恋人未満な九歳差   作:黒マメファナ

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避けられない邂逅

 休日、俺はフラフラと駅近くのショッピングモールで時間を費やしていた。映画を観て、お昼を食って、お金を使う代わりに有意義な休日を過ごす。まぁ趣味って言えるものもあるわけじゃないし、貯金もしていけるくらいに稼いで……もとい稼がされてるわけだし。確かに家の維持費は高いけど、それでも()()()()に心配されるような稼ぎじゃねーしな。

 

「今日は、アイツ、何作るのかな……」

 

 無意識に呟いて、俺ははっとした。すっかり来ることが当たり前になってるんだよな。

 奥沢美咲は、別に俺のカノジョでも奥さんでもなんでもない。ただ赤の他人とシラを切るには近い関係ってのは確実だ。なにせ俺の家にはアイツの部屋があって、冷蔵庫の中身だとか調味料のあるなしってのは寧ろアイツの方が詳しい。美咲専用のオーラルケアやヘアケア商品が洗面所に置いてあって、風呂上りはリビングのソファでくつろいでスマホを触ってるようなヤツ。完全に第二の家として機能してる。制服姿で行ってくるね、と言われることなんてよくある話だ。

 ──行ってらっしゃい。まさかヒラヒラ膝上スカートの女子高生にその言葉を使うなんて誰が想像できたんだろうか。おはよ、となんの気なしに挨拶をしながらみそ汁の匂いがする朝を、エプロンを外した制服姿の女子高生と過ごすなんて誰も想像なんてできやしない。

 

「なんなんだろうな、俺とアイツの関係って……」

 

 何度も考えたこと、何度考えても答えはでないけど、とにかく俺は今の生活が気に入ってる。美咲はどう考えてるんだろうか。嫌だったらこんなことしない、と思いたい。義務感に縛られてるんなら、それは、正すべきものだからだ。

 

「伸びちゃうわよ?」

「あ、ああ……そう……だな……?」

 

 ラーメンを食べながら思考の海に没していたところに、サラっとした春の日差しのような声がかかる。あまりにも当たり前のように声を掛けられたことで俺は別に誰かと一緒に来ていたわけではない、ということに気づけず反応が遅れて、一口すすってから改めて向かいの席を見つめた。

 

「……だれ?」

「あら? あなたはあたしを知らないの?」

 

 いや知りませんけど、新手の美人局かなにか? それにしては若いし見た感じ制服着てるように……制服……ううん、どう考えても見たことあるセーラー。花咲川の制服だ。確かに昼から映画を観始めてフラフラものを見てからの遅めの昼だったけど、と思ってそこでようやく時計を見たら四時過ぎてた。おやつですねもうこれは。休みの日になると時計全然見なくなるんだよね。

 ──それでも、キミは誰だと言いそうになって、俺はその子の顔をじいっと見た。流れるような金髪、楽しそうに揺れる金色の目。あどけないその顔は間違いなく、美咲のいるハロー、ハッピーワールド! のボーカル、弦巻こころだ。

 

「つ、弦巻、さん?」

「やっぱり、あたしのこと知ってるじゃない!」

 

 思い出しただけなんだけど、それでその弦巻さんがなんで俺に話しかけてきたんでしょうか? 正体がわかったらわかったでそれは不可解なところが多い。逆にキミは俺を知らないでしょう。

 

「あなたのお名前は宮坂幹人、でしょう?」

「……なんで知ってる?」

「美咲のスマホに名前があったわ」

 

 それで興味を持った、ということらしい。それで俺の正確な位置がわかるメカニズムはわからないがなんとなく、それは知らなくていい気がした。

 弦巻さんはふふふと笑ってから、ライブにも来ていたの? と問いかけてきた。

 

「まぁな」

「ありがとう、嬉しいわ!」

 

 屈託のない笑顔、キラキラってよりはもう、ピカピカって感じだ。美咲はコレとバンドを組んでるのか、やっぱダウナーでも女子高生だ。俺にはもうこんなエネルギーは浴びただけで灰になりそうだよ。

 

「それで、わざわざ来て、弦巻さんは何か目的でもあんの?」

「ええ、そうよ」

 

 こんな休日をのんびり過ごす俺んとこにわざわざ来たんだからそりゃそうだよな。弦巻さんは太陽の光を直接浴びせられるような笑顔を崩すことなく、まっすぐに俺にとって大迷惑な言葉を発した。

 

「あなたの家に連れて行ってほしいの!」

「……へ?」

 

 いやいや、お前なに言ってんのとツッコミを入れたくなった。この天真爛漫女子高生様はなんと、なにを考えたか俺の家を案内しろと要求してきたのだった。そんなに俺を犯罪者にしたいのかこの世界はと慟哭したい。叫びたい。叫んだら捕まるけど。絶対こんなの誰かに見られたら警察行きでしょ、嫌だよそんな理由で犯罪者なんて。

 

「どうして、俺の家になんて?」

「美咲がお昼に連絡していたでしょう?」

「あ、ああ」

 

 映画に行く少し前の話だな。今日は部活が終わったら行くから六時くらいって言ってた。あんまり遅くなって真っ暗になるようなら駅まで迎えに行くって送ったんだよな。返事はばーか、だったけど。

 んで、それが弦巻さんが俺の家に行きたがる理由とどう繋がるのかちっともわからない。

 

「その時の美咲、とても嬉しそうだったの!」

「だから?」

「だから、気になったのよ! 美咲にとって素敵なことがあるのなら、気になるじゃない?」

「あー、そういうこと……」

 

 つまり、弦巻さんは俺の家に美咲が笑顔になれるような素敵な、それでいてカタチのある何かがあると思ってるわけね。何にもないです。俺は案外あの家に思い入れがあるわけじゃない……って言ったらウソだけど、それも思い出とかそういうカタチに残らないものだし。

 

「弦巻さんの期待通りにはならねーと思う」

「そうなのね?」

「おう」

 

 俺はそうやって断っておいてから性格もなにもかも全然違うタイプの女子高生を家に案内することになった。

 やれやれ、美咲に連絡しておこう。部活が終わった後にでも見てくれるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部活は三十分早く切り上げることができた。走れば間に合うということで部活終わりなのにダッシュをしてローカル線に乗り込んだ。やればできるじゃんあたし、なんて自分を褒めたくなったところで、スマホを確認しようとしたら、あれ? と声が聞こえた。

 これは、花音さんの声だ。

 

「美咲ちゃん?」

「花音さんに、白鷺せんぱい。これから喫茶店ですか?」

「そうなのよ」

 

 吊革につかまっている先輩二人に挨拶をする。片方はハロハピのドラムのふえぇな先輩、松原花音さん。そしてその隣の腹黒……じゃなくてなんとなく女王様風味なオーラのあるヒトは花音さんの親友で、しかも芸能人でもある白鷺千聖せんぱい。こんな人がいっぱいいるローカル線に乗ってて大丈夫なのかと思ったけど、人を隠すなら人込みの中、ってことか。みんな下向いててあんまり白鷺せんぱいのことなんて見てないだろうしね。

 

「美咲ちゃんはどうしてこっちに?」

「あ、あー、あたしは買い物、ちょっとほしいものがあって」

「そうなんだあ」

 

 そんなハロハピでも痛感させられてる花音さんのふわふわオーラに癒されていると、白鷺せんぱいはなにやら意味深な笑みを浮かべてきた。え、なにこの先輩こわ。というか白鷺せんぱい市ヶ谷さんにも、なんならあの花園さんにも恐れられてるからね。あなたは何をしたんでしょうね。いえ聞きたくはないですけど。

 

「下手な演技ね、うふふ」

 

 うわー、なんだこのヒト! 魔性というか、悪魔的というか、小柄なのにそれを感じさせない大人な雰囲気があたしは苦手だ。大人っぽくない大人とかが好きなんです、あたしは。

 とにかく女子高生が出しちゃダメでしょその色っぽさ。

 

「私、実は知ってるのよ?」

「何を、ですか?」

「あなたのバイト先」

 

 ぞわっと嫌な汗が出た。いや、なんだかんだで花音さんと仲良しな白鷺せんぱいのことだからそれを脅迫の材料とかにはしない善良なヒトだろうけど。というかあんなところになんの用事だったの、別にどうだっていいけど。ただ、このヒトには勝てないなぁと思わされるから、あたしも苦手な先輩なのに変わりはない。

 

「ねえ、美咲ちゃん」

「あ、はい」

「千聖ちゃんの言ってたこと、今度聞かせてね……?」

「……はい」

 

 まー、よく黙っていられた方だと思うけどね。花音さんにはなんでともどことも言ってなかったけど掛け持ちでバイトしてることも知ってるし、こころには今日、あたしのスマホの中をうっかり見られて、バッチリ幹人さんの家に行くのバレてるし。その時の顔がものすごく不安だったけど、なんにもしてないよねこころ? と思いながら、あたしは花音さんと白鷺せんぱいに挟まれてローカル線を過ごすのだった。

 

 

 

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