ありふれない旅人は第二の生を歩む   作:九時楽

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嬉しさが止まりません!! より一層頑張って参りますので見守っていてください。

そして、那須屋 高雄さん、ねこ次郎さん、誤字報告ありがとうございます!

それでは、とうとうハジメくんの覚醒が始まる『第十歩』スタートです!


第十歩「豹変する錬成師と未だ戻れない旅人」

前回のお話しで何故、立香が叫んだのか。それは彼が崖から落ちた時まで遡る。

 

 

 

ヒュオォォォォォオオオーーーーー

 

 

 

「う〜ん、ど〜しよ」

 

 

この男、現在進行形で落ちているのに以外と呑気である。

 

 

「ハジメ〜起きてる〜? ……駄目だ反応が無い。まぁ、着地自体はどうにかるけど、問題はその後だよな〜」

 

 

立香が危惧しているのは着地した後に速攻で魔物に襲われる状況になることであり、そうなった場合ハジメを守りきれるかが心配だった。

 

そんなことを考えている時、その場で香る筈のない、しかし立香が知っている(・・・・・)甘い香りがした。その香りに「えっ?」と考えた瞬間、立香は奈落の暗闇ではなく………

 

 

 

凄く見覚えのある塔が視界に入る綺麗な花畑にいた

 

 

 

立香は慌てて花畑に着地すると、右手に掴んでいた感触が消えていることに気づき、側にいたここに連れて来た仕立て人であろう存在に話しかける。

 

 

「これはどういう事なのか、それとハジメがどうなったのか、説明してくれるよね……………マーリン?」

 

「ハハハ、友人が心配なのはわかったから、そう睨まないでくれたまえ、マイ・ロード」

 

 

睨まれているのにも関わらず、軽薄そうな微笑みを浮かべているのは、白い髪に同じ白いローブ、そして杖を持つ冠位を持った魔術師(グランドクソ野郎)ことマーリンである。

 

彼こそが立香“のみ”を理想郷(アヴァロン)に連れて来た張本人であり、それを立香も理解しているからこそマーリンに問い詰める。

 

 

「そりぁ睨みもするよ、わざわざ俺だけをアヴァロンに連れて来るなんて……それで、今ハジメがどうなっているのか、どうせマーリンなら見えているんでしょ?」

 

「まぁそうなんだけど、ちょっとは再会を喜んでくれてもいいんじゃないかい?」

 

「こんな状況じゃなければね。で、ハジメは無事なの?」

 

「あぁそこは安心して良い、君の友人はちゃんと生きているよ」

 

「“生きているよ”ね……マーリンのそれはあんまり安心出来ないけど………」

 

 

拭えない不安を抱えながら、訝しげな表情でマーリンを見ていると、ふと思いついたようにマーリンが「そうだ」と

 

 

「マイ・ロード、折角なんだ紅茶を一杯入れてくれないかな」

 

「紅茶? なんでまた…」

 

「まぁまぁ、良いじゃないか久し振りなんだから」

 

「はぁ、わかった。一杯だけだよ?」

 

 

そうして、マーリンに紅茶を入れて………………

 

 

数時間がたった!!!

 

 

そうなれば、ハジメが心配な立香は当然、

 

 

「いつまでこの状態なんだよ!! このロクデナシグランドキャスターがぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

こうなる。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

場所は戻って奈落の底

 

 

 

 ぴちょん……ぴちょん……

 

 

 

水滴が頬ほおに当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

 

疑問に思いながらグッと体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばそうとした。

 

 

しかし、視界に入る腕が一本しかないことに気がつき動揺をあらわにする。

 

 

しばらく呆然とするハジメだったが、やがて自分が左腕を失ったことを思い出し、その瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じた。幻肢痛というやつだ。

 

そして、表情を苦悶に歪めながら反射的に左腕を押さえて気がつく。切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに。

 

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん……」

 

 

暗くて見えないが明かりがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。

 

ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていないようである。

 

にもかかわらず傷が塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。

 

 

「……まさか……これが?」

 

 

ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

 

 

 そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。

 

 

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

 

やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

 

「こ……れは……」

 

 

そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

 

 

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

 

 ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

 

 

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

 

すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

 

やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

 

ハジメは知らないが、実はその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

 

ようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

 

 

そして、死の恐怖に震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。既に脱出しようという気力はない。ハジメは心を折られてしまったのだ。

 

 

敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。

 

 

しかし、爪熊のあの目はダメだった。ハジメを餌としてしか見ていない捕食者の目。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。その目に、そして実際に自分の腕を喰われたことに、ハジメの心は砕けてしまった。

 

 

(誰か……立香………助けて……)

 

 

 ここは奈落の底、ハジメの言葉は誰にも、立香にすら、届かない……

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 どれくらいそうしていただろうか。

 

 

 

ハジメは、現在、横倒しになりギュッと手足を縮めて、まるで胎児のように丸まっていた。

 

 

 ハジメが崩れ落ちた日から既に四日が経っている。

 

 

その間、ハジメはほとんど動かず、滴り落ちる神水のみを口にして生きながらえていた。

 

 

しかし、神水は服用している間は余程のことがない限り服用者を生かし続けるものの空腹感まで消してくれるわけではなかった。死なないだけで、現在、ハジメは壮絶な飢餓きが感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

 

(どうして僕がこんな目に?)

 

 

 ここ数日何度も頭を巡る疑問。

 

 

痛みと空腹で碌に眠れていない頭は神水を飲めば回復するものの、クリアになったがためにより鮮明に苦痛を感じさせる。

 

何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、苦痛から逃れる為に再び神水を飲んで、また苦痛の沼に身を沈める。

 

 

 もう何度、そんな微睡まどろみと覚醒を繰り返したのか。

 

 

いつしか、ハジメは神水を飲むのを止めていた。無意識の内に、苦痛を終わらせるもっとも手っ取り早い方法を選択してしまったのだ。

 

 

(こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……)

 

 

 そう内心呟きながら意識を闇へと落とす。

 

 

 それから更に三日が経った。

 

 

ピークを過ぎたのか一度は落ち着いた飢餓感だったが、嵐の前の静けさだったかのように再び、更に激しくなって襲い来る。幻肢痛は一向に治まらず、ハジメの精神を苛み続ける。まるで、端の方から少しずつヤスリで削られているかのような耐え難き苦痛。

 

 

(まだ……死なないのか……あぁ、早く、早く……死にたくない……)

 

 

死を望みながら無意識に生に縋る。矛盾した考えが交互に過る。ハジメは既に、正常な思考が出来なくなっていた。支離滅裂なうわ言も呟くようになった。

 

 

 それから更に三日が過ぎた。

 

 

既に神水の効力はなく、このままでは二日と保たずに死ぬかもしれない。食料どころか水分も摂っていないのだ。

 

 

しかし、少し前、八日目辺りからハジメの精神に異常が現れ始めていた。

 

 

ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

 

 

それはヘドロのように、恐怖と苦痛でひび割れた心の隙間にこびりつき、少しずつ、少しずつ、ハジメの奥深くを侵食していった。

 

 

 

(なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……)

 

(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)

 

(神は理不尽に誘拐した……)

 

(クラスメイトは僕を裏切った……)

 

(ウサギは僕を見下した……)

 

(アイツは僕を喰った……)

 

 

 

次第にハジメの思考が黒く黒く染まっていく。白紙のキャンバスに黒インクが落ちたように、ジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。

 

 

誰が悪いのか、誰が自分に理不尽を強いているのか、誰が自分を傷つけたのか……

 

 

無意識に敵を探し求める。激しい痛みと飢餓感、そして暗い密閉空間がハジメの精神を蝕むしばむ。暗い感情を加速させる。

 

 

 

(どうして誰も助けてくれない……)

 

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

 

(この苦痛を消すにはどうすればいい?)

 

 

 

九日目には、ハジメの思考は現状の打開を無意識に考え始めていた。

 

激しい苦痛からの解放を望む心が、湧き上がっていた怒りや憎しみといった感情すら不要なものと切り捨て始める。

 

憤怒と憎悪に心を染めている時ではない。どれだけ心を黒く染めても苦痛は少しもやわらがない。この理不尽に過ぎる状況を打開するには、生き残るためには、余計なものは削ぎ落とさなくてはならない。

 

 

俺は(・・)何を望んでる?)

 

(俺は〝生〟を望んでる。)

 

(それを邪魔するのは誰だ?)

 

(邪魔するのは敵だ)

 

(敵とはなんだ?)

 

(俺の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て)

 

(では俺は何をすべきだ?)

 

(俺は、俺は……)

 

 

 

 十日目。

 

 

 ハジメの心から憤怒も憎悪もなくなった。

 

 

神の強いた理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物の敵意も……

 

 

 自分を守ると言った誰かの笑顔も……

 

 

 全てはどうでもいいこと。

 

 

 

生きるために、生存の権利を獲得するために、そのようなことは全て些事だ。

 

ハジメの意思は、ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを斬り裂くが如く。

 

 

 

 すなわち……

 

 

 

( 殺す )

 

 

 

 悪意も敵意も憎しみもない。

 

 

 ただ生きる為に必要だから、滅殺するという純粋なまでの殺意。

 

 

 自分の生存を脅かす者は全て敵。

 

 

 そして敵は、

 

 

(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す)

 

 

 この飢餓感から逃れるには、

 

 

( 殺して喰らってやる )

 

 

今この瞬間、優しく穏やかで、対立して面倒を起こすより苦笑いと謝罪でやり過ごす、南雲ハジメは完膚無きまでに崩壊した。

 

 

そして、生きる為に邪魔な存在は全て容赦なく排除する新しい南雲ハジメが誕生した。

 

 

だが、そんなハジメでも一つだけ迷いがあった。

 

 

(それじゃあ………立香は?)

 

 

いつも自分を助けてくれた。今までの自分を親友だと言ってくれた、笑いかけてくれた。自分の手をとってくれた。

 

そんな立香を

 

 

(もし。もしもまだ立香が生きているのなら……いや、例えそうでなくても………立香だけは信じよう。生きているのなら俺の手をとってくれたアイツの手を、今度は俺がとってやろう)

 

 

ハジメは捨てることが出来なかった。

 

 

そうして、砕けた心は、再び一つとなった。ただし、ツギハギだらけの修繕された心ではない。奈落の底の闇と絶望、苦痛と本能で焼き直され鍛え直された新しい強靭な心だ。

 

ハジメはすっかり弱った体を必死に動かし、ここ数日で地面のくぼみに溜まった神水を犬のように直接口をつけて啜る。飢餓感も幻肢痛も治まらないが、体に活力が戻る。

 

そしてハジメは目をギラギラと光らせ、濡れた口元を乱暴に拭い、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。歪んだ口元からは犬歯がギラリと覗く。まさに豹変という表現がぴったり当てはまるほどの変わりようだ。

 

 

ハジメは起き上がり、錬成を始めながら宣言するようにもう一度呟いた。

 

 

 

「殺してやる」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

 

 

二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。

 

周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せであるからだ。

 

しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、納得のいく狩場が見つかったのか其々四隅の岩陰に潜んだ。後は獲物が来るのを待つだけだ。その内の一頭が岩と壁の間に体を滑り込ませジッと気配を殺す。これからやって来るだろう獲物に舌舐りしていると、ふと違和感を覚えた。

 

二尾狼の生存の要が連携であることから、彼らは独自の繋がりを持っている。明確に意思疎通できるようなものではないが、仲間がどこにいて何をしようとしているのかなんとなくわかるのだ。

 

その感覚がおかしい。自分達は四頭の群れのはずなのに三頭分の気配しか感じない。反対側の壁際で待機していたはずの一頭が忽然と消えてしまったのだ。

 

 

どういうことだと不審を抱き、伏せていた体を起こそうと力を入れた瞬間、今度は仲間の悲鳴が聞こえた。

 

 

消えた仲間と同じ壁際に潜んでいた一頭から焦燥感が伝わってくる。何かに捕まり脱出しようともがいているようだが中々抜け出せないようだ。

 

 

救援に駆けつけようと反対側の二頭が起き上がる。だが、その時には、もがいていた一頭の気配も消えた。

 

 

混乱するまま、急いで反対側の壁に行き、辺りを確認するがそこには何もなかった。残った二頭が困惑しながらも消えた二頭が潜んでいた場所に鼻を近づけフンフンと嗅ぎ出す。

 

 

その瞬間、地面がいきなりグニャアと凹み、同時に壁が二頭を覆うようにせり出した。

 

 

咄嗟に飛び退こうとするがその時には沈んだ足元が元に戻っており固定されてしまった。もっとも、これくらいなら、二尾狼であれば簡単に粉砕して脱出できる。今まで遭遇したことのない異常事態に混乱していなければ、そもそも捕まることもなかっただろう。

 

しかし、襲撃者にとってはその混乱も一瞬の硬直も想定したこと。二頭を捕らえるには十分な隙だった。

 

 

「グルゥア!?」

 

 

悲鳴を上げながら壁に呑まれる二頭。そして後には何も残らなかった。

 

 

四頭の二尾狼を捕らえたのはもちろんハジメであった。反撃の決意をした日から飢餓感も幻肢痛もねじ伏せて、神水を飲みながら生きながらえ、魔力が尽きないのをいいことに錬成の鍛錬をひたすら繰り返した。

 

より早く、より正確に、より広範囲を。今のまま外に出てもあっさり死ぬのがオチである。神結晶のある部屋を拠点に鍛錬を積み、少しでも武器を磨かなければならない。その武器は当然、錬成だ。

 

ねじ伏せたと言っても耐えられるというだけで苦痛は襲ってくる。しかし、飢餓感と幻肢痛は、むしろ追い立てるようにハジメに極限の集中力をもたらした。

 

その結果、今までの数倍の速さでより正確に、三メートル弱の範囲を錬成できるようになった。もっとも、土属性魔法のような直接的な攻撃力は相変わらず皆無だったが。

 

 

そして、神水を小さく加工した石の容器に詰め、錬成を利用しながら迷宮を進み、標的を探した。

 

 

 そうして見つけたのが四頭の二尾狼だ。

 

 

しばらく二尾狼の群れを尾行した。もちろん何度もバレそうになったが、その度に錬成で壁の中に逃げ込みどうにか追跡することができた。そして、四頭が獲物を待ち伏せるために離れた瞬間を狙って壁の中から錬成し、引きずり込んだのである。

 

 

「さぁて、生きてっかな? まぁ、俺の錬成に直接の殺傷力はほとんどないからな。石の棘を突き出したくらいじゃ威力も速度も足りなくてここの魔物は死にそうにないし」

 

 

ギラギラと輝く瞳で足元の小さな穴を覗のぞくハジメ。その奥には、まさに〝壁の中〟といった有様の二尾狼達が、完全に周囲を石で固められ僅かにも身動きできず、焦燥を滲ませながら低い唸り声を上げていた。

 

実は、以前、足元から生やした石の刺で魔物を攻撃したことがあったのだが、突き破る威力も速度も全く足りず、到底実用に耐える使い方ではなかった。やはり、そういうのは土属性魔法の領分のようだ。錬成はあくまで鉱物を加工する魔法であって、加工過程に殺傷力を持たせるのは無理があるのだ。従って、こうして拘束するのが精一杯であった。

 

 

「窒息でもしてくれりゃあいいが……俺が待てないなぁ」

 

 

 ニヤリと笑うハジメの目は完全に捕食者の目だった。

 

 

ハジメは、右腕を壁に押し当てると錬成の魔法を行使する。岩を切り出し、集中して明確なイメージのもと、少しずつ加工していく。すると、螺旋らせん状の細い槍のようなものが出来上がった。更に、加工した部品を取り付ける。槍の手元にはハンドルのようなものが取り付けられた。

 

 

「さ~て、掘削くっさく、掘削!」

 

 

地面の下に捕らわれている二尾狼達に向かってハジメはその槍を突き立てた。硬い毛皮と皮膚の感触がして槍の先端を弾く。

 

 

「やっぱり刺さんないよな。だが、想定済みだ」

 

 

なぜナイフや剣にしなかったのか。それは、魔物は強くなればなるほど硬いというのが基本だからだ。もちろん種族特性で例外はいくらでもあるのだが、自分の無能を補うため座学に重点を置いて勉強していたハジメは、この階層の魔物なら普通のナイフや剣は通じないだろうと考えたのだ。

 

故に、ハジメは槍についているハンドルをぐるぐる回した。それに合わせて先端の螺旋が回転を始める。そう、これは魔物の硬い皮膚を突き破るために考えたドリルなのである。

 

 

上から体重を掛けつつ右手でハンドルを必死に回す。すると、少しずつ先端が二尾狼の皮膚にめり込み始めた。

 

 

「グルァアアー!?」

 

 

 二尾狼が絶叫する。

 

 

「痛てぇか? 謝罪はしねぇぞ? 俺が生きる為だ。お前らも俺を喰うだろう? お互い様さ」

 

 

そう言いながら、さらに体重を掛けドリルを回転させる。二尾狼が必死にもがこうとしているが、周りを隙間一つなく埋められているのだから不可能だ。

 

そして、遂に、ズブリとドリルが二尾狼の硬い皮膚を突き破った。そして体内を容赦なく破壊していく。断末魔の絶叫を上げる二尾狼。しばらく叫んでいたが、突然、ビクッビクッと痙攣したかと思うとパタリと動かなくなった。

 

 

「よし、取り敢えず飯確保」

 

 

嬉しそうに嗤いながら、残り三頭にも止めを刺していく。そして、全ての二尾狼を殺し終えたハジメは錬成で二尾狼達の死骸を取り出し、片手に不自由しながら毛皮を剥がしていく。

 

 

 

 

 そして、飢餓感に突き動かされるように喰らい始めた。

 

 

 

 

 




『第十歩』の細かい解説

・マーリンがどうして異世界に干渉できたのか
マーリンの魔術と立香の特性を掛け合わせた荒技。

・どうしてハジメは立香を捨てなかったのか
幼い頃から共にいて、ハジメが変わったくらいじゃ消えない確かな信頼や友情の関係があったから。
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