そもそも、恋人なんかいなくても充実してるんで実質リア充です。
別に恋人のいないクリスマスが悲しいだなんて思ってませんよ。
ぐすん。
「もし致死量が多くて盛れないなら、ママがフグ肝を買ったげる。もしふぐ毒に耐性があったなら、ママがラッセルクサリヘビ買ったげる。もし蛇か掻っ捌かれたなら、ママがカツオノエボシを買ったげる」
「球磨のやつ、朝からやけに物騒な曲を歌っているんだがなんだアレ」
「今日、外の世界ならクリスマスシーズンらしいんですよ」
射命丸さんは手に息を吹きかけて擦っている。私は元気よく店の前の掃除を進めている。いいじゃないか。私はただ歌を歌ってるだけ。私は今年もクリスマスボッチなんだ。
「…たなら、ママがアフリカマイマイを買って…あれ、誰か来ましたよ」
年末はあまり客も来ない。私は里からにとり雑貨店までの道を夢の世界を通してショートカットして来れるようになったから来てるが、本来休みだ。あの姿は、こいしさんとさとりさんだ。
この2人が一緒に同行している姿はめったに見ない。どうしたんだろうか。
「今の歌詞、冒頭は何を買ってあげてるの?」
こいしさんが元気よく聞いた。
「バラムツです」
「ひゃっほう!」
私はこいしさんとハイタッチした。さとりさんは道の途中で膝をついて息を整えている。途中からこてっと倒れてそのまま起き上がらなくなった。あの感じ、ずっとこいしさんに連れまわされたのかもしれない。
こいしさんは真っ先に駆けつけて、倒れている姉の体を抱き抱えた。
「誰か、誰か助けてください!!」
彼女が幻想郷の中心で哀を叫ぶとき、どこかで聞いた事がある感動の歌が聞こえてきた。しばらくするとにとりさんがポケットから携帯を取り出した。
「はい、もしもし」
射命丸さんと私はその場でずっこけた。
「どんなタイミングで鳴るんですかその携帯」
「なんだ、携帯電話を持ってくれと懇願したのはお前じゃないか」
にとりさんはため息をついた。まあそうなんだけれども。こいしさんはさとりさんの体を起こしてあげる。美しい姉妹愛だ…。そう思っていると、急にこいしさんはさとりさんの服を掴んで勢いよく投げる。
足が疲れてうまく動かないさとりさんはとたたたたた、と転ばない様に小走りに後ろに下がりながらあたふたする。こいしさんはさとりさんのサードアイを握ったままで、サードアイから伸びた何かがビヨーンと伸びている。すごく痛そう。
やがて限界までさとりさんが後ろにのけ反ると、まるでワイヤーロープから戻るプロレスラーのようにこいしさんお方に戻っていく。
「あわわ、あわわわわわわ…」
こいしさんは腕を横に広げ、さとりさんの喉に向かってぶつけた。
「おおっとぉ!こいしさんのラリアットが決まったァ~!」
射命丸さんがマイクを持って叫んでいる。こいしさんはすぐさまに抑え込んだ。射命丸さんは急いで駆け寄ってカウントを始める。カウントが2に入ったころ、さとりさんは大きく跳ねてこいしさん技から抜け出す。
何が始まるんです?
起き上がるさとりさん。こいしさんも起き上がった。こいしさんの先制水平チョップ。さとりさんの胸板の上でぺちりと言った。さとりさんが水平チョップを放つ。およそ平手が肌にあたって出る音とは思えない音が聞こえた。
「あ゛い゛っ!」
おおう…。こいしさんよろめいた。さとりさんは素早くこいしさんの後ろに回り込むと腹回りに腕をやろうとするが、そんなさとりさんの更に後ろに回ってこいしさんが抱き着いた。からのジャーマンスープレックス。
ぐったりするさとりさんを再びこいしさんが抑え込むと射命丸さんが素早く駆け寄ってカウントを取ろうとする。もちろんのごとく、カウント2で振りほどく。
今度はさとりさんの方が起き上がるのは早かった。こいしさんを立ち上がらせる。そしてこいしさんのサードアイを握ったまま彼女を放り投げ、戻ってきたところをラリアット。こいしさんの喉にヒットして地面に倒れるも、首跳ね起きで瞬時に起き上がってさとりさんのサードアイを掴んでさとりさんを放り投げる。
帰って来たさとりさんにこいしさんのラリアットがヒットするかと思いきやさとりさんもバク宙で回避、さとりさんはこいしさんを持ち上げてバックブリーカーに持ち込もうとするのを身体をねじってさとりさんの首に股をかけヘッドシザースホイップ!
っと、ヘッドシザースホイップを受けたさとりさんは足を地面について着地して耐え抜き、すり抜けて体制を立て直すこいしさんの背後から飛びついて後ろ首から座る様に股で挟んで後ろへ返りリバース・フランケンシュタイナー!
そしてさとりさんはこいしさんを抑え込むと、カウント3で決着した。
射命丸さんは高らかにさとりさんの腕を上げて勝利を宣言する。
「なあ、私達は一体何を見せられてたんだ?」
「さあ…」
あんなにアグレッシブに動くさとりさんは初めて見た。
さとりさんとこいしさんは電気ストーブの前に座っている。
「年末の忘年会も近いですね。お三方は参加されるんです?」
忘年会か…。今まであまり意識することはなかったな。
「私は行きますよ。正月はゆっくりしたいライバル社も多いので良い感じのスクープや取材ができれば他を抜いていい成績が取れそうですしね」
仕事熱心だなぁ。私はそう思う。
「私も参加する」
にとりさんも参加するのか。ちょっと意外だった。
「私はこの間の一件もありますしパスです」
射命丸さんはニコニコしながら私と肩を組むと、一緒に行こうと誘って来る。私は年始の新聞のネタになるつもりはない。もちろん断った。にとりさんも顔を広げて多くの妖怪と知り合いとなるべきだと勧めてくれるが、下手を打てば悪評を広める事になると説得した。
鬼に酒を勧められたからで、酒は自分のペースで飲めば大丈夫だとは言われたが…。もし酒の席で皆に告白して回った日には一生夢の世界で暮らす事になる。それだけは避けたい。
「まあ、参加のするかしないかは個人の自由ですし。それはさておき、博麗神社での宴会とは別に私達も集まって忘年会やりませんか?ビジネスライクってだけなのも寂しいですし親睦を深める事も兼ねて」
「シラフで良ければ私も参加したいです」
「ヒャッホォウ!無礼講じゃー!」
こいしさんが不思議な踊りを踊っている。今ここにいないメンバーで言えば早苗さんとレミリアさんと永遠亭の誰か。
現時点では確定ではないものの、およその予定日時を決めて話をした。私はレミリアさんと早苗さんと永遠亭事務所に連絡をする。しばらくすると帰って来たが、早苗さんは途中までなら、レミリアさんは年末は催し事があるため遠慮するとの事だった。永遠亭からはどういう訳か輝夜さんが来ることになった。
場所についてにとり雑貨店の空き部屋で行う事になった。輝夜さんの個人メールアドレスを教えてもらったはいけれど、何について話せばいいのか分からない。会う前にあいさつだけでもしておこう。
『球磨です。今度の忘年会、よろしくお願いします』
送信した。すぐに帰って来た。
『球磨っち、イクスの初心者って絶対に嘘っしょ』
『イクスってなんです?』
『とぼけちゃってぇ…。今度うちに遊びにおいでよー』
何か想像してたよりフレンドリーな人みたいだ。とにかく、また今度遊びに行く事にした。