A Wish ~星に願いを~   作:あらほしねこ

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夢六夜『光ノ子』

 なぜ

 どうして

 こんな虫けら以下の連中が

 神にも等しいウルトラの戦士に

 新たな力を与えるなどと

 ありえない

 あってはならない

 しかし

 目の前の眩いばかりに輝くその姿は

 紛れもない現実

『トレギア、この星から立ち去れ。そして、二度と触れようとするな』

『なんだって?』

『この星は、この星を生きる人は、お前が思っているほど、小さくも弱くもない』

『・・・フン』

 親友の、相変わらずな言葉

 もう、毒気を抜かれてしまい、興が冷めた

 言われなくてももうこれ以上

 こんなつまらない辺境の田舎惑星にとどまる気はない

 ああ

 もうたくさんだよ

 でも

 楽しかったよ

『わかったよ、タロウ』

『・・・トレギア』

『それじゃあ、また会おう』

 上空に呼び出した、次元の狭間の門となる暗雲。ゆっくりと浮き上がりながら、紫電に出迎えられるようにくぐり抜け、暗雲や紫電と共に次元の狭間に吸い込まれるよう消えた。

 そして、タロウと共に、それを見守っていたタロウ・スピリットも、自分の役割を終えたかのように、全身が光の粒子に変わる。

 やがて、小さな光の球となったそれは、春風に舞うタンポポの綿毛のようにふわりと風に乗って、穏やかに漂いながらアカネの腕の中に帰ると、手作りの人形の姿に戻っていた。

 

 

 

 おわったんだ

 トレギアも

 怪獣も

 みんないなくなったんだ

 でも

 壊れた町

 いなくなった人は

 もう元には戻らない

 わたしはまた

 取り返しのつかないことをした

 この町に

 沢山の人に

 タロウに

 たくさん

 たくさん

 迷惑をかけて

 どうしよう

 わたしは、どうしたらいいの?

『アカネ君、まだ、終わってはいないよ』

 空から聞こえてくるような、優しい声

『泣かなくていいんだよ、今の私には、君からもらった力がある』

 タロウ

 どうして?

 どうしてそんなに優しいの

 でも、痛いよ

 胸が、心が、痛いよ

『アカネ君、大丈夫だよ』

 タロウが大きくうなずいている

『大丈夫だから』

 そして

 タロウは

 ゆっくりと両手を空にむかってのばした

 光り始めたタロウの両手から

 たくさんの

 たくさんの星があふれだした

 あとからあとから

 いつまでも

 いつまでも

 それは

 空を包み

 街を包み

 わたしを包んでいく

 きれい

 あの時見た

 星の海みたい

「うそ・・・信じられない」

 光の星は、光の海になって全てを包み、光に包んでく

 そして、パレードみたいな星の粒と光が、少しずつ止んでいって

 やがてみんななくなった時

 あたしが立っていたのは、元どおりになった街

 何が起こったのかわからないように、戸惑うような顔の人たち

 全部

 全部もとどおりになっていた

『ありがとう、アカネ君』

 呼びかけるタロウの声に空をみあげると

 金色の鎧も

 紫色の宝石も

 みんななくなっていて

 元の姿に戻ったタロウがいた

『君が力をくれたから、できたんだ』

 タロウが、嬉しそうにうなずいている

 あたしも、嬉しいよ

 でも

「ごめんね・・・タロウ」

『どうして?』

「せっかく強くなれたのに・・・また元に戻っちゃったから」

『いいんだ、アカネ君』

「え?」

『私が欲しいのは、力ではないんだ』

「タロウ・・・」

『その笑顔が、私にとって最高の贈り物なんだよ』

「うん・・・」

『だから、どうか、笑ってほしい、アカネ君』

 ありがとう

 ウルトラマンタロウ

 わたしの

 夢のヒーロー

 

 

 

『ありがとう、レオ君。君のおかげで、もう心残りは無くなったよ』

「そうか」

 ビルやマンションが立ち並ぶ街の片隅

 ビル風にあおられて僧衣をはためかせる、初老の托鉢僧がひとり

 その手には、ひび割れた黒曜石のような結晶がひとつ

『君が、彼を説得してくれなかったらと思うとねぇ』

 半分に欠けた黒い結晶を手に、托鉢僧は、ほんの偶然でしかなった邂逅を思い出す。

 だがあれは、本当に偶然だったのだろうか。それは、今でもわからない。

 わからないことなど、この星の海にはいくらでもある。

 自分とて、この星の海の全てを知ったなどと、とてもではないが言うことはできない。

『まったく、これで無限の命を持て余していたつもりになっていたなんてねぇ』

「そうか」

『君達を見ていたら、私なんかまだまだちっぽけなものだったよ』

 そう、たかが数千年程度、彼らにとっては取るに足らない時間。

 それに比べれば自分などどれほどのものか。

 しかし、それを知った時は、もう何もかも遅すぎた。

「・・・未練か?」

『そうだねぇ、でも、もういいんだ。もう、いいんだよ』

 ほんのわずか、潤むような光を湛える黒い結晶。托鉢僧は、ふっと淡い笑みを漏らす。

「―――お前は、あの子を愛していたんだな」

 托鉢僧の言葉に応えず、黒曜の結晶は小さく光を反射する。

『それにしてもだよ』

 咎めるようにも、からかうようにも聞こえる声

『いくらなんでも、あの言い方は厳し過ぎだったんじゃないのかい?見ていて冷や冷やしてしまったよ』

 話を逸らそうとする声に、托鉢僧はあの時と同じ確信をもって応える。

「あの子は、最後の最後まで友達を見捨てなかった。あの子の心は強い、タロウ兄さんの目に、狂いはなかったということだ」

 托鉢僧の力強い言葉に、黒曜の結晶は一瞬沈黙し、遠慮がちな光沢を放つ。

『―――さあ、いい加減彼も待ちくたびれているだろうしねぇ。手間をかけさせてすまないけれど、そろそろ連れて行ってくれないかい?』

「ああ」

 托鉢僧は、小さくうなずきながら手の平の結晶をたもとにしまい、蘇った街を歩き出す。

 そして、思い出したように足を止め、ふと振り返る。

 遥かに見える兄の姿、そして、兄と共に戦った小さな友。

 その姿に、托鉢僧は少年のように微笑み、再び歩き出した。

 錫杖の音をひとつ残して。

 

 

 

 夕焼けがきれいな河川敷で

 わたしは

 タロウと一緒に、沈む夕陽をみていた

 街のために戦ってくれた、巨人の姿じゃなくて

 あの時、一緒に星を見に行った時みたいに

 一緒に、隣にいてくれた

「もう・・・みんな、終わったんだよね」

「うん」

「でも・・・もう、帰っちゃうんだよね」

「そうだね」

 なんでだろう

 わかってたのに

 しょうがないのに

 涙が止まらない

「アカネ君」

 タロウがふりかえる

 夕陽に照らされて、真っ赤に光る姿は

 今まで見たなによりも

 とても、綺麗だった。

「どんなに離れていても、私はいつでも君と共にある。約束しよう」

 暖かくて、優しい声

「うん・・・ありがと、タロウ。それと・・・これ」

 わたしが作ったタロウのフィギュア

 戦いの痕が残って

 ちょっと傷だらけになっちゃったけど

「もう一度・・・もらってくれる?」

「もちろんだよ、無くしてしまって、本当に済まないと思っていたんだ」

 タロウは

 ほっとしたように受け取って

 嬉しそうにうなずいてくれた

「アカネ君、君に会えて、本当に良かった」

「うん・・・わたしもだよ・・・」

 忘れない、忘れられるわけなんてない

 この星の海のどこかで

 タロウに会えたキセキ

 わたしの、一生の宝物

「君の心は、本当に温かいな。光の子に出会えて、私は幸せだ」

「えっ・・・」

「また会おう、アカネ君。そして、また一緒に星の海を見に行こう」

「うん・・・絶対だからね・・・約束だからね・・・」

「ああ、必ずだとも」

「わかった・・・それじゃ、いってらっしゃい、タロウ」

「ありがとう、アカネ君」

 タロウはゆっくりと夕焼け空を見上げた

 そして、もう一度わたしを見て

 ふわりとジャンプした

 ありがとう

 本当にありがとう

 夕焼け空に飛んでいく

 綺麗な

 綺麗な一番星

 わたしは、ずっと手をふりつづけた

 また会おうね、約束だから

 タロウ

 

 

 

「アーカーネぇ――――っっ!!」

 わたしを呼ぶ声

 クマっちだ

 すごい勢いで走ってくる

 よかった、大丈夫だったんだ

「あっ、クマっち・・・うわあっっ!?」

「アカネぇー!良かったぁ!無事だったぁーっ!」

 クマっちが泣いてる

 すごい涙

 大きな声で、わんわん泣きながら

 力いっぱい、あたしを抱きしめてくれる

「気を失ってさぁ!目を覚ましたらさぁ!アカネがどこにもいなくてぇ!」

 痛い

 でもうれしい

 心配してくれたんだ

 ごめんね

 でも、ありがとう

「探したんだよぉ!ホントに、ホントに探したんだよぉ!?」

 わたしを抱きしめるクマっち

 あったかい

 ほんとに

 あったかい

「ありがとね、クマっち」

 本当に、ありがとう。

 みんな

 本当に

 ありがとう。

 

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