ありふれない旅人は第二の生を歩む   作:九時楽

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嬉しい、ただただ嬉しいです!

改めて、読んでくれた、評価してくれた、感想をくれた読者の方々、本当にありがとうございます!!

そんな皆さんが面白いと思って頂ける様に頑張って参ります!


では、『第五歩』……スタートです!


第五歩「月下の語らい……あっまたオリオンが射殺された気がする」

 

 

【オルクス大迷宮】

 

 

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

 

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

 

立香達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

 

久しぶりに普通の部屋を見た気がするハジメはベッドにダイブし「ふぅ~」と気を緩めた。全員が最低でも二人部屋なので組み合わせは当然立香とハジメだ。「気楽でいいね」とハジメが「何だか懐かしいね」と立香がそれぞれ呟く。

 

明日から早速、迷宮に挑戦だ。今回は行っても二十階層までらしく、それくらいなら、立香やハジメのような最弱キャラがいても十分カバーできると団長から直々に教えられた。

 

ハジメとしては面倒掛けて申し訳ありませんと言う他ない。むしろ、王都に置いて行ってくれてもよかったのに……とは空気を読んで言えなかったヘタレなハジメである。

 

しばらく、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮される。

 

 

しかし、ハジメがウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

 

少し早いと言っても、それは日本で徹夜が日常のハジメにしてはということで、トータスにおいては十分深夜にあたる時間。怪しげな深夜の訪問者に、すわっ、檜山達かっ! と、ハジメは、緊張を表情に浮かべる。

 

たが、立香はどういう訳か緊張も警戒もしておらず、それを見たハジメは不思議に思ったが、

 

 

 その疑問は続く声で判明した。

 

 

「藤丸くん、南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 

なんですと? と、一瞬硬直していたが、立香が扉に向かったことでハジメの硬直も解けた。そして、立香が鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

 

「……全く、白崎さんは………」

 

「どうしたの立香って……なんでやねん」

 

「えっ?」

 

 

ある意味、衝撃的な光景に呆れる立香と思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか香織はキョトンとしている。

 

ハジメは、慌てて気を取り直すと、香織の対応を立香に任せて部屋の中に戻った。いくらリアルに興味が薄いとはいえ、ハジメも立派な思春期男子。今の香織の格好は少々刺激が強すぎる。

 

逆に立香は特に慌てたりすることなく、香織に要件を聞いた。立香とて男だ、今の香織の格好に何も感じないことはないが、前世のカルデアにいた、もっと凄い女性(無自覚の頼光)もっとヤバイ女性(自覚しているキアラ)のことを思い出し、精神を沈静化させたのだ。

 

まぁ、そんな事が立香の脳内で繰り広げられたことなど知る訳がないハジメは(もしかして立香……枯れてる?)なんてことを考えていたのだが……

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

「いや、なんでもないよ。それで、どうしたのかな? 白崎さん。何か連絡事項でも?」

 

「ううん。その、少し藤丸くんと南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

「俺は構わないけど、ハジメは?」

 

「…………どうぞ」

 

 

最も有り得そうな用件を予想して尋ねるが、香織は、あっさり否定して弾丸を撃ち込んでくる。しかも上目遣いという炸薬付き。立香はさらりと流したが、ハジメにとっては離れていても 効果は抜群だ! 断ることができず部屋の中に招き入れていた。

 

 

「うん!」

 

 

なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 

ハジメは未だに若干混乱しているが、立香はいつもやっている様ににお茶の準備をする。ここにある、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキをカップに淹れ、香織とハジメ、自分の分を用意して香織に差し出す。そして、向かいの席に座りながら。ハジメをもとに戻す。

 

 

「ハジメ、いつまで混乱してるの? 紅茶モドキ淹れたから取り敢えず飲んで落ち着きな」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

「はい、白崎さんも」

 

「ありがとう」

 

 

やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 

ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた香織に見蕩れた。香織がカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入ってむせた。恥ずかしい。

 

ハジメが恥ずかしさで顔を赤くしながら香織を見ると一目で驚いているとわかる表情をしていた。そしてその理由も本人の口からは語られた。

 

 

「藤丸くん、これ、ここの宿の紅茶だよね?」

 

「? まぁ、そうだけど」

 

「私も自分の部屋で飲んだけど、ここまで美味しくなかったの………」

 

「あぁ〜〜」

 

 

その言葉でハジメは納得した。先程から言っている通り、ここにあるのは“紅茶モドキ”地球の紅茶と比べても数段劣るものだ。

 

しかし、そこは立香クオリティー。立香が淹れた紅茶モドキは地球の紅茶と変わりない、下手をすれば市販のものより美味しいと言えるレベルなのだ。

 

 

「本当に立香って料理上手だよね。ぶっちゃけそれだけで一生食べていけるレベル」

 

「前にも言ったけど、教えてくれた人達が凄いだけだよ」

 

「でも、それをものに出来るのも凄い事だよ藤丸くん!」

 

「ははは、ありがとうハジメ、白崎さん」

 

 

そうして、三人で談笑を終え、改めて立香が香織に聞く。

 

 

「それで、話したいことって何かな。明日のこと?」

 

 

立香の質問に「うん」と頷き、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

 

「明日の迷宮だけど……藤丸くんと南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

 

話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。ハジメは困惑する。ただハジメが足手まといだからというには少々必死過ぎないかな? と。

 

しかし、立香は香織の表情や言葉からただの過保護では無いことを見抜いた。

 

 

「それは、ただ俺達が弱いから不安ってわけでは無さそうだね」

 

「えっそうなの? 白崎さん」

 

「うん……」

 

 

香織は、立香の指摘にうなずき、ハジメは立香の言葉を香織が肯定したことにより、先程の困惑を強める では何故? と。その後、自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。

 

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……藤丸くんと南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 

その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。立香は、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

 

「最後は?」

 

 

 香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

 

「……消えてしまうの……」

 

「……そっか」

 

 

 しばらく静寂が包む。

 

 

 再び俯く香織を見つめるハジメ。

 

 

確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから批難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失う。故に、ハジメに行かないという選択肢はない。

 

立香は立香で考えを巡らせる。前世で、夢を介して様々なものを見たり、様々な場所にいった経験を持つ故にハジメと違い香織が見た夢をただの夢と断ずることができなかった。

 

だが、現状ではどうしようもなかったので、せめて香織を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。

 

 

「その夢が正夢にせよ俺達が心配だから見た夢にせよ、大丈夫だよ白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、うちのクラス全員チートだし。敵が可哀想なくらいかな。俺達が弱くても、問題ないよ」

 

 

語りかける立香の言葉に耳を傾けながら、なお、香織は、不安そうな表情で立香を見つめる。

 

 

 

「それでも……白崎さんが不安だというのなら……」

 

「……なら?」

 

 

立香は若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに香織と目を合わせた。

 

 

「俺達を守ってくれないかな?」

 

「え?」

 

 

自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。流石の立香でも羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、香織からもその様子がよくわかった。

 

 

「白崎さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、俺達が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せる。だから、その力で守ってもらえるかな? それなら、それ以上に安心できることはないよ」

 

 

しばらく、香織は、ジーと立香を見つめる。立香も変わらず香織を見つめ続ける。

 

立香は、人が不安を感じる最大の原因は未知であると前世でサーヴァントに聞いたことがあった。香織は今、立香達を襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。

 

 

因みにハジメは完全に空気だった。

 

 

しばらく見つめ合っていた香織と立香だが、沈黙は香織の微笑と共に破られた。

 

 

 

「変わらないね。藤丸くんは」

 

「?」

 

 

香織の言葉に訝しそうな表情になる立香。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

 

「藤丸くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

 

その意外な告白に、聞いていたハジメは目を丸くするが立香は特に驚いた様子はなかった。

 

 

香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た藤丸くんは不良っぽい男の人達に向き合っていて私のことが見えなかっただろうしね」

 

「あぁ〜〜あの時ね」

 

 

立香は、内心あの時からか〜(・・・・・・・)と記憶を振り返っていた立香に香織が話を続ける。

 

 

「うん。不良っぽい人達に囲まれていても笑顔を崩さなくて。殴られそうになっても、蹴られそうになっても……絶対にやり返さなくて。その後、不良っぽい人達を会話だけで、鎮めて帰らせた」

 

「それはまた平凡な場面を……」

 

 

その時のことは立香にとって「会話だけで帰ってくれて良かったな〜」程度にしか考えない平凡な場面だった。

 

しかし、香織は変わらず優しげな眼差しをしていた。

 

 

「ううん。平凡なんかじゃないよ。むしろ、私はあれを見て藤丸くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

 

「……?」

 

 

立香は不思議そうな顔をした。そんな普通のシーンを見て抱く感想ではないだろうに。何故? と。立香の心情を察したハジメはいやいや平凡でも普通でもないよ立香…… と少し呆れていた。

 

 

「だって、藤丸くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

 

その言葉に、立香は、確かにそんなこともあったな〜 と中学生の頃を改めて思い返す。

 

 

男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった。

 

そこを遠目から見た立香は、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう――お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点で既に不良のそばにいた。

 

立香の身体能力なら不良連中をなぎ倒すなど簡単に出来たが、近くに子供と老人がいて周囲にも人が集まり始めた状況ではそれはよろしくないと考え。仕方なく相手の説得を試みたのだ。最初は相手が逆上し暴力を振るってきたがそこは立香クオリティー。避けながら話し最終的には誰も怪我することなく不良は帰らせた。

 

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や暴力を振るわれたのに逃げることもやり返すこともせず、最後まで説得し続ける人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

「白崎さん……」

 

「だから、私の中で一番強い人は藤丸くんなんだ。高校に入って藤丸くんを見つけたときは嬉しかった。……藤丸くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。藤丸くん、たまにのらりくらりとしてるけど……」

 

「あはは、それはごめんね?」

 

 

立香は、香織の自分に対する予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

 

「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも藤丸くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

 

 香織は決然とした眼差しで立香を見つめた。

 

 

「私が藤丸くんを守るよ」

 

 

 立香はその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

 

「ありがとう…………でも、そこでハジメを忘れるのは流石に、ね?」

 

「え? あ! ご、ごめん南雲くん! 別に南雲くんを忘れた訳じゃなくて………」

 

「い、いや僕は気にしてないから。ていうか立香、あそこで言うのは性格悪いよ」

 

「ぷっぷくククク……ごめん、いつも誰かに構われてるハジメが完全に空気で、しかも白崎さんに忘れられてるのが可笑しくて………もうムリ、アハハハハハ!!!」

 

「も、もう! 藤丸くん!!」

 

「忘れてた、立香って意外とSな所があるんだった」

 

 

 それから、もう一度雑談した後、香織は立香が付き添い部屋に帰っていった。

 

立香と香織が部屋から出た後、ハジメはベッドに横になりながら思いを馳せる。なんとしても自分に出来ることを見つけ出し、無能の汚名を返上しなければならない。ハジメは決意を新たにし眠りについた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

深夜、香織が立香と共に部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを立香以外誰も知らない。

 

その者の表情が醜く歪んでいたことも立香以外知る者はいない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

香織と雫の部屋についた二人は扉の前で少しの談笑をする。

 

 

「ありがとう、藤丸くん。わざわざ部屋まで送ってくれて」

 

「気にしないで。ただのお節介だから。それに、こんな夜中に女の子一人で出歩かせる訳にはいかないからね」

 

「本当に優しいね。藤丸くん……それじゃあ、おやすみ……ってあれ?」

 

「ん? どうかした? 白崎さん」

 

「雫ちゃんが戻ってない。私が部屋を出る時に少し鍛錬するって言ってたけど……」

 

「ん〜、流石に警備があるとは言えこんな時間だからね、うん、取り敢えずは俺が探しとくよ、んで見つけたら白崎さんが心配してたって伝えとく」

 

「ごめんね、藤丸くん。藤丸くんも寝たいだろうに」

 

「そこは、謝罪じゃなくて感謝の方が元気が出るかな」

 

「そっか、じゃあ、ありがとう! 藤丸くん!」

 

「はい、どういたしまして。それじゃあおやすみ、白崎さん」

 

「うん、おやすみ、藤丸くん」

 

 

そうして、立香は雫を探そうと歩き始め………たのだがすぐに振り返り、

 

 

「あっ、そうそう白崎さん」

 

「ん? どうしたの? 藤丸くん」

 

「夜の男の部屋に来る時はあまりその格好はオススメしないよ」

 

「?」

 

「今回は良かったけど、君みたいな可愛い女の子が自分の部屋に来たら、男は抑えきれずにオオカミになってしまうかもしれないからね」

 

「え!/// そ、それって」ボンッ

 

その言葉を聞いた香織の顔は茹でだこの様に赤くなる。

 

 

「ハハハ、じゃ、改めておやすみ〜」

 

 

そう言って、立香はその場から走り離れる。

 

 

「ふ、藤丸く〜〜ん!!」

 

 

その香織の叫びを遠くに聞きながら藤丸は、今の雫がいそうな場所えと向かう。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……やっぱりここに居た」

 

 

宿のすぐ側にある少し開けた場所に雫はいた。

 

 

「立香?」

 

「全く、白崎さんが心配してたよ? 雫」

 

「それは……悪いことしちゃったかしらね」

 

「そう思うなら白崎さんに謝っときなよ」

 

「そうするわ。それでそれだけを言いに来た訳じゃないでしょ?」

 

「まぁね…………不安?」

 

「―っ!」

 

「そっか……」

 

「やっぱり、立香は気づくのね」

 

「そりゃ人を見る目には、多少自信があるからね」

 

「人を見る目“も”の間違いでしょ」

 

「あはは……さて、雫の不安は明日のこと?」

 

「! 勝てないわね立香には。えぇそうよ……」

 

 

そこから、雫は自分の心の内を話し始める。

 

 

「魔物とはいえ生き物の命を自分の手で殺す。それが怖いの……」

 

「………」

 

「しかも、それはまだ最初。いずれ戦争が本格化すれば今度は魔人族を…………()を殺さなきゃいけない」

 

「そうだね」

 

「皆の前では平然としていられる。けど、決して不安が、恐怖が消えるわけじゃないの………私、どうすれば良いのかしら」

 

 

雫の心の内を聞いた立香は暫く考えた後……

 

 

「………さぁ?」

 

 

と言った

 

 

「“は”?」

 

 

当然、あれだけの事を言った後にそんな返し方をされれば誰だってそうなる。雫だってそうなる。

 

 

「不安だろうが怖かろうが結局は現状を変えるなんて無理だし、あっでも皆の前では平然としているのは凄いんじゃない?」

 

「あ、あんたねぇ〜」

 

 

雫が既にキレる寸前なのを理解しているにも関わらず、立香はいまだに煽り続ける。

 

 

「流石、皆の雫お母さん……いや、皆の“オカン”だね」

 

 

ブチッ!

 

 

もしその場に二人以外がいたならそんな音が聞こえていただろう。

 

 

「取り敢えず立香……あんたは一回ぶった斬る!!」

 

「アハハハ〜〜キレて最初に出てくる言葉が“斬る”ったあたりが流石、剣術道場の娘だよね〜」

 

 

本格的にキレた雫は持っていた武器で立香に斬りかかるが立香は余裕そうにかわす。

 

 

「なんっで……当たらないのよ!」

 

「頑張って避けてるから?」

 

「汗を一つかかないで何が“頑張って”、よ!!」ザンッ!

 

「うわ、あっぶな! 今の本当に殺す気だったでしょ」

 

「うっさい! いいから斬られなさい!」

 

「すっごい、横暴だ〜」

 

 

そこから約二十分間、雫による攻撃が続いたが最後まで立香に当たることは無かった。

 

 

「ぜぇ〜はぁ〜」

 

「お疲れ様〜大丈夫? 雫」

 

「はぁ〜はぁ〜、誰の、せいよ……」

 

「でも、少しは発散(・・)出来たみたいだね」

 

「おかげさまでね、まぁ気づいたのは途中からだけど」

 

「うんうん、それなら良かった……………さっきまでの雫に必要だったのは、不安や恐怖を取り除くことじゃなくて、心を軽くすることだったからね」

 

「あなたに乗せられっぱなしてのが少し気に食わないけど。確かに少しは楽になったわ………変わらないわね、立香は」

 

「あはは、それ白崎さんにも言われたよ」

 

「あら、そうだったの?」

 

「うん」

 

「先を越されちゃったわね」

 

「あはは……」

 

「ふふふ……」

 

 

 

さて、ちょうど良さそうなので回想にレッツゴ〜!

 

 

ポワンポワンワンワン·········

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

雫Side

 

 

私が始めて竹刀を持ったのは四歳の時だった。八重樫流という古流剣術を受け継ぐ八重樫家の当主だった祖父は、戯れに竹刀を私に持たせてみた。祖父が言うにはその時に私は、才能の片鱗を見せてしまったらしい。

 

可愛い孫が流派の才能を受け継いでいると知った祖父は、普段の仏頂面を崩して、それはもう嬉しそうに微笑んだのを今でもはっきりと覚えている。

 

その日から、私にとって剣術と剣道の稽古が生活の一部になった。祖父も父も、道場の皆も、すごいすごいと褒めてくれて………

 

 

でも、本当は……

 

 

剣術なんてやりたくはなかった。本当は道着や和服より、フリルの付いた可愛い洋服を着たかった。手に持つのは竹刀よりもお人形やキラキラしたアクセサリーがよかった。

 

 

けれど、家族の期待を裏切るのが怖くて、結局は剣術を辞めることができなかった。

 

 

そんな時だ、

 

 

光輝が家に入門して来て、王子様がやって来たのかと思った。〝雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ〟と言われ、カッコイイ男の子との絵本のような物語を夢想した。彼なら自分を女の子にしてくれる。守ってくれる。甘えさせてくれる。そう思っていた。

 

 

でも、光輝がもたらしたのは、私に対するやっかみだった。小学生の時から正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる光輝は女の子達の注目の的だった。女の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない私が、そんな彼の傍にいることが、女の子達には我慢ならなかったのだろう。その時に言われた言葉は今でも覚えている。光輝を好いてる女の子の一人に言われた言葉………〝あんた女だったの?〟って。正直、ショックだったわ。

 

 

光輝に助けを求めたこともある。だが、そんな時、光輝が言うセリフは決まっていた。すなわち、「きっと悪気はなかった」「みんな、いい子達だよ?」「話せばわかる」などだ。その言葉通り、私に対する言動について光輝が女の子達に話し合いにいってしまい、風当たりが強くなった。それも光輝にばれないよう巧妙さを増して。

 

光輝に相談しても、返ってくるのは困ったような笑みばかりで、いつしか私は光輝に頼ることをしなくなった。

 

 

そんな小学生時代を過ごしていた時に一人の男の子が私の家に来た。なんでも、祖父を含めた親同士の交流があるらしく、以前から相手側の息子を連れてきたかったらしい。私は祖父に呼ばれてその男の子に自己紹介するように言われた。

 

 

「初めまして。八重樫、雫です」

 

 

なんの面白味もない自己紹介だったと今にして思えば恥ずかしくなる。でも、気にして無いのか、男の子も自己紹介を始める。

 

 

「俺は立香、藤丸立香。よろしくね、“雫ちゃん”」

 

 

そう、その男の子こそが立香だったのだ。

 

でも、自己紹介された私が意識を向けたのは立香ではなく立香が言った言葉だった。

 

 

「え? 今…」

 

「ん? 何か変なこと言った?」

 

 

その時の私は、道着に防具を着けた状態で、その状態で始めて私を見た人は皆、私を男の子だと思っていた。にも関わらず立香は初めて私を見た筈なのに一目で女の子だと言ってみせたのだ。

 

 

「だって、私のことを“雫ちゃん”って」

 

「女の子にちゃん付けするのはおかしい?」

 

「おかしくは、無いけど………」

 

「もしかして、嫌だった?」

 

「ううん! これからもそう呼んで!」

 

「あらあら、立香はもう雫ちゃんと仲良くなったのね」

 

「何! し、雫はやらんぞ!……と言いたいのだが、“凛香(りんか)”さんの息子ならば。いやしかし………」

 

 

……その後も私と立香は時々会って話したり、立香は私の本当に欲しいものを知っているのか、いないのか、手作りのお菓子やスイーツ、ぬいぐるみまでくれて、私は本心からの笑顔を浮かべることが多くなった。

 

 

でも………その笑顔は、幸せは、彼女達にとって面白いものではなかったらしい。

 

 

「や、やめて! 返して!」

 

「何よ、男女の癖に。あんたなんかにこーゆーのは不相応なのよ」

 

 

公園で立香を待っていた私をたまたま見かけたのか、光輝を慕っている女の子達は私が一人なのをいい事に私を二人がかりで押さえつけ持っていたぬいぐるみを奪う。

 

 

「全く、光輝くんに構ってもらえてるのに、他の男の子と一緒にいるなんて……確かそう言うの“尻軽女”って言うらしいじゃない。あっ、あんたは女じゃなくて男だったわね!」

 

「「「アハハハ!!!」」」

 

 

結局、自分なんかが幸せになるのは無理なのか……そう思っていた時、

 

 

「雫に、何してるの?」

 

 

彼が来た。

 

 

「誰よ、あんたは」

 

「う〜ん、雫の友達、かな」

 

「友達? あ〜思い出したわ。あんただったわね、このぬいぐるみ渡してたの。はっ! こんな男女の何処が良いんだか」

 

「何処がって、可愛い所とか?」

 

「はぁ? あんた馬鹿なの? こいつが可愛いとか何にも知ら「少なくとも」……」

 

「何も知らない君達よりは、彼女が可愛いことを知っているよ。だからさ………」

 

 

そう言いながら立香は彼女達に近づいていき………

 

 

「何も知らない、知ろうとしない君達が……………………雫をイジメてんじゃねぇよ

 

「ヒッ!」

 

 

それは、私が今まで立香と一緒にいて一度も聞いたことの無い声だった。

 

 

「それじゃあ、これからは止めようね。でないと、君達に何が起こるかわからないからさ

 

「い、行こ」

 

「え、えぇ」

 

 

そう言って彼女達は逃げるように公園から出ていった。

 

 

「さて、これでもう大じょ『ギュッ』……雫?」

 

 

私自身、どうして立香に抱きついたのかはわからなかった。ただ、離れたいとは思わなかった。

 

そして、立香も拒むことはせず私を抱きしめて頭を撫でてきた。

 

 

「立香……」

 

「ん?」

 

「私、あなたといるべきじゃないのかな。こんな地味で女の子らしくない私に立香といる資格なんて「雫」……立香?」

 

 

私の話を遮った立香は私を離すと私の顔に手を伸ばし……

 

 

「な、何をって、いふぁいいふぁいにゃにをふるのりふふぁ」(意訳:痛い痛い何をするの立香)

 

 

私の頬を摘んで伸ばしたりし始めた。

 

慌てて立香を離すと、立香は話し始める。

 

 

「雫は思い詰めすぎなんだよ。資格? 仮にそんな物が必要だったとしても、全部無視してしまえ」

 

「り、立香?」

 

「雫は頑張ってきた、色んな人の期待を背負って努力した。なら、『誰かと居たい』なんて願いも、『自分の欲しいものを欲しいと言う』わがままも押し通してしまえ」

 

「……いいの?」

 

「うん」

 

「わがまま言っても、立香と一緒に居たいって言っても、いいの?」

 

「好きなだけ言いなよ」

 

「なら、立香と一緒に居たい!!」

 

「いいよ……あ、そうだこれ。渡し忘れる所だった」

 

「これは?」

 

「誕生日プレゼント。前にこれを見て欲しいって言ってたから、新しく作った」

 

「私の誕生日、覚えててくれたんだ」

 

「当然、雫の誕生日だもん、忘れる訳が無いよ」

 

「ありがとう! 絶対に大事にするね!」

 

「はい、どういたしまして」

 

 

 

これが、私が立香に出会った時の話よ。え?その時のぬいぐるみ?あぁ、あの“白くてリスの様なウサギの様な動物”のぬいぐるみのこと?えぇ、今でも部屋に大事に置いてあるわ。……前に立香に、なんの動物なのか聞いてみたけど、「昔に見た動物を作ったんだ、可愛いでしょ?」以外は答えてくれなかったわね。

 

最後に、立香をどう思っているか?ですって? 当然、好きよ、女として。私を守ってくれた、私にわがままを言わせてくれた。髪を伸ばしたのだって、立香に言われたおかげで伸ばそうと思ったんだから。

 

立香を狙っている女が他にもいる事は知っているわ。でも、諦めるつもりは無い、たとえ親友と同じ人を好きになっているとしても、ね。

 

 

 

ー普通に質問が終了した為、回想終了ー

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

場面戻って現在

 

 

「ふぅ、ありがとう立香。不安が全部消えた訳じゃないけど、でももう大丈夫」

 

「そっか、だけど何かあったらちゃんと言いなよ〜、雫は溜め込みがちなんだから」

 

「はいはい、わかってるわよ」

 

「ならば良し、じゃあ戻ろっか部屋まで送ってくよ」

 

「あら、良いの? 立香の部屋と反対方向だけど」

 

「良いの、女の子を一人出歩かせるよりはね」

 

「はぁ〜、そういう所も変わらないわね

 

「別に、誰にでもやる訳ではないからね? 雫」

 

「き、聞こえてたの!?」///

 

「さてね。ほら、行くよ雫!」

 

「え? あ、待ちなさい立香!!」

 

 

 

 

 

そうして、夜は明け………物語()は新たなページ()を照らす。

 

 

 

 

 




『第五歩』の細かい解説

・立香に対する香織の現状
好き!!(挨拶)とまではいかないが、自分が立香のことを好きだという事は自覚している。因みに、そんな香織が何故ハジメに構うのかというと、単に心配ということもあるが、実はハジメに構うことで立香との会話の機会を増やそうという打算的な目的もある。まぁ当然立香は気づいているが、見てて面白いしいっか。という立香のS心から、受け入れられている。

・立香の「あの時からか〜」という思考
ヤンデレストーカーである香織だが、前世でサーヴァント(主に溶岩水泳部等)に隠密的にすら見える献身的な後方警備をされていた立香にとって香織のストーキングなど簡単に気づく。しかし、気づいた上で特に害意を感じなかったので、好きにさせていた。

・立香と雫の現状
香織は知らないが実は幼馴染。過去の出来事で立香を好きになる。高校にて親友である香織が自分と同じ人を好きだという事に気づくが、それをしっかり受け止めている。余談だが、雫は、立香に貰った誕生日プレゼントのぬいぐるみを、寝る時に抱きしめているらしい。

・立香の母親“凛香”
立香の母親、年齢は立香も知らない。見た目は二十歳前後、容姿と名前の由来は………まぁ、FGOマスターならわかるだろ?(ぐだーずの元ネタ)性格は基本優しく懐が広いが、少し心配性な所がある。しかしやる時はやる女であり、自らが持つツテを惜しげも無く使う。ツテの種類は多岐にわたり、何故それだけ持っているのかは不明。ただし、凛香が呼んだり頼んだりすれば必ず応えるほどの恩義と人望があることは確か。
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