とにかく、今回はタグに出ている+αのヒロインが登場及びその出会いを明かします、まぁぐだぐだしておりますがご容赦ください。
それと、ちょっとした伏線的なものと立香の軽い無双?があります。
あぁ、もし何か指摘などがありましたら感想にてお願いします。
では改めて、『第三歩』どうぞご覧ください
戦争参加の決意をした以上、ハジメ達は戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。
しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。
ハジメ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。
聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。
高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。おそらく魔法で生活環境を整えているのだろう。
ハジメ達は、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。
どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――【天道】」
その途端、足元の魔法陣が燦然さんぜんと輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。
どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る〝魔法〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。
やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。
立香とハジメは、目を合わせると皮肉げに素晴らしい演出だと笑った。雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟という構図そのままである。ハジメ達のことだけでなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。
ハジメはなんとなしに戦前の日本を思い出した。政治と宗教が密接に結びついていた時代のことだ。それが後に様々な悲劇をもたらした。だが、この世界はもっと歪かもしれない。なにせ、この世界には異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在しており、文字通り〝神の意思〟を中心に世界は回っているからだ。
そして立香は前世のことを思い出していた。なにせ前世の人理修復の旅は常に命掛けで、時には自分の選択で多くの命が失われることがあった。だからこそ“命の重み”を人一倍理解している立香は、これからの事を考えると頭が痛くなった。
自分達の帰還の可能性も、世界行く末も、神のみぞ知るという現状のことを考え。徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、ハジメは言い知れぬ不安が胸に渦巻くのを必死に押し殺した。そして、とにかくできることをやっていくしかないと拳を握り締め気合を入れ直し、立香はネックレスを握りしめた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。
教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。立香達が何者か、ある程度知っているようだ。
ハジメは居心地が悪そうに、最後尾をこそこそと付いていきながら立香に聞いた。
「ねぇ立香……」
「ん? なに、ハジメ」
「何でさっきは喋らなかったの? 立香なら天之河くんが戦争に参加するって宣言した辺りで止めると思ってたけど」
「あ〜うん。確かに、これがただの戦争だったら止めてたよ。でも……」
「あっ、そっか、今の状況は……」
「「異世界召喚」」
「つまり、戦争は戦争でも地球での戦争とは全く違う状況になるかもしれない」
「確かに……」
「それに、俺達はこの世界について殆ど知らない。だからこそ、おそらく最低限全員分の衣・食・住と情報が揃うであろう“勇者一行”という立場に落ち着いていた方が良いという訳。ちょうど良く天之河の無駄なカリスマのお蔭でこの世界を救う素晴らしい勇者サマになれた訳だし。」
「なんか、“無駄な”の語彙が強くなかった?」
「気のせいだよ」
「えっでも···「キノセイダヨ」アッハイ」
そうこうしている内に美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。
玉座の手前に着くと、イシュタルは立香達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。
そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。それを見て「これで、国を動かすのが〝神〟であることが確定だな」とハジメは内心で溜息を吐き、立香は「あれ、王様が見たらブチ切れるだろうな〜」とか割と呑気なことを考えた。
そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようである。
その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。
ランデル殿下がしきりに香織に話しかけていたのをクラスの男子がやきもきしながら見ているという状況もあった。
ハジメから見れば、今の香織がランデル殿下を意識することはないだろうな〜と少し同情し。そもそも、十歳では無理があるか……とその同情を強めた。
一方立香の方は一人の女子生徒と話していた。
「このピンクのソース見た目は別として味は美味しい、どうにかして再現できないものか」
「確かに美味しいけど、これって再現できるものなの?」
「まぁ、そこは俺の調理技術の見せ所でしょ」
「ふ〜ん、まっ再現できたら教えてね、立香」
「わかってるよ、“優花”」
その会話の相手である彼女こそ、立香とお弁当評論会をしていた女子生徒“園部優花”その人である。
彼女との出会いは学校の調理実習の時間にまで逆上る
ホワンホワンワンワン·········(回想)
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優花Side
立香と明確に関わることになったのは学校の調理実習の授業の時だったわね。
その日はたまたまクジで私と立香が隣り合うことになったの、それまでは立香のことはただのクラスメイトとしか思ってなかったわ。
調理が始まる直前でも実習の内容であるハンバーグを作る時に何かあったらサポートしてあげようと考える程度。私の家は洋食屋で、店の手伝いをしながら料理の練習はしていたから、腕前もそこそこにあると自負していた。なのに、実際に調理を始めてみれば立香は私以上の手際でハンバーグを作っていき、完成したハンバーグを見ただけで正直、自信を無くしそうだった。でも、それで折れたら洋食屋の娘の名折れって自分を奮い立たせて立香に向かって行ったわ。
最初、立香は不思議そうな顔をしていたけど私が一口貰いたいって言うと特に嫌な顔をせずハンバーグを渡してきたから、遠慮なく食べさせてもらったんだけど。その瞬間、ついさっき奮い立たせたばかりの心が折れそうだったわ。
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その時の美味しさのことを彼女はこう語った………
「2頭身で橙色の髪の女に服を破かれるような美味しさだった」と
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その後からかな立香と関わるようになったのは。私が立香に頼んで料理を教えてもらったり、お昼休憩にお互いのお弁当について話し合ったり。(これが後のお弁当評論会である)
そうしてる内に時々私のお店に連れてきたり、立香の家に誘われたり…………ちっ違う!違うからね!「誘われた」って言うのは………料理!そう料理を教わる為だから!断じて、突然の大雨で家に泊まる事になったとか、立香の服を借りて着たとか、私が寝惚けて立香と一緒に寝たとか、そんなこと無いんだからね!
ー以降、先程の発言を思い返し墓穴を掘ったことに気づいて何も喋れなくなった為、回想終了ー
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王宮では、立香の予想通りハジメ達の衣食住が保障されている旨と、訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋てんがい付きベッドに愕然としたのはハジメだけではないはずだ。ハジメは、豪奢な部屋にイマイチ落ち着かない気持ちになりながら、それでも怒涛の一日に張り詰めていたものが溶けていくのを感じ、ベッドにダイブすると共にその意識を落とした。
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ー立香の部屋ー
コンコン
「“私”だよ」
軽いノックの後、一人の女子の声が聞こえた。
「入ってどうぞ」
ガチャ
「やっぱり来たね」
「……流石にもう驚かないか〜」
「そりゃ、
「少しは驚いて欲しかったような、私のことを理解してくれて嬉しいような、複雑だな〜」
そう言いながら嬉しそうな顔で立香の部屋に来たのは立香のクラスメイトの一人である女子生徒“中村恵里”である。
そんな彼女は部屋に入って来るなり一直線にベッドに腰かけていた立香に抱き着いた。
「むふ〜立香の匂いだ〜」
「全く、毎晩一緒に寝て嗅ぎ慣れてる癖に」
「明日からはあんまり立香の部屋に来れなさそうだからね、尚更立香の匂いを嗅いでおきたいの」
「そっか〜なら、しょうがない」
「うんうん、しょうがない、しょうがないんだ」
それから暫く恵里はそのまま立香を抱きしめ、立香は微笑みながら恵里の頭を撫でていた。
取り敢えず代わり映えしなさそうだから、いい加減読者も突っ込みたいだろうし、二人の関係を話してしまおう。
はい、回想入っちゃって〜〜
ホワンホワンワンワン·········
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恵里Side
“僕”と立香が出会った時の話をするなら、まずは立香と出会うより少し前の話をしよう。
それは、客観的に見れば『まるで小説の様な悲劇』って例えられるくらいの人生だった。
僕が五歳の時だ。お父さんと二人で公園に遊びに行って、はしゃいだ僕が不注意にも車道に飛び出てしまい、悪魔的なタイミングで突っ込んで来た自動車から庇ってお父さんが亡くなったという、ある意味、ありふれた交通事故の結果だった。
でも、結末としてありふれていなかったことが一つ。それは、その後のお母さんの態度だった。僕のお母さんは、少しいいところのお嬢様だったんだけど、駆け落ちって言うのかな、家の反対を押し切ってお父さんと結婚したらしく、幼い僕ですら恥ずかしくなるくらいお父さんにべったりだった。
それは単に夫を愛している、というだけでなく、一歩引いて客観的に見れば、依存といってもいいレベルで。だからこそ、元々精神的に強くはなかった僕のお母さんは、最愛にして心の支柱たる夫の死に耐えられなかった。
耐えられなかったが故に、その原因へと牙を剥いた。そう、自分の娘である僕だ。普通なら、父親の死を目の当たりにして傷ついているはずの娘を、涙を呑みながら支えることが母親としての正しいあり方と言えるだろうけど。でも、僕のお母さんは、流石に人前では控えたものの、家に帰り二人きりになると、その憎悪を何のオブラートに包むこともなく僕へと向けた。
僕のお母さんにとって、娘と夫を天秤にかければ後者に傾き、僕を愛していたのも、お父さんの娘だから・・・・・・という、それだけのことだったのだ。
当時、五歳の僕は、毎日のように行われる暴力と、吐き出される罵詈雑言にひたすら耐えた。お母さんの「お前のせいで」という言葉に、納得してしまったんだ。自分の不注意がお父さんを殺した――誰よりも、そう信じていたのは、僕自身だった。
母が大好きだった父を奪った自分を、母が怒るのは当然のこと。父を死なせてしまった自分が、母から心身共に痛みを与えられるのは当然の罰。僕は、心の底からそう信じていたんだ。
同時に、この罰が終われば、鬼のような形相のお母さんも、昔のいつでも優しく微笑んでくれる穏やかなお母さんに戻ってくれる、ということもその時のバカな僕は信じていた。
お母さんの虐待は巧妙で、決して僕の体に痣などの痕跡を残すようなことはしなかった。僕もまた、お母さんの為に、そして自分への罰の為に、口外をすることはなかった。だから、その状態が何年も続いて、誰かに気づかれるということもなかった。
それでも子供である以上、そんな環境で常に笑顔になどなれるはずもなく、僕は暗い雰囲気を纏う子として学校でもほとんど交友関係はなかった。一人で大人しく、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているようなそんな様子で、それが同年代の子達には不気味だったんだろうね。
孤独と自責と心の痛みと、お母さんを想う気持ちと、寂しさ……僕の心は限界に近づいていた。そもそも、そんな状態を何年も耐えられていたことが、今になって思い返せば、驚異的とも言えた。
そんな鬱屈した日々に変化が起きた。
九歳――小学三年生の時だ。お母さんが家に知らない男性を連れて来た。ガラが悪く、横柄な態度の大人の男。お母さんは、その男に甘ったるい猫なで声を発しながらべったりとしなだれかかっていた。
僕は信じられなかった。お父さんを心の底から愛していたからこそ、自分にあれだけの怒りと憎しみをぶつけたのではなかったのかと。
その考えそのものは間違っていなかった。でも、お母さんの心は、僕が思うよりもずっと弱かったらしい。誰かに支えてもらわなければ、まともに生きていけないほどに。
その日から、僕の家には、その男が住むようになった。
男の家での在り方は、それこそ三文小説にでも出てきそうな、典型的なクズそのものだった。そして、これもまた使い古されたストーリーをなぞるように、その男が僕に向ける視線は、幼い少女に向けていい類のものではなかった。
体を這い回るような気持ち悪さに、僕は今まで以上に、家の中で息を殺すようにして過ごした。それでも、男の言動は徐々にエスカレートし、やがて、自分のことを《私》から《僕》と呼ぶようになり、髪を乱暴なショートカットにするようになった。それは、〝少女と見られなければ〟というささやかな自衛手段だった。
学校では、ただでさえ、暗く、どこか不気味さを感じさせる僕が、ある日突然、一人称を変えて、髪を男の子のような短いものにして来たことで、僅かにいた友達とまではいかないまでも、日常会話くらいはしていた子供達までもが離れていった。僕は、いよいよ孤立してしまった。
それでも、たとえお母さんがお父さんを裏切ったように感じても、僕は信じていた。お母さんが、いつか必ず昔の優しいお母さんに戻ってくれることを。それが現実から目を逸らした、一種の逃避的な思考であることには気がつかない振りをして。
そんな、縋り付いた藁のような希望は、本当にただの藁だったと気付かされる事件が起きた。遂に、男が僕に欲望の牙を剥いたのだ。お母さんが夜の仕事に出ていないときのことだった。
幸い、と言っていいのか、僕の悲鳴を聞きつけた近所の人が警察に通報したおかげで、僕の貞操が散らされることはなかった。僕自身、いつかこんな日が来るのではないかと思っていたから、窓を開けて悲鳴が届きやすいように備えていたのも助かった理由だろう。
なので、襲われたこと自体はたいしてショックなことではなかった。むしろ、チャンスだとさえ思っていた。これでようやく、目を覚ましてくれるはずだと。自分の娘を襲うような男とは縁を切って、お父さんを思い出してくれるはずだと。いずれにしろ、男は警察に捕まったのだから、縁は切れる。これで僕とお母さんの生活は、少しでも改善するのだと思っていた。
そう、思っていたのだ。
お母さんが、今まで以上の憎悪を向けてくるまでは。
警察で事情聴取を終えて、保護された僕と共に帰宅した後、真っ先に飛んできたのは、お母さんの張り手だった。そして、張り手の後に言ったのだ。「あの人を誑かすなんて」と。
どうやら、お母さんにとって、僕が男に襲われたという事件は、男のクズさを理解するきっかけではなく、『僕が自分の男をまた奪った』という認識だったらしい。娘が暴行を受けたことよりも、男と引き離されたこと、男が僕に欲望を向けたこと、その全てが気に食わなかったのだ。
父を裏切った母、自分を痛めつける母、自分が襲われたことよりも男といられないことに悲しむ母………この時、僕はようやく察したんだ。いや、本当は分かっていて目を逸らしていたことを直視したというべきだろうね。
すなわち、お母さんは僕を愛さない。昔のお母さんになど戻ってはくれない。昔の穏やかな姿ではなく、眼前の醜さに溢れた姿こそが、本性だったのだ、と。
そう理解した。
だから――僕は壊れた。
信じていたものは全て幻想だった。耐えてきたことに意味などなかった。そして、この先の未来にも希望はない。幼かった僕が壊れるには十分過ぎる要因だった。
眠りというより気絶から目覚めた翌日。まだ日も登りきらない早朝に、僕は家を抜け出した。心配したお母さんが探しに来てくれるかも知れない等という子供にありがちな愛情試しの為ではなく、自分を終わらせるため――つまり、自殺するためだ。
家を出たのは、何となくあの家で、お母さんの傍で、死にたくなかったから。
そうして、特に当てがあるでもなくふらふらと彷徨い、見つけたのが、そう、立香と出会った川だ。家から少し離れた場所にある大きな川。整備された河川敷は、よく子供の遊び場となっていらしい。その上に架かる鉄橋の上からぼんやりと下方の流れる川を見つめていた僕は、何となくここにしようと思った。
それなりに水量のある川ではあったけど、流れが特別速いわけでもなく、また雨で増水しているというわけでもない。入水自殺には、正直不向きな川と言えただろう。むしろ、鉄橋から飛び降りた際に打ち所が悪かったという事態の方が危険性は高かった。もっとも、それも川の水により軽減されて死にはしないだろうがね。
だが、それでも、僕は、鉄橋の欄干に手をかけた。何となく、ここで死ねれば、その流れのままに、誰もいない場所へ運んでもらえるのではないかと思った。
僕の体は、その細腕によりどうにか持ち上がり、上半身が大きく欄干の外へとはみ出た。僕は、そのまま吸い込まれるように橋の下へ飛び込んだこもうとした、その時………
彼に出会った
――君、何してるの?と。
声を掛けられ、ボンヤリ振り返った僕の目に飛び込んできたのは綺麗で、澄み渡った空のような瞳だった。そんな瞳をした少年こそ――そう、幼い頃の立香だ。
その瞳に、一瞬目を奪われた僕はすぐに意識を戻し、早く死ぬ為に突き放すような口調で立香に言った。
「ほっといて」って
にも関わらず、立香はその言葉を無視して欄干に手をかけて、僕と同じように欄干の外へはみ出てきた。突然そんなことをしただけでも驚いたのに立香は僕と隣り合って聞いてきたんだ。
――死にたいの?と。
その時の言葉にもう一度驚いた僕は何を思ったのか。否定するわけでもなく、誤魔化すわけでもなく、今までの事を全部包み隠さず立香に話してしまったんだ。そんなことをすれば普通は警察か児童相談所に連れて行かれるってわかっていたのに。
でも、その話を聞いた立香の行動は普通じゃなかった。
「そっか、だったら…………」
「え?」
次の瞬間僕が感じたのは浮遊感と………包み込むような暖かさだった。
ドボンッ!
そして、少し遅れて水の冷たさを感じて、ようやく自分が川の中に飛び込んだことがわかった。
にも関わらず、死ぬことができなかったと理解した僕は水上に上がってすぐに………
「プハっ! いきなり何するのさ!」
と、さっきまで禄に思考が定まってなかったのが嘘のように立香に怒鳴った。
未だに立香に抱きしめられている状況であることに気づかずに、だ。
でも、気づいているであろう立香は僕を離そうとはせず、怒鳴られたことを気にした様子もなく「ん? だって、死にたかったんでしょ?」と飛び込む前と変わらない口調で聞いてきた。
イラッときた僕はそれを抑えることなく吐き出した。それはまるで、今まで抑えていたものも一緒に吐き出すように。
「た、確かにそうだけど、でも!」
「でも?」
「君まで一緒に飛び込む必要はなかったはずだよ!」
「まぁ、確かにそうだね」
「そうだねって……下手をすれば君まで死んでいたんだよ!?」
「その時はその時かな〜」
「何でそんな呑気でいられるのさ……」
「ん〜、実際に死ぬとは思わなかったから?」
「それだけで飛び込むなんてっ………て、何時まで僕を抱きしめているのさ!」
「おや、俺は君が離れようとすればすぐに離したけど?」
「それは……いいから! 取り敢えずはなれて!」
そこでようやく抱きしめられていることに気づいた僕は立香に離れるように言った。すると、立香は簡単に離れてくれた。
「うん、良いよ〜」
「あっ……」
でも、立香から離れてどことなく寂しいと感じてしまった。
「ん?」
「なんでもない!」
「そう?」
「そうなの! とにかくなんで君まで飛び込んだの」
「んー……
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が飛び出たような感覚が僕を襲い、空気が変わったように感じた。
「な、何を言って、だって僕は………」
「「死にたいと思っていた」かい? だったら何で、飛び降りようとした時に君は、あんなに
「!?」
「確かに君は絶望して、死のうとした、でも君の心にあるのはそれだけなの?」
そう言われて、僕の頭はさっきまでの苛つきやその他のこと等を忘れ、だんだんとグチャグチャになっていき、最後には何もわからなくなってしまった。
「わからない……わからないよ。僕は、死にたかった筈なのに、楽になりたかった筈なのに、どうして………」
何もわからず、ただ泣きそうな、否、実際に泣きながら紡いだ言葉を言い終えるより先に立香が抱きしめてきた、その時僕が感じたのは、飛び込む時にも感じた包み込むような暖かさだった。
その暖かさを与えた立香は僕を抱きしめながら言葉を紡ぐ。
「それは、君が心の何処かで誰かに助けて欲しいと願っていたからだよ」
「ふぇ?」
「信じて、耐えて、裏切られて、死のうとすら思って、でも……捨てきることができなかった君の願い」
「僕の、願い……」
その言葉は、さっきまでのグチャグチャとした思考を溶かしながら僕の心の中に入ってきた。
「だから、もう耐えなくていいんだ、その願いを、本当の願いを叫んでいいんだ」
「僕は………僕は!……」
「君は、どうしてほしい?」
「“僕”を……ううん、“私”を、助けて!」
「うん、わかった。君を助けてあげる」
「本当に?」
「うん、だから……」
「うぐ、えぐ、う”ぅぅ」
「安心して、思いっきり泣いていいんだよ?」
「う”、う”あ”ぁぁぁ!!!」
その瞬間、溢れかけてたものが抑えられなくなった。
その後のことはよく覚えていない、目が覚めて、気がついた時には知らない部屋にいて、最初は不安になったけど近くで寝息がすると思ったら、自分が寝ていたベッドのそばで椅子に座った立香が寝ていたのだ。
それに安心した僕は、気が抜けたのか、またすぐに寝てしまった。
それから先は怒涛の展開だった。
まず最初にお母さんが警察に逮捕されその後、慰謝料と共に多額のお金が僕の通帳に振り込まれた。
あとから聞いた話だが、なんでも立香の両親には多方面にツテがあり、今回は警察庁長官とかいうとんでもない立場の人を使って僕の家、もとい僕のお母さんのことを徹底的に調べてもらったらしい。
すると、出るわ出るわお母さんのやばいネタ。
どうやら、僕の虐待以外にもやらかしていたらしく、これをもとに、一気にお母さんの逮捕まで持って行ったという。
次に僕自身だ。
簡単に言うなら、立香の家に居候することになった。
これもまた立香の両親がツテを使い、僕が得た財産目当ての大人達を黙らせて、藤丸家の養子ということになったらしい。
正直、どんなツテを使ったのかは、怖かったので聞けていない。
まぁ、そんなこんなで今は立香と立香の両親と幸せに暮らせているよ。
あ、そうそう、まだ話してないことがあったね。皆も気になるでしょ?何で立香の両親がこんなあっさり僕の為に動いてくれたか。まぁ、もう察してるだろうけどこれも立香のお蔭なんだよね。
僕も以前気になって立香のお母さんに聞いてみたんだ。
「え? どうしてここまでしてくれるのかって?」
「うん。だって、結局僕は立香達にとっては他人でしょ?」
「確かにそうね……でも、立香にお願いされたから、かしらね」
「どういうこと?」
「立香はね、小さい頃から自分で色々できて、中々私達を頼ることがなかったの」
「………」
「手が掛からないって言えば聞こえはいいかもしれないけど、私達からすればそれが凄く不安だった「立香にとって私達は必要ないんじゃないか」って。でも……」
「でも?」
「そんな立香が始めて私達を頼ってくれた。しかも、今まで見てきた中で一番真剣な目で「この子を助けたい。だからお願い、手伝って」って」
「それって」
「そんな目でお願いされたら、答えてあげなきゃあの子の親失格だわ。それにね……」
「?」
「立香はね、多くの人に手を差し伸べるけど、全ての人に手を差し伸べる訳ではないの。つまり人を見る目があるのよ。だから、立香が貴方を助けた時点で私達が助ける理由は充分だったのよ」
ていうことらしい。いやはや、立香といい親といい凄い家族だと再認識させられたよ。
っと長々と語っちゃったけど、こんな感じで……ん?質問?別にいいけど……立香のことをどう思っているか?そんなの決まってるでしょ、大好きだよ。もちろん女として、ね。まぁ、二人して川に飛び込んだ時は驚いたけど、でも、立香は僕を救ってくれた。“僕”という殻から“私”を引っ張り出してくれた。そんな人を好きにならないわけ無いでしょ?
え?他にも立香のことが好きになった人が居たら?別に良いんじゃないかな、正直に言って
最後の質問?本当に最後なんだろうね……なんで一人称が“私”じゃなくて“僕”なのか、だって?ふふ〜ん、それはね、“私”を見てほしいのは立香だけだからだよ。
はい、これでいいでしょ。それじゃ、僕は立香の所へ行かないと、じゃーねー
ー本人不在の為、回想終了ー
~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、結局は地球にいた頃と同じように二人一緒に寝て夜を明かしたとさ
あくまで寝ただけだから男と女のアレやらナニやらは無いので勘違いするなよ! 思春期の男ども!
by作者
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翌日から早速訓練と座学が始まった。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思った立香だったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。
メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。
立香達もその方が気楽で良かった。遥はるか年上の人達からの高圧的な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。立香とハジメも同じように血を擦りつけ表を見る。
すると……
==============================
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
==============================
と表示された。
まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。
メルド団長からステータスの説明がなされた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。
同時に立香は一瞬頭にキラキラと輝く
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
ハジメは自分のステータスを見る。確かに天職欄に【錬成師】とある。どうやら【錬成】というものに才能があるようだ。
ハジメ達は上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまうハジメ。自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものだ。
しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び嫌な汗が噴き出る。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
この世界のレベル1の平均は10らしい。ハジメのステータスは見事に10が綺麗に並んでいる。ハジメは嫌な汗を掻きながら内心首を捻った。
(あれぇ~? どう見ても平均なんですけど……もういっそ見事なくらい平均なんですけど? チートじゃないの? 俺TUEEEEEじゃないの? ……ほ、他の皆は? やっぱり最初はこれくらいなんじゃ………)
ハジメは、僅かな希望にすがりキョロキョロと周りを見る。皆、顔を輝かせハジメの様に冷や汗を流している者はいない。
メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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まさにチートの権化だった。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か······技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。
ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。
光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……
そこで、ふと隣でステータスプレートをコンコンと叩いていた立香のステータスご気になり、立香に尋ねてみた。
「ねぇ立香」
「ん? どうかした? ハジメ」
「ちょっと、ステータス見せてくれない?」
「? 別にいいけど」
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藤丸立香 17歳 男 レベル:1
天職:旅人
筋力:20
体力:20
耐性:20
敏捷:20
魔力:20
魔耐:20
技能:魔術(ガンド)・言語理解
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(え?)
立香のステータスを見て最初に感じたのは、自分のステータスと大差がないことによる安心感でも同族意識でもなく、
地球にいた頃とから殆どのことは普通以上にこなし、人を惹きつける魅力がありながら(それによって男子に睨まれることが多々あったが)、それをひけらかすことの無い人格を持ち、こんな自分のことを親友だと言ってくれる、あの、立香のステータスが低いということが酷くチグハグだと思った。
しかし、その違和感が正しかったことを理解するのはもう少し後のことである。
「ハジメ?」
立香のステータスに違和感を感じ、プレートを凝視していると不思議そうな顔をした立香に声を掛けられる。
「え? あっご、ゴメン! こんなじろじろとステータス見て」
「いやまぁ、渡したの俺だから気にして無いけど」
「うん、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
そうして、違和感を残しながら立香にステータスプレートを返すとハジメは自分のステータス欄にある【錬成師】を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。技能も二つだけ。しかも一つは異世界人にデフォの技能【言語理解】つまり、実質一つしかない。
改めて確認して、だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。
今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。
その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。
その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。
檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に立香以外の男子はニヤニヤと嗤わらっている。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗しつように聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。
因みに立香は既に無表情で移動を始めていた。
香織に惚れているくせに、なぜそれに気がつかないのか。そんなことを考えながら、ハジメは投げやり気味にプレートを渡す。
ハジメのプレートの内容を見て、檜山は爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。
「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」
「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」
「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」
次々と笑い出す生徒に香織が憤然と動き出す。
だが、皆さんはもう知っているだろう、こんな状況で“彼”が何もしない訳がないと。
「へぇ〜、だったら俺は肉壁にはなるのかな?」
そう言いながら立香は全員に見えるようにステータスプレートを掲げた。
「立香!?」
当然、立香のステータスを知っているハジメは自分を助ける為とわかっていても焦る。
しかし、流石に遅かった。
「プッ、アハハハ〜!!! 藤丸、お前も一般人レベルじゃねぇか!」
「しかも、『天職:旅人』とか非戦系以前に何もできねぇじゃん!」
「ギャハハハ!!、自分からザコなのバラすとかバカじゃねえの!」
「無理! お腹いてぇ、いや無理だろ藤丸も肉壁にならね〜よ!」
と檜山達は更に爆笑し、一部の女子の視線はもはやそれだけで人を貫けるレベルまでにのし上がろうとしていた。
しかし、立香は彼らの爆笑も予想通りだったのか次の行動に移った。
「そっか、じゃあ肉壁は辞めとくよ。代わりに………」スッ
「あ? グハッ」ドサッ
「「「は?」」」
「人をバカにする奴を転ばせることにしよう」
その動きを理解できた者が何人いただろう。一部を除いて、殆どの者は立香を見ていたにも関わらず、気づけば立香は檜山が立っていた場所に移動し、檜山はいつの間にか転んでいる状態だった。
そして、立香が檜山にしたことを理解した者の内の一人である雫が困惑しながらも、立香に話しかける。
「立香、貴方まさか」
「あ、やっぱり雫は気づいたか〜」
「どういうこと? 雫ちゃん。藤丸くんは何をやったの?」
その場にいる者の総意でもある疑問を香織が雫に問う。
「香織、立香はね……“縮地”をしたの」
「縮地?」
「馬鹿な! ありえん!」
「メルド団長?」
雫の説明を聞いて最も驚いていたのは同じく立香のしていたことを理解出来ていたメルド団長たった。
「さっき見た藤丸のステータスには
そう、それがメルド団長を驚かせた理由である。ステータスとはその人物の全てを記すと言っても過言ではないものだ。にも関わらず、立香は自身のステータスに記されていない“縮地”を使ったという。そして、それをメルド団長自身が理解してしまったからこそ、余計に驚かせる要因となったのだ。
「あぁ、安心してくださいメルド団長。別に俺はステータスを偽っている訳ではないです」
「では何故……」
「簡単ですよ。俺は縮地を
「再現?」
「はい。俺達のいた世界でも“縮地”というのは存在します。そして、俺はそれを再現した。たったそれだけです」
「なるほど、ただの再現だからステータスには現れないと」
「まぁ、こっちの知識が殆ど無いので一概にそうだと言い切れませんが」
「そういうもんなのか?」
「大丈夫なのでは?」
「なら問題無い、のか?」
「えぇ、問題ない………と思いますよ?」
「………」
「………」
どことなく微妙な空気感になりつつある状況で誰も動けない中、どうにか復活できた者がいた。
我らが愛子先生だ。
「はっ! そうです! 檜山君それに他の人も笑ってはいけませんよ! 仲間を笑うなんて先生は許しません! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」
ちっこい体で精一杯怒りを表現する愛子先生。その姿に毒気を抜かれたのかプレートがハジメに返され、空気も少しづつ戻っていく。
そんな中、愛子先生はハジメに向き直ると励はげますように肩を叩いた。
「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」
そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。
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畑山愛子 25歳 女 レベル:1
天職:作農師
筋力:5
体力:10
耐性:10
敏捷:5
魔力:100
魔耐:10
技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解
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ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。
「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。
確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。
さっき立香にフォローしてもらったばかりのハジメのダメージは深い。
「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」
「な、南雲くん! 大丈夫!?」
「愛ちゃん先生、折角俺がフォローしたのに……ハジメ、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
反応がなくなったハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄り、立香「流石に愛ちゃん先生のは無理だ」と諦めてお経を唱え始めた。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。
ハジメに対する嘲笑を止めるという目的自体達成できたものの、上げて落とす的な気遣いと、これからの前途多難さに、ハジメは乾いた笑みを浮かべるのだった。
『第三歩』の細かい解説
・立香と優花の関係
立香:料理の作る側の話題で盛り上がれる友人、優花が自分に向ける感情には気づいているのか、いないのかは謎。
優花:料理の師匠的な存在、立香に対する恋愛感情は否定しているが果たして………
・立香と恵里の現状
立香:ちゃんと恵里のことを見ているし愛している。実は最近、恵里が前世のとある英霊に似てきていることを心配している。
恵里:自分をしっかり見て愛してくれる立香が大好き。しかし、家族としての関係に現状は満足している為、恋人になる予定は今の所ない(状況次第)。最近は立香に尽くすことに、喜びを感じるようになった。
・「2頭身で橙色の髪の女」
ほら、こんな駄作に出てやったんだから石よこせよ、もしくは運営に宝具スキップを直談判しに行け………あっまて!
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申し訳ありません、しばらくお待ちください。