次元の狭間、電子の空間
0と1とで構成される情報の宇宙
彼は云った
思い残したことがあると
彼は応えた
残念だがかなえられないと
人の情動を求めて
人の情動を弄んで
人の情動を扇動して
世界と人に痕を残し
世界と人から想いを奪った
それは決して許されない罪
しかし
それでも
彼は云った
闇が来る
それはまっすぐに
まっすぐに
癒えない傷口に集る蠅のように
まっすぐに
それを目指してやってくると
そしてそれは
自分が招いた闇でもあると
誰にも勝てない
自分にも
自分を戒めている彼と彼の仲間にも
その闇に勝てるのは光
想いと共にある意志の光
このままでは滅んでしまう
あの星も
あの世界も
あの町も
あの子も
それは
それはあってはならないこと
それ故の未練
だから
もう一度請うた
最後の願いを。
最悪
なんかヤな夢
意味わかんないし
やだなぁ、起きるの超めんどうくさい
しばらくごろごろしてたら
枕元におちてるタロウのキーホルダー
昨日、そのまま寝ちゃったんだ
ヤダ
こっち見てる
わかったよ
今、起きるからさ。
「おっはよーっ、アカネ!」
「あ、おはよう、クマっち」
いつものバス停で降りて
いつもの道を学校に向かって歩く
そして友達の声に振り向くと
今日も、クマっち
「なになに、なんかだるそうじゃん、アカネ」
「え、そんなこと、ないよ」
「そんなことあるし、髪のセット、なんかテキトーだし」
「え、あ、ちょっ?」
問答無用で髪をシュシュでまとめられた
いつもこう
なんかあったら超グイグイくるけど
でも
イヤじゃない・・・かな
「ポニーテールも似合うじゃーん、さすがだねー」
「うん、ありがと。あとで、ちゃんとセットしてから返すよ」
「いいっていいってー、それあげちゃうから、今日はそれでいなよー」
「え、いいの?」
「てっとりばやい気分転換です」
胸をはってすっごいドヤ顔
ホント、クマっちってばおもしろい
「でさぁ、アカネ、なんかあったりするカンジ?」
「え?どうして?」
「だって、朝のアカネ、マジで元気なかったし」
お昼休み
お昼ご飯をいっしょに食べてたクマっちが、お弁当食べながら聞いてくる
「そんなに変だったかな」
「うんうん、変。ってか、カレシにふられたカンジ?」
ちょっ、いないし、まだ
ちょっとセンシティブ
でも
「うん・・・実は、ね・・・・・・」
「マジで!?誰それ!何組!?何年生!?」
「え?」
「あたしがガツンと言ってくるから!!」
ヤバい
なんか、うっそー、とかいいにくくなった
でも、ここでちゃんと言わなきゃだしね
心配してくれてんだもんね
「あ、あのさ・・・クマっち?」
「うん、で、誰!?」
「う・・・うっそー」
クマっち、ぽかんとしてる
「えへへ、信じちゃった?」
「・・・んも―――っっ!!アーカーネーっっ!!」
「アハハハハ!ゴメン、ゴメンって、クマっち!」
「ホントにだいじょうぶなんだね?それもウソだったらヤだからね?」
「ホントゴメンって、だいじょうぶだからさ」
ホントにゴメンね、クマっち
でも・・・本気でおこってくれて、ありがと
「んー・・・まぁ、ならいーんだけどさ」
「クマっちは、悩みとかないの?」
「うん、あるよ」
「え?」
ためしに聞いてみたら、即答
そうなんだ
クマっちにも、悩みってあったんだ
「アカネさぁ、いまひどいこと考えてるっしょ?」
「そ、そんなこと、ないよ?」
するどい
「あたしだってさー、いろいろ考えてるよー」
「うん、たとえば?」
「就職とかさ、結婚とかさ」
ヤダ、ちょっと核心つきすぎ
でも、それをさらっと言えるクマっち
ホントおもしろいし、やっぱ、楽しい
昨日見た変な夢のこととか
もう、どうでよくなったカンジ
ありがと、クマっち。
「悩み・・・かぁ・・・」
今日も、後は寝るだけ
ベッドの上
スタンドの光の中で取り出したのは
タロウのキーホルダー
なんか、おやすみ前の習慣になったカンジ
今日は会える?
夢でまた会える?
そんなのわかんないよね
ごめん
わがままいった
おやすみなさい
あの部屋で
あの机で
あたしは久しぶりの新作を造る
でもそれは
怪獣じゃなくて。
「これ見たら、驚くだろうなぁ~」
気合を入れて色も塗った
真っ赤な体
銀色の鎧と角が生えたマスク
こうしてみると
けっこうカッコいいじゃん
われながらよくできたカンジ
チャイムが鳴った
その時にはもう
あたしは部屋を飛び出していた
「こんにちは、アカネ君」
タロウだ
やった
でも
ヒーローのくせに、チャイムを鳴らして玄関から訪ねてくるなんて
なんか、オジサンくさくない?
でも
「いらっしゃい!もー、待ってたんだからねー!」
「そうだったのか、遅くなって申し訳ない、アカネ君」
頭かきながら謝ってる、なんかホントにオジサンみたい
「どういたしましてー、そうだ、あがってってよ。お茶、飲む?」
「ありがとう、いただくよ」
とっておきの紅茶を入れてあげるからね
あ、でも
なんか、誰かにお茶いれてあげるって、なにげに初めてかも
「アカネ君、いただきます」
「どうぞどうぞ」
タロウがリビングでお茶飲んでる
ウルトラマンってお茶飲めるんだ
って、思い出した
タロウに、見せたいものがあったんだ
「ゴメン、ちょっとまってて」
そういって、ダッシュで自分の部屋に戻る
自信作なんだからね
タロウ
「どう、これ、すごいっしょ?」
わたしが作ったタロウを見て
タロウ、本気でびっくりしてる
「これは・・・アカネ君が作ったのかい」
「そうだよ、すごいっしょ」
「本当だね・・・私だ、私なんだね」
「そうだよ、でさ、これ、お近づきのしるしに、プレゼント!」
「いいのかい!?アカネ君!」
「あたりまえじゃん、そのために作ったんだよー」
「ああ・・・ありがとう、ありがとう、アカネ君!」
なんか、めっちゃ感動してくれてるみたい
タロウは、わたしからタロウをうけとって
タロウはずっとタロウをながめてる
あれ、なんかちょっとややこしい
「嬉しいよ、アカネ君。ずっと、大切にするからね」
「うん」
こんなに喜んでもらえて
わたしもうれしいよ
タロウ
それから
タロウといっぱい話をした
友達のこと
学校のこと
そして
住んでた町や友達のこと
タロウは
ずっと楽しそうに
そして真剣な顔で
わたしの話を聞いてくれた
「アカネ君は、もう一度、その友達に会いたいのかい?」
ふと、しずかな声でタロウが聞いてくる。
ちょっと、迷ったけど
タロウになら、言ってもいい気がした
「・・・うん」
でも
約束したから
神様としてじゃなくて
友達として
約束したから
「アカネ君」
「なに?」
「良かったら、一緒に星を見に行かないかい」
「星?」
なにそれ、ちょっと楽しそう
でも、夜までまだ時間があるし
って
夢の中で、なに言ってんの、わたし。
「君に、見せてあげたいんだ」
ヤダ、なんかそんな言い方
ちょっとハズい
でも
「うん、お願い、タロウ」
タロウが笑った
銀色の仮面みたいな顔だけど
とてもうれしそうに笑った
どうしてかわかんないけど
ちゃんとわかったんだ。
さっきまでリビングにいたはずなのに
気が付いたら
タロウと一緒に、宇宙にいた
一瞬、超ビビったけど
普通に息もできるし
普通に立っていられた
そして
タロウが隣にいた
「みてごらん、アカネ君」
タロウの声で前を見た
なにこれ
なにこれ
「うっわ・・・・・・」
言葉が出ない
目の前も
右も
左も
頭の上も
足元も
すっごい星
町で、夜空を見上げた時と比べものにならないくらい
金色
銀色
赤
青
緑
いろんな光があふれてて
すっごいキラキラしてて
これってまるで、星の海
星雲の波しぶき
天の川の海流
とってもおおきくて
とってもおだやかで
すべてを包んでくれるような
わたしもこの中のひとつになったみたいな
そんな感覚
「君のいうとおりだよ、アカネ君」
「え?」
「君も、この星の海の光なんだよ」
「わたしが・・・?」
「君も、君の友達も、そして私も。みんな、この星の海なんだ。みんなが集まって、みんなが輝いて、この星の海があるんだ」
「そう・・・なの?」
「ああ、そうとも」
タロウは、とても力強くうなずいた
なんか、ウルトラマンみたい
って、ウルトラマンだったっけ
「どんなに離れていても、見上げる空が違っていても、想う心がある限り、この星の海と共にいるんだ」
タロウも、星の海を見ながら語りかけてくれる
そして、自分自身に言い聞かせてるみたいに
「良いことも、悪いことも、嬉しいことも、悲しいことも、みんなが集まって生まれたのが、この星の海なんだよ」
何かを思い出しているようなタロウの言葉
タロウにもいろいろあったんだろうね
だって
いままでたくさん
頑張ってきたんだもんね
「だから、どれかひとつ、誰かひとつ欠けても、今見ているこの光は生まれなかったんだ。私も、アカネ君も、友達も、みんな、この星の海そのものなんだよ」
みんなが、この星の海そのもの
じゃあ
それじゃあ
「・・・ツツジ台のみんなも、そうなのかな」
思い出す顔
思い出す声
思い出す景色
ほんのちょっとだけ、胸がチクリとした
「もちろん、そうだよ」
暖かいタロウの声
「君がみんなを思い出す時、みんなも君を思い出している。君がみんなを探し見るとき、みんなも君を探し見ている。だからこそ、この星の海があり続けるんだよ」
みんながわたしを
わたしがみんなを
この星の海の中で
そばにいないけど
そばにいる
おとぎ話みたいな話
でも
タロウの言葉なら
信じられるよ
「・・・ありがとう、タロウ」
「どういたしまして、アカネ君」
タロウがうなずく
でもそのとき
わたしのお腹が小さく鳴った
ウソ
マジで
なんでこんなときに
めっちゃカッコわるいじゃん
「あっ、ちょ、これ、ちがうからっ!」
でも、タロウは笑わない
いや、ちょっと笑ってる
ちょっとムカつく
ちょっとハズい
でも、タロウだったら
いいかな。
「おなかがすいているのかい、アカネ君」
「うん・・・まあ・・・ちょっと」
「それじゃ、帰ったら夕食でも作ろうか」
「え、タロウ、料理できるの?」
「まかせてくれ、よく兄さんたちにも作ってあげたものさ」
タロウって、マジなんでもできるんだね
でもウルトラマンのお料理って
何?
「アカネ君、ちらし寿司は好きかい?」
え?
マジで?
ちらし寿司、って
なにそれ、超ウケる。
眼の前に広がる青い星
その片隅で出会った、小さな光
暖かく、そして、穏やかな光
今は傷つき、疲れている
それでも、そう遠くない内に
やがてそれを癒し、傷を消し去るだろう
そして、胸には
新しい友から贈られた
もうひとりの自分
ありがとう
心からの感謝の言葉と共に、遥か広がる青い星を仰ぎ見た。