起きたら次元将になってたんだが 作:次元獣だもん☆
気まずい……確かにATと言い張れるかは怪しい見た目になってしまったが、そこまで引くか? 騎士ガンダムとか、戦士ガンキャノンとか、ご存じない? うん、BXならともかく、Z世界の、しかも元アストラギウス在住の皆さんがご存じなわけがないな。
気を取り直し、俺が入場すると同時に誰一人としてうんともすんとも言わなくなった観客席を横目で眺めながら、我が愛機”ストロング・カーラ”を所定の位置にゆっくりと歩かせる。
そう。ゆっくりと、だ。決して焦ってはいけない。焦ればたちまち転倒だ。
もうお気づきだろうが、俺が妙にゆっくり歩いているのは威圧感を与える演出とかそういう類の物ではない。これが今のストロング・カーラ、正確には今の俺の練度における最高速度なのである。
リヴァイブ・セルに機体各部を浸食させて思考コントロールするというアイディアは悪くなかったと思う。思うのだが、リヴァイブ・セルを一気に大量放出しようものなら下手をすると定着中に通りかかった誰か(一番あり得るのはボルフ)が取り込まれて次元獣になってしまう可能性があった。元から治安最悪のゲットーとはいえ、倉庫から次元獣が出てきたら過去一、二を争う大騒ぎになるのは想像に難くないし、
そんなわけでゆっくりと、絶対に人を巻き込まない小規模な放出と定着を繰り返すこととなり、改造は試合前日の夕方までかかった。
要は操縦の練習をする時間がなかったのである。
いざやってみると自分の脳でミッションディスクの代わりをするようなもので、慣れれば鉄血ガンダムばりの変態コンバットもできるはずなのだが、これはコツを掴むまでが大変そうだ。始めから次元将のために作られたヴィシュラカーラのようにはいかないという事か。
という訳で動きに関しては改造なんてせず、普通の操縦方法を練習しておいた方がまだマシな結果になっただろう有様だが、幸いスペックはATとしてはすばらしい物に仕上がった。パワーで他のATに押し負けることはそうそうない(全くないとは言ってない)し、精度はブルダモン以下ながらD・フォルトも搭載しており、ヘビィマシンガンやミサイルを何十発も撃ち込まれるならともかく、某異能生存体曰く「所詮は遊び」程度の攻撃しか飛んでこないブロウバトルなら負けは無い。ただしこちらも上手く攻撃を当てられなければ目も当てられないグダグダ試合になりかねない。相手ATのポリマーリンゲル液が劣化して行動不能になるのを待って判定勝ちなんて、ブーイングの嵐が吹き荒れることは間違いない。ひょっとしたらブチ切れた観客がアーマーマグナムでも撃ってくるかもしれない。
ようやく指定された位置にたどり着き、ほっと一息ついて今度は集中力を別の方に向ける。
どうせ相手はローラーダッシュで移動するだろうから追いつくのは絶対に無理だ。ブロウバトルの性質上、相手も近づいて来なければならないわけだし、一歩も動かずカウンター狙いと行かせてもらう。
◆
試合開始のゴングが鳴り響く。
それと同時に紫のスコープドッグは一気に最高速度まで加速してストロング・カーラに突撃する。
「ふざけた改造しやがって! いくら掛けたか知らねえが、ここでスクラップにしてやるよ!」
ATとは兵器であって、この星に何体か居るような無敵のスーパーロボットなどでは断じてない。紫のATの彼にとって、機能的な意味のない装飾というのは無能な目立ちたがり屋のやることか、金持ちのコレクション用か……バトリングという場では人気取りのため、そういったものもある程度必要だとは理解している。ゆえにマッチメイカーに薦められるがまま、ATをメルキア軍の数倍どぎつい紫色に塗り、入場時には駆動用ポリマーリンゲル液の劣化を無駄に進めるだけのパフォーマンスまで披露する。時空振動で物理的に所属部隊からはじき出された兵士崩れの自分が生きていくには、そうするしかないと言い聞かせて。
兵器としてのATの姿に誇りのようなものを感じていた彼にはそこまでが譲歩できる限界であり、目の前の存在する世界を間違えたようなデザインのAT
兵士としての自分は死に、ただの見世物になり下がった事を見せつけられているようではらわたが煮えくり返る思いだった。
その思いが彼を一頭の獣へと変貌させ、床を踏み抜かんばかりの力で蹴り込まれたペダルは機体各部に指令を送り込み、ATをまっすぐに爆走させる。
「真っすぐ突っ込んでくるとは……にしても、なかなかの殺気だ……ボルフのやつ、リアルバトルと間違えたんじゃないだろうな?」
対するガヌマは”試合”らしからぬ激しい殺気に困惑しつつも迎撃のために精神を集中し始める。相手は自分と違い、ローラーダッシュを使いこなしてAT本来の運動性を十分に発揮してくるため、攻撃を当てるチャンスは限られてくる。それこそ上手くカウンターを決める以外には無いだろう。
まさかハッチを開けて飛び出し、生身でぶん殴るわけにもいかない。その方が何倍も上手くいきそうな気がするとはいえ。
両者の距離が縮まるにつれ、静まり返っていた観客席がざわつき始める。このままいけば激突まで数秒とない。完全に勝ち馬だと思って紫のATに賭けた者は少しの後悔と祈りを込めて、ガヌマに賭けた者は少しの期待と、やはり祈りを込めて。観戦を楽しみに来た者はただ興奮を抱いて、皆が固唾を飲んで両者の様子を見守る。
激突まで2秒。紫のATは大きく改造された右腕をいつでも叩き込めるように持ち上げ、対するストロング・カーラも右手のバトルアックスを構えて獲物が飛び込んでくるのをを待つ。
激突まで1秒。紫のATが頭部ターレットを回転させ、カメラを通常ズームから広角に切り替える。ガヌマはその意味を測りかね、そのままストロング・カーラは迎撃のためバトルアックスを振りぬかんと力を込める。
そしてバトルアックスが紫のATの胴を捉えようとした瞬間、ガヌマの視界からATが消失する。
激突の瞬間、紫のATはターンピックを駆使して軌道を捻じ曲げ、一瞬でストロング・カーラの背後に回っていた。ATの男は激昂しながらも、フェイントをかけるくらいの冷静さを保っていたのである。
「ド素人が! 馬鹿正直に正面から行くかよ!」
そして男はトリガーを引き、バトルアックスを振りぬいて隙をさらしているストロング・カーラの背に巨大なアームパンチを叩き込んだ。
「勝った!」
そう叫んだ次の瞬間、激しい衝撃と共に男の意識は途切れることとなった。
「この角、つけといてよかったぜ」
紫のATのパンチは確かにストロング・カーラの背を捉えていたが、装甲表面で何かに阻まれたかのようにダメージを与えられず、そしてその胴には、ストロング・カーラの角が
ガヌマはアームパンチをD・フォルトで防ぐと同時に、降着姿勢を取りながら機体のハッチを跳ね上げる事で背後に向かって”頭突き”を敢行したのだった。
頭部の角はリヴァイブ・セルで生成された”放電ホーン”であり、スタンロッドのように相手に押し付けることで強力な電撃を浴びせることができる。本来は次元獣が使用する武装であり、当然通常のATが耐えられる威力ではない。マッスルシリンダーは焼け付き、各部でポリマーリンゲル液に引火して小爆発を引き起こし、その衝撃で紫のATの男は気絶したのである。死ぬような爆発にならなかったのは幸運であった。
観客はその結果を受けて様々な反応を見せる。賭けに勝って喜ぶ者、負けて消沈する者、目の前の出来事を処理しきれず困惑する者、ただ興奮に身を任せて歓声を上げる者……
そして何かに気づき、入場時と同様、妙にゆっくりと退場していくストロング・カーラを険しい目で見つめる者。
「次元獣……」
そう呟いた一人の観客は何かの端末を取り出しながら足早に会場を立ち去って行ったが、試合は終わっている。気に留める者はいなかった。
今回の機体
スコープドッグ・バトリングカスタム(仮)
どぎつい紫色に塗装されたスコープドッグ。右腕が大型化されている。例えるならHGのガンプラにMGの右腕がついてる感じ。アームパンチの威力が当然上がっている。
しかしパイロットの格闘の数値が低かったのか、D・フォルトを抜けなかった。
まあこれに関しては次元力も使わずにバンバン突破するZEXISの連中がおかしい。