Shine

「ここは……？」

　気が付いたら全く知らない場所にいた。少なくとも自分の記憶の中には窓も扉もない真っ白な空間なんてなかった。唯一あるものと言えば鍵付きの棚がくっついた机位のもので、何をすればいいのだろうか。

　そう思い机をよく調べてみると棚の影に隠されたように紙が隠されていた。二つ折りの紙を開くとこう書かれていた。

Shine

　一つの単語だけ妙に錆び臭い顔料で書かれた紙はそれ以外には何も書かれておらず、裏ももちろん無地だ。

　Shine……確か輝きみたいな意味だったはずだが明かりもないこの部屋じゃ何の意味もない。

　…………ん？　いや待て、それだとおかしい。明かり、光源がないというならなんでこんなにも明瞭に部屋の様子を見ることが出来る？　なんで自分に影が出来ている？

　つまりどこかに照明器具があるんじゃないか？それを探すには……影の間逆の方向を探せばあるはずだ。

　まるで誘蛾灯に引き寄せられる虫のように歩いていくと、壁に埋め込まれるように、かつ目立たないように付いた照明の近くを探してみると壁と床の境目に小さな白い鍵が安置されている。

　丁度棚の鍵を開けることが出来そうだ。そう思い、机の元に戻る。と言っても数歩歩いただけで元通りの位置に戻るが。

　鍵付きの棚は一番上と真ん中の引き出しは辛うじてハードカバーの若干厚い本が入るほどの高さであり、一番下の棚が一番上と真ん中の大体四倍ほどの高さになっている。

　しかし一番下の棚は6桁の数字を当てはめるダイヤル式、真ん中の棚は物をはめて回さなければならない形式なので必然一番上の棚に鍵を差し込むことになり、鍵はすんなり入り込んで捻るとカチャリと小気味のいい音を響かせる。

　中には灰色の小箱が置いてあった。小箱に鍵はついておらず、開けようとすれば抵抗も無く開いた。小箱は指輪入れであったようで星形になるように研磨された透明な石が鎮座する白みがかった金色の指輪が石が目立つように置かれていた。

　指輪を手に取ってみると光をいろいろな方向に反射しているのかキラキラと輝いている。壊れないように慎重に真ん中の棚の窪みに嵌める。

　がっちり嵌まり、右に捻ると金属音がして手前に引けるようになった。

　中には真っ黒な装丁の施された本と、その上に乗せられた紙がある。紙には

P97,13

P121,5

P11,8

P25,20

P56,17

P222,7

　と書かれている。これは、本に乗せられていた紙でPと付いているのなら本と関係ないことは無いだろう、ひとまずこのページを開いてみるか。

　97ページの13行目の……文末かな……？　『う』、でも数字が当てはまらないな。

　文頭ならどうだ。『枝』えだ……？　いや、しか。最初は4。

　121ページの5行目は『氏』は、またしで4。

　11ページの8行目は『無』は、な？　む？　7か6、保留。

　25ページの20行目は『胃』でい、つまり1。

　56ページの17行目は『露』でろ、6か。

　222ページの7行目は『火』で……ひ、１だな。

　ダイヤルには447161とするが開く気配はない。なら446161ならどうだ。

　棚はあっさりと鍵の開く音を響かせる。これでどうにかなるのかと安堵しながら開けるが、中に物(・)は(・)何もなかった。

　『S』『h』『i』『n』『e』の文字を象った血が溢れ出す。

　血は瞬く間に自分の顔にめがけて登ってくる。引きはがそうともがくが手で退けようとしてもすり抜けてしまい、何の効果もない。

　血は顔を覆いつくし、気管の方に入る。

「Shine(死ね)」

『N県U市の市街地にて成人男性の変死体が発見されました。男性の周りには水場や飲料などは無かったのにもかかわらず溺死していたことから警察は事件性があるとして捜査しています。現場には英語でShineと書かれた紙が落ちており、目撃者の捜索も行っています。続いて、本日のお天気ですが～』