非存在の存在証明   作:トブト

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【証明】~そこにいるのは~その3

【非存在の存在証明】3

 

 

 

エルフ。

 

かつて存在していたとされる種族。エルフ族。

その見た目は美麗衆目とされており、身体的特徴もさながら魔力総量も平均して多く、魔法の扱いは人族が発足する前から台頭していたとも言われ古代より伝わる魔法に長けていたとされる。

その生息域は森などの“聖域”とされる他の種族を寄せ付けない結界が張られた場所を根城とするため、他種族との交流は皆無とされる。そのため目撃例も極めて少なく、お伽話などの空想上の存在だったとされる傾向もある。

現時点で人族が記録するエルフ族の確認が出来たのは今より百年程前。

それ以降にエルフの姿は現さなくなったため絶滅したとされている。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

「みんな!」

 

「アレカ様〜!」

 

 

仲間の小ゴブリンたちと再会を果たせたエルフの弓使いは目尻に涙を浮かばせながらも喜びの抱擁を交わすのだった。

 

 

「ボボ!ババル!よかった…怪我とかはしてないようね。ブッケにビルビも身体の調子は大丈夫?まだ無理しちゃダメなんだからね。こら!バービヤ!どこ触って……あは!あははは!くす、くすぐった…!やめ、やめなさい!」

 

 

その光景は見る者からすれば小ゴブリンに群がられて襲われているようにしか見えない図柄だが、エルフの弓使いの声音からしても小ゴブリンたちとの付き合いが一朝一夕のものではないことが窺える。

 

 

「それにしても……ここは一体どこなの?村も無ければ森も湖も、空も無い。………自然が無い」

 

 

再会を一通り祝したエルフの弓使いは顔を上げて辺りを見やる。

そこに広がるのは先程までいた森とは一変しており、不規則に並ぶ無機質な物質ばかりが蔓延る光景だった。

 

 

「ここは現実世界とは別の……言ってみれば物質に宿るエネルギーを可視化させたような世界だよ」

 

 

そこにエルフの弓使いの背後から答えるのは黒のコートに身を包む少年。

 

 

「お前……!」

 

 

エルフの弓使いは恨みがましいものを見るようにその目つきを鋭くさせる。

 

 

「そう警戒するなよ。もう僕たちが争う必要は無いし、君の仲間のゴブリンたちもみんなこうして無事だったろ?」

 

 

森での一幕。

狙撃手であるエルフの弓使い、アレカを拘束した後、少年は取り調べを行うもエルフの弓使いの供述は「お前達に話すことなどない!殺すなら殺せ!」と一貫したものであり、一向に話に応じてくれる様子ではなかった。

そのため対応に困った少年はひとまずエルフの弓使いが殺されたと思い込んでいた仲間、小ゴブリンたちがいる世界、“物質世界”に連れてきたというわけであった。

 

「ふんっ!」

 

 

そもそも少年が仲間である小ゴブリンたちを全員亡き者にしたと勘違いされたことから始まった事柄であったのでその誤解を解けば幾分かはその態度も柔らかくなるものと期待してのことだったが先のこともあり(何がとは敢えて言うまい)当のエルフ様の機嫌は損ねたままであった。

そっぽを向かれたまま結局話に応じてくれなさそうな雰囲気に少年はいよいよどうしたものかと天を仰ぎかけたところで。

 

 

「ご主人、こちら。言われた通りに終わりました」

 

 

その原因を作った当事者の召使いの少女が少年の元に歩み寄る。

エルフの弓使いの警戒は一層強まるのだった。

しかしその召使いの抱えるものを見て表情は一変する。

 

 

「ブーバル!?」

 

 

召使いの少女の腕の中には小ゴブリンの中でも一際小さいゴブリンが丸くなるようにして収められていた。

エルフの弓使いはその小さい小ゴブリンの名前を言うやダッ、と駆け出し召使いの少女まで駆け寄ると奪い取るようにして腕の中にいる小さい小ゴブリンを受け取るのだった。

 

 

「ブーバル!?ブーバル!?しっかりして!どうしたの!?」

 

 

エルフの弓使いが呼びかけるも腕の中に収まる小さい小ゴブリンからは何の反応も示さない。

もしやこの人間達に何かされたのではと勘繰り出したところで。

 

 

「眠っているだけですよ」

 

 

召使いの少女は懐から小瓶のようなものを取り出し、近づく。

 

 

「リリア。どうだったの?」

 

「はい。やはりこの土地特有の風土病かと。元々北方を生息域とする種族なので南方の環境に適応しきれてなかったのでしょう。症状自体は軽いものだったのでしばらく様子見ではありますが時期に回復はすると思われます」

 

 

すると手に持っていた粉薬が入った小瓶をエルフの弓使いに手渡す。

 

 

「こちら調合しました薬剤です。同じような症状が現れましたら昼と夜に分けて少量ずつ服用なさるようお願いします」

 

「わ、分かった……」

 

 

おずおずとした様子で小瓶をエルフの弓使いが受け取ると召使いの少女は少年のやや後ろ、そこを自分の定位置と言わんばかりに移動し、静かに佇むのだった。

すると「キュルッ…」とどこからか陽気な音が響く。

 

 

「アッ…」

 

 

音がした方を見るとそこには痩せ細った小ゴブリンの一人が何かを訴えるようにしてお腹を押さえながら少年たちの方を見ている姿があった。

その様子に思わず少年は笑みをこぼしながらも。

 

 

「確かお前たちの荷物に食糧とかあったよな?少し借りるよ」

 

 

と、提案する。

 

 

「なっ!?何を勝手に!」

 

 

当然反発するエルフの弓使いであったが。

 

 

「お腹空かせた子がいるのにそのままにしておけないだろ?」

 

 

と、少年の言葉に窮してしまう。

 

 

「ご主人。食事でしたらこのリリアが」

 

「お前は馬車を出して待機だ。用があるまでは勝手な行動をするな。間違っても食材には触るなよ」

 

オチが見えすぎる召使いの提案を念頭に封じ込めてから少年は小ゴブリンたちが積んだ荷物からいくつか食糧を物色する。

 

 

「………っ!!敵の、ましてや人族が出したものなど食えるものか!」

 

「リリア。馬車出して」

 

 

エルフの弓使いの言葉など聞こえないとばかりに少年は調理に入るのだった。

まず召使いの少女が自身の影を大きく広くさせたかと思うとその影の中から這い出るようにして馬車が姿を現した。

周りの小ゴブリンたちがその光景に驚いている間に少年はさっさと馬車の天幕の中に入り、調理器具やいくつかの魔道具を持って再び出てくる。

 

手慣れた様子で簡易式台所や機具を組み立てていくと窪みがある円形の形をした魔道具の上に水を入れた鍋を置き、下に置いた円形型の魔道具に魔力を注ぎ込む。

すると魔道具が反応を示し、中央部分が赤熱した色に変わると熱を発し始める。その間に小ゴブリンたちの荷物から取った魚の下処理を進めていく。

包丁であら状に切った魚を霜降りにし、残った鱗などを取り除けば沸騰した鍋の中に塩を少量、あらを入れて煮込む。

煮込むのを待つ間同じく取った山菜を切っていく。

香りが沸き立つ頃には周囲の小ゴブリンたちはよだれを垂らしながらにその様子を見ているのだった。

灰汁を取り除き、切った山菜を入れ込んでさらに煮込む。

煮込みが完了する間食器を取り出す。

そのまま煮込むこと数分。

 

 

「よし、出来た」

 

 

味見を終え、出来たものを器によそう。

それを興味深げに小ゴブリンたちがこぞって集まり見てくるのだった。

 

 

「魚と山菜のスープ。ほら、食べな」

 

 

簡素ながらに素材を生かした料理。魚のあら出汁と山菜の風味が絡み合うように混ざり、具材もそのままと食欲を一層引き出させる一品。

それを小ゴブリンたちに振る舞うも、しかし小ゴブリンたちはよだれを垂らしたままでどこか躊躇った様子で誰もその器を手に取ろうとはしなかった。

その様子にハッ、と何かに思い至った少年はもう一つ別の器にスープをよそうと召使いの少女を呼びつける。

そのままスープの入った器を差し出す。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「いいよ」

 

 

差し出された器を恭しく受け取ると召使いの少女はその見た目さながら上品に、まず器に口をつけ、スープを味わう。

それを口の中に転がすようにしてから飲み込むと。

 

 

「自然の激流にも晒されて引き締まった魚の身がほろろと口の中で崩れ、魚の味が広がると共に吹き込むような生命の息吹を感じさせる山菜の大地の恵みさながらの風味が絡み合い、大自然が織りなす賛美歌が聞こえてまいりました。さすがご主人です」

 

 

作ったのは簡単お手軽なものなのでその表現はややオーバーが過ぎるものであると少年は思ったが今は言わないでおくことにした。

味の評価を受けて自身もスープを口にする。

 

 

「うん、美味い!」

 

 

短く簡潔に言うと、そのまま一気に平らげる。

 

 

「しかしご主人。この量はいささか二人で食べ切るには多すぎるのではありませんか?」

 

「そうなんだよなー。あーあ、どこかにお腹空かせたゴブリンとかいないかなー?」

 

 

わざとらしく少年は大きな声で小芝居を披露すると。

ワァッ!

と、一斉にそれまで見てるだけだった小ゴブリンたちが殺到する事態になるのだった。

 

 

「リリア。食器あるだけ持ってきて」

 

「承知しました」

 

 

そこからは次から次へとよそえばすぐ無くなるを繰り返す応酬。小ゴブリンたちの数も多いため少年たちが用意した器の数だけでは間に合わず小ゴブリンたち自前の器を持ってきてもらう始末。

 

 

「なっ……!?」

 

 

その事態に一番看過出来ないのはエルフの弓使いで。

 

 

「みんな気をつけて!毒が入ってるかもしれないわ!」

 

 

と、周りに注意を喚起するもそれを聞き入れる者はいなかった。

 

 

「そんなもの入れてないよ。先に僕たち食べたし」

 

 

そう言ってエルフの弓使いに近づく少年の手にはスープが入った器が。

 

 

「ほら、冷めないうちに食べな」

 

「人族がよこすものなど……!」

 

 

頑として受け取りを拒否するエルフの弓使いであったが。

キュルルッ。

その身体は正直であった。

 

 

「!!?」

 

 

顔を紅潮させて慌てて自身のお腹に手を当て隠すようにするエルフの弓使い。しかし一度鳴った音を捕らえられる訳もなく。

 

 

「食べないんなら捨てるよ」

 

 

尚もエルフの弓使いに差しむける少年。エルフの弓使いも一度はその器に手を伸ばしかけるもすぐに思い改まり伸ばした手を引っ込めてしまうのだった。

 

 

「仕方ない……おーい!リリアー!」

 

「!!?」

 

 

少年の口から発せられたその名にエルフの弓使いは過剰な反応を示す。

 

 

「な、なぜアイツを!?」

 

「君まだ怪我とかしたままだし腕とか動かしづらいんだろ?だからリリアに食べさせてもらおうかと思って。リリアー!」

 

「待て呼ぶな!アイツをあたしに近づけさせるな!」

 

 

一連の行動を怪我による要因と思った少年の気遣いによるものであったのだがエルフの弓使いにとっては別の意味で問題が以下略。

 

 

「ええい!食えばいいのだろう!食えば!」

 

 

半ば差し向けられる器を剥ぎ取るようにして受け取るエルフの弓使い。

そしておそるおそるといった様子でそのスープを口にする。

 

 

「どう?」

 

 

少年の問いにエルフの弓使いは。

 

 

「あたたかい……」

 

 

と。

少年の前では初めて見せる穏やかな表情を見せる。

その表情に思わず見惚れていた少年の視線に気が付き、ハッ、とした様子で我に返ったような面持ちを見せると。

 

 

「と、とても食えたものではないな!アブルハンやニコギリ草を煮込んで詰め込んだだけではないか……おい!何を笑っている!?笑うな!」

 

 

くっ、くっ、と押し殺すように笑う少年に赤面しながら不服を申し立てるエルフの弓使い。

ふとその視線は持っている器に落ちる。

 

 

「なぜ人族が我々を……あたしたちを助けるの?」

 

 

途端に口調が変わったかと思えば張られていた警戒の線も緩む感覚が少年にはした。

 

 

「人族が……エルフのあたしやましてやゴブリンまで助けるなんて……」

 

「助けられるのに助けないなんて気分悪いだろ?」

 

 

それは最初冗談にも取れた。

だが顔を上げたエルフの弓使いが見た少年の顔は年相応のものを感じさせ、その屈託の無い表情から本心からなのだと分かると思わず苦しい笑みをこぼしてしまうのだった。

視線は小ゴブリンたちの方に移る。

 

皆、一様にあたたかいスープを口にして和やかなひと時を過ごしていた。

子どもの小ゴブリンは食事を終えると遊び始め、中には興味深い物質世界の探検に赴いたり、それを大人の小ゴブリンが窘めたり。

大人の小ゴブリンは談笑を始める者もいれば腹が満たされたことで横になってくつろぐ者もいた。はしゃぐ子ども小ゴブリンに踏まれてしまったが。

しかしその光景には笑顔が満ちていた。

ずっと、隠れるようにして毎日怯えるようにして生きてきた。

そんな彼等にとってこの時間は久しくなかったものであった。

 

エルフの弓使いはもう一度、スープを口にする。

その味は質素なもので舌に肥えた者ならば味がしないと同義であるのだが、しかしエルフの弓使いにとっては味わい深く、身も心もあたためてくれるものであり、彼女の中に張っていたものが優しくほぐされていく感覚に包まれるのだった。

 

 

「話、聞かせてもらえるかな?」

 

そのタイミングを見計らったように少年は先刻の質問を投げかける。

おそらく本人にしてもそんな気はなく、純粋に親切心からしてくれたことなのだろうと分かるのだが、その間の悪さにはさすがのエルフの弓使いも苦笑せざるを得なかった。

 

 

「あなた……遠慮とか無いのね」

 

「えっ?」

 

 

反応を見る限り計算でやったことではなく素なのであることは目に見えていた。

一瞬なんのことか分からない少年であったがすぐに自分のこれまでの行動を思い直し、動揺を見せ始める少年。

その様子を面白がるように眺めるとエルフの弓使いは手に持っていた器のスープを飲み干すと。

 

 

「いいわ。このスープ分の情報は教えてあげる」

 

 

と、笑顔で言うのだった。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

ニオイガ消エタ……?

 

少年たちがかつて立ち寄っていたポッカ村の廃村地帯にて。

今は誰もおらず沈黙を貫くのみの廃村に訪れる者が。

がしゃがしゃと動くたびに揺れる革製の装備に身を包むその者の体躯は人とは比較しても大きく、その筋骨隆々の体にそこから見える獣のような体毛に肌の色が深緑なことからも人族の特徴とは一致しない。

肩に背負う斧はその巨躯にも引けを取らぬ大きさを画しており、身につける衣類は革のベルトと布で巻かれた褌、さらには足の関節部に籠手のような布地が巻かれているのみであった。

 

森ノ爆発デ死ンダ……?イヤ、ナラバ血ノニオイガスルハズ……。

 

異形なる者は村の何かを嗅ぎとるように自身の嗅覚に神経を注ぐ。

 

コノニオイ……ヒトカ?

 

それをまるで向かうべき場所を指し示しているかのように匂いを辿る。

その足は村はずれの湖畔がある方に向かうのだった。

 

 

 

 

 

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