ルーミアさんが去り、再び何とも言えない無音が場を支配した。ようやく沈黙が去り音が入ったかと思えば、射命丸さんの鼻歌だった。
にとりさんも私も作業をせずに不貞寝している。
「コンサルタントでもいればいいんですけどねえ」
私が呟いた。
「何だそれ」
「その道のノウハウを教えてくれる人です。私達はモノを作る力はあってもそれを売る知識や戦略を知りません。そこを何とかできれば…」
「うちに広告載せればいいじゃないですか。人里ではそれなりに売れてるんで効果ありますよ」
「いくら?」
「この部数に対してこのぐらいです」
2人で覗き込んでみたがとても安かった。にとりさんは契約して新聞に広告を載せてもらう事にした。
にとりが頬杖をついた。
「人間を雇って、人里に売り出しに行った方がいいんだろうか」
妖怪は「おそれ」を集めなきゃいけない。生命活動保持のため滅ぼしたりしないが、その活動上でやはり嫌われたりもする。
人間に対して友好的な妖怪もいれば敵対している妖怪もいたり、妖怪と一口に言っても多種多様ではあるものの妖怪と言うだけで良く思わないと言う人も少なくないのだ。
とは言え、この店が儲からない主な原因はその他にある気がする。
「にとりさん、明日から3連休ください。素人ながら、何か販売戦略についていい案がないか考えてみます」
「ああ…それなら私もついて行く。ここに缶詰してても変わらないだろうし」
「それなら私も連れてってください。空から見て発見がないなら、地上を練り歩いてネタを探してみたいと思います」
何か大事になって来たな…。まあいいか。妖精や妖怪に襲われればまともな弾幕勝負ができないので、この2人がいれば頼もしい。
明日、人里にある狂い柳と言う木の前で集合と言う事になった。
「明日は商品も売り歩くつもりだから準備もしなきゃいけない。今日は店じまいにするか。球磨も帰っていいよ」
「分かりました」
暖簾を下ろし、後片付けを済ませて帰る。何故か射命丸さんもついてくる。
「あれからチルノ、記事になる様な写真は撮ってますか?」
「この間、ジェーンとか言う子の寝顔が送られて来ましたよ。誤送信だそうです」
「記事を書くのも大変ですね…」
「労いの言葉をかけてくれるのもあなたぐらいなもんですよ。どこかの二枚貝みたいに過激な記事でも取り扱えばいいんでしょうかねえ」
「二枚貝?」
「こっちの話です」
しばらく歩くと人里の茶屋で霊夢さんを見かけた。どうやら茶菓子と茶葉を買いに来てたらしい。優雅にお茶を飲んで木葉の揺れを眺めている。射命丸さんは彼女のもとへ向かった。
霊夢さんは射命丸さんに気が付くとお札を1枚分投げた。射命丸さんは軽くひょいと避け、後ろにいた私のデコにお札が当たった。
「何するんです」
「鴉天狗を見かけるととりあえず1枚はお札を投げたくなるのよ」
「主にデコのあたりが痛いです」
霊夢さんは私に団子を1つ分けてくれた。
「買い物に出かけてからかなり経ってますよね、何か人里に用事があったんですか?」
私が霊夢さんに挨拶に出かけ、職場で働きここに来るまで数時間。買い出しだけなら既に神社に戻っててもおかしくない。一体どうしたんだろうか。
霊夢さんはしばらく考え込んでいたが、お茶を飲んでしまいお椀を置いてから憂鬱そうに言う。
「魔理沙は異変は解決したって言うけどどうもそんな気がしないの。私が感じた何かは、球磨の起こしていた事とは別なんじゃないかって…」
「珍しいですね、あなたほど直感が冴え渡る巫女が異変の尻尾を掴めないだなんて」
「喉に刺さった魚の骨が取れない気分。球磨が1枚噛んでるなんて事はないわよね」
「ははは、まさか。私は隠し事は苦手なんです」
今回は本当に何もしていないけど、下手に勘繰られても気分が良くない。適当にそれっぽく流しておいた。
「うーん、その物言いの仕方がどうも親近感を感じるんですよね。球磨さん、お友達になりませんか?」
私の事を嫌いだと言っていたのはついさっきだった気がする。
しばらく雑談にふけっていたが日も暮れて来たのでチルノの家に向かった。道中は特にこれと言って面白いものもなく、辺りを行ったり来たりする鳥や虫、妖精や妖怪を眺めていた。
真っ直ぐ家に帰り、チルノの家の鍵を開けて中に入る。
「お邪魔します」
「勝手に招いて良かったのかなぁ…」
「つい最近までドアさえなかった家ですし、いいんじゃないですか?」
何がどう良いのかは分からないが…。
「いつまでもチルノに迷惑かけてられませんし、そろそろ新しい家を見つけるか作るかしないといけませんねぇ」
家自体は小さく簡単なものでいい。異変を起こした時の様に好き勝手にそこらに穴を作るわけにはいかないのだ。射命丸さんは鞄の中をごそごそとして何か紙を渡して来た。
見ると人里の空き家のチラシだった。しかも安い。
「射命丸さんマジ天使」
「鴉天狗です」
「しかし、何故にこんな格安物件が…」
「市場からも近く日の光も入って、少し狭いって事以外は良物件なんですけどね。ただ殺人事件が起きた事故物件でして…。広告主さんも困ってたんですよ。嫌なら他にも…」
「事故物件嫌いじゃないですよ。いいですねここ。刺殺ですか?」
「思わず勢いで出しましたけど、幽霊の噂ありますよここ」
「むしろ好きです。会ってみたいですね、幽霊」
「あなた変わってるとよく言われません?」
「はあ、まあ…」
中が広い狭いはあまり関係ない。異変が終わってからは幻想郷の海も、魔法の森の通路も偽妖怪の山も潰してしまったが、また家の中に引きこもる空間を作ればいい。
人里に住めばより楽に夢を漁れるし、いい事づくめだ。
とは言え今はまだ手元に金がない。いくつかバイトを掛け持ちしながら金を貯め。他の誰かが買う前に何しても入手しなければ。私は次の目標を得て意気込んだ。
そうこうしてるとチルノが珍しく歌を歌いながら帰って来た。私達をチラ見すると、何も言わずにそのままベッドにダイブした。そして枕に顔をうずめたまま射命丸さんに問いかける。
「何の用だよ鴉天狗」
「何の用とはご挨拶ですね。待てども待てども記事に使えそうな写真もネタも持って来ないじゃないですか」
「おい射命丸。今日拾ったネタを私に教えてみろ」
「う゛っ…、い、言う訳ないじゃないですかやだなぁ、あなたに教えたら書くネタが減っちゃいます」
「1つも教えられないほどネタに困窮してりゃ分かるでしょ、私も練り歩いてるけど収穫がないんだよ」
「幻想郷は今日も平和ですねぇ…」
射命丸さんは明後日の方角を向いている。そこに置いてある新聞の1つも、こうして悩んだりネタを探し回ったり、そして文字に書き出し、推敲し、印刷され…そうして届くのだと思うと感慨深いものだ。
チルノは横になって私達の方を向いた。
「それで、携帯とカメラを返して新聞の解約する話に来たの?」
「違います。この間送って来たあの写真。電話で聞いても答えてくれないから直接聞きに来たんですよ。ほら、あのジェーンとか言う子の寝顔」
「何でもないったら」
「何で顔を染めながら言うんですか。ふうむ、知的好奇心が刺激されますね。誰なんですかジェーンって」
「なんの射命丸、黙秘権を行使します!」
「お?お?やる気ですか?ならば知る権利の行使!」
目を輝かせながら奇妙なポーズをとりながら言葉を返す射命丸さん。
「知る権利って黙秘権を侵せる権利だったんですか?!」
「小賢しいぞ射命丸!ならばこれでどうだ、『帰ってください』!!」
「なんですと!?」
「さあ、私有地からの退去を要求した!この家から出るのにかかる時間、およそ1分以内!それを越した場合、不退去罪が成立するゥ!!」
「よろしい!ならば私の身柄を拘束するのはどこに属する何者ですか?人の里の自警団だなんて言いませんよね?妖怪や妖精に関して規定を設け定めしたためた法律や憲法はどこにあるんですか?もし建国されて国家権力たる警察が出てきたら大人しく捕まってあげますよ、妖怪の山の天狗は私の身柄の引き渡しを要求するでしょう。ついでに領事裁判権を認めさせる話も進めると思います。妖怪の山で私が公正な裁判を受けて裁かれるといいですねえ!」
「貴様のようなのがいるから、犯罪が後を絶たないんだ!ここからいなくなれぇーっ!」
チルノが冷気をまとって射命丸さんに突撃する。回避は予想していたらしく射命丸が回避するであろう先の床に小粒の氷が複数用意されており、気付けなかった射命丸さんが見事に足を引っかけてつまずく。そしてがら空きになったボディにチルノの全身を擲ったハイパー頭突きが射命丸にヒットした。
頭が腹部にめり込んで吐血して地面に倒れる射命丸さんと、覆いかぶさるように倒れるチルノ。
「…ごふっ…、私刑だって…犯罪じゃないですか…」
「ごめんね、あたいはバカだから難しいハナシはわかんねえや」
何かよくわからない戦いが終わった。チルノは勝った事が嬉しいのか気絶した射命丸さんの写真を何枚も撮っている。私はソファに寝かせて掛け布団を被せてあげた。チルノは大きく欠伸をするとベッドで眠った。
…あれ、私はどこで寝たらいいんだろう。
(ノリノリで書きましたけど法律の事なんてわかりません。間違ってたらすみません←)