恋人未満な九歳差   作:黒マメファナ

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二人きりになれない団欒

 ──それは大学時代のダチと飲み会をしていた時の話だった。飲み会の帰り、飲み過ぎたダチを介抱していたところ、ソイツが終電を逃したと言い出した。その焦りもあってか流石にもうだいぶ酔いが醒めてきたらしく、今度は顔を青くしていた。

 

「タクシーかぁ……」

「んじゃあウチ泊まるか? 安くしといてやるよ」

「マジで?」

 

 そんな安請け合いはしたものの、ちょっと待てと一応美咲に連絡をしておく。今日は夜ご飯がいらねーことも伝えたし、それ以外に確かなんもなかったからもしかしたらいないと思いつつも電話を掛けた。

 

「え、今美幸さんと花音さんと一緒なんだけど」

「二人は泊まりか?」

「うん」

 

 まずったなと思って、頭を捻っていたところで、別に私はいいと思うよ、と美幸の声が聞こえた。

 そんなのまずいだろと思ったところで別に寝るとこ工夫するから大丈夫だよと美咲も言った。

 

「花音は?」

「わ、私は……顔は出せないと思いますけど……いいと、思います」

「あたしの部屋は鍵掛かるし平気でしょ」

 

 まずいとか女の子三人に見ず知らずの男を一緒に泊めるのが危ないだとかそんなことは言うものの、結局手だてがあるわけじゃねーってこともあって三人の厚意に甘える結果に落ち着いた。

 

「え、かわいい?」

「手出すなよ」

「いや、かわいかったら……って、わかってるよそんな顔すんなって」

 

 でもやっぱり不安だ。そう思いながら俺は自分の家に通した。

 扉を開けるとおかえり、と声がする。美咲の声に俺は後ろにダチがいることも忘れてほっと一息、ただいまと声を発した。

 

「えっと、あたしは奥沢美咲って言います、初めまして」

「え……なぁ、いくつ?」

「レディーに年齢を訊ねるのは野暮だってお前も言ってただろ」

 

 誤魔化しておく。確かに美咲は明らかに十代ですって感じの見た目だしな。美幸とは面識があるためある程度はフランクに接していた。花音は宣言通り美咲の部屋から出てくるつもりはないらしい。

 

「いいな、両手に花でよ」

「別に俺のじゃねーけど、合意の元で頼むな」

「幹人さん、冗談でも今のはないよ?」

 

 しまった。男同士のクセが抜けてねーのか俺も酔いが回ってんのか、余計なことを言っちまったらしい。美幸が物凄く怒ってる。美咲もあんまりいい顔はしてねーしな。

 水を飲みながら、客間を案内してやった。けど、美咲の部屋に三人は寝れねーだろ。鍵がついてんのも美咲の部屋だけだし、釘を刺したとは言え心配だな。

 

「いーじゃん、幹人さんは美咲ちゃんと寝れば?」

「え、ちょ、美幸さん……!」

「だっておにーさまががっちりガードしてれば手は出せないし、私と花音ちゃんで美咲ちゃんの部屋で安全に寝てるからさ」

「いやいや、待って……あたしが、幹人さんと……」

 

 それこそ間違いの元である気がするんだが、と俺も思うんだけど、美幸はそれは二人きりの時にしてとあしらわれた。意識してるから余計に一緒ってのは危ないだろ。それだったらまだ花音とかの方がいいだろ。

 

「それこそ美幸(いもうと)に手を出すつもりなんてないしな」

「……だって、どうする美咲ちゃん?」

「あたしが一緒に寝る」

「ん?」

 

 さっきと言ってること全然違うんだけど、なんなんだよ。そう怪訝に思っているのはどうやら俺だけのようで、美幸はそれじゃあね、と行ってしまった。リビングに美咲と二人、取り残される。

 

「やっぱ、あの時とは違うよね」

「……だな」

 

 あの時はお互い傷だらけで、それを舐め合うので精一杯だった。だから一緒のベッドで寝れたのかもな。俺は杠葉の温もりを求めて、美咲を抱き寄せて、美咲も安心したように寝息を立てていった。あの時アヤマチを犯さなかったのは断然、俺が杠葉一色だったからだな。

 

「幹人さん」

「ん? どうした、なんか嫌なことでもあったか?」

「ううん……ほんのちょっと、甘えたくなった」

 

 ソファでちょっとだけ近づいて、美咲は俺の肩に自分の頭を乗せた。手はしっかりと繋がれていて、その動きが前までは何か嫌なことがあったり、我慢することがあったりするとしてきたことだった。今は、違うんだな。

 

「久しぶりじゃん、二人きりなの」

「いるけどな」

「それでも」

 

 美幸はまぁ、前々からあの家に居場所がねーって感じてたみたいだからな。あんまり帰りたくねーんだとよ。それを許可したのも美咲だったな。

 その時の話は俺は知らねーことなんだけど、あれからより一層美咲と美幸の仲は良くなったよな。

 

「ずっと寂しかったところもあったんだ。幹人さん一人で待つのがちょっとね。でもこうやって二人きりになれるのも……たまにはいいなって」

「ごめんな……あと、ありがと」

「んっ……急にすんな、ばーか」

 

 ああ、なんか美咲を見てると思うな。俺は杠葉ともっと甘い同棲生活を想像していたんだ。そんなことを考えてる時点で見えてなかったんだろうけど、少なくとも俺は杠葉が同棲することでもっと砕けてくれると思ってた。彼女に告白をして私も好きだったという言葉をもっと行動にしてくれるんだと思い込んでた。

 

「あ、あのさ……」

「ん?」

「急に……じゃなかったら、いいよ」

「身構えられると困るんだけど」

 

 そんな攻防をしていると今度は美咲にヘタレと言われた。流石にカチンと来る言い方だけど、美咲は煽ったらしてくれるんでしょ、みたいな顔をしていた。ヘタレはどっちなんだか。どうにも美咲はまだ恥ずかしいらしく、自分からとれるスキンシップは手を繋いだり甘えるので精一杯らしい。だから、俺はまだ手を出すとかは考えてねーんだけど。

 

「ほら、そろそろ寝ねーと、明日学校だろ?」

「……幹人さんは休みだよね」

「そうだな」

「……サボろうかな」

 

 やめとけ。あんまり賢いとは言えねーからな。それに、ちゃんと休みを取ってあるからそん時にいくらでも甘えられるから。頭を撫でてやると、美咲は唇を尖らせてなんか違うと言い出した。何が違うんだろうな。

 

「あたしは、九歳差を意識したいわけじゃないもん」

「んーっと、どういうことだよ」

「子ども扱いは嫌ってこと」

「はいはい……いいから今日はもう寝ろ」

 

 だってな、今は子どもだって思っとかねーとお前と一緒に寝れないだろうが。

 まだそこまでの覚悟は俺にできてないから、今のところは悪いけど、前のままのスタイルでやらせてもらう。

 背を向けて広いベッドの両端で寝ることになったのだが、電気を消した途端に美咲がもぞもぞと俺の背中にまでやってきた。

 

「どうした?」

「ん……なんでもない」

「なんでもなくはねーだろ」

「いいから」

 

 仕方ねーなと俺は寝がえりを打ち腕を差し出した。美咲は少し迷った素振りを見せていたが、やがて諦めたように腕に頭を乗せて、いいよ、と頷いた。どういう意味だよと一瞬思ったけど、俺は抱き寄せてほしいという意味だと解釈をすることにした。頭を撫でて美咲を落ち着けたあの頃と同じやり方で、俺はもう傷も見えない少女を抱きとめた。

 今度は自分勝手な願いのために、ここにいてほしいという想いを込めて。

 

「キス、って意味だったのに……」

「また今度な、今日は寝てろ」

「……うん」

 

 今日はこれ以上線を踏み越えるつもりもねーからさ。だから不安がってないで目を閉じてろっての。俺はお前にとって最も信頼できるヤツになるって決めてるんだからな。美咲が本当にいいって思えるまで俺は待ってるつもりだからさ。

 

「ホントにシてないの?」

「シてないってば……」

「本当にさ、幹人さんは性欲ないのかと思うよねぇ」

「いやいや、あたしもしてほしかったわけじゃないし」

 

 ──けど翌日、美幸が美咲とそんな話をしていて、俺は顔をしかめることになった。お前らとっとと学校行けよ。ちなみに朝一の電車でダチは帰っていった。おずおずと朝ご飯は、と問いかけた美咲にカッコよく手を振ってな。サンドイッチ、今頃食ってるんだろうか。

 

「朝からそういう話すんのはやめろっての」

「今じゃなきゃいつするの?」

「俺がいねーとこ」

 

 おにーさまにも言ってるんだよ、と美幸が何故か呆れ顔をしてきた。美咲としても話を早く逸らしたいようで、もう行くからねと花音と一緒に支度をし始めていた。なんか増々美幸と美咲が姉妹に見えてくるな。いっそ本物の姉妹より姉妹だな。

 

「でしょー、わたしの妹、かわいいでしょう?」

「はいはい、その妹と一緒に学校行きたきゃとっとと支度しやがれ」

「あ、それは一大事!」

 

 最近、どうにもココが賑やかになった。美咲と一緒に暮らしてるって意識が強いところではあるけど、美幸が来て、花音がやってくるようになって、妙に暖かな空間になってるな。

 そんな家族の温もりみたいなものを感じながら、俺は三人に行ってらっしゃいと微笑んだ。

 美咲と俺がいて、今はそこに色んな人がやってくる家、それは俺が以前は感じなかった幸せだった。

 

 

 

 

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