非存在の存在証明   作:トブト

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【証明】~そこにいるのは~その2

 

 

「見つけた……!」

 

 

少年がしばらく走っていると、やがて村はずれの湖畔にたどり着いた。

するとそこにて小屋からせっせとなにやら運び込む小ゴブリン達の姿が確認取れた。

すぐさま少年は物陰に隠れて様子を窺う。

小ゴブリン達はそのまま湖畔近くの森に向かっていく。

 

森……?

 

小ゴブリン達の一連の行動の意図が読めないまま、少年は単身追跡を試みるのだった。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

少年が小ゴブリン達の追跡を始めて数分が経った頃。

 

 

「あれ?」

 

 

違和感に気づく。

最初は気のせいと思っていた。

森の景色はどこも代わり映えなどせず、ただ足跡を追って真っ直ぐと気配を消して追いかけていた。

なのに途中から小ゴブリンの姿が確認とれなくなっていた。

また“インビジブル”[姿隠し]を使用したのかと思ったがそれにしても気配が感じられない。

それに森の様子もおかしい。試しに真っ直ぐ走ってみるも行けども行けども同じ位置に戻されている感覚。

 

 

「これは……」

 

 

立ち止まり、辺りを見回す。

木々の配列、植物、花の配置関係、次に小ゴブリンの足跡を確認した後もう一度、今度は歩いてその跡を追う。

 

 

「………!」

 

 

しばらくするとその足跡で不可解なものを少年は見つけた。

小ゴブリンの足跡に変わりないが途中足踏まず辺りで途切れたかのような足跡があったのだ。

以降その足跡は続く。

 

 

「なるほど、幻覚か」

 

 

少年はニヤリと何かに気づくと魔眼を開眼する。

血の海に浮かぶような三つの輪は虚影を破り真実を映す。

するとそれまで見えていた小ゴブリンの足跡は消え失せ、森の様子も変わり、本来の姿が少年には見えていた。

 

 

「こっちだな」

 

 

魔眼で魔力の感知をすると少年はそこへ目掛けて走り出す。

すると。

ヒュオッ!

 

 

「!?」

 

 

少年の進行方向上に一本の矢が突き刺さる。

それはその先に小ゴブリン達がいると示しているのと同時にこの先には行かせない意志も感じ取れた。

矢はそれ以降放たれる気配はなかった。

 

警告……か?

 

辺りを見回し狙撃手の姿を探すも影も形もない。

しかし少年の目には。

 

 

「……そこだな」

 

 

森の木々に隠れる一つの魔力体を感知していた。

自分の居場所を気取られたと知るや逃走を図る狙撃手。

 

「逃がすか!」

 

 

少年はそのまま跡を追おうとするが、その時足元のロープがあることに気づかず。

 

 

「ぶべらっ!?」

 

 

と盛大にこけてしまうのだった。

 

 

「……くそ〜、やられた」

 

 

鼻頭を押さえながら追跡を再開させようとするも。

ヒュゴォッ!

次は横から大木の丸太が少年に迫ってきた。

 

 

「うおぉっ!?」

 

 

これには思わず声を荒げて回避する少年。しかし躱した先にも同様の罠が待ち受けており。

パシュシュシュッ!

少年の四方八方からいくつもの矢が迫る。

 

 

「マジかよ!」

 

 

少年は悪態をつきながらも腰に携えた軍刀を引き抜き弾いていくも。

グオォッ!

と、そこに追い打ちををかけるように次はまたも大木の丸太が次は三つもーーー。

 

 

「嘘だろ……?」

 

 

ドゴォオンッ!!

そこに丸太同士を打ち付ける音が森中に反響する。

土煙が立ち上る中、それまで隠れていた小ゴブリン達が姿を現す。

そのうちの一匹が生死確認のために未だ立ち込める丸太の方に近づく。

地響きが起きる中慎重に中の確認を行おうとする小ゴブリンの背後に。

黒コートの影が差した。

 

 

「ッ!?」

 

 

それに気づいた時には遅かった。

一方、様子を見に行った仲間の小ゴブリンの報告を待つ他の小ゴブリン達。

すぐに終わるだろうと待っていた彼らだったがいつまでも報告の声が無いことに訝しんでいると。

 

 

「帰ッテキタ!」

 

 

うち一匹が土煙の方を指すとそこに様子を見に行っていた小ゴブリンの姿があった。

 

 

「ドウダッタ!?死ンダ!?ヤッツケタ!?」

 

 

しかし仲間からの呼びかけにいつまでも応じないことに何かを感じ取った小ゴブリン達。

立ち止まる時既に遅く。

ポンッ、と背後から肩に誰かの手が置かれた。

 

 

「少し、聞かせてもらうよ」

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

その頃、逃走していた狙撃手は慌てた様子で森の少し開けた場所に赴いていた。

そこでは小ゴブリン達がせっせと荷物を積んでいるはずでーーー。

 

 

「みんな急いで!追っ手がすぐそこまで迫って………!!」

 

 

続く言葉が出なかった。

なぜならそこにいるはずの小ゴブリン達が一人もいないことよりも。

小ゴブリン達が携帯していた武器などが酷く散りばめられていたことよりも。

 

 

「あんたが狙撃手?見た感じゴブリンには見えないけど……?」

 

 

そこに、荷台に積んだ荷物の上に座る黒コートの少年がいたから。

 

少年はそのまま飛び降りるようにして地面に着地するとフードを目深に被った狙撃手をまじまじと見る。

 

体躯的には人間。声や体つき、骨格から察するに若い女性。となるとコイツが小ゴブリン達に掛けた“インビジブル”[姿隠し]やあの光の矢を放った張本人で間違いなさそうだな。

 

 

「なぁ、あんたー」

 

 

少年が言葉を紡ぐよりも先に。

 

 

「みんなは……あたしの仲間をどこにやったの?」

 

 

狙撃手はわなわなと肩を震わせながら絞りきったような声で話した。

 

 

「あの小ゴブリン達か?」

 

 

その問いに少年は逡巡してから。

 

 

「安心しなよ。すぐにあんたも同じところに連れていってやるから」

 

 

その言葉を受けて狙撃手は。

 

 

「…………っっ!!!よくもみんなをぉおお!!!」

 

 

激昂し、弓を構えた。

 

 

「あ、ごめん。今のは」

 

 

その様子に少年は狼狽したように何かを言いかけるも。

 

 

「みんなの仇ぃ!!」

 

 

狙撃手は聞く耳を持ってはくれず、矢を射るのであった。

 

バシュシュッ!

一度の構えで複数もの矢がはなたれ、少年はそれを持っていた軍刀でいずれも弾き落とす。

その間、狙撃手はその姿を森の中に眩ませ、木から木へと移り変わるように場所を変えながら次々と矢を射っていく。

矢を弾き落とした頃には狙撃手の姿が無いことに気づき、少年は辺りを見回すとそこに自分に向かって放たれた無数の矢が四方から迫っていることに気づく。

 

 

「……!?ハァッ!!」

 

 

少年は一喝するとその場に踏みとどまり、ほとんど動かずにして無数の矢を全て軍刀一本で弾き落としていく。

 

 

「……ウソでしょ!?」

 

 

その人間離れした芸当に驚嘆しながらも狙撃手は次の矢を少年目掛けて穿とうと矢筒から矢を取り出しーーー。

 

 

「そこか!」

 

 

矢の雨を凌いだ少年はそのリロードを見逃さず打ち落とした一本の矢を狙撃手のいる方に目掛けて投げた。

投げられた矢はまるで射られたかのように真っ直ぐ狙撃手に向かい。

 

 

「チッ!」

 

 

と狙撃手が舌打ちすると辛うじて回避に至るのだった。

 

 

「ワッ!?キャアッ!」

 

 

しかし態勢を崩されてしまったことで狙撃手はそのまま乗っていた木の幹から落ちてしまう。

 

 

「しまっ…」

 

 

地面からかなりの高さがあるところから落下した狙撃手を受け止めようと慌てて駆け寄る少年。

しかし狙撃手は落下しながらも少年を見据えており、手には矢は無いにも関わらず弓で構えるような仕草を取ると。

 

 

「聖なる光に滅されよ!“ライトニング・アロー”[光陰矢の如し]!!」

 

 

バシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!!

突如少年の視界は無数の矢で埋め尽くされるのであった。

光の矢は途切れることが無いかのように次から次へと撃ち込まれていく。

 

ボキキキッ、ポキッ、ドサァッ!

そのまま落下していた狙撃手は草木の中へ突っ込む。

 

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 

草木がクッション代わりになったおかげで致命傷は避けられはしたがそれでもダメージは大きく、しばらくその場で蹲ったまま動けないでいた。

 

「勝負はついた。降参してくれ」

 

 

するとそこに少年の声が聞こえた。

落下の衝撃で明滅する視界から回復すると狙撃手のすぐ目の前に少年が立っているのが見えた。

少年は差し向けたまま。その身体はおろか着ているコートにすら傷一つ付いていなかった。

 

 

「く……そぉ……!く……そぉ!!」

 

 

狙撃手は少年に怨嗟の念を送りつつも自分の技が何一つ通じていないことに己の無念さに嘆いた。

 

 

「もう一度言う。降参してくれ」

 

 

少年は先程同様軍刀を狙撃手に向けたまま動かない。

 

 

「ぐっ……ゴホッ!ゴホッ!……誰が……降参なんか……!!」

 

 

しかし明らかな勝敗が決しても狙撃手からの投降の言葉は出てこない。

むしろそれは狙撃手である彼女を駆り立てるように。

 

 

「仲間を……みんなを……殺したお前に……!!」

 

 

必死に何かを押し殺すような声。

狙撃手の目からは涙が零れ落ちていることに少年は気づいていた。

 

 

「それなんだけどー」

 

 

と、少年が何か言いかけたところで。

 

 

「接近すれば狙撃手は何も出来ないと思った?」

 

 

狙撃手の口が開いたと同時に。

その姿が揺らぎ、消える。

 

“ビジョン”[灯台下暗し]。

対象者に幻影を見せる光の第四級魔法。

 

「幻影!?」

 

「こっちよ!」

 

 

幻影が消えたと同時に少年の背後から狙撃手の声が聞こえ、振り返ると。

そこは狙撃手の手に持っている光の球が少年の眼前に迫っているところで。

 

 

「しまった!」

 

 

少年がそれに気づいた頃には遅く。

カッ!!

光の球は一際強く輝くと少年の視界を奪っていた。

 

“ブラインド”[目隠し]。

光魔法か闇魔法で相手の視界を奪う第五級魔法。

 

目を覆うようにしてふらつく少年の姿を確認し、狙撃手は怪我を押さえながらも短刀を手に持ち構えていた。

 

 

「狙撃手だってね………接近戦は出来るのよ」

 

 

そう言い捨てると短刀の切っ先を未だ視界が回復しない少年の胸に定め。

 

「みんなを殺した罪……あの世で償ってきなさい!!」

 

 

そのまま勢い任せに突っ込み。

 

 

「リリア、拘束しろ」

 

 

少年が短く言うと。

 

 

「かしこまりました」

 

 

と。

どこからか声と共に狙撃手の影から黒いツタのようなものが伸びる。

 

 

「え?」

 

 

ツタは瞬く間に狙撃手を捕らえ、身体中にまとわりつくと手足の自由を奪った後、吊るすような格好になる。

 

 

「な、これは闇魔法!?」

 

 

突然の出来事に驚きを隠せないでいる狙撃手は抵抗を試みるも拘束が緩む気配はない。

 

 

「無駄です。自分の影、闇からは逃げる事は叶いません」

 

 

先程から地の底から響くような声の主はどこからなのかと狙撃手が探していると、その影、狙撃手の影から這い出るように礼儀正しい所作のままやや露出が多いメイド服を着込んだ黒紫髪の少女が現れた。

そのあまりの突飛のない登場の仕方にさすがに驚いたようで狙撃手の顔に驚愕が張り付いたままになっている。

 

「ご主人。迫真の演技、リリア感服致しましたよ」

 

 

しかしそんなこと御構い無しに今の現象についてなんの説明もなしに召使いの少女は主人に賛辞の声をかける。

 

 

「しかしご主人。ご主人ならばもっと早くに制圧も出来たでしょうに。どうしてこんな手の込んだことを?」

 

「少し気になることがあったんだ。その確認のためにも出来ればなるべく傷つけずに拘束したかったんだ。そういうのは得意だろ?リリア」

 

 

すると召使いの少女は誇らしげに胸を張ると。

 

「はい。いつかはご主人ともそういうコアなプレイもすると見越して影ながら拘束術を学んでおりました」

 

「それは聞きたくなかった」

 

 

頰を染めながら告げられる召使いのとんでも発言に関して今後の対策を早急に打ち立てる必要性を感じながらに。

ひとまず少年は狙撃手の方に向き直る。

 

 

「さて、それじゃあ早速聞きたいことが」

 

「仲間を殺したお前に言うことなどない!殺すなら殺せ!」

 

 

狙撃手は未だ聞く耳を持ってくれなかった。

話を聞かないどころか応じない姿勢まで取られる始末。

 

 

「あー…だからそのことなんだけど」

 

 

と、少年が言いかけたところで。

 

 

「お待ちください!ご主人!」

 

 

と、なぜか召使いの少女が突然声を荒らげた。

 

 

「ど、どうしたいきなり?」

 

 

普段冷静沈着な(思考の方向性に問題あり)リリアは滅多なことでは動揺などしない。つまりそれだけ重要なことがあったということを示している。

 

リリアも気づいたか。この狙撃手の正体ーーー否、存在に。

 

 

「この者……先程から気にはなっておりましたがもしや!?」

 

 

ジリジリと詰め寄るように召使いの少女は狙撃手に近づく。

 

 

「そうか。リリアも気づいて」

 

「この者もしや巨乳なのではありませんか!?」

 

「は?」

 

 

一体何を言い出しているのだろうと少年は思った。

召使いの少女はそのまま狙撃手のフードを払いのけ、胸部をまじまじと見る。

視線を感じた狙撃手はその顔を紅潮させ始め。

 

「なっ!一体何を!?」

 

「失礼します」

 

ムニィ。

狙撃手の断りもなく召使いの少女は服の上から鷲掴みするようにその感触を確かめる。

 

 

「やややややややややややややややめろぉ!!?このような辱めを受けるくらいなら殺せ!殺せぇ!!」

 

「すごい……!確かな重量感はあるのに指が沈み込むほどの柔らかさ!それでいてしっかりした弾力も兼ね備えており形も崩れず綺麗そのもの!しかしこの感触……!?もしや重力魔法でこの位置を固定している!?」

 

「や、やめ、あっ!も、揉むな〜!あっ!」

 

 

一体何を言い出しているのだろうと少年は思った。

するとそれまで狙撃手の胸にご執心だった召使いは突然ハッ、と何かに気づいた様子で自身の胸に手を当て、そして少年の方に見やる。

 

 

「……そういうことだったのですか?」

 

「はっ?」

 

「常日頃から私の熱烈アタックをにべもなく扱うのは恥じらいからとか私のことを大事に思ってくれているとか嫁入り前の娘には手を出さない主義とか様々な葛藤の末ではなく結局は胸だったのですね!?」

 

 

一体何を言い出しているのだろうと少年は思った。

 

 

「あまつさえなるべく傷つけないように私に自由を奪う拘束をさせて!ご主人がそこまで背徳的な方だとは思いませんでした!!」

 

 

一体何を言い出しているのだろうと少年は思った。

 

 

「ご主人は狼の皮を被った獣です!!」

 

 

どっちも獣じゃねーかと少年は思った。

 

 

「良いでしょう!であるならばこの神の五本指たるリリア!胸の良さは大きさだけではないとこの身をもってご主人に示しましょう!早速今晩にでも」

 

「リリア。命令。黙れ」

 

 

その少年の一言で、あれだけ白熱していたのが嘘のように召使いの少女は静かに少年の後ろに下がった。

気まずさだけが場に残る。

 

 

「………その、今のはごめん」

 

 

とりあえず少年は謝った。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

「仲間を殺され……あまつさえこのような屈辱………!!!死後あたしの魂はお前たちに降り注ぐ裁きの光としてその汚れた魂を浄化せんとする………覚えていろ…………!!!」

 

 

一連の珍騒動の後、ようやく落ち着いた狙撃手は恨み言を言えるくらいになったようだった。

その顔は未だ紅潮したままであったが。

 

 

「………それで聞きたいことがあるんだけど」

 

 

少年の方はさっきのやり取りの仕切り直しと言うように同じ内容をぶつける。

 

 

「さっきも言っただろう!お前に話すことなどない!」

 

 

すると狙撃手もそれに答えてくれたかどうかは定かでないが先程と同じような応対を返してくる。

その時少年は後ろにいる召使いの少女に睨みを効かせるが当の本人は涼しい顔で立つだけで何もする様子はなかった。

これでようやく本題に入れる。

 

 

「そう言わずに答えてくれないかな?」

 

「くどい!何も話さんと言ったら話さん!気にくわないなら煮るなり焼くなりして殺せ!」

 

 

依然、こちらの話に応じない姿勢を取る狙撃手。

 

「……仕方ない」

 

 

少年は態度を変えない狙撃手に向けてスッ、と手を伸ばす。

狙撃手も覚悟を決めたようにキュッ、と固く目と口を閉じる。

その手は狙撃手の胸部辺りーーーより上の顔のフードに伸び。

その覆いを外す。

 

そこにはクリーム色の髪に長いまつ毛にエメラルドグリーンの瞳と端正な顔立ちをした幼さも残るような容姿に。

特徴的な尖った耳をした美少女が現れた。

 

 

「君、エルフだよね?」

 

「へぁ?」

 

 

故に、予想とは違った問いかけに狙撃手は思わず変な声が出てしまった。

 

 

 

 

 

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