タロウは、まだ戦っている
必死に、懸命に
タロウの拳も、蹴りも、怪獣をすりぬける
でも、怪獣が撃った光線は
タロウに当たると炎をあげ
ビルや道路を爆発させた
それでも
タロウは必死になって街を守ってる
自分の体を盾にして
あの黒いウルトラマン
トレギアは手を出していない
でも
苦しむタロウを
馬鹿にするように眺めている
楽しそうに
本当に
楽しそうに
無理だよ
駄目だよ
いくらタロウが強くたって
攻撃がきかないのに
自分が身代わりになって攻撃を受け続けてるのに
こんなのいつまでももつわけない
どうして
どうしてこんなことになっちゃったの
わたしの作った怪獣が
本当に町を壊している
本当に人を—―――――
助けて
誰か助けて
お願い
どうか
みんなを
この街を
タロウを
助けて
お願いします、お願いします―――――――――
「ぃやあ、ひさしぶりだねぇ、アカネ君?」
聞き覚えのある声
懐かしいけど
思い出したくない声
「アレクシス・・・?」
「随分困っているようじゃないか、なんなら、力を貸すよ?」
「・・・ほっといて、もう、わたしはアンタになんか頼らない」
なんで
なんでアンタがここにいるの?
「いやはや、嫌われてしまったねぇ」
あの時のように、余裕たっぷりな言いかた
ムカつく
あたりまえじゃない
これって
アンタのせいじゃないの
―――――――――違う
これは、わたし自身が作り出した現実
わたしの弱さが、生み出してしまった現実
「・・・用がないなら、帰ってくれない?」
「そういうわけにはいかないよ、君に、最後のプレゼントを渡さないと、あの親切なお坊さんに怒られてしまう」
「お坊・・・さん?」
「君は、本当にたくさんの人に愛されているねぇ。本当に、羨ましい限りだよ」
なにいってんの
全然、意味わかんない
「君の中に眠る光、君だけが気付いていない光、それが人を惹きつけ、君を愛してくれる。君は気づいていないかもしれないけどね、君はね、光の子なんだよ」
光の子?
わたしが?
そんなわけない
わたしは
弱くて
ずるくて
卑怯者だから。
もうだまされない
だまされたくない
もう二度と
大切なものを壊したくない
大切なものを失いたくない
だから
この世界で頑張るって決めたのに。
「なにそれ・・・キモいんだけど」
「ハハハハハ、これはまいったねぇ」
アレクシスはそう言って、ふっと空を見上げた
なんだか、ちょっと寂しそうに見えた
って、なにいってんの、わたし
こんなやつに―――
「アカネ君」
「なによ」
「アカネ君は、タロウを、この街を、友達を助けたいんだよねぇ?」
「あたりまえじゃん・・・でも、そんなのアンタに言われたくない」
「そうだねぇ、私が、君にそんなことを言える資格はないことは、よぉくわかっているよ」
アレクシス、ホントにしつこい
でも、こんなだったっけ、アレクシス
なんか変
いつも変だったけど
「もう時間がないんだ、タロウも、この街も、そして私も」
どうしたの
なに言ってるの
ホントにどうしちゃったの。
「おっと、これはいけない」
痛いくらいの熱さと一緒にふりかかる光
耳がおかしくなりそうなくらいすごい音
埃くさくて目を開けられないくらいの風
そうだった、タロウは、まだ戦ってたんだ
あたしの作った怪獣と、トレギアと
「大丈夫かい?アカネ君」
タロウが倒れている
肩で息をして
胸のカラータイマーが赤く点滅して
もう、タロウは限界なんだ
「そんな、ウソでしょ・・・って」
アレクシスの顔が、半分無くなってる
ウソでしょ?
「アレクシス、顔が・・・」
「大丈夫だよ、アカネ君。これくらい、平気さ」
ダメじゃん
大丈夫なわけないじゃん
頭、半分無くなってんじゃん
もしかして
さっきの爆発から、わたしを?
「アカネ君、これが本当に、私の最後のお願いだ、君とタロウの絆、私につながせてくれないかい」
どうして?
なんでそんなに必死なの。
「お願いだよ、アカネ君」
アレクシスの目が
見たことない色で光ってる
こんなアレクシス
見たことない
「私が、私でなくなってしまう前に。まだ、私にできることが残っている内に」
アレクシス
わたしは、貴方を信じられない
貴方がしたことは、本当にひどい事
でも
それは
わたしがしたことでもあるんだよね。
「アレクシス」
「なんだい、アカネ君」
「―――いつものアレ、お願い」
「アカネ君―――!」
なんなの
アレクシス、目から超光がもれてんじゃん
もしかして
泣いてんの?
「ありがとう、アカネ君」
ああ、いつものアレクシスだ
なんか、ひさしぶりだね
「それじゃあいくよ、アカネ君!」
イヤなこと思い出すけど
ちょっとムカつくけど
なんか懐かしい声
「インスタンス・アブリアクション!――――――オーヴァー・ジャスティス!!」
え?
しらない、なにそれ
そう思った時
あたしが抱いていたタロウのフィギュアは
光になって飛んでいった。
『もうこれでおしまいなのかい、タロウ?もっと楽しませてくれると思ったのに』
瓦礫の上に倒れタロウを踏みつけ、トレギアは嗤う。
『・・・もうやめるんだ、トレギア。これ以上、あの子の心を踏みにじるな』
『その姿で言われても、なぁんにも面白くないねぇ、タロウ』
トレギアはじんわり力を込めて、タロウのみぞおちを踏みにじりながら思い出す。宇宙の片隅で見つけた、微かな、ほんの微かな、心の闇。
やもすれば見過ごしそうにもなった、小さな、ほんの小さな、消えてしまいそうなくらいに小さな闇の欠片。
それを、運よく目に止め見つけたことは、本当に僥倖だった。狂喜したといってもいい。
なにしろ
また、新しい玩具と、心から愛すべき親友と遊ぶ理由が手に入ったのだから。
でも、そろそろお開きの時間
いかに愛すべき親友でも、幻影は倒せない
0と1だけで作り上げられた
概念しか存在しないものは
誰にも触れることは出来ない
『そこでゆっくり見ているといいよ、タロウ』
赤く点滅する命の灯
それも、薄く、弱々しくなっていく
くだらない
光の力がなくなるだけでこの有様
光の力がなければ何もできない歪さ
正義とか悪とか
そんなものにこだわるから
それが鎖となって自分自身を縛り付けていることに気付かない愚かさ
そして、そんな簡単な事にも気づかない
愚かで、そして心から愛すべき友。
『この世界が、滅んでいく様をねぇ!』
新しいもう一つの光が、絆の力でつながり結ばれた時
再び命の光が、空に輝いて
タロウが飛び立つ
タロウが戦う
『シェアッッ!』
気合一閃
蒼空に舞う、深紅の巨人
青空を飛ぶ飛燕のように大空を舞い、引き絞られた強弓のように力を溜めた蹴りが一直線に飛来して、デバダダンのドーム窓のような頭に直撃した。
たまらず大地に転げるデバダダン、そして、驚愕と戸惑いの入り混じる咆哮。そして、閃光と共に現れた、もうひとりのタロウ。
『セアッッ!』
軽やかな着地と同時に、その巨体から想像もできない全身のバネを爆発させ跳躍し、回転しながら繰り出す空中蹴りがトレギアに炸裂した。
本物に引けを取らない、否、タロウの放つ威力そのものの衝撃に、トレギアは踏みつけていたタロウの上から突き飛ばされるようによろめき、後じさる。
『なんなんだい、君は。双子だったなんて聞いていないよ』
わざとらしく埃を払うような仕草、そんな余裕を崩さない態度の裏側に、微かな狼狽が滲む。今、目の前に現れたのは、紛れもなく、もうひとりのウルトラマンタロウ。
『こんなバカな話があるのかい』
苛立ちと、新鮮な驚き、それらがないまぜとなった様子で、トレギアは突如現れたその親友と瓜二つの姿を睨む。
しかし、もうひとりのタロウは、トレギアに見向きもせず、瓦礫の上に横たわるタロウの傍らに立つと、胸の前で腕を組み、そして、両手をかざすように差し出した。
その指先からあふれ出る光は、やがてタロウを包み、太陽の光を切り取ってきたかのようなまばゆい金色に輝き始める。
『これは・・・この光・・・この暖かさは・・・』
激痛に疼く体が軽くなる、凍り付いたような全身に、じんわりと優しい暖かさをともなって、蘇り始めた感覚が、潮流のように駆け巡る。
そして、タロウは知る
その、光の贈り主を
その、純粋な願いを
『ありがとう・・・アカネ君!』
埃と煤にまみれた体が深紅の輝きを取り戻し、青く輝く命の灯と共に立ち上がったタロウは、その金色の目に再び闘志の炎を灯らせる。
『シェアッッ!!』
重なり合う気合一閃、並び立つ深紅の巨人は、蹂躙される街と人とを守ろうとするように、トレギアとデバダダンの前に立ちはだかる。
『ショワッッ!』
光の願いと共に現れたもうひとりのタロウ、タロウ・スピリットは、大地を蹴り、深紅の旋風となってデバダダンに飛びかかり、その岩盤のような胸板に飛び蹴りを炸裂させる。
『セアッッ!』
よろめくデバダダンに立ち直る暇も与えず、タロウ・スピリットは牽制の光弾を放つ。しかし、連射された赤い光弾は、デバダダンの表面を覆う外殻の上を滑るように吸収された後、胸板から延びる角の先端に収束され、数倍の威力となって撃ち返された。
『ジェアッッ!?』
カウンターとなって撃ち返されたレーザーを浴び、タロウ・スピリットは爆炎と共に押し返される。しかし、次の瞬間には、大地を蹴り、怒れる猛虎のように迫り間合いを詰めたタロウ・スピリットは、暴風さながらの正拳突きの連打を浴びせ、デバダダンの強固な外殻を次々に粉砕していく。
痛烈な反撃を受け、たまらず鉤爪を振り下ろしたデバダダンの攻撃を受け流し、その腹に前蹴りを浴びせると、その勢いのまま首根っこを掴み、その勢いを巴投げの型へつなげ後方へ叩きつける。
デバダダンは、大地に叩きつけられた衝撃で、自分の体重がそのまま凶器となって全身に炸裂し、たまらず悲鳴を上げた。
『どうしてこっちの偽物は、コレに攻撃できるんだい、おかしいじゃないか』
『トレギア、お前の相手はこの私だろう!』
タロウ・スピリットの背後から、紫電の雷撃を放とうとしたトレギアの前に、タロウが立ちはだかる。
『君は、勿論本物のタロウだろうねぇ?』
『偽物も本物もない!』
タロウは、デバダダンと戦うもうひとりの自分の姿を一瞬振り返り、再びかつての親友と対峙する。
『あの姿も、光の願いから生まれた、もうひとりの私だ!!』
デバダダンが苦し紛れに放った収束レーザーも、タロウ・スピリットが咄嗟に展開させた青い光の壁に弾かれ、消滅する。そして、連続で放たれた深紅の光弾の連撃を受け、反射鱗のほとんどを砕かれた体に炸裂する強烈な爆破に悲鳴を上げた。
『お前は、あの子をみくびっていた。あの子は、お前が思っているよりももっと、たくさんの人々に愛され、そして、暖かい光を持っている』
『光だ、闇だ、そんなもの何の意味もないさ。あるのは取るに足らない、情動の意思だけだよ、タロウ!』
『確かにお前の言う通りだ、トレギア。誰にでも、何にでも、光と闇はある』
『認めるのかい、タロウ。光やら正義やらの無意味さを!』
『認めるとも!だからこそ、我々は生きるのだ!正義と悪、それらを乗り越え、その全てを理解し、認め共に歩んでこそ、その先がある!
だから、命あるものは進むのだ。時を重ね、世代を重ね、それを乗り越えたその先を知るために!』
『結局綺麗ごとかい、もう沢山だよ!』
苛立ちと共に放たれた紫電の雷撃を、タロウは光の風と共に振りかざした掌で消滅させる。
『驚いたね、初めて見る力じゃないか』
『私だけの力ではない』
タロウは、光る風をまとう拳を静かに握り締める。そして、更に輝きを増した光の風。
『これが、心の力。お前が取るに足らないものと言い捨てた、人の心だ!』
タロウを取り巻く光は、やがて黄金の風となってその全身を包む。体に走る銀色のラインをなぞるように、金色のラインが縁取り優雅に浮かび上がる。黄金の光は、レッド族の象徴である白銀のプロテクターにも、黄金の装飾を浮かび上がらせた。
そして、新たな黄金の装甲を彩るように、遠慮がちに、しかし確かな輝きを放つ、薄紫色の小さな宝玉。
『人の心は、時として邪悪となる。そして、それは目にするもの全てを恐怖させる深い痕を残す。しかし、いくら邪悪であっても一握りの過ちの為に、この星に満ち溢れる多くの温かい心を見捨てるわけにはいかない!』
タロウの心の底からの偽りない言葉、そして、その言霊の力に呼び起こされるように、タロウ・スピリットもまた、みなぎる力を解き放とうするかのように、大きく両腕を振りかぶり、全身の力を引き絞るように両の拳を脇に構えた。
そして、大地をなぞるようにかざした右手を支えるように、握りしめた左の拳を組み上げた瞬間、全身を虹色に輝かせたタロウ・スピリットが放つ、七色に閃くエネルギーの奔流がデバダダンに浴びせかけられた。
限界、元々この次元の存在でなかったその体を維持できなくなったかのように、デバダダンは空中に0と1のホログラムをまき散らせた刹那、爆散、消滅した。