開けた森跡地。
亜人のオークの陣地。
そこではオーク達が周りの木々を円形状に積み上げて大きな建造物のようなものを形成していた。
そこに一体のオークが入る。
「ホ、報告、デス……」
入ってきたオークの身なりはところどころ破けており、負傷も確認できた。
ある程度の体勢が整った頃でのそのオークの到来はさざなみを立てるには十分なもので。
「何ガアッタ?」
屈強なオーク兵士がまるでボロ布が如く帰還したことに周囲は動揺が隠せていない中でただ唯一オークの王だけは積まれた丸太の上から尊大に構え、動じなかった。
「話セ」
短く。
たった、その一言だけで周りのオーク達のどよめきも消える。
伝達係のオークの声だけがその場に響いた。
「……先遣隊、ガ、壊滅、シマシタ」
「!?」
しかし、次に告げられた言葉にさすがのオークの王も片眉を動かすほどの心の動きが見れた。
周りで聞くオーク達は言うまでもない。
「ソレ、ハ、真、ナノカ!?」
「ニワカニハ、信ジラレヌ!」
王の側近であるオーク達も思わず声を荒げながらも事実確認を取る。
「……先遣隊、ハ、先程、イーク、ト、会敵。討滅、セン、ト、戦闘、ニ入リ、マシタ、ガ……コトゴトク、反撃、ニ遭イ、途中、ソノ姿、ヲ見失イ、ソレト同時、ニ複数ノ、敵ノ存在、ヲ確認。謎、ノ、破裂音ガ聞コ、エタカト思エ、バ、次々、ト同胞ガ倒レ、テ、イキ、マシタ……」
その報告内容を聞かされて、先程までどよめき立っていた亜人のオーク達はしん、と静まり返る。
「ア、アリ得ヌ……ソノ、ヨウナ、コトガ……敵ハ、イークノ、子供ガ一人、二人ダケ、デハナカッタ、ノカ?」
「マサカ……モウスデニ、他ノ、仲間ヲ引キ連レテ!?」
「マズイゾ……マダ我ラハ、湧光泉ヲ手ニ持ッテイナイ、トイウノニ……!」
動揺は不安を掻き立て、不安は疑心を生んでいく。
それはたちまち周囲に伝播し、オーク達の中で軽いパニックを引き起こした。
「黙レ」
それでも。
やはり王たる所以なのか。
そのオークの一言は全オークを従わせるにたる絶対的な力を有していた。
静まり返ったオークの陣営の中で王のひしゃがれた言葉だけが響き渡る。
「謎ノ破裂音、ト言ッテイタナ?ソレガドンナモノナノカハ、見テオラヌノカ?」
伝達のオークを一瞥するとその視線に縮こまるようにしてかしこまりながらに答える。
「ハ、ハッ。申シ訳、ゴザイマセヌ。ナニブン、暗闇、ノ、中デノ、出来事デシ、タノデ……」
「ソノ音ト、共ニ光ノヨウナモノト、金属ノ音ハ、聞カナカッタカ?」
「…………ミ、見マシタ!聞キマシタ!確カ、ニ、破裂音、ハ、光、ト、共ニ発セ、ラレ、金属音、モ、ソノ後、ニ、ツイテクルヨウニ……」
「ヤハリカ……」
それを聞くとオークの王は何かを思い起こすようにため息をついた。
「王ヨ……何カ、ゴ存知、ナノデスカ?」
側近のオークが尋ねると、オークの王は面白くなさそうに答える。
「……カツテノ大戦、ノ時、イーク共ハ、互イヲ殺シ合ウコト、ニ、躍起ニナッテイタ、時期ガアッタノダ。ソノ時、遠方ヨリ敵ヲ殺ス、タメノ武器、“銃”、ト、イウモノガ、ヨク使ワレテ、イタノダ。ソレ、ハ、非力、ナ者デモ、イトモ容易ク、相手ヲ、殺スコト、ガ出来ル代物デナ……昔ヨク、手コズラサレタ、モノダ」
昔の戦場を思い起こすかのようにどこか懐かしむオークの王。
「ナント……ソノ、ヨウナモノ、ガ、イーク、ノ手ニ……」
「ソレト、確カ、向コウニハ、ゴブリン、ガ数匹イタ、ハズダ。奴ラハ、イーク、ノ真似事ダケガ、取リ柄ノトコロガ、アルカラナ。大方、戦力増強ノタメ、ニ、駆リ出サレテ、オルノダロウ」
「ナッ!?ソレデハツマリ……!」
「先遣隊ヲヤッタノハゴブリン共ニ違イナイ」
再びオーク達に動揺が走る。
オークにとってゴブリンはいわば自分たちの劣化版。魔力を供給するための存在でしかないただの餌としか捉えていなかった。
だが、それが銃という武器を得て自分たちの仲間を一網打尽としたことを聞かされて容易に聞き入れられるものではない。
「フン、案ズルナ。銃ハ、確カニ脅威タリ得ル、ガ、所詮ハ、イーク、ノ玩具。自身ニ硬化魔法ヲ付与スレバ、サホド致命傷ニハ、ナラヌ。ソレニ、コノ“闘技場”ノ壁ガ死角ト、ナッテオルカラ、万ガ一、奴ラガ来テモ正面カラシカ……」
と。
そこでオークの王の口が止まる。
「王?」
側近のオークも突然の沈黙に戸惑う。
するとオークの王は負傷した伝達のオークを見やり。
「貴様……ナゼ、生キテ戻ッテコラレタ?」
と、問うた。
「ナ、ナゼ、ト、言ワレ、マシテモ……」
当然、尋ねられた伝達のオークも返答に困る。
「王ヨ。イカガ、サレタ、ノデスカ?」
「オカシイトハ思ワンノカ」
王の言葉は続く。
「奴ラハ、少数デアリ、ナガラモ、我ラノ先遣隊ヲ壊滅サセタノダゾ?ツマリ、奴ラハ、余裕ガアッタ。戦力的ニ全滅サセラレル程ノ力、ガアッタ。現ニコイツ以外ノ同胞ハ誰一人トシテ帰ッテキテオラヌ、ノガ証拠ダ。ムシロ違和感ナノダ。コイツ、ダケガ生還出来タノガ。ナゼ貴様ダケガ、生キテ帰ッテコレタ?ナゼ奴ラハ……」
そこまで言いかけて。
オークの王は一つの答えに辿り着いた。
「フン、ヤラレタナ」
それだけを言うと。おもむろに立ち上がり、そして声高々に告げる。
「全員、今スグ配置ヘツケ!ココハ時期ニ戦場トナル!各々警戒ヲ怠ルデナイ!!」
「!!?」
突然の号令。
何事かと動揺が走るも、しかし王の言うことに逆らえるわけもなく各オークは自分の配置へとつくのだった。
「オ、王ヨ。一体……」
「向コウ、ニモ、ナカナカノ猿知恵ヲ働カセル者ガ、イタトイウコトダ……」
「?」
その言葉の真意が読み解けない側近のオーク。
しかし、オークの王は何かを確信するかのように未だ見ぬ敵との邂逅を待ち侘びるかのように口角を釣り上げて不敵に笑うのであった。
◎◉◎◉◎◉
「………………」
その様子を、遠くから見ていた小さな影がオークに知られずに立ち去った。