非存在の存在証明   作:トブト

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【日常】~つかの間の休息~その1

【Quietness~嵐の前の安息~】

 

 

 

 数日前。

 

 

 「ご主人!?」

 

 

 物質世界。

 

 無機質な物質だけが無限に広がる世界で、普段は冷静沈着な雰囲気を醸し出す召使の少女に似つかわしくない荒げた声が響き通る。

 

 

 「リ、リリア…」

 

 

 その発端となったのは彼女が仕える主人たる少年が現実世界から物質世界へと“穴”を通じてなんの脈絡もなく現れ出たから、ではなく。

 まるでやつれたかのように疲弊した様子で少年がいることにである。

 足取りはおぼつかなく、今にも倒れそうな勢いだ。

 消え入りそうな声で少年は語り掛ける。

 

 

 「ちょっと…たの」

 

 「一体何があったのです?ご主人程の方がこれほどまでに…魔力もほとんど無いではありませんか」

 

 

 そのまま倒れこみそうな少年を支えるようにしてリリアは前から肩を持つ。

 

 

 「持っていた予備のエリクサーはお使いになられたのですか?これほど苦戦させられるとは…そのような相手とは思えませんでしたが」

 

 「たの………たの…みが……あるんだ」

 

 「はい。直ちにエリクサーをお持ちいたします」

 

 「そっちじゃない」

 

 

 そのままなにもない空間に闇の穴を開けた召使の少女は今にも飛び込まんとする勢いを少年は声で制する。

 

 

 「お前には少し、行ってきてほしいところがある」

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

 朝。

 

 小鳥の歌のようなさえずりが聞こえる中、森の木が戯れの風に揺られて合いの手をするように音を鳴らす。

 その讃美歌を送るように湖の住人が水面を叩き、拍手する。

 

 ポッカ村。

 

 町とは離れ、自然に囲まれた閉鎖的な村。

 そこで採れる作物は特産品と評されており、近くの町々でよく流通の取引にも用いられていた。

 しかし、かつて戦災のあおりを受けた影響で今この村には住人はいない。

 いるのは。

 

 

 「オービットー。ごはん出来たわよー」

 

 

 自然の合唱のみが響き渡る廃村にて別の音色のような声が鳴り響く。

 

 その者は金色の長髪を後ろに束ね、服はこの村にあったものでも拝借したのかどう考えてもサイズの合っていないために若干というかかなり胸元が開いた格好となっており、さすがに本人もそのままでは恥ずかしいと感じたのか肩から腰辺りまで伸びる前掛けで隠しているがそれが却って扇情的になってしまっている服装をしている、耳が特徴的な形をした女性。

 

 アレカ。

 

 百年前に滅びたとされるエルフの生き残り。

 

 その容姿は絵画に映し出されるどんな絵よりも美しいとされており、見た目もさながらその魔力総量も引けを取らない。

 かつて、戦時下にあった国々がその潤沢な魔力に目をつけ、エルフは世界中からその魔力を狙われた。

 やがてはエルフも完全に姿を消してしまい、百年前にはついぞ絶滅したものと記されている。

 エルフは他種族との交流はほとんど行わず、また警戒心も強いために見つかりにくい森の奥にある結界が張られた中で隠れ棲んでいたとされる。

 アレカも初めは姿を見せることなく遠方からの狙撃による牽制をしてきたところを見ると、もはや習性のようなものになっているのかもしれない。

 だが、その警戒が一度解かれると。

 

 

 「ほら、起きなさい。いつまでも寝ただけじゃ魔力なんて回復しないでしょ。早く起きて顔でも洗ってきなさい」

 

 

 まるで甲斐甲斐しく世話をする姉のようにアレカは部屋の扉を開いたところで起床を促す。

 

 

 「んっ……あと五分…」

 

 

 一方、その部屋のベッドで未だ眠りこける寝間着姿の少年、オービットはその心地にまだ捉われていたいのか睡眠継続の要求をする。

 

 

 「…………」

 

 

 アレカもその様子に呆れたようにため息をするとそのまま部屋の中に入り、少年が眠るベッドへと手を掛ける。

 そのまま顔を近づけて―――。

 

 

 「いいから早く起きなさぁあーーーーーーいっっっ!!!」

 

 「はいぃーーーーーーーーいっっっ!!?」

 

 

 少年の耳元で大音量の声をいやおうなしに発した。

 その衝撃で夢心地にいた少年も一気に現実に引き戻され、ベッドから転げ落ちるように覚醒した。

 

 

 「イテテ……一応ケガ人なんだけど…僕」

 

 

 打ったところをさすりながら恨めしそうな目線を(顔は角度的に胸で見えないが)送る少年。

 

 

 「ケガ人だろうとなんだろうと食べるものは食べる時に食べる!命をいただく行為なんだからちゃんと感謝の念を送らないと生命の環に還れないでしょ?分かったら早く顔洗ってきなさい」

 

 

 そんなエルフ界ではあるあるの決まり文句みたいなことを言い残してアレカはさっさと部屋から出たのであった。

 

 

 「……はーい」

 

 

 寝間着姿の少年も特に言い返すことなく渋々返事をする。

 

 

 そういや亜人の小ゴブリンたちのリーダーみたいなのもやってたんだっけ。としたら小ゴブリンたちの面倒とかも見てきてたからあの面倒見の良さはそこで備わったものなのかもしれないな。

 それとも元々姉気質があったのか。

 

 

 「いや、姉というより…」

 

 

 寝ぼけた頭を起こすように、頭を掻いて、少年は呟く。

 

 

 「オカン………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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