし、いかに彼女が鬼と言えど扱う得物は所詮厚紙。私の頭骨は粉砕され、大脳が大破する程度で済んだらりるれ…。
「私は伊吹萃香だ。お前、酒が呑みたいんだって?」
「酒なんてただの毒です」
伊吹さんは何も言わず私に杯を持たせると、瓢箪の酒を注いだ。
「おっとっと…すみませんいただきます」
私は一気にぐいっと飲んだ。あれ?
いや、おかしいな。私お酒を飲もうだなんて微塵にも思ってなかっはずなのに。何でだ?
「おかわりもいいぞ!」
「ではお言葉に甘えて」
ひょいっと2杯目。お酒は初めて飲んだが…これはやばい。体が内側から熱くなるのを感じる気も段々と大きくなって足元がおぼつかなくなる。伊吹さんもぐいっと飲む。そして彼女は笑いながら私の背中をばしばしと叩く。
何だか可笑しくなって、笑いがこみあげてくる。
「わは、わは、わはは…わはははははは!!」
「何だお前、急に笑い出して」
「「わははははははは!!!」」
頭がズキズキする。朝だ。ここはにとり雑貨店だ。まだ開店時間までは余裕がある。えっと、昨日は何がどうしたんだっけ。確か見たことない鬼と酒を飲んで…博麗神社に行って…。そのあたりでどうも記憶が曖昧になっている。どうだったか。
私が体を起こすと、射命丸さんが店の奥からやって来た。
「あ、起きたんですか。おはようございます」
「おはようございます」
「昨日、ヤバかったらしいですね」
「何がですか??」
「何がじゃないよ。覚えてないのか」
にとりさんが水を持ってきてくれた。私はそれを飲む。私は首をかしげる。
「お前、昨日夜遅くにここに顔を出したかと思うといきなり私に告白をしたんだ」
「え?」
「何事かと思って駆け付けて来た鴉天狗にも告白してたぞ」
「??」
射命丸さんが携帯電話を開いた。カメラの動画ファイルを開いて見せる。そこには、確かに愛の告白をしている私の姿があった。ほほう。
動画の終盤では「ざみじいでずよぉ!ぐずっ、わ゛だじだっであいざれだがっだ!だれがずぎになっでぇ〜あ゛っばっばぁぁああ!」と言いながら泣きじゃくり、そのまま眠ってしまった所まで記録されていた。なるほど。
私は台所に行くと包丁を取り出し、刃を上に向けて柄尻を柱に押し当てて上半身を大きく後ろに仰け反らせた。
「私なんか死んじゃえぇぇぇえ!!!」
勢いよく頭を柱に向かってぶつけようとする。射命丸さんの捨て身タックルが体にヒットした。包丁が私の手から離れる。にとりさんは包丁を安全な所に置いてから私を一緒に取り押さえた。
「放してください!こんな姿を晒して生きていけません!!」
「早まるな!大丈夫だって!!!」
「放してくださいぃぃぃ!!!!」
「思い留まってくれたら放しますぅぅぅううう!!」
2人の説得あって私は自害をやめた。冷静さを取り戻してくると、恐ろしいのは携帯電話の方だ。着信履歴は…ない。メールは…あった。誰に宛てて連絡してるのか確認するのが怖い。ああ、こんな時こそ神様に祈りたい。でもどの神様に祈ればいいんだろう。
私はふと考える。
「私、どの神様に祈ればいいですか?」
「私に祈るといいですよ」
射命丸さんが自信満々に言った。なので私は射命丸さんに祈る。どうか変なメールを送ったりしてませんように…。よし。
私はゆっくりゆっくりと受信箱のフォルダを開くボタンにかける指の力を加える。ポチっ。
ああ、ダメだ。本当に愛の告白を色んな人に送信してる…。あれから連絡先が増えただけに余計に恐ろしい。まずは…チルノだ。
『バァルカン!!』
何か良く分からないけど別のネタだと思ってくれたようだ。次は…さとりさん。
『大人をからかうもんじゃありません。ところで今度、卓球勝負してくれませんか?』
軽く流してくれたようで良かった。そういえば最近、地霊温泉の施設に追加されたんだっけ…。私苦手なんだよな、卓球。次は…永遠亭の事務の連絡先だ。担当が誰だか知らないけどこれも怖い。
『そんじゃお台場のMSをよろりん』
ちょっと何言ってるかわからないですね…。とりあえず軽く流されたという事でいいのかもしれない。(それにしても返信したの誰だろう)次はえっと…。ああ、そう言えばレミリアさんも間接的に交換してたんだった。連絡は忘れてたけれどまさかこんな形でこっちから連絡する事になるだなんて…。ううう…。
『忠誠を誓うならいつでも来い。紅魔館はいつでも人手不足だ』
ううん…紅魔館でのバイトはもう遠慮願いたい。兎にも角にも、私の黒歴史はそれほど大きな問題にはなってない様で良かった。この誤解は後に解いて回るとしよう。
そして、ますます怖くなったのでお酒はやっぱり飲まない事にした。