非存在の存在証明   作:トブト

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【証明】〜証明開始~その3

血ノニオイ………?

 

 

エルフを追跡するオークはエルフのニオイを探して走る中、妙なニオイに足を取られる。

それまでエルフの痕跡すらも見つからなかったというのに突如鼻につくような獣臭いニオイがオークの鼻を掠めたのだ。

生命を持つ生物は魔力を生命力として動いている。

よって体の器官を動かすにもそれ相応の魔力が必須となってくる訳だ。

つまり、血にも魔力の残滓などが含まれている。

 

コノ、ニオイ、ハ………。

 

 

追跡のオークは今度は注意深くニオイを嗅ぎとるために鼻に意識を向ける。

エルフの魔力のニオイは先の戦いで記憶していたのですぐさま違うと候補から外れる。

刀傷のオークのものとも照合してみるも似てはいるがどこか濃淡の違いのようなものを感じそれによりこれも除外とした。

すると残るものは。

 

 

マサ、カ………。

 

 

仲間のものと知るやすぐさま追跡のオークは仲間のオークの元へ助けに駆け込むか刀傷のオークの元へこのことを伝えるために向かうかの二者択一に迫られた。

板挟みの中、どちらを選ぶか決めあぐねているところで。

 

ヒュオッ!

 

 

「ッ!?」

 

 

突如背後から何者かの気配を感じ取る。

すぐさま振り返り応戦するオーク。

 

「ハァッ!」

 

 

黒コートをたなびかせながら軍刀で斬りかかるその黒い影に対し、オークは咄嗟に左腕で防御をする。

軍刀はオークの左腕に切れ込みを入れるも頑強な腕は貫通には至らず傷は浅いところで留まる。

 

 

「くっ!やっぱ力比べじゃオークには敵わないか!」

 

 

黒コートの影は言うや自分の腕の力では足りないと知るやすぐさま身を翻してオークとの距離を取るのだった。

 

 

人族………?子ドモ………?

 

 

そこで追跡のオークはようやく黒コートの影の全容を知ることが出来、改めて衝撃を受ける。

なにせ人族の成人であってもオーク族とはその体格差は大きく違うのだ。ましてや成人に至らない年齢の者などオークにとっては子どもと大差ない。

そんな年端もいかない子どもに襲われたことに、ではない。

 

問題はそのニオイ。

黒コートの少年から漂う僅かなニオイ。

 

それは数多の死のニオイのようなものが入り混じっており、その中にはオークが先ほど嗅いだニオイも入っていた。

 

 

マサカ……コノ人族、ノ、子ドモ、ガ!?

 

 

そこから結び付けられる事実はオークには到底信じられないことであった。

しかし、現実は覆ることなく。

事実は常に動く。

 

 

「なら、これならどうかな?」

 

 

黒コートの少年がそう言うと斬りかかった軍刀を鞘に納め、そのまま身を低くする。

足は前後に広げ、右の手は柄を握ったままの構えに入る。

途端、少年とオークを取り巻く空気がピッ、と張り詰め出した。

 

それは刹那。

時が止まる感覚。

落ちる木の葉さえ宙に固定されてそこに留まる。

凄い集中力だとオークは少年へ畏怖も混ざる畏敬の念を浮かべていた。

少年が構えた途端、そこからは静かに、冷たい殺気めいたものをオークは感じていた。

冷気はオークを、この場全てを包み込むようにまとわり広がっていく。

死の冷気。

 

 

「五ノ構え・『虚空両断』」

 

 

少年の口から、静かに語られる。

手元が輝いたかと思うと。

 

ンビュウッ!

 

オークへ向けて目に見えぬ無慈悲な一太刀が振りかぶられていた。

 

 

「グッ!?ウォッ、ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!??」

 

 

あまりに唐突な斬撃。

見えない殺意。

少年とオークの間にあるあらゆるものを断ち切らんとする脅威。

 

咄嗟に防御に入るオークであるが威力が想定の上に行っており、あの頑強な肉体持ちのオークでも直感で防ぎきれないと判断した。

 

 

「オォオオオオオ…………ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 

 

そのままオークは自分の身を逸らすようにして死の斬撃を己から逃し、受け流す。

ただ、無事というわけにもいかずオークの剛皮はズタボロに切り裂かれていた。

そこに、いつのまにか懐に潜り込むように少年がオークに迫っていた。

そして、空間さえ切り裂くことが出来る凶刃を無防備となったオークの腹底目掛けーー。

 

 

「ナメルナ人族ゥッ!!」

 

 

ガッ!

 

少年がオークの腹に切れ込みを入れたところでオークは自身の腹筋を強張らせ軍刀のそれ以上の食い込みを防ぐ。

さらに、筋肉を強張らせたままにしておき軍刀がオークの腹から抜けなくした。

 

 

「!?」

 

 

流石に分が悪いと黒コートの少年は自ら軍刀を手放すもーー。

 

ガシッ!

 

後ろへ飛びすさろうとした少年をオークは囲うようにしてその巨大な両の手で掴まえると。

 

 

「フンアァッ!!」

 

 

そのまま勢いよく少年を地面に叩きつける。

 

 

「ぶごっ…………あっ……………!」

 

 

鈍い音。

肉が、内臓が潰れる音。

口から血を噴き出す。

 

地面から弾むように宙に浮かぶ少年に。

 

 

「ウァアアアアッッッッ!!!!」

 

 

さらに追い討ちを掛けるようにオークの剛腕が振り落とされる。

 

 

「死ネッ!人族!死ネッ!!死ネェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッ!!!!!」

 

 

そのままオークは少年を地面に打ち込む。

何度も。

何度も。

何度も。

 

 

「死ネェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

その原型が無くなるまで。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!」

 

 

獣の慟哭は、どこまでも続き響くーー。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

「死ネ………人族…………死ネ……………」

 

 

森の中。

追跡のオークはまるで呻き声のように呟く。

その場に崩れるようにして膝から座り込み、まるで何かに取り憑かれたかのようにその目は虚ろを向いている。

そしてその傍らには。

 

 

「…………一体どんな夢を見ているんだか」

 

 

呆れた様子でその様を眺める五体満足に立つ少年の姿があった。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

あの時。

 

少年が追跡のオークへと奇襲を仕掛けた時。

 

軍刀はオークの左腕に切れ込みを入れるも頑強な腕は貫通には至らず傷は浅いところで留まる。

 

 

「くっ!やっぱ力比べじゃオークには敵わないか!」

 

 

言うや少年は自分の腕の力では足りないと知るやすぐさまーー。

オークの目を見た。

魔眼を開眼させて。

 

魔眼と目を合わせたオークは途端に体を脱力させると、まるで少年にひれ伏すようにその場に崩れる。

 

 

「よし、成功、っと」

 

 

相手が術中に入ったことを確認すると少年はオークの頭に自身の手を置いた。

そして手に魔力を宿らせ。

 

 

「それじゃあ、お前の知ってること全部見せてもらうよ」

 

 

魔眼を妖しく光らせるのだった。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

オークの頭に手を置いて集中すること数分。

 

 

「………あまり有力な情報は持っていない、か」

 

 

何やら探っていた黒コートの少年は独りごちる。

 

 

このオークは下っ端、雑兵的な扱いなのか中枢に関わる情報をほとんど有していない。これ以上探りを入れても何も出てこないな。

 

 

「………もういいか」

 

 

これ以上の期待は出来ないと判断した少年はオークの頭から手を離し、探りを打ち切る。

未だ白昼夢の中に囚われたオーク。

少年は懐から柄同士がワイヤーで繋がれた二つの短刀を取り出した。

 

別に殺す必要はない。

このまま幻想に閉じ込めたままでも良かった。

だが脅威というのはいつどこで生まれるのかは分からない。

あの時気まぐれで助けた小動物が後になって人々を殺す猛獣と化すことも十分にあり得るのだ。

 

少年は知っていた。そのことを。

少年は強いられていた。その生き方を。

 

だから。

 

短刀の柄を握ったまま、ワイヤーに魔力を宿す。

するとワイヤーは可視化するのも難しい程に細く、長く伸びる。

 

 

魔眼での幻覚を見せるにも魔力が要る。今は少しでも消費を抑える必要がある。

 

 

そんな、誰が聞いてる訳でもない言い訳を心内に並べると。

 

少年は未だ幻惑の中のオークの首にワイヤーを通しーー。

 

 

 

 

 

 

直後、ドサッ、と重量ある音が森の中で響くのだった。

 

 

 

 

 

 

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