(番外編)もしCCAアムロが一年戦争にタイムスリップしたら 作:BLAUFALK
深夜3時すぎ、負傷者収容と応急手当てのために建てられたテントのベットはまさに地獄絵図といった具合で方々からの呻き声の大合唱。こんなもん眠れるか。
右手を首に吊るしつつ俺も俺でこのザマよ。あまり深手にならなかったのは幸いだったがあろうことか神経をやってしまった。操縦桿を握りコンパネを叩くその手の人差し指と中指が非常にぎこちない。
一応この中では軽症の部類に入るが、それでも鎮痛剤の投与が効かなければこの合唱団の仲間入りとなっていただろう_
ふと、ベットの横に置かれた水の入った紙コップを取ろうとして…僅かに振動があることに気づいた。
外のディーゼル式発電機だろう、確かにそれなりに騒音がする。オデッサの兵舎にあった洗濯機は年代物のスクラップで深夜の使用が禁止になったほどうるさかった。いや新しいものにしろという話だが、軍隊の財布の紐は固い。苦しくてベットで寝返りを打つ者もいるので振動はそれかもしれない。
それにしても腹が減った。昨日の早朝の非常呼集とブリーフの時点で朝飯すらまだだった。昼食については食ってる場合ですらない。そして夕方なんとかワルシャワに辿り着いたがなんとオデッサだけではなく、小さな地方基地しか持たぬキエフとブカレストからも続々逃れた部隊が押し寄せ、結果、食事の配給など望めなかった。
一口飲んでまた一口。
空になったのでベットを降り給水器で水を汲む。
ん…、やたら液面が揺れてないか。
俺は床にコップを置き、それをじっと見…刻一刻と振動が大きくなっていくことに気づく。何だこれは。
テントを飛び出し、オデッサのある南東方角を見る。
昼と違い滝のような大雨が降り、非常に寒い。外の音がロクに聞こえないが…この月の光りさえ差さない夜中だというのにうっすらとした灯りが何度か見える。
今頃撤退してくる友軍がいないとも限らないが万一がある。血に汚れたフライトジャケットを着、ヘルメットを被り走る。愛機はハンガーにあぶれ露天駐機。応急整備だけはしてもらっている。この基地には今元から所属する航空隊がおり、よそ者は自然、外に出てろというわけだ。
エンジン始動…すこぶる不機嫌な音がする。あまり慣れぬ左手で立ち上げと機体チェックを済ませつつ管制へあの灯りは何だと尋ね、ほかの駐機を避けながらタキシングに入る。管制からはこちらで異常は確認していないと返ってくる。
≪管制、こちらクロウ1。ミノフスキー粒子濃度はどうか?≫
≪中佐、タキシングは許可していません。当基地は最新の検出器を有していないため何とも。…いや、たった今基地南東の送電が止まりました。おそらく落雷かと。電力供給低下によりレーダー施設の稼働率が下がりました≫
≪いやいや、そっちの空を見てたが光らなかったぞ≫
≪…南東に近い監視塔に状況を聞いてみます、少し待って下さい≫
思い当たる節がある。それは闇夜の中でサーチライト片手に歩くMS-06のワンシーン。読みが外れるならばそれでよし、さっさとテントで横になろう…などと思っていたら
非常事態を報せるベルが押され、基地全体に警報が鳴る。
≪何があった!?≫
≪不明です、監視塔からの交信がありませんが、ベルは監視塔からのものです。カバーで囲われているため誤報のはずはありません!…中佐、状況確認のため離陸し空から南東の偵察を行って下さい、離陸を許可します≫
≪この暗さじゃ見えんわ、照明弾を頼む…出るぞ!≫
発進しすぐに足を畳む。旋回しつつ照明弾が上がるのを待ち…人影に物体?ヤバいぞ!監視塔の下にキュイだ!
やや離れて南東にはMS-05、サーチライトを持って森の中を進んでいる。
≪タリホー!管制、監視塔の下に敵工作部隊を視認!すでに基地施設内に入り込んでいる模様。MS-05を1機視認した≫
≪総員、戦闘配置!敵だ!!≫
61式が慌ただしく起き、基地内を横切る。先手で空襲を受けなかったのはこの基地を制圧するつもりだからだろうか。
予想外に早い発見にMS-05が面食らったようで、慌ててサーチライトを振り回しながら脅威のメカニズムたるマシンガンを発砲する。
≪ドップがいなけりゃな!コイツでもやりようはある!≫
機体の増槽をUGBに見立てて砲弾を躱しながらMS-05めがけてトス。当たる、いや外した!?応急処置で取り付けた右主翼がガタ付き、正確な狙いのはずが逸れた。あるいは左手に慣れぬからか…。
なおも空へマシンガンを撃ち続け、そして撃ち切る。マガジンチェンジで一瞬こちらへの注意が無くなった隙に背後へ回り込み、AAM2発を誘導すらする必要なく真っ直ぐランドセルへ叩き込む。
MS-05が突っ伏して倒れ、無力化を確認すると基地ではミデア輸送機が滑走路に入り離陸しようとしていた。
そこに別方角からバズーカの砲弾がミデアの機首に炸裂し、若干飛んでいたために滑走路へ落下。その残骸が滑走路を塞いでしまった。MS-06が少なくとも3機以上、対する61式戦車は山ほどいるが基地内のためあまり身動きが取れない。そのかわりひっきりなしに砲を撃ちまくって頭を出す隙を与えない。
一方こちらはその救援に向かう暇もなく、戦闘ヘリ2機が接近し有線ミサイルで捉えようとしてくる。舐めてくれる、戦闘機がそんなもんに当たるか!
上昇し、スプリットSを描き、ヘリの横っ面を25mm機関砲4門の一斉射で穿つ。一航過で2機とも叩き落とした、オッサンを舐めるんじゃない!
≪中佐!戦車部隊が頑張っていますが、一つ目相手にどこまで持つか分かりません!長距離通信を試していますが、ミュンヘンに繋がりません。貴機はミュンヘンへ飛び、大至急増援を要請して下さい!≫
≪バカ言え!何とかならないのか!?≫
≪貸したまえ、私はグリーン・ワイアット中将だ。ジオンのザクがこれほど脅威だとは…思い知ったよ。中佐、貴官だけが頼みの綱だ。ここを無事に撤退するために増援が必要なのだ。幸い部隊が集結しているおかげで火力でザクを圧しているがいつまでももつとは限らん≫
げぇ!ワイアットって、あのワイアットか!紅茶の!?なるほど宇宙がヤベエから安全な地上に逃げましょう、ただしポーズ的にそれなりに危うそうな前線に出張っておこうって算段か。で要するに滑走路塞がれて逃げられないし足の遅いヘビィ・フォーク級がズタボロにされた惨状を見て、安全に逃げるためにここで勝つってか!?なんつー英国紳士、肝の座り方がアレだ。炸薬満載の回転物投げつけんぞお前!
≪は…了解しました、直ちにミュンヘンへ飛び増援を要請します≫
悲しいかな、軍という縦社会。それも相手は将官、俺は佐官。役者が違いすぎる。