その後。
アレカを助けに一人現実世界へ戻った黒コートの少年は亜人のオーク達から弓使いのエルフを救出し、その場のオークを殲滅、途中予期せぬ敵との邂逅も辛勝で幕を閉じ、そのままアレカたちが隠れ住んでいた廃村のポッカ村で療養も兼ねて滞在していた。
魔力の浪費が激しかったオービットのための滞在であったのだが、少年の回復は思ったよりも順調とはいかなかった。
というのも、少年の魔力は少し特殊であることもあるが、実のところオービットは療養中の身でありつつも魔眼を使用していたのだ。
物質世界にいる亜人の小ゴブリンたちに会うために。
本来であればすぐさま全員を現実世界に送り返したいところではあったのだがとある理由によりそれは出来なかった。
一つは療養中であるために全員を送り返すための魔力が足りていなかったため。
一つは小ゴブリンたちたっての希望により。
そしてもう一つの理由。それは。
オークたちにあることを悟らせないため。
「お前らさ………“銃”って知ってる?」
◎◉◎◉◎◉
現在。
夜も深まってきた頃。
生物の音が消えた森。
その森の中を闊歩するかのように複数の足音が縦横に響き渡る。
その森の木の上からそこら一帯を陣取るかのように見渡す影が一つ。
黒コートの少年は何かを見据えるようにして魔眼を開いたままただ黙々とその場に佇んでいた。
その少年の耳に取り付けてある小型の装置にザザッと短いノイズの後に声が鳴る。
「サー。コッチ、全部、終ワッタ」
「お、早いなブダー。よしじゃあ一度後退してあらかじめ伝えておいた陣形で西に進んでくれ」
「ワカッタ」
短い会話の後再びノイズが入るとまた別の声が。
「デブル。サー、ゴメン。一ツ逃ゲタ」
「分かった。どっちの方に逃げたか分かるか?」
「西。多分ブダー、会ウ」
それを聞いたオービットは魔眼を開眼したままに意識を周囲へと集中させる。
魔眼・『真円の瞳』は三つの世界を行き来する以外にも魔力の感知をするにも長けたものであり、生物に宿る魔力を視ることが出来る少年にとっては宵闇に包まれた森の中でもどこに誰がいるかを把握することなど容易いことなのである。
その少年の魔眼で見る限りでは自分と小ゴブリンたちの周りに逃げていると思われる敵の魔力を感知するには至れなかった。
通常、魔力というのは生命力ともなるためそれを感知できないということはつまり生命力が尽きたことを表す。
おそらくデブルの銃撃が致命傷に繋がったかあるいはブダーがその逃亡したオークを既に撃った辺りが妥当なところだろう。
木の上に立つ少年はそう断定づけるとすぐさま耳に取り付けた装置にそっと指を当てる。
「デブル。今周囲を確認してみたがそのオークの感知はなかった。おそらくもう他に倒された後だと思う」
その言葉を聞くと装置の向こうで安堵の息を漏らしたような声が出るのを黒コートの少年の耳は確かに聞いた。
「ヨカッタ。コノ後、ドウスル?」
その声を聞いて少年も顔が綻ぶのを感じた。
「今そのブダーたちの部隊が他の部隊とも合流するように動いてもらってる。デブルたちの部隊も合流するように言われた陣形を維持したままで西の方に向かってくれるか?」
「ワカッタ」
短く告げ、少年の耳に付けている装置にノイズが流れたかと思うとそのまま声は途切れ、耳に付けた飾りも物言わぬ飾りへと変わる。
ひとしきり指示を言い終えた少年の口からはため息が漏れ出るのだった。
◎◉◎◉◎◉
黒コートの少年が亜人の小ゴブリンたちに貸し与えた物は二つ。
その一つは小型魔動通信機。
耳に引っ掛けて身に付けることが出来、魔力を流すと同じ装置を持った者へ声を飛ばすことが出来る優れもの。
これによりオービットたちは互いに離れた位置にいても意思疎通を取ることを可能とした。
そしてもう一つ。
少年が小ゴブリンたちに貸し与えた物。
それは人族の中でも長い歴史の中で最も使われていたとされる武器。
魔導銃。アサルトライフル。
名前はMAR-OBT03。
銃身自体は細長く、人族が大戦の際に使うには持ち運びもしやすく、火力も高いために兵士の間でも使い勝手の良いものとして愛用する者も多かった。
小ゴブリンが持つには大きすぎるために撃つ際の照準を定める際は固定役とスナイパー役ともう一つの役割の基本三人一組の体勢ですることになっている。
魔導銃が人族の中で最も使われていたとされる最大の理由は弾丸が魔力の塊であるということにある。
魔導銃は撃つ際に使用者が銃へ魔力を通すことでその魔力が弾丸の形となり、撃ち出される。
つまり、魔力が尽きない限り弾切れが起きることはないということである。
さらには込める魔力の量も少量で十分のため魔力総量の少ない小ゴブリンでも扱える代物となっている。
元々、ゴブリンという種族は人族の真似事をするという習性があるため道具の扱いを教えることは容易であった。
そこに亜人である彼らは知能も発達しているためにより高度な技術の習得も可能としていた。
よって、銃の扱いだけで言うならば亜人の小ゴブリンたちは短期間で黒コートの少年も目を見張るほどにものにしてみせたのだった。
技術を習得させた後はひたすらに実戦さながらの訓練。
対人格闘から銃を持った走り込み、戦法から緊急時の対応の仕方まで様々。
少ない時間の中で教えられるだけのことをたたき込んだ。
その結果、亜人の小ゴブリンたちは歴戦の兵士も顔負けの兵士ゴブリンへと成ったのである。
だがそれも所詮は付け焼き刃。
訓練しかしてこなかった彼らがいきなり戦場に立っても格好の獲物にしかならない。
実戦と訓練では訳が違う。それを経験してるかどうかの差はあまりに大きい。
その差を埋めるために黒コートの少年の存在が不可欠となる。
オービットの作戦と的確な指揮、そして敵の位置を正確に補足する魔眼。
互いの利点を活かし、手を組んだ者たちを前にしてさしものオークもひとたまりもなかった。
その夜、亜人のオークの先遣隊はほぼ壊滅状態となって撤退したという。