「……別に最前線で戦わせるとかじゃないよアレカの弓の技術なら後方からの支援に向いてるし光魔法の補助を受けられるのも大きい」
「なるほど、そういうことでしたか」
あれから。
何を考えて勘違いを起こした暴走召使を説得すること数十分。ようやく冷静さを取り戻したリリアは先程までの乱れようが嘘かのように平然とした調子で頷くのであった。
「私が乱れるのはベッドの上と決まっておりますから」
「なんの話だ?」
訂正、依然頭の中はピンク色に染まっている様子であった。
「しかし、あの乳袋…アレカ様を起用されることは少々意外でした。てっきりこの村に停留させるとばかりに」
「さすがにオークの数が多いからな………僕たちが倒れることはなくてもアレカが連れ去られたらその時点で僕たちの負けは確定だ。それなら戦闘中も僕たちからあまり離れていないところにいてもらった方が万が一に備えて動きやすい」
それに、と少年は言葉を紡ぐ。
「この戦いはアレカのものでもある」
それは、彼女の因縁を終わらせるという意味合いでも。
「……承知しました」
主人の意図を汲み取り、ゴスロリ召使も口元を綻ばせるも余計なことは言わないでいた。
オービットとリリアは今回の戦いに巻き込まれた節がある。
本来ならばこれ以上深入りする理由はない。
彼らはアレカとは違い、オークに狙われているということがないのだから。
それでも、二人の中に「逃げる」という選択はない。
助けられるものは全部助ける。
それが二人の──少年の誓いであった。
「それに約束のこともあるしね」
少年は椅子の背もたれに体重をかけて揺り籠のように揺らす。
「約束、と言いますと……あぁ」
そこでゴスロリ召使は何かを思い出したかのように口元を隠す。
その行動に不審に思ったオービットは「なんだよ?」と聞く。
「いえ……ご主人も存外人が悪いな、と思いまして」
「何がだよ?」
勿体ぶるような言い回しに焦れったい気持ちになったのか急かすように促す。
そして、リリアの口から告げられる。
「本当はあの亜人のゴブリンたちを安息な地などに連れていっていないことですよ」
◎◉◎◉◎◉
今回のオークとの戦力の差はオービットたちに軍配が上がっている。
いくらオークの数が多くとも単純な力の差はオービット、リリア、アレカの三人で事足り、不調であってもオービット一人でも十分に殲滅に至れる。
それ程までに力の差を開かれているオーク軍の敗北はもはや確定的でこれは変わらぬ事実であり、覆ることもない。
作戦もある。
勝算もある。
故にオービットたちが勝つことは確定的であった──。
不測の事態が起きなければ。
◎◉◎◉◎
エルフという種族に関して分かっていることはあまりに少ない。
元から多種族との交流が少なく、百年前に忽然と姿を消し、以降発見例が無いことから滅んだとされていたため調べようにも過去の文献から推測を立てることでしか出来なかったためだ。
そのため身体的外見の特徴と魔力総量の高さのみが広く伝わるも未だ未知の部分も多く、それはオービットとリリアも同じであった。
そう、例えば。
エルフの聴覚がどれほど優れているのかも──。
◎◉◎◉◎◉
「え………………」
湖のほとり、橋の下に流れる川に全身を浸らせながらエルフは一人声を漏らす。
その耳に遠く離れている家屋にいる二人の声を捉えて。
「嘘………………………」
その胸中に、疑心を渦巻かせて。
◎◉◎◉◎◉
「ん?なにやら面白い気配があるな……」
不穏な影がすぐ側まで歩み寄る。
第二説「それはなんのための存在か」に続