ありふれない旅人は第二の生を歩む   作:九時楽

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☆評価してくださる方も増え、感想も頂けて、何度も言って軽いかもしれませんが、それでも自分は言います。本当にありがとうございます!!

そして、誤字報告をしてくださったねこ次郎さんもありがとうございます!

さて、『第六歩』に行きたいと思いまが、今回は立香くんが“アレ”を!

では、どうぞご覧ください。


第六歩「迷宮、トラップ……アステリオスくん元気かな〜」

現在、ハジメ達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

 

ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

 

ハジメ達は、お上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルド団長の後をカルガモのヒナのように付き、それを見ながら立香も最後尾を歩いていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 

 

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

 

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、立香大好きっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度(立香を除いて)で振るって数体をまとめて葬っている。

 

 

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

 

しかし、本物の聖剣(エクスカリバー)を知っている立香からすればただのなまくらにしか見えなかったという。

 

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

ハジメ達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――【螺炎】」」」

 

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

余談だが、約一名ほど立香に 褒めて!褒めて!(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧ という顔をしていたのだが

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

 

ハジメ達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

 

この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

従って、ハジメ達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 

 

ここまで、立香とハジメは特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、ハジメは地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、立香はガンドで動きを止めてから技術の縮地をして速攻で仕留める。というやり方でそれぞれ一匹ずつ犬のような魔物を倒したが、それだけだ。

 

基本的には、どのパーティーにも入れてもらえず、騎士団員に守られながら後方で待機していただけである。なんとも情けない限りだが、それでも、実戦での度重なる錬成の多用で魔力が上がっているのだから意味はある。魔力の上昇によりレベルも二つほど上がったのだから実戦訓練はためになるようだ。

 

 

(ただ、これじゃあ完全に寄生型プレイヤーだよね、はぁ~)

 

 

再び、騎士団員が弱った魔物を立香とハジメの方へ弾き飛ばしてきたので、今度は溜息を吐きながら接近し、手を突いて地面を錬成。地面を棘の様にして貫き動きを止め、立香が魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺するという連携を見せる。

 

 

(まぁ、なんか錬成の精度が徐々に上がっているし、立香も協力してくれてるし……地道に頑張ろう……)

 

 

魔力回復薬を口に含みながら、額の汗を拭うハジメと考え事をしながら自分の武器を見る立香。そんな二人を騎士団員達が感心しながら見ていた。

 

実を言うと、騎士団員達も立香とハジメには全く期待していなかった。ただ、戦闘に余裕があるので所在無げに立ち尽くす二人を構ってやるかと魔物をけしかけてみたのだ。もちろん、弱らせて。

 

 

騎士団員達としては、二人が碌に使えもしない剣で戦うと思っていた。ところが実際は、錬成を利用して確実に動きを封じてから、止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。錬成師は鍛冶職とイコールに考えられている。故に、錬成師が実戦で錬成を利用することなどあり得なかった。

 

ハジメとしては、何もない自分の唯一の武器は錬成しかないと考えていたので、鉱物を操れるなら地面も操れるだろうと鍛錬した結果なのだが、立香と周りが派手に強いので一匹相手にするので精一杯の自分はやはり無能だと思い込んでいた。

 

そして、立香との連携は立香が提案したものである。このやり方ならほぼ確実に仕留められるのと、最悪、武器を失ってもハジメが錬成した棘を武器にするという「立香、やっぱりチートだよね」とハジメが呟いた戦闘方法なのだ。

 

 

ちなみに本邦初公開である。王都郊外での実戦訓練で散々無様を晒した末、考え出した戦法だ。

 

 

小休止に入り、ふと前方を見ると香織が自分達、正確には立香を見ていた。彼女は立香の方を見て微笑んでいる。

 

 

昨夜の〝守る〟という宣言通りに見守られているようでなんとなく気恥ずかしくなり目を逸らすハジメ。立香はそれを見て苦笑いし香織と目を合わせる。すると香織が嬉しそうに笑顔を浮かべる。それを横目で見ていた雫も苦笑いし、小声で話しかけた。

 

 

「香織、なに立香と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

 

からかうような、しかし嫉妬の混じった口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。

 

 

「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、藤丸くん大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

 

「それがラブコメしてるって事でしょ?」と、雫は思ったが、これ以上言うと拗ねそうなので口を閉じる。だが、目が笑っていることは隠せず、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。

 

 

そんな様子を横目に見ていたハジメは、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

その視線は今が初めてというわけではなかった。今日の朝から度々感じていたものだ。視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。朝から何度もそれを繰り返しており、立香の方も同じことを思っていたのか似たような顔をしていて、いい加減うんざりしていた。

 

 

(なんなのかな……立香は………まぁ兎も角、僕、何かしたかな? ……むしろ無能なりに頑張っている方だと思うんだけど……もしかしてそれが原因かな? 調子乗ってんじゃねぇぞ! 的な? ……はぁ~)

 

 

深々と溜息を吐くハジメ。香織の言っていた嫌な予感というものを、ハジメもまた感じ始めていた。

 

 

一方立香は、視線の主に一瞬目を向け、警戒を強める。

 

 

(元々持っていた嫉妬の感情が異世界(こっち)に来てからより強くなった。行動に移すことも多くなったし………今は何も無いけど、注意していた方が良さそうだな。恐らくはあいつ自身も気づいてないだろうけど、相当ドロドロとして歪んでいるな………………檜山(・・)の白崎さんに対する好意……)

 

 

 

立香とハジメがそんなことを考えている内に一行は二十階層の探索を始める。

 

 

 

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

 

他の皆が探索している中、立香がある気配を感じとる。

 

 

(これは……魔物の気配か、それも二体(・・)………それにトラップが一つ。まぁ、最初は天之河達が対処するだろうけど、念には念を入れて………)

 

「ハジメ」

 

「ん? どうしたの立香」

 

「今から素材を問わずに槍状の物を錬成できる?」

 

「? まぁ、地面で良いのなら十秒かそこらでできるけど………」

 

「じゃあ、お願いしていい?」

 

「うん、こんな状況で立香が言ったことが無意味とも思えないし。わかった」

 

「ありがとう、ハジメ」

 

 

そうして、立香に言われた通りに槍を錬成していると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 

メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 

 直後、

 

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

 

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

 

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまい、他のクラスメイト達も動けない中で………

 

 

ただ一人、動いた者がいた。

 

 

「師匠直伝! 蹴り……ボルグ!!」

 

 

 

ドゴォォォォォン!!

 

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

立香が地面に着地した時、

 

 

ある者は立香が信じられないほど高く跳んだ後にオーバーヘッドをかました事に。

 

ある者は突然後ろから何か飛んできたと思ったら、いつの間にかロックマウントが額に穴を開けて死んでいる事に。

 

ある者は何もできないと思っていた立香が地面を揺らす程の攻撃をした事に。

 

ある者は無能だと思っていた立香が自分にはできないことをしてみせた事に。

 

またある者は立香のその姿に見惚れて………

 

 

それぞれ考えていることは違えど、その場にいる全員が少しの間、動くことができなかった。

 

 

「はっ!、全員まだ戦闘中だ! 戦闘態勢に戻れ!」

 

「「「は、はい!」」」

 

 

しかし、そこはベテランのメルド団長。どうにか意識を戻し、全員に呼び掛け同じように意識を戻させる。

 

香織達は、「す、すいません!」と謝るもののさっきの立香の姿が頭から離れないらしく、まだ少し惚けていた。

 

 

そんな様子を見て、何を勘違いしたのかキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 

どうやら惚けているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――天しょ…あれ?」

 

「あっ、こら、馬鹿も…の?」

 

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろ………そうとして最初のロックマウントに向くと、ロックマウントは額に穴を開けて既に死んでいた。

 

 

「やっぱり周りを考えずに大技撃とうとしたのか……はぁ〜〜…」

 

「ま、まさか、このロックマウントも立香が?」

 

「えぇ、ちょうど直線状にいたので纏めて槍で貫きましたが……あぁハジメ、槍、錬成してくれてありがとう。でも、無理させ過ぎたせいで壊れちゃった。ゴメンね」

 

「え、あ、あぁうん。どういたしまして?」

 

 

立香の言ったお礼にハジメが疑問系で返し、他の皆が立香に視線を集めた時、タイミングが良いのか悪いのか光輝が動き出し、

 

「と、とにかく! これで、魔物はいなくなった! もう大じょ…へぶぅ!?」

 

 

と香織達に声を掛けようとしていた所に、笑顔で迫ったメルド団長の拳骨を食らった。

 

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃなかっただろうが! 今回は立香が先に仕留めていたから良かったが、もしお前が撃って崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

 

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

 

「素敵……」

 

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリと立香に視線を向けた。もっとも、雫達いつものメンツと、もう一人だけは気がついていたが……

 

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長と立香だ。

 

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

「! まずい! おい、檜山! 止まれ!!」

 

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

メルド団長は、立香の慌てぶりに疑問を抱きながらも、檜山を止めようと追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪め、慌ててメルド団長に告げる。

 

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

 

 しかし、メルド団長も、立香も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

 

「くっ、色々言いたい事はあるが先ずは撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 

部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

ハジメ達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

尻の痛みに呻き声を上げながら、ハジメは周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどはハジメと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒と立香は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

 

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

 

 

 




『第六歩』の細かい解説

・立香の気配感知能力
前世にて自然と身についたものを英霊と共により成長させた能力。通常時でも様々なものを感じ取れるが、範囲を拡げたり限定させる事でより多くの種類を感じ取れたり、本来わからないものまで理解できるようになる。

・立香の蹴りボルグ
やりたかったんだ!by作者

前世でのスカサハ師匠による修行で得(ないと死ぬかもしれなかっ)た技。余談だが、立香が使いこなせるようになった時、スカサハはその嬉しさのあまり立香を思いっきり抱きしめ、それを見てしまったとある青いランサーは ランサーが死んだ! この人でなし! となってしまったそうな。
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