非存在の存在証明   作:トブト

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【例外】〜その力はどこからか〜その2

 

 

 

 

 遡ること数日前。

 

 物質世界。

 

 オークから最初の襲撃に遭い、アレカ一人を現実世界へと送り返した時のこと。

 

 

 「よろしいのですか?ご主人」

 

 

 オービットが異空間の穴を消し、魔眼を閉じた頃合いを見て召使の少女が話しかける。

 

 

 「エルフは伝説上の存在とは世間ではまことしやかに囁かれてはいますが……その実その存在を追い求めて探してる国もあるという話を聞いたことがあります。事実存在が確認され、万が一にでも世間へ明るみにでも出ればそれこそ問題となりかねません。本来ならば保護を優先するべきでは?」

 

 「…………かもしれない。でも」

 

 

 と。

 

 少年の言葉はそこで詰まってしまう。

 

 尽きることがない魔力を保有しているとされている伝説の種族、エルフ。

 その特性故に人前に出ることも稀であるために実在するかどうかも怪しいものであった。

 だが実際エルフはいた。最後の生き残りが。

 もしもこのことが各国に漏れ出てしまえば世界中が血眼になってアレカを手に入れんと総力を上げるだろう。

 それほどまでにエルフというのは希少であり、貴重なのだ。

 

 歳を取っても変わらない見た目。

 数少ない光系統の魔力。

 尽きることがないとされる魔力。

 

 どれを取っても各国が追い求めない理由が見つからない。

 それこそ、国同士の争いをしてでも。

 

 アレカという存在が世界の均衡を破るのに十分が過ぎるほどのものを持っていることに変わりはない。

 

 故に、召使の少女が言うことは尤もではある。

 

 それでも。

 

 

 「…………………」

 

 

 少年の口からは言葉が出てこなかった。

 

 まるでその答えを求めるかのように。

 

 本当のところ、今すぐアレカの元へ駆けつけて止めに行きたいのがオービットの本心ではあった。

 

 止めることが出来なくても、協力して亜人のオークを討伐する手助けを。

 

 エルフであるからということを差し置いてもオービット・グライシスという人間はアレカを守りたいと考えていた。

 

 しかし。

 

 それは果たして助けたと言えるのか?

 

 救えたと言えるのか?

 

 それはエゴではないか?

 

 そもそもオービットたちは今回巻き込まれたもののようなものだ。

 言ってしまえば部外者。

 それが無闇に深入りすれば混迷を極めることは避けられないだろう。

 

 仮にアレカたちを保護したとして。

 

 仮にオークを討伐したとして。

 

 それは終わりと言えるのか?

 

 因縁は。

 

 容易いものであったか?

 

 その結末を彼らは。

 

 受け入れられるだろうか?

 納得するだろうか?

 

 今ここでアレカを追いかけることは。

 

 彼女の覚悟を踏みにじることと同義ではないか?

 

 オービットの中での葛藤は今も両者互いに譲ろうとはせず、均衡を保ち続けている。

 

 今、少年は二つの選択を迫られている。

 

 どちらが正しいのか。

 

 助けるべきなのか。

 

 想いを汲んでやるべきなのか。

 

 その結論は今も出ない。

 ただ時間だけが無情にも過ぎ去っていく。

 こうしている間もアレカは闘っている。

 己の因縁との決着をつけるために。

 たった一人で。

 それをただ、指を咥えて成り行きを見守ることしか出来ないのか。

 

 

 「人族ノ、オニーチャン………?」

 

 

 ふと。

 

 オービットの元に亜人の小ゴブリンの子どもが一人、心配そうに話しかけてきた。

 

 思索の海へと沈み込んでいたオービットは話しかけられるまで亜人の小ゴブリンの子どもが自分の側まで近づいていたことに気付けなかった。

 

 自分がそれほど思い悩んでいることにも。

 

 

 「ど、どうした?」

 

 

 平静を取り繕うように口元に笑みを浮かばせ、子どもの視線に合わせるようにしゃがみ込むオービット。

 そんな彼に対し、亜人の小ゴブリンの子どもはおどおどとした様子でまだ覚束ない言葉遣いで喋る。

 

 

 「アノ……アノネ。アレカ様………ドコ行ッタノ………?」

 

 「!」

 

 

 真っ直ぐとした目でこちらを見る。

 その視線に耐えられないとばかりにオービットは思わず目を逸らしてしまう。

 

 

 「?」

 

 

 その挙動の意図を汲み取れない子どもの小ゴブリンはなおも不安そうに見つめ続けるのだった。

 代わりに別の言葉で応え返す。

 

 

 「な、なぁ」

 

 

 それは話題を変えるために咄嗟に出た言葉。

 

 

 「お前は………さ。あのエルh………アレカのことは好きか?」

 

 「ウン!大好キ!」

 

 「!」

 

 

 それまでおどおどと怯えるようにこちらの様子を窺うようにしていた小ゴブリンの子どもはアレカの話をし始めた途端にその表情が生き生きとしたものへと変わっていった。

 

 

 「コノ前、コノ前ネ!ボキガ弓ガ上手ク出来ナクテ泣イテタ時ネ!アレカ様ハ優シク頭撫デテクレタノ!」

 

 

 それから始まる小ゴブリンの子どものアレカとの思い出の日々の話。

 

 一緒に遊んだ時のこと。

 

 狩りの仕方を教わったこと。

 

 道具の扱い方のこと。

 

 夜が怖くて寝られない時に歌ってくれた話などもあった。

 

 そのいずれもが亜人の小ゴブリンの子どもにとって宝物であるかのように自慢をすように語らいでくれる。

 そのどれもが温かさを内包したものであり。

 話の中にいるエルフの少女はとても小ゴブリンたちを利用するだけのために近づいた者とは思えなかった。

 

 アレカは言っていた。「巻き込んでしまった」と。

 

 己がエルフであることの宿命を亜人の小ゴブリンたちにまで無理矢理背負わせる形となってしまったと。

 そのことに彼女は、エルフの少女は、アレカは悩んでいたのだ。

 

 だが彼女は知らないのだ。

 

 確かにアレカは亜人の小ゴブリンたちを巻き込んだかもしれない。

 それでも、オークから小ゴブリンたちを救ったのはアレカであり。

 それから共に行動し、寝食を共に過ごし、彼らを守ったのはアレカであり。

 彼ら小ゴブリンの仲間となったのも紛れもなくアレカである。

 

 亜人の不遇な扱いはオービットもよく知っている。

 同種族からも他種族からも亜人というだけで忌み嫌われる彼らにとって安息の地などどこにもないのだろう。

 そんな彼らの境遇を、彼女は救っていたのだ。

 救いと、なっていたのだ。

 でなければ、今目の前にいる小ゴブリンの子どもがこれほどまでに楽しそうに語ることもなかったはずだろう。

 

 そのことを、アレカはまだ知らない。

 

 とくん、と。

 

 少年の鼓動が早くなるのを感じる。

 

 均衡を保っていた天秤が傾き始める。

 

 

 「なぁ………聞いてもいいか?」

 

 

 オービットはまるで何かの確認をその亜人の子どもで見極めるかのように話しかける。

 それは最初に少年がエルフの少女から託されていた願い。

 

 

 「お前の………お前たちにとっての安心出来るところってどこだ?」

 

 「ソンナモノハ決マッテイル」

 

 

 気づけば。

 

 黒コートの少年と小ゴブリンの子どもを囲うように、亜人の小ゴブリンのほぼ全員が集っていた。

 その中の精悍な顔立ちをした小ゴブリンの一人が前に出る

 

 

 「我々ガ安ラギトスル場。ソレハ──」

 

 

 そこから先の言葉を受けて。

 オービットの中にある天秤は一方へ向かって。

 

 カシャン、と。

 

 完全に傾いたのだった。

 

 

 

 

 

 

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