非存在の存在証明   作:トブト

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【証明完了】~偽は真により~

 

 「ダメ……これじゃあ足りない……!」

 

 

 アレカは己の持つ魔力の全てをその一つの光の矢に注ぎ込む。

 しかし、一度魔力欠乏からの回復したてということもあり、まだ本調子でない彼女には巨大な手を討てる程の魔力を持ち合わせてはいなかった。

 

 

 「……このままじゃあ…!」

 

 

 依然、エルフの弓使いの視界の先には今も一人で戦う人族の少年が映る。

 一刻も早く駆けつけ助けたいと思う気持ちが、アレカに焦燥感を与える。

 

 

 「…………こうなったら」

 

 

 そして一つの決意をする。

 それは、先の魔法発動の際に用いた自身の生命力を魔力にする手法。

 己を一度は命の危機に陥らせたその方法へと、彼女は転化した――――――時。

 

 

 

 

 

 “それならワタクシたちの力を貸しましょう”。

 

 

 

 

 

 

 

 「……えっ?」

 

 

 どこからか声が聞こえた―――気がした。

 

 

 「だ、誰なの―――」

 

 

 

 

 

 

 “どうかワタクシたちの力であなた様と人族の少年―――そして《ワタクシたち》のこともお守りください――――――”。

 

 

 

 

 

 声―――のようなもの―――はそこで途切れるとアレカの周りには淡い緑色の光のようなものが集っていく。

 

 

 「あっ……」

 

 

 この感覚は一度経験している。

 森と、一体化した時の―――。

 

 

 「……ありがとう」

 

 

 その淡い光に包まれると、なにやら暖かいものに包まれたような安心感に似た心地になる。

 淡い光はそのまま矢の光に取り込まれるようにしてその輝きを増していく。

 

 

 「全魔力を注ぎ込めぇえええええええええっっっ!!!!!」

 

 

 それと同時に少年の声が轟いた。

 見るとあの異形なる巨大な手がアレカのいる方に飛ばされてきている。

 

 

 「ふっ、無茶するんだから」

 

 

 エルフの弓使いは呆れたように、口元に笑みを浮かべると。

 

 詠唱。

 

 

 「“生命の理に反した者よ。生命とは儚くも美しくかけがえのないものであることを忘れし業を担った者。その魂を依り代に己の業を悔い改め生命の理の環へと帰還せよ!”」

 

 

 

 「“オーバー・レイ”[灯滅せんとして光を増す]」

 

 

 

 光の矢が、放たれる。

 矢はその軌跡上に明滅する光華を生みながら真っすぐに飛ぶ。

 そして、鏃が巨大な手に触れた途端。

 

 

 

 

 カッッッッ!!!!

 

 

 

 

 森の一角で、星が生まれた。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

 “オーバー・レイ”[灯滅せんとして光を増す]。

 

 

 準第二級魔法に相当するこの魔法の特性は魔力の増幅にあり。

 本来は術者の込めた魔力量と対象者の保有する魔力量に比例するようにしてその威力が瞬間的に爆発したように膨れ上がるもので、大気中に含まれる魔素などはその影響を微々としか与えないものだが―――。

 もし、その魔素ごとを魔力として保有し、さらには周囲からの魔力の供給を受け続ける者が対象であった場合は。

 

 

 

 理論上では無限の威力を持った魔力が爆発し続け、星一つを飲み込むには容易いものになるとされている。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

 星が生まれる。

 

 

 カッッッッ!!!!

 

 

 突如として森の一角に誕生した星の光はその周囲にあるものを片っ端から見境なくに吹き飛ばし、飲み込み、融かしていく。

 

 

 『えiうポるgがぎグぽろrふぼホはひぴhあがルごぎあぎあaいぴぁああアアああアああaあああアアああoあっッっtっッッ!!!!!!!!!』

 

 

 鳴き声とも言葉とも思えぬ音を発しながら、その中心地にいる巨大な手のような生物はその身を焦がし、融かし、そして再生とを繰り返していく。

 周囲の森の魔力や魔素を取り込んでいくプロセスの中で、その魔力が星の光と呼応するように反応してその力をさらに高めていき、再生した端から焦がし、融かしていく。

 それならばと星の光の魔力を取り込もうとするも、それは自らに追い討ちをかけるだけになり、逆効果に終わる。

 

 

 『エぴeぐるrがるぴpオほhろロふるrぴアギぎvがぐるりビiがぁoあアアrああaアああっっtッっッtッ!!!!!!』

 

 

 次第に、魔力の許容量を超えたのか、それとも細胞の限界が訪れたのか。

 巨大な手のような生物の身体が崩れ出す。

 

 

 『エぴe…るrがる…pオほh…ロふるrぴ…ギぎvがぐ…りビiがぁoあア…rああaア…あっっt…っッtッ!!!!!!』

 

 

 それは指先から始まり、形を失っていく。

 

 

 

 『エ………るrが……p…ほh……ふ…………ギ…vが…………iがぁ……ア…r……aア…あっ………っ…tッ………………』

 

 

 そして、最後に手の甲の口が残り―――。

 

 

 『エ………る…………………………ふ…………………………………が……………………………あ……………………………………』

 

 

 星の光と共に、完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

 「…ねぇ、生きてる?」

 

 「ん、なんとか」

 

 

 エルフの弓使い、アレカはあの超新星爆発が納まった後、あの巨大な手が倒せたかどうかの確認をするためにふらふらになりながらも捜索をしていた。

 しかし、爆発の中心地と思われる場所には大規模なクレーターが形成されており、さらにはその中も今も高温を発しながら融解したものがドロドロと流れており、今すぐの捜索は無理と判断し、断念せざるを得なかった。

 そのため、先に地面に突っ伏したまま動かない人族の少年の確認をしていた。

 

 

 「そっちこそ、あれだけの魔力を消費してまた魔力欠乏とかは起こしてない?大丈夫?」

 

 「…まぁね」

 

 

 本当はその手段を用いようとした、が、それは済んでのところで引き止められ、力を貸してくれた存在がいた。

 おかげでアレカは命の危機に瀕するほどの魔力消費には至らず、あれだけの大魔法を駆使した後の今でも立って歩くことくらいは出来ていた。

 ちなみに少年の方は魔力をギリギリまで使い込んでしまったのか今現在も地面に突っ伏したままの体勢である。

 

 

 「……にしてもあれだけ高威力の魔法の近くにいたってのになんで僕たち生きてるの?今首も動かせないから分からないけど森の方とかめちゃくちゃになってるよね?」

 

 「え、えと…」

 

 

 めちゃくちゃどころか森の一角が消失しました、とは言えず、どう答えたものかと困り果てるエルフの弓使い。

 彼女は知らないことであるが少年にとっては本日二度目の森消失である。この後、真実を知った少年の胸中や如何に。

 

 

 「これもアレカの魔法なの?」

 

 「!」

 

 

 不意に名前を呼ばれてエルフの弓使いは体をビクッ、とさせる。

 

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「い、いえ。なんでもないわ」

 

 

 何気に初めて少年から名前を呼ばれたアレカは顔を逸らしたまま(地に伏したままなので見えないのだが)頬を赤らめるのだった。

 

 

 「あたしの魔法ではないわ。あの時あたしは全魔力を矢の方に込めていたから……あたしたちを守ってくれたのは別の人よ」

 

 「別の人?いたの?誰か?」

 

 「いた。というよりずっと、ね」

 

 「?」

 

 

 森の一角に形成された巨大なクレーター。

 しかしその形には不可解なものがあり、クレーターは半球心型に地面をえぐっているのだが、ある地点にはそこだけ先細った崖のように険しく伸びている部分があった。

 一つはアレカがいた場所。もう一つは少年の。

 まるでなにかに守られていたかのようにそこから爆心地の後ろは草花も無事であった。(森は消滅したが)

 

 

 「やれやれ、なんにせよ無茶しすぎだよ。さすがに今回はダメかと思ったよ」

 

 「あたしもよ」

 

 

 何度も、ダメだと思った。

 何度も、諦めかけていた。

 それでも、そんな自分を立たせて進ませてくれた言葉があった。

 

 

 「でも、助けられるのに助けないなんて気分悪いでしょ?」

 

 「まったくだね」

 

 

 しばらくの沈黙。 

 

 

 「……ふふ」

 

 「……はは」

 

 

 その沈黙に耐えきれないとばかりにどちらともなく笑う。

 

 

 「うふふふふ、ふふふ」

 

 「あはははは、ははは」

 

 

 その後、二人は笑った。笑うあった。

 ただ互いが互いを想いあって笑った。

 

 エルフ族と人族。

 

 今この瞬間においては二種間の隔たりは存在しなかった。

 

 

 「ねぇ、あなた何者なの?絶対ただの人族じゃないでしょう?」

 

 「いや、ただの通りすがりの旅人だよ」

 

 「あなたみたいな旅人そういる訳ないでしょ。せめて名前くらい教えなさいよ」

 

 「……あれ?そういやまだ言ってなかったっけ?」

 

 

 そして、少年は今更ながらに自分がまだ自己紹介も済ませていなかったことに気づく。

 

 

 「僕の名前は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一説・完

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