A Wish ~星に願いを~   作:あらほしねこ

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夢四夜『甦ル悪夢』

 授業中

 黒板に書かれたことをノートに書いて

 先生の話をノートに書いて

 いつもとおんなじ

 いつもの授業

 あ、クマっち

 また居眠りしてる

 そんなんだから

 コーネリアスにヒドいこといわれちゃうんだよ

 ノートの切れ端で、小さい手紙を書いて

 前に座る友達に

 クマっちまでお願いって言って、パスする

 うん、やっと起きた

 

 

 あれから

 なんにも変わったこともなく

 タロウの夢も

 トレギアの夢も

 見ることは無くなって

 あれは、偶然だったんだ

 そう思うようになって

 そう

 あたしは

 この普通の世界で

 普通に生きて――――――

「なんだあれ、雷か?」

 クラスの男子の声

 授業中によそみとか、コーネリアスがうるさいよ?

 ――――――って

 教室の窓から、一塊の黒い雲が見えた

 紫色の雷が、その黒い雲から何度も光る

「なに―――あれ?」

 思わずつぶやいて

 そして、わたしは

 絶望

 と言う言葉の意味を知った。

 

 

 雷が落ちたようなものすごい声

 街にあらわれた怪獣

 なんで?

 どうして?

 ここは

 あの世界じゃないのに

 わたしは

 もうなんにも作ってないのに

 アイツはもういないのに

 どうして

 どうして怪獣が

 ここにいるの?

 そして

 怪獣は

 雷のように光る光線で

 街を燃やし始めた

 

 

 遠くで爆発が起こるたびに

 教室にまで地震みたいな地響きが届いて

 窓ガラスがガタガタ揺れた

「みんな!落ち着いて!」

 みんなの悲鳴が渦巻く教室で

 机や椅子が倒れる音が響く教室で

 コーネリアスは教室のドアを開けて、みんなに呼びかけながら

 できるだけひとりひとり避難できるように誘導している。

「新条さん!樋熊さん!貴女たちもはやく!」

 コーネリアスが、わたしたちを呼ぶ声。

「クマっち、いこう!」

「なにアレ・・・なにアレ・・・なんなのアレ!」

 いつものクマっちじゃないみたいな、恐怖でひきつった顔

 だめ

 こんなとこでモタモタしてたら危ないよ

「いくよ!」

 わたしは、クマっちの手を握って引きずるように走り出した

「はやく!」

 コーネリアスが、ううん、もう、コーネリアスなんて呼べない。

 最後まで

 最後のわたしたちが教室をでるまで

 ずっと開けたドアをおさえてて

 わたしたちをまっててくれた

 ありがとう、山田先生。

 

 

『生徒達は、指定の避難所に向かってください!ひとりで行動しないで、グループで行動してください!防災訓練を思い出して、落ち着いて行動してください!』

 校庭から、ハンドスピーカーで、先生たちが一生懸命呼びかけている声が聞こえる。

 窓から見える街が、燃えていた

 怪獣、ずっと前に、わたしが作った怪獣

 建物を踏み潰し、殴り壊し、レーザー光線で吹き飛ばしていく

 そんな

 やめて

 もうやめて

 そう叫びたいのを、唇をかんで我慢して

 クマっちの手を引いて走って

 急に、クマっちの足が止まった

「クマっち、がんばって!もう少しで外だから!」

「アカネぇ・・・・・・」

 泣きそうな顔で、ううん、本当に泣いてる

 そんなクマっちを見て何が起こったか理解した

「こっち!」

 誰もいない教室にとびこんで、カーテンをおもいっきりひっぱる

「これかぶって!だいじょうぶだから、いこう、クマっち!」

 おもいっきり濡れたスカートや靴下を隠すように、破ったカーテンを肩からかぶせてあげてから、一階の窓を開けた。

「クマっち、大丈夫だから、ゆっくりこっちきて!」

「アカネ・・・アカネ・・・!」

 ぶるぶる震えてるクマっちを抱き寄せるように外に出すと、その手を引いて急いで校舎から離れる。

 そのとき

 ものすごい光と熱

 学校からすぐ近くを、レーザーの光が走り抜けて

 マンションやビルが爆発した

「あっっ!?」

 爆風と、破片が、わたしたちをふきとばして

 あたり一面が煙に包まれた

「ぁいったぁ・・・クマっち、大丈夫?・・・クマっち?クマっち!?」

 校庭の上に倒れてるクマっちは、完全に気を失っていた

 ケガはしてないみたいだけど

 もしかして、どっか頭うったのかもしれない

「どうしよう・・・どうしよう、どうしよう・・・!」

 あの怪獣のレーザー光線が、今でもあたしの考えた通りのまんまなら

 もうこの街に

 安全な所なんて

 どこにもない。

 

 

 

 予想以上の出し物だ

 トレギアは、特等席に据えたタワーマンションの上に腰掛けながら

 目の前に繰り広げられる破壊劇を、満足そうに眺める。

 あんな取るに足らない

 いじけた小娘の魂から

 こんなにとびきりの玩具が出てくるなんて

「いいよ、おもいっきり、遊ぶといいよ」

 炸裂する爆音

 渦巻く虫けら共の悲鳴

 砕け散る虫けら共の巣

 それは、素敵な

 とても素敵なハーモニー

 虫けら共が奏でだす

 極上のオーケストラ

「さあ、早くおいで。でないと、この街が無くなってしまうよ、タロウ!」

 

 

 彼女の心の奥底に隠された、未だ癒えきらぬ痕

 自ら彼女の前に赴き、そして、その心の光を見極めた

 しかし

 光があれば影があるように

 闇は誰にも気づかれぬまま

 その傍らに潜み続けていた悪意

 そして、彼女の心の底にある

 ほんの微かな、いつかは時間と共に完全に消滅したであろう

 ほんの微かな痕を見逃さなかった。

 鋭利な悪意と誘惑で切り開き

 彼女自身が自覚しないまま、その傷を広げ、心の中の闇を解き放った

 街が

 命が

 かけがえのないたくさんのものが

 燃えている

 すまない

 どうか

 どうかもう少し

 待っていてくれ

 

 

 現実って

 やっぱり残酷だよね

 どんなにひどいことが起っても

 どんなに悲しいことが起っても

 誰も助けに来てくれたりしない

 この街には

 この世界には

 ヒーローなんて

 どこにもいない

「しっかりして、クマっち、クマっち・・・」

 どっかで、聞いたことがある

 頭を強く打った人は、動かしちゃいけないんだって

 だから、気を失ってるクマっちを動かすわけにはいかない

 でも、わたしはクマっちとここにいる

 わたしを友達と言ってくれるから

 だから、クマっち

 わたしも、ずっと一緒にいるよ

 目を覚まさないクマっちの横で、わたしは街を壊し続ける怪獣を見つめ続けた

 やめて

 お願いだから、もうやめて

 そのとき、ずっと遠くのタワマンの上に、人が座っているのに気がついた

 ううん

 アレは人なんかじゃない

 アレは

 ――――――トレギア

 

 

 どうして?

 どうしてアイツがここにいるの

 じゃあやっぱり、あれは夢なんかじゃなかったんだ

 アイツから、怪獣を受け取ったりなんかしたから

 だから

 こんなことになっちゃったんだ

 ごめんなさい

 ごめんなさい

 みんな、ごめんなさい

 ぼろぼろと涙がでてとまらない

 泣いて許してもらえるなんて思ってないけど

 でも

 でも

 わたしが

 わたしのせいで

 わたしの、せいで――――――

『もう、大丈夫だよ』

 ―――え?

 空から聞こえた声

 風に乗って聞こえた声

 思わず見上げると、もうひとつの太陽

 その光の中から

 飛び出すように現れた真っ赤な巨人

 タロウ?

 タロウなの?

『セアッッ!!』

 鋭い気合の声を響かせて

 燃える街に舞い降りたタロウを

 わたしは、信じられない気持ちでみていた。

 

 

 

『遅かったじゃないか、タロウ』

『トレギア、何のためにこんなことを!』

『理由なんてないさ、退屈だったからねぇ、ちょっとコンサートを聴きたくなっただけだよ』

『トレギア!』

 街を

 人を

 命を

 未来を

 破壊し、焼き尽くす

 それを余興などと、絶対に認めるわけにはいかない

『おっと、君の相手はコレにしてもらうよ。まあ、お手並み拝見と行こうじゃないか』

 トレギアの言葉が終わるや否や、デバダダンは咆哮を上げてタロウに突進する。

『ムッ!!』

 すかさず、牽制の光弾を放つ。しかし、それらは全て、デバダダンの体をすり抜け、背後のビルに着弾し、直撃を受けたビルはガラス細工のように粉砕された。

『おやおやおや、ダメじゃあないか、タロウ。まだ、逃げ遅れた人がいたかもしれないのに』

 心底愉快そうなトレギアの言葉に、タロウは瞬時にこの怪獣が、今までとは違うことを悟る。見た目は、今まで戦ってきたものと変わりはない。しかし、どこか、何かが違う。

『シェアッッ!!』

 大地を蹴って跳躍し、瞬時に間合いを詰めたタロウは、鞭のような上段蹴りを繰り出す。しかし、延髄を粉砕するはずの蹴りは、そのままデバダダンをすり抜ける。

『セアッッ』

 すかさず足運びを整え、間髪入れず撃ち出した正拳突き。しかし、それも先ほどの攻撃同様、何の手ごたえもなくデバダダンの胸板をすり抜けた。その時、タロウの拳を弾き返すように、デバダダンの胸板から角状の突起が隆起する。

 そして、その先端に高エネルギーの励起反応の光球が現れた瞬間、大気を振動させるノイズ音と共に、タロウに向けて高出力レーザーが放たれた。

『ジェアッッ!?』

 高出力レーザーのゼロ距離砲撃を受けたタロウは、防御障壁も間に合わず、直撃を受けて吹き飛ばされ、背後にあったビルが巻き添えを受けて倒壊する。

『アッハッハハハハハハ!!』

 期待通りの光景に、トレギアは心底楽しそうに手を叩いて哂う。さあ、これをどう戦う?みせておくれ、我が友よ、ウルトラの戦士よ。

『彼はね、ここにあってここにはいない。違う概念の存在なのさ、さあ、タロウ?君はどうする?どう戦う?魅せておくれ、君の戦いをね!』

 

 

 救急車で運ばれていくクマっちを見送って

 わたしの足は、力が抜けたようになって校庭にへたり込む

 誰かが、救急車をよんでくれたんだ。

 本当は、一緒に付き添っていきたかったけど

 救急隊員さんの邪魔になりそうだったから、あきらめた。

 でも

 それでも

 タロウが助けに来てくれた

 夢なんかじゃなくて

 本当にいてくれたんだ

 本当に来てくれたんだ

 だけど

 どうみたって、余裕なんかじゃない

 タロウの攻撃は全然きかないのに

 怪獣の攻撃は周りの建物も巻き込んで

 タロウを苦しめている

『ゼアァッッ!!』

 ビルをかばって

 自分を盾にして光線を受け止めたタロウの肩の鎧が爆発して

 ひどい炎が燃え上がって

 タロウの胸から、光の粒が弾け飛んだ

 タロウ

 お願い

 まけないで

 タロウ――――――

 

 

「お前が、新条アカネか」

「え・・・?」

 わたしを呼ぶ声にふりかえると

 そこに、ひとりのお坊さんがいた。

 タロウの姿だけみていたから

 全然まわりに気がつかなかった

「話がある」

 大混乱になっている周りの様子も気にならない感じで

 お坊さんは私に向かって言った。

「話・・・って、なんですか・・・?」

「お前は、この街を、この街の人々を・・・いや、友達を救いたいと思うか?」

 なんなの

 急になにいってるの

 そんなこと

 そんなこと、あたりまえじゃん

 でも

 でも

「そう思う心が少しでもあるのなら、お前がその力になれ」

 なにいってるの

 そんなこと無理に決まってるじゃん

 わたしは

 わたしはもう何の力ももってない

 この世界で何の役にもたてっこない

 なのに

 なんで?

 なんでわたしなの?

「無理だよ・・・わたしは・・・わたしは、そんな力なんて、もってない!」

「そうか」

 わたしの言葉を聞いたお坊さんは、すうっと目を細くして呟くように言った。

「あの時――――――」

 お坊さんは、まっすぐわたしの目を見て呟いた。

「グリッドマンに勝てなかったように、自分自身にも勝てないからか」

「う・・・」

 なんで?

 なんで貴方が、それを知ってるの

 だからなんなの?

 貴方に何がわかるって言うの――――――

「その顔は何だ、その目は、その涙は、それで、この街を、友達を救えるのか」

「だって・・・だって・・・!」

「お前の心の中に残る闇、それが見えない傷の痛みとなってお前を苦しめている。それを、奴が嗅ぎ付け、つけこんだことでな」

 お坊さんは、そういってあたしを見る。

 わたしの、心の中の闇?

 ううん、なんとなく、そうじゃないかってわかってた

 だったとしたら

 トレギアは、わたしが呼び寄せたってことなの?

「あいつは、常に誰かの心の闇を探している」

 お坊さんは、タワマンの上に座っているトレギアをみあげる

「そして、あいつはそうやって、いくつもの星を自滅に追いやってきた」

 そんな

 それじゃ

 今度は地球を?

「今だけじゃない、あいつは、何度もこの星を自滅させようとしてきた」

 ウソ

 何度も来てるって

 なんでそんなに地球にこだわるの

「この星は、俺達ウルトラマンにとって、第二の故郷(ふるさと)だ―――いや、俺にとっては、本当の故郷だ」

 ふるさと

 地球が

 ウルトラマンにとって――――――?

「今まで任務で遠く離れていたが、今度こそ、見過ごすわけにはいかなくなった。俺も、そして、タロウ兄さんもな」

 そんな

 そこまでして守りたい星だったの?

「だから、タロウ兄さんは、直接お前に会うことにした。そして、お前の心が何であるかを、自分の目で確かめることにした」

 ウソ・・・

 それじゃ、あの夢は

 夢じゃなかったってこと?

 お坊さんの言葉に混乱する

 それじゃ

 一緒に星の海をみたことも

 一緒にご飯食べたことも

 タロウのフィギュア作ってあげたことも

 みんな、みんな――――――

 あの時のことが、頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回る

「タロウ兄さんは許したらしいが――――――」

 けど、今まで静かな雰囲気だったお坊さんが

 急に怒ったような顔になった

「俺は許さん!」

「――――――っ!?」

「お前の心は、絶対に折れてはいけない心だ。お前の心をお前が信じろ、お前の心を信じた友の心を信じろ」

「自分を・・・友達を・・・信じる・・・?」

「思い出せ、お前の光を。そして、一歩前に進め。ただ、それだけでいい」

 お坊さんが

 肩に下げていた布袋からとりだして、そっとわたしに手渡したもの

 それは

 わたしが作ったタロウ

「これ・・・タロウに・・・!」

 あの日見た夢の中で

 わたしが、タロウのために作って

 そしてプレゼントした手作りのフィギュア

「それはお前に預ける、お前が、もう一度タロウ兄さんに渡してやれ」

 そう言って

 お坊さんは、思い出したように後ろを振り返った

「今、お前に会いたいといっているやつがいる」

「わたしに・・・?」

「どうするかは、お前次第だ」

 そう言い残して

 お坊さんは笠を目深にかぶり直すと、踵を返して歩き出した

 お坊さんがもっていた錫杖の音が

 とても、きれいな音で鳴った。

 

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