亜人のオーク陣営。
そこより少し離れた森奥地。
先程の夜襲の一幕が終わり、再び静けさを取り戻した宵闇の森の中、そこに潜む小さな影が一人の人物を取り囲んでいた。
「サー」
そこに一つの声。
それと共に集まる影に迫ってくる音を聞いて、自然と一同に緊張が走る。
やがて草木をかき分けて現れたその姿が仲間のものであると分かると、その糸が緩和された。
「どうだった?」
合流した影も含めて、一際大きい影の主が代表に声を掛ける。
「向コウ、イッパイ。ナンカ、作ッテタ」
たどたどしいながらもしっかりした声が返ってくる。
「作ってた?どんなのを?」
「分カラナイ。木デ。ナンカ建物。大キイ」
「………………」
断片的な情報を聞いて代表者の影は予想を立ててみようとするもそれも意味がないと悟り、すぐに思考を切り替える。
「そうか。他にはどんなことがあった?」
「コッチガ近クニイルコト、バレテル」
それを聞いて小さな影たちの中にどよめきの声がたつも。
「やっぱりか……」
と、一人代表の影だけは冷静に状況を分析していた。
「だいたいどんな感じ?」
「モウスグコッチガ、攻メテクルッテ。警戒シテ、待チ構エテル」
「ドウスル……?サッキハ暗ガリノ中デノ意表ヲ突イタ奇襲ダカラ上手クイッタモノノ……」
「複数ニ、別レテ、ノ、撹乱、モ、コッチノ数モ、ワズカ…………」
事態は刻一刻と悪い方へ進み、小さな影たちが焦燥感に駆られる中で。
「大丈夫」
代表的な影、オービットはその場を諌めるように落ち着いた声音で語りかける。
「どのみちこっちが動けば気づかれて警戒されるんだ。こっちのやることはさほど変わらない」
「ダガ……」
オービットの言うことに納得出来ない小さな影、小ゴブリンは明らかな動揺を見せていた。
亜人の小ゴブリンとオークの因縁は深い。
彼らはある日突然現れたオークに魔力供給のために同胞を食され、それからも追われ続けていた恐怖の過去がある。
今はオービットの支援もあり、武器も貸し与えられ、戦術や作戦があると言ってもそれもたった数日で叩き込まれた付け焼き刃のようなもの。
恐怖とは体を鍛えただけで克服できるものではない。
オークとゴブリンの格差は未だ顕在なことに変わりない。
小ゴブリンがここで臆してしまうのも無理はない。
それでも、だ。
「大丈夫さ」
人族、オービットは確信を持った調子で答える。
「敵陣地には僕一人で行くから、さ」
◎◉◎◉◎◉
再びオーク陣営。
「早クシロォ!イーク共、ハ、スグソコマ、デ来テルン、ダゾ!!」
多くの怒号が飛び交う中で着々と態勢が整っていく中。
「………………?」
一体のオークが何かに気づいたのか立ち止まって何もない森の方を見据えていた。
「ドウ、シタ?」
「イヤ、何カ……」
と、何かを言いかけたところで辺りに霧が立ちこめ始める。
夜の森。
月明かりだけが頼りの場であるところにさらに視界を悪くする霧の発生。
それはまるで、“なにか”が来ることの前触れであるかのようで──。
「………………」
オークたちの間に緊張が走る。
自ずと静寂が訪れる。
霧はいつしか彼らの縄張りを覆うように全体を包む。
ザッ。
足音。
オークのものではない。
もっと小さい──足音。
ザッ、ザッ。
足音は近づいていく。オークたちの元へ。
歩を緩めることなく。
真っ直ぐと。
ザッ、ザッ、ザッ。
足音はどんどん近づいてくる。
来る。
気づけばどのオークも足音がする方へ見据え、構えていた。
これから起きるであろう、激戦を、予想して。
その開幕の合図が鳴るのを待つように。
正体が分からぬ相手を待ち──。
イヤ待テ。
ナニカ──オカシクナイカ?
そこで。
一体のオークが何かの違和感に気づくよりも先に。
ガサッ。
一人の少年が、森の奥から姿を現した。