(番外編)もしCCAアムロが一年戦争にタイムスリップしたら   作:BLAUFALK

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04 追われる敗軍(後編)

 ミュンヘン基地管制へ事を伝え、着陸許可を求める。降りて早々に司令部へ通され待たされること数分…何を悠長な、詳しく話を聞きたいだと?伝えた通りではないか。ようやっと勿体ぶって出てきた小太りのハゲは司令の従卒、階級は曹長という始末。

 

 「当基地へようこそ。パトリック・ジョン・ローゼンバーグ中佐、司令は急用のため私がお伺いします。真夜中かつ長距離通信が使用不可のなかの所属不明機のため確認が手間取りました」

 

 あぁ?急用だ?この朝方5時に急用もクソもあるか。昨日の夜にでも飲み過ぎたとか言うなよ、今は戦時だぞ。そして俺は丸一日メシ抜きだ。もしそれが理由ならマジで射殺も厭わん。だいたい何が所属不明だ、管制に伝えた通りだ。データベースなりで照会してんだろ。

 

 「前置きは結構、それで。ワルシャワからの増援を要請したつもりだが。将も兵もいまこの時も戦っている、一刻を争うのだ」

 

 まあMS-06のたった数機相手に山ほどいる戦車とヘビィ・フォーク級なら強行突破も出来るに違いないが。本当に一刻を争うのはそれで紅茶のマグカップにヒビでも入るものならばこの俺の、連邦軍内の居場所が確実に無いと予見するからだ。FF-3で敵の大編隊に玉砕特攻でもかませと命じられてはたまらんぞ。

 

 「中佐、貴方はどこの所属でしょう?」

 

 は?と呆けた口を一旦閉じ、今一度よく考えてみる。何度も言うが所属は明らかにした通り、オデッサ基地所属の航空隊だった_昨日までは。だがこの質問の本質はそうじゃないことに見当が付く。

 

 「なるほど?しかし中将の命を受けた手前、手ぶらで戻るのは格好がつかないのですよ。貴官らとてそれは同じであるはず。それに私の乗機も応急修理のみでしてね。機体ぐらいはお借りさせていただけるのか」

 

 「…いいでしょう、どうぞお好きに使って下さい。しかしくれぐれも貴方は空軍であることをお忘れなく、それが司令のお言葉と考え下さい。カバーストーリーは用意してありますよ、御心配は無用です」

 

 語るに落ちたな。これは策略だ。地球連邦軍と一口に言ってもその組織は連邦宇宙軍と地上軍で大きく2つ。そのうえ地上軍はさらに陸軍省・海軍省・空軍省に細分化され、それぞれが派閥を持っている。

 空軍省についてはその航空機メーカーを抱え、そして紅茶が本来属するのは宇宙艦艇メーカーを抱える宇宙軍。宇宙に比べれば安全な地上に逃げ、その上で敵襲に遭っているならこれは僥倖。助けてくれなどと虫が良すぎる、そう言いたいのだ。だがそれは俺のクビと引き換えという条件が付く。ここまで来ておいて手ぶらで帰れるわけあるか、死ぬがよい。しかもまだ機動戦士ガンダムの本編前である。ガンタンクすらいねぇよ。

 

 あれ?空軍てその戦闘機や爆撃機でMS-06に対抗できる手段を持つクセして、その実本編ではもっぱら脇役じゃん。某戦略SLGにおける活躍はともかく。FF-X7に関してはむしろ航空機というより大気圏でも使える航宙機でしかない。

 読めてきたぞ、この件でレビル派(主戦派・V作戦強行派)の紅茶が空軍にヘソ曲げたんだな。

 

 「では機体を貸していただく、整備士も何人か」

 

 にやり、今コイツ一瞬口元歪んだ。まだ何か企んでやがるな…さっきカバーストーリーつったぞ。たとえば俺が離陸失敗事故やって滑走路が塞がり増援が送れませんでした、とか。

 

 「いいでしょう。お気をつけて」

 

 フン、そうはいかんぞ。この旧ドイツ領ミュンヘン基地は旧世紀の機体を用いた航空ショーを開戦前…少なくとも前年度まではやっていた。なんでも司令がコネと権力でモスボール保管された廃棄機体をかき集めて復元、現代のアビオニクスに換装し仮想敵機の名目で航空ショーで飛んで見せびらかすほどに。ではソイツを使わせてもらおう。どうぞお好きにと許可(※言質)は取ってある。

 

 司令の秘蔵の品であろう機体を引っ張り出し、階級にモノを言わせてAAMを4発とUGBを6発、増槽2本を装備、チャフ装填させハンガーから出す。識別登録済みとのことでまず意図しなければ誤射などするまい。

 やはりというべきか、AA-GUNが滑走路を向いていた。しかしどうだ撃てるか!?

 

 ≪パトリック中佐!直ちに返したまえ!≫

 

 シートで機体チェックをしていると濁声が聞こえてくる、さっきの下っ端じゃない。

 

 ≪誰だね?そして何故だ?好きに使ってよいと伺った≫

 

 構わずに滑走路に入る。

 

 ≪儂のコレクションだ!儂のシーフランカーを!!≫

 

 ああ、こいつが司令か。そしてコレクションと言ったな?アタリだ。だがここは軍隊。そしてコイツは軍用機。これがコレクションなワケあるかボケ!

 

 ≪これはこれは司令殿。急用とお伺いしておりましたが。ふむ、この機体は軍の所有物ではありませんか、随分手を加えていらっしゃるが。これ以上喋らないことですな。なに、空軍の顔に土つけるような真似はしたくありませんでして≫

 

 ≪…貴様、戻ったら折檻して_≫ ブツン

 

 これ以上のお喋りは無用だ、半ば強奪さながら発進する。俺の長年空を供にした愛機も遠ざかっていく。尾翼にカラスをモチーフとした部隊エンブレムも、もはや部隊は俺を残すのみ。訓練飛行隊を出で、隊長のケツを追ってりゃいつの間にか俺なんかが隊長だ。

 紛争、紛争そして今時の戦争。宇宙に上がったオヤジ(中間年齢層)は多く、それでも連邦の看板のもと唸るほど軍人はいた。だが結局、俺は機動戦士ガンダムの世界みたさに開戦直後が一番ヤベエ宇宙には上がらず、かといって紅茶みたく後々テロリストに狙われる将になりたくないのでそんな理由で空に在ることだけを選んだし、それがまだ許された。

 

*****

 

 東の空に明るみが_時計は5:40を刻むが朝日ではない。まだ暗く、雨が降り続いているにも関わらず。では何だというなら戦闘が続いていることを意味する。管制へ通信を試みるが応答なし。

 

 チ…遅かったか!

 

 接近するにつれ基地が燃えていることが分かる、ただし戦闘のマズルフラッシュは基地から離れており此方、西側に移動している。

 …ヘビィ・フォーク級を発見。あれを先頭にその図体で木々を薙ぎ倒し、61式が続いている。そのわりに数が少ない、殿に殿を重ねつつ逃げているのだ。MS-05が2機とMS-06が1機。

 

 その頭上を飛び抜け基地の様相を確認する。地上に夢中なのかこちらのほうなど向きもしてこない。基地は燃料タンク始め管制塔、監視塔、兵舎、ハンガーを余さず爆破し、滑走路はひどくグチャグチャになっている。自爆なのか攻撃なのか、半々と言ったところか。擱坐した61式の、中折れした主砲が空を向いている。

 さらに南東から影…あれは、ドップ4機にド・ダイ4機!

 

 やはり速い、とんでもなく速い!そして分かれた、俺に向かってくるのはドップ1機。なるほど旧型相手に全機でかかるまでもないと。ヘッドオンでその相対距離はみるみる縮まる。操縦桿を引き、次いで左斜め後ろに力を加えながら機体の方向は前進_すなわちバレルロール。放たれた敵機のAAMを頭上に避け、失速させつつラダーを右へ。自機を追い抜いた敵機のケツを取りFOX2。

 直線番長もいいところだ、かなり適当な狙いだったが刺さり1機撃破。

 その様子に気づき3機が大きく旋回して此方を向こうとするが、その機体の機動性が非常に悪いことは撤退戦闘と今ので十分に分かった。だから今度はこちらが誘う。

 敵機が旋回を終えこちらに振り向いて迫る前にUGB2発とまた増槽2本でもってドダイへ空対空爆撃をかます。ゴンという力強い音とともに機から放たれ容赦なくそののっぴろい無防備な図体の上に降り、叩き落とす。まさに七面鳥。

 やっと追い縋ってきた。なるほど加速性能だけは歴然だ、減速性能も旋回性能も犠牲にして何処へ飛び立とうというのか、さては銀河か。しかしてロックオンアラートは鳴る。敵機が一斉にミサイルを放ち、それをロールしつつチャフ・フレアを放出。

 凄まじい揺れとベルトが体をメキメキ締め付けつつ一瞬にして位置を入れ替える。急減速とピッチアップ、すなわちコブラに近い機動を描き、オーバーシュートさせ無防備な敵3機のケツへAAM残り全発をくれてやる!

 敵航空機は全滅。MSも追撃を諦め、後退するがその前にちょうど俺がいる。UGBは4発。急降下爆撃の要領でMS-06へ2発、MS-05の頭上へ各1発を見舞う。

 

 1、2、3…1つ爆発してない。不発だ!

 盾で防ぎ、完全に沈黙していないMS-06の銃口が上を向き_その胸が爆ぜる。歩兵がTOWかロケットランチャーを放ったのだ。その証拠に仰向けに斃れたMS-06の胸部が小さく抉れたのみ。コックピットへ直撃したのだ。

 

*****

 

 さらにあのMS-06へ追い討ちをかけようとするところを紅茶が制止し、ヘビィ・フォーク級とワイヤーで繋げてミュンヘンまで引き摺り回収した。

 

 撤退しつつ工兵に路肩へIEDを仕掛けさせ、さらにはハイウェイもぶち壊せとの沙汰で手伝わされ30mmでガンガン薙ぎ倒す。

 

 例の司令の件はやはり気付いたようだ、がしかしそれにしても上機嫌だ。何だというのだ?

 

 「やあ中佐!君に頼んで本当に良かったよ!聞けばオデッサでも活躍したそうじゃないか!ところで」

 

 と言って例の司令に顔だけ振り向く。

 

 「アレを少々運びたいのだが手伝っていただけるかな?」

 

 などと抜かし俺の右手をガッシリ掴む。

 HA・NA・SE

 ああ、そうか。これは腹芸だ。空軍に感謝するよポーズを見せてミデア寄越せやオラと言っているのだ。安全なジャブローに退避しつつ、鹵獲したMS-06を土産に。

 あの、紅茶の大将いや中将?そろそろ離してくれ、感覚がほとんど…

 

 フッと俺の意識はそこで手放す。そういえば腕に食らった際に出血はそれなりに出ていた。そこから休むまもなく戦闘続き、いわゆる貧血だ。


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