非存在の存在証明   作:トブト

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【命題】〜求めるために〜その3

 

 現在。

 

 夜の森で移動中に突如亜人のオーク達による襲撃を受けたオービットとリリアの二人は黒コートの少年の魔眼の力で読み取った記憶の情報の共有を行っていた。

 

 

 「オーク達にそのようなことが…」

 

 「あぁ…」

 

 

 相手方の事情が変わってしまったことにより二人の少年少女は押し黙る。

 本来、オービットが立てた作戦はオーク達がアレカを手に入れたことで浮き足立って油断しているところを狙い、隙を見てアレカを奪還、オークの王を討伐する奇襲の手筈であった。

 戦力的に言えば有利な盤面であっても敵は亜人のオーク。何をしてくるかは分からない。

 つい先日もその油断から思いがけない敵との遭遇をしてしまっているオービットとしてはその辺りは慎重に行きたいところではあった。

 そのため今回はオークの王だけをまず狙い、頭をやられたところで狼狽するオークの兵を一掃するつもりであったのだ。

 だがその目論見は早くも瓦解してしまっていた。

 敵方もこちらに襲撃をかけてきてしまったために相手の虚を突く戦法はもう取れない。

 オーク達もアレカを手に入れるために必死に二人へと攻め込まざるを得なくなってしまった。

 よって、亜人のオーク兵達と真正面からの衝突は避けられなくなった。

 

 

 「………………っ」

 

 

 戦況が変わったことに少年は思慮に思慮を重ねる。

 戦いの中で状況が変わることなどよくあることではあり、少年もその経験をしたことも一度や二度ではない。

 しかし、今回のオービットは万全ではない。

 先の戦いで消耗してしまった魔力はまだ全快には至れていないのだ。

 その状態の中で如何に目的を達成するか、そのためにどのように動くべきか、そこまで思考を巡らせていた時。

 

 

 「ご主人」

 

 「今度は気付いてる」

 

 

 短く。

 召使の少女が声を発したのと同時に。

 

 

 ゴォオンッ‼︎

 

 

 そこに轟音が鳴り響く。

 まるで重い質量のあるものが振り落とされたかのような衝撃は周りの草木にも伝わる。

 土煙が舞う中で、さっきまで二人が立っていた地点に立つ巨大な影が一つ。

 やがて土煙が晴れるとその姿を現す。

 巨大な筋肉質の体。

 人族の成人よりも大きいとされる豪腕。

 そして特徴的な緑色の肌。

 もはやそれがなんなのかは言うまでもなく──。

 

 

 「先程の音に釣られてやってきましたか」

 

 

 新たに現れた敵の存在を認めるとリリアはすぐさまに自身の影から闇を出現させて迎え討つ姿勢を取る。

 オークも逃した獲物を見つけると今度こそ捕えんとその獰猛な目を召使の少女に向ける。

 

 途端、世界が反転する。

 

 

 「!?」

 

 

 何が起きたのか分からないオーク。

 気づけば自分の顔のすぐ横に黒コートの少年の姿があることに気づいた。

 訳がわからないままにそれでも獲物を捕らえようと自らの豪腕をその細い首に届かせようと動かそうと──。

 

 そこで違和感に気づく。

 

 体が動かない。

 なのに不思議と自分の体が軽いと感じるのだ。

 そう、まるで首から下が切り離されたかのように───。

 

 

 ビュオッ!

 

 

 オービットの背後から迫り来る二体のオーク。

 二体のオークは示し合わせたかのように黒コートの少年を挟み撃ちするようにそのまま互いの巨腕を打ち付けようと迫る。

 しかし、そこに少年の姿は既になく。

 代わりに虚な表情をした──仲間の首だけがこちら見るように宙空に放られていた。

 その首と、目が合ったと思った時には。

 

 

 シュパンッ!

 

 

 何か鋭いものが切り裂くような音が聞こえた。

 それが何の音だったのかを知るよりも先にずるり、と二体のオークの首が地面に落ちる。

 

 

 ズズゥン……!

 

 

 オーク達の頭上に飛んでいたオービット。

 ほぼ同時に三つの巨体の持ち主を物言わぬ肉塊へと変えた張本人である黒コートの少年はそのことに関して特に気に留める事もなく何食わぬ顔で地面へと降り立つ。

 

 

 「リリア!」

 

 

 そして召使の少女へと声をかける。

 

 

 「はい。いかがされましたか?ご主人」

 

 

 その呼び掛けに応えるリリア。

 その傍らには彼女を襲おうと手を伸ばしたままの姿で制止した別のオークの姿が。

 オーク達の体には地から伸びる黒い蔦のような闇が蛇のようにその全身を巻きつき、身動きを取れなくしていた。

 

 

 「このまま僕はオークの親玉のところに行ってくる!リリアはその間アレカがどこにいるかを突き止めて可能なら保護してくれ!」

 

 「それは…」

 

 

 と、召使の少女が何かを言いかけたところで黒コートの少年は最後まで聞かずにそのまま森の奥に向かって駆け込み消えた。

 それを見送った召使の少女は鼻で短く笑い。

 

 

 「まったく………相も変わらず従者使いが荒いこと」

 

 

 と、肩を竦めさせながらもどこかそれを楽しんでいるかのように微笑む。

 

 

 パチンッ。

 

 

 指を鳴らす。

 

 それと同時に身動きが取れないでいたオーク達に巻きつく黒い蔦が動き出す。

 それはさながら蛇が獲物を捕食するために逃さないように自身の体を使って相手の自由を奪うそれと同じで──。

 

 

 「…………………ッ!!?…………………………ッッッ!!!?」

 

 

 二体のオークは声を発することも叶わず。

 その声が届くこともなく。

 ゆっくりと、そして確実にその視界が闇へと覆われていく。

 

 全身が闇に覆われた二体のオークはそのまま地の影へとその姿を沈み込ませるように消えていく。

 後には、何も残らない。

 

 

 「さて………それでは」

 

 

 と、まるで些末な事を済ませたかのように召使の少女はその身なりを整えるとどこかしらを遠く見据え。

 

 

 フゥウ…………。

 

 

 己の体を闇と同化させるように溶け込ませる。

 

 そしてその場には誰も残らず。

 物言わぬ肉塊だけが虚に転がるだけ。

 その様子を見ていた夜のカラスが異様さを伝えるように高らかに鳴き声をあげて飛び立つのだった──。

 

 

 

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