ストーリー オブ ザ 球磨   作:ヤングコーン

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紅魔館で働く事になった私達。
その激務で既に私は足が棒のようでございます。
図書館からはにとりさんの声によく似た悲鳴が聞こえるとか聞こえないとか。
そんなこんなあって、ようやくレミリアさんと話し合いができそうです。


9話 忙殺

「もっと大きな声で!やーっ!」

 

庭から大きな声が聞こえる。

 

「行くわよ!せーのっ、びっくりするほどユートピア!やーっ!」

 

紫の声だ。瞼をこすりながら庭まで出てくると、庭で藍と橙と揃って皆で何かをしている。紫は咳ばらいをする。

 

「そんなんじゃ駄目なのよ。いい、こうよ。びっくりするほどユートピア!やーっ!」

 

「朝から神社前でエキセントリック奇行に走るのやめてよね。なんだよびっくりするほどユートピアって」

 

紫が藍と橙の顔を見る。2人は2人でお互いの顔を見ている。それから紫がこちらを向いた。

 

「いや…真剣に考えたら何だろう。朝から何やってるんだろ私」

 

えぇ…。どうしちゃったのこのスキマ妖怪。ついに正気と狂気の境界が曖昧になったんだろうか。そんな紫の様子を見かねてか、藍がおそるおそるこちらに近づいて来る。なんだ。

 

「びっくりするほどユートピア!」

 

遅れて橙も藍の隣にやってきてポーズをとる。

 

「やーっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「やめなさいよ!」

 

私が叫ぶと橙が藍の後ろに隠れる。紫が橙の後ろに隠れた。それでいいのかお前ら…。藍が急に深呼吸をする。そしてその場足踏みを始めた。続いて後ろにいる橙が。さらに紫も同じように足踏みを始めた。

 

「大変長らくお待たせしました。寝台特急八雲列車、間もなく発車します。閉まるドアにご注意ください」

 

藍がそういうと、橙と紫が前にならえの動きで前の相手の腰のあたりを持つ。そして足踏みしながらゆっくりこちらに近づいてきた。橙が「プシーッ…タタンタタン、タタンタタン…」と言っている。

 

「え、なに?なんなの??怖い。普通に怖い」

 

彼女らの動きは早くもないが遅くもなく、歩けば追いつかれるが走ると全然距離を離せる、絶妙な速度で走行してくる。空へ飛ぶと、当たり前のように空を飛んで追いかけてくる。

 

というかどうしたのこの3人。なんで朝から意味不明な事をしてるの??新しい嫌がらせ??私は地上に降りて彼女らに向き直った。

 

「すみません、何か気に障る事をしたなら謝るので今すぐその意味不明な行動をやめてください」

 

3人とも何も言わずに近付いて来る。私は走って距離を置き、もう一度振り返った。

 

「びっくりするほどユートピア!やーっ!」

 

訳が分からなかったが、大きな声で3人がやっていたようなポーズをやるとようやく八雲列車の動きが止まった。まず橙がどこかへ飛んでいき、藍がそれを追いかけていき、紫がうつろな表情で立ち止まってこちらを見ている。

 

私は立ち尽くす紫を揺さぶる。

 

「紫、あんたどうしちゃったのさ!そりゃあんたの動向は訳がわからない事もあったけどその一つ一つにはあなたなりの考えがあって…。こんなの意味が分からないよ!!」

 

「霊夢…。あなたが最近感じていたもう1つの異変。それについて教えに来たわ」

 

「紫がいつも通り話しててこんなに安心する事ってないわ。でも唐突にまともにならないで」

 

「それはいつもの様に派手で大きな事ではないの。ルールに則った異変でもなく。それは小さな事からとても大きな事に…。いい、あの球磨とにとり。あの2人の動向に注意しなさい」

 

「退治すればいいの?」

 

「常にあなたの正しいと思った事をやればいいわ」

 

そういうと、彼女の後ろに境界が現れその中に入って消えていった。いったい何だったんだか…。

 

とにかく紫が言うには今回の異変の目星は球磨って言うあの半妖とにとりだ。…とはいえ、前回会った時はそれほど怪しい事をしているようにも見えなかったが。

 

 

 

 

「ひーっ!」

 

私は音を上げた。廊下の隅で息を整える。紅魔館の雑務は想像以上に激務だった。こんな事をしていたら精神より前に身体の方がどうにかなってしまう。運動が得意ではなかったとはいえ、半妖の私でこのざまなら咲夜さんの身体能力は一体いかほどだというのか。

 

にとりさんの担当は図書館。10分に1度ぐらいのペースで悲鳴が聞こえてくる。可哀想に…強く生きて…。

 

メイド服ではない咲夜さんがやって来る。

 

「もう気は済んだでしょ?あなたに務まる訳がないんだから、そろそろ私にギブアップといいなさい。そしてお嬢様を説得して。ね?」

 

「嫌です!私は立派なメイドになるんです!こんな所でくたばっていられないんです!」

 

「あなたここに立派なメイドになりに来たんだっけ…???」

 

「私はあなたの手足です!もっと酷使してください教官!サー!」

 

困惑しながらも指示を出してくれる咲夜さん。私のメイド魂に火が付き、再び仕事に打ち込ませてくれる。…またにとりさんの悲鳴が聞こえてきた。何が起きてるのかは分からないが、全然あの叫び声の声量が変わらないあたりさすが妖怪の体力というべきか…。

 

ここで働くことになった3人の中で涼し気に仕事をこなしている人といえば射命丸さんぐらいだった。文句は言いながらも、全くそつない仕事ぶりときたらさすが鴉天狗といった所。

 

私がもたもたしている間に仕事を終わらせたらしい射命丸さんが戻って来る。

 

「はい、終わりましたよ。他は何をやりま…おやおや、おやおやおや球磨さん。まだここで仕事をしてたんですね。私はあなたの倍近くの仕事を終わらせましたよ。ふふん。もっと敬ってくれていいんですよ」

 

ドヤ顔ダブルピースで私を煽って来る射命丸さん。

 

「ほれほれ、私の靴とか磨いちゃってもいいですよ」

 

「はい」

 

私は台を持ってきてその上に靴を乗せてもらいその靴を磨く。

 

「やめなさいよ。個人差はあれど球磨もしっかり仕事をやってると思うわ」

 

「いえ、いいんです咲夜さん。射命丸さんのメイド服、スカートの丈が短いんでこうして台に足を乗せてもらい磨くとパンツが見えるんです」

 

「それでいいのかあんたは」

 

「わはは、苦しゅうない。靴を磨いている間は好きなだけ下着を目に焼き付けるがよい」

 

咲夜さんがドン引きしている。

 

業務終了の時間が来て、私たちはそれぞれ状況を咲夜さんに報告した。朝昼晩の食事はここで済ませる事ができる。私たちは今日の晩御飯を食べていた。休日らしい休日は過ごせなかったなぁとぼんやり思う。

 

にとりさんに図書館で何があってるのかを聞いても教えてくれなかった。それに「悲鳴何てあげてない」の一点張りだ。射命丸さんも聞いていたので聞き間違いではないはずなのだが、とにかく答えるつもりはないようだった。

 

食事を終える頃、咲夜さんがやって来た。

 

「球磨、お嬢様がお呼びよ」

 

「え、私ですか?皿を片付けたらすぐ向かいます」

 

「食器はいいから早く行きなさい」

 

咲夜さんの言葉に戸惑う私を余所目に射命丸さんが何も言わず私の分の食器まで洗いに行った。なんだかんだ言いながら、優しいんだもんなぁ…。にとりさんは食器洗いの機械を作っていた。

 

 

 

大きな扉を抜けた先にレミリアさんがいた。月の光をぼんやり眺めている。私は近くにやって来ると、促されるままに椅子に座った。私にはお茶とゼリービンズをくれた。

 

「それで、あなたがここに来た理由って?」

 

「はい、その事なんですが…」

 

私はにとりさんの店の事について話した。経営についてと今後の販売戦略について。

 

「難しい話ね。にとりは作りたいものを作っている訳だから、それが人間にとって欲しい物とは限らない。それに、他に欲しい人が現れても在庫あるとは限らないもの」

 

前に、とある扇風機を自分にも売ってほしいと言って来た人がいた。でも同じものはもう作れないと言われたので他の扇風機を紹介したが帰って行った。

 

どれだけにとりさんが優秀でも従業員が増えたりして生産ラインができたりしない限り、一度に作れるものの量は多くない。その上、同じものが欲しくてもあるとは限らない。

 

顧客の声を参考にするというのは現状、にとりさんの性分を踏まえても厳しいところなのだ。

 

「にとりは間違いなく優秀よ。でも商売には向いてないわ。私も河童製は好んで利用してるけどその品ぞろえや利便性から妖怪の山の一角にある商店街にいる河童の店で買ってる」

 

妖怪の山に商店街なんてあるのか…知らなかった。ちょっと覗いてみたい気がする。

 

「にとりの店の事、真剣に考えてるならあなたが商売に変えなきゃいけない。どんなテーマで、どんなコンセプトなのか。ターゲット層はどこなのか。どんな商業展開していくのか。広告も力を入れてないから関心を寄せるのが難しい」

 

辛辣だ…。レミリアさんは旧地獄のパンフレットを取り出しておいた。

 

「永遠亭は地霊殿の主と手を組んでこうやって宣伝させている。このシーズン、患者が増えるからこうして負担を減らすために温泉に関心を向けさせて免疫向上させる。また、休憩室など各所に病気の予防について呼びかけたポスターがある。こういうやり方もあるわ」

 

「あれ、偶然じゃなかったんですね」

 

そういえば人里でも咳をしている人を良く見る。私が前いた世界でも衛生観念に関する意識改善をよく呼びかけるニュースがあった気がする。

 

「そりゃそうよ」

 

それから夜が更けるまでアドバイスをもらったり話し合いをしたりした。聞くばかりじゃ駄目だと積極的に意見をいったりしたりした。レミリアさんも決して見下したりバカにしたりせず、意見に対して意見を述べていた。

 

さすがに肉体的な疲労もあって眠気が強くなって来た所で、お開きになった。今後の課題も見つかったし、とても勉強になった。

 

「ありがとうございます」

 

「このバイトが終わったら地霊殿の主に会いなさい。電話番号はこれに何度かかけてれば昼頃ならつながると思う。この番号は私から聞いたと伝えないさい。それから…旧地獄に鴉天狗と河童はついていかないはずだから他に念のため強力な助っ人を用意しなさい」

 

「でも、あの辺りは以前より安全になったんじゃ…」

 

「観光地の周辺はね。元々の諸事情もあってあの環境を快く思ってない妖怪も少なくはないの。あなたは他の人間に比べれば力を持っていても、妖怪の中では非常に非力な分類に入るんだからこの忠告は聞いておきなさい」

 

「わかりました」

 

私は立ち上がりこの場を後にした。もちろん、出る前は扉の前でペコリと頭を下げるのを忘れない。彼女は手をひらひらとさせるとまた月を見ていた。

 

 

 

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