恋人未満な九歳差   作:黒マメファナ

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本当ではない家族

 あたしの家族のお話。家族って言っても本当の家族じゃなくて、お姉ちゃんみたいな存在って意味だけど、家族みたいなヒト。

 喜多見美幸さんの様子が少しおかしいことに気づいた。なんか元気がない感じ。疲れてるのかなって思った。

 

「美幸が?」

「うん」

「俺には普通に見えたけど」

「鈍い」

「はぁ? 今のはムカっとした」

 

 と、そんな鈍い幹人さんは放っておいて、あたしは美幸さんのところに向かっていった。丁度ビューティーコーナーで顧客とかの情報を取り扱ってるから、オフのあたしはカウンターのところに座る。

 

「お疲れ、美咲ちゃん」

「うん、お疲れ」

「今日はどうしたの?」

 

 どうしたの? と言われてちょっと迷った。これをバカ正直に美幸さんに話してもいいのかな。案外美幸さんは隠し事上手で、隠しがちなタイプだしね。

 でもあたしとしてはやっぱり、美幸さんに元気がないならあげたい。こころに影響されまくった感じだけど、大切な家族なんだもん。そう思うと回りくどいのはよくないよね。

 

「美幸さん、最近……元気ないから」

「あ……もしかして、心配してくれた?」

「そりゃそうだよ、だって」

 

 あたしは美幸さんのこと、本っ当にお姉ちゃんだと思ってるから。

 ごっこだとかなんだとか言われても、関係ないよ。あたしは美幸さんのために何かをしてあげたい。

 

「疲れてない?」

「うーん、疲れてるというより、最近お姉ちゃんがね」

 

 お姉ちゃん、というと杠葉さんのことか。幹人さんの元恋人。そして最近幹人さんの周りに女性の影があることに遅まきながら気づいたらしいヒト。

 そんな杠葉先生がどうやら美幸さんが最近どこに通っているのかを知ったっぽそうだ。あたしの予想通り、美幸さんは姉に問いただされていることを明かしてくれた。

 

「ホントさ~、お姉ちゃんが凄い顔するんだよね……」

「あのヒト、すごい表情読めなくない?」

「そ! けど怒る時はすごく分かりやすくてさ」

「そうなんだ……でもわかる気もする」

 

 優しい雰囲気だけどそこはかとない深みを感じる笑顔だもんね。あたしも一度あの笑顔の真の怖さを目にしたことがあるからよくわかる。

 元カノってこと自体、あのヒトは認められてない。別れたとか言いつつ、全然別れたつもりもないらしい。

 

「そ、そうなんだ……お姉ちゃんが」

「そそ、表情がすっと冷たくなった感じで」

「わかる、お姉ちゃん怒ると温度下げるパワーあるよね~」

 

 しばらく杠葉先生に関するトークで盛り上がる。このお店はセーフポイントだもんね、なにせ()()()がいるから。

 そうやって言うと美幸さんは、ちょっとだけ引き攣ったような笑みを浮かべた。

 

「み、美咲ちゃんも案外挑戦的だよね……お兄ちゃん関連は特に」

「そりゃあね」

 

 幹人さんのことを好きでいるということを、幹人さん自身に認知されて、恋人未満とはいえ両想いを確認したあたしだもん。美幸さんにはない杠葉先生に対する有利があるから、なんなら美幸さん(おねえちゃん)はあたしが守ってあげる、くらいのテンションだからね、今は特にさ。

 

「頼もしい義妹だよ……」

「あはは、義姉ちゃんが強くしてくれたからね」

「よしよし、じゃあ今日はお兄ちゃんとこ行っといで」

「はーい」

 

 あたしと話しているうちにすっかり元気を取り戻したらしい美幸さんは事務所の方を指さした。今日は美幸さんと幹人さんはなんと珍しいことに早上がりの方らしく、一緒にご飯の準備をしようねって約束をしていた。

 事務所に戻り、一人でパソコンに向き合っていた幹人さんの背中にもたれかかった。

 

「重い」

「女の子に重いって言う男はモテませんよ」

「うるせーよ」

「別にモテなくていいけど」

「なんだお前」

 

 だってモテモテになったら困るし。今は幹人さんの魅力はあたしと、あとお姉ちゃんの美幸さんだけが知ってればいいんだけど。

 肩に顎を乗せていると、手が伸びてきて、あたしの頭をちょっとだけ乱暴に撫でてくる。苦笑交じりのその顔が、なんかムカつくんですけど。

 

「子ども扱い」

「甘えてくるから、リクエストに応えてるだけなんだけどな」

「……ばーか」

「今日はどうした?」

 

 どうもしてないけど、ただ美幸さんと分け合った笑顔を幹人さんにも伝えたいってだけ。あとそこのギフト券の金額間違ってる。

 そんなことを言うと、なんでそんな計算はえーんだよとため息をついてきた。

 

「美幸と何の話した?」

「女のヒミツ」

「あそう」

「うそ、杠葉先生のことちょっとね」

「……美幸のやつ、なんかあったって?」

 

 義妹想いのお兄ちゃんですこと。仕事終わったらゆっくり話してあげるとあたしが逆に幹人さんの頭を撫でた。すると恥ずかしそうにこっちを向いて、吐息がかかるくらいの近さにお互いの目線がぶつかった。

 しばらく、固まって、これはキスする流れだなとあたしは目を閉じた。

 

「お疲れ~!」

「っ! み、美幸さん」

「お疲れ、終わったか?」

「ふーん……美咲ちゃん顔真っ赤だよ~?」

「なっ……そんな、こと……」

 

 頬に手を当てたらめちゃくちゃ熱かった。逆になんで幹人さんがそんな平気そうなのかわかんないんだけど。それどころかお前のリアクションのせいで弄られるじゃねーかみたいな顔してるの悔しいんだけどさ。なんで、なんでそんな……ドキドキくらいしろって言いたい! 

 

「肩痛い、爪立てんな」

「うるっさい、ばか、ばかばか、ばーか」

「タイミング悪くてごめんね、美咲ちゃん」

「──っ、美幸さんもばーか!」

「……っ! み、幹人さん」

「知らん、というか俺はまだ仕事が終わってねーんだけど」

 

 言外にうるさいと言われて休憩用の椅子に座る。美幸さんは思いのほかショックだったようで項垂れているから変わりに備品の電気ケトルに水道水を入れていく。

 美幸さんは家からマグカップとティーバッグを持ってきてるから、その準備なんだけど。あの、ごめん……謝るからそんな落ち込まないでほしい。そんな想いを籠めてのお茶だった。

 

「へこみすぎだろ、美幸」

「だって~、だって~」

「俺なんかそんなんで落ち込んでられんくらいに言われてるからな」

 

 確かにね、あたし口癖みたいになってるかも。ばーかって。よよよ~、とわかりやすくリアクションしていた美幸さんは、紅茶を一口すすって一瞬だけ、あ、おいし、と笑顔になってからまた机に突っ伏した。忙しい人だなぁ、いつものことだけど。

 

「すっかり元気じゃねーか」

「美咲ちゃんとお話できたもーん」

「そうですか」

「あ、そういえば今日は手塚くんとお話した?」

「そ、それは今なし!」

 

 くすっと笑いが漏れた。幹人さんが楽しそうに笑って、あたしも笑って、頬が赤くなりながらも美幸さんがつられて笑ってしまう。

 ──と、そこに幹人さんのプライベートのスマホが着信を知らせてきた。

 

「……ん? はいもしもし」

「誰かな?」

「浮気?」

「幹人さんが? ないない」

「花音だようるせーなお前ら……あ、ごめん、うん今二人とも事務所にいて」

 

 浮気だった。花音さん、いつの間に連絡先を。というかこのタイミングってことは幹人さんも終わる時間を教えてくれてたってことだよね。やっぱ浮気じゃん、最悪、許せないからね流石にそれは。

 そういえば花音さんがいたのすっかり忘れてたところもあるんだよ。でもこんなカタチで思い出させてくるなんて思わなかった。

 

「あれだね、あの子のことナメてたらかっさらわれるかも?」

「やめて、これでも一応幹人さんのこと信じてるから」

「付き合ってないのに?」

「……ばーか」

「また!」

 

 なんやかんや言い合っていたら花音さんが今日一緒に晩御飯を食べることになっていた。

 ホントに花音さんは花音さんで頑張ってるんだなぁと何故か他人事のように思ってしまった。は、これが勝者の余裕? そんなこと言うから美幸さんに付き合ってないじゃんとか言われるんだよね。あれでも美幸さんだって両片思いみたいなもんじゃん。あたしと一緒ってことで。

 

「むしろあたしより進んでないよね、お姉ちゃんってさ」

「……反論できない」

 

 まだまだ美幸さんの恋路は前途多難らしい。それこそあたしと幹人さん程じゃなさそうだけど。

 結局、三人でご飯は協力して作ることになった。杠葉先生のことも大変だけどそれに関しては、というかそれに関してだけは花音さんも協力してくれることを約束してくれた。

 

「とりあえず来週の旅行、美幸さんはどうする?」

「え、行っていいの?」

「別部屋にしてるんだよ。美咲が寂しがるだろ?」

「ばか、言わなくていいっての」

「そういうことなら、行く!」

 

 こうして、一泊二日の旅行に行くことになった。夫婦ごっこをした相手との旅行じゃなくて家族旅行になるだけだし、あたしとしては、お姉ちゃんと一緒にお出かけしたかったからさ。

 すっごく楽しみだよって、それだけは本当だ。例え、この家族の関係が前の夫婦ごっこと同じ、本当のことなんか何一つない、ごっこ遊びのような間違いだったとしても。 

 

 

 

 

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