非存在の存在証明   作:トブト

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【証明】~そこにいるのは~その4

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

「オークに追われている?」

 

 

物質世界にて食事を終えた後、無機質な物質の上に座りながら少年はエルフの弓使いから話を聞き出していた。

すると話の中で別の種族の話が浮上する。

 

 

「えぇ、一年間……あの子たちにとってはもっと前からね……」

 

 

アレカはそう言って今は楽しそうに談笑する小ゴブリンたちを物憂げな顔で見つめる。

 

 

「どうしてまたそんなことに?」

 

「分かってて言ってるでしょ。あなた。あの子たちが“亜人”だからよ」

 

 

亜人。

 

人族とはまた違った人型に近づいた他種族。

五〇〇年前に突如発生した亜人は種族ごとの特徴をそのままに進化し、知能が発達。人族と同じように文化や文明の発展にまで至る。

 

だから村で出くわした小ゴブリンたちはやたらと統率も取れた動きが出来たのか、と納得する少年。

思えば最初に出会った小ゴブリンも言葉の意味を理解したような素振りを見せていた。

 

 

「亜人はとりわけ魔力を高く持つ傾向があるからね。……アイツらはその魔力を欲しているのよ」

 

 

エルフの弓使いはそのまま少年とは距離を取りながらもその場に座り込む。

 

 

「欲するって……つまりあの亜人のゴブリンたちを仲間に引き入れようとしてるってことか?」

 

「違う。食べるのよ」

 

 

ヒュッ、と息が詰まるような感覚。

エルフの弓使いも座り込んだまま目を臥せるのだった。

 

 

「アイツらは文字通り魔力だけを欲しているのよ……。オークは食べたものの魔力を自分のものに出来るから」

 

 

キュッ、と自身を抱くようにして膝を固く抱える。

 

 

「最初に……あの子たちと会ったのは……襲われてる時だった…。一体のオークが次々と沢山のあの子たちの仲間を………体の大きさから見ても勝ち目なんて無いのは分かってた。だから……あたしはただ黙って見ていることなんて出来なくて…………」

 

 

歯切れの悪いような喋り方で終え、当時のことを思い出してなのかフルフルと肩を震わせる。

 

 

「そこからは一緒に行動するようになって………ずっとアイツらから逃げる日々を送ってた。アイツらの縄張りから抜けられればもう追ってこないと考えてたけど………アイツらは諦めたりはしてくれなかった」

 

 

だから北方を生息するゴブリンがこんな南方にまで姿を現したのかと得心する少年。

そこである一つの懸念が生まれた。

 

 

「あ、あのさ。もしかしてなんだけど亜人じゃないゴブリンの仲間とかっていたりする?」

 

 

少年たちは村に訪れる前、今は消滅した森で遭遇した野盗のゴブリン達と対峙した。

その結果は言うまでもなく。

これはもう一戦交える事態になりそうだな、と少年は内心穏やかじゃない様子でエルフの弓使いの返答を待つ。しかしその少年の心配も杞憂に終わる。

 

 

「野良ゴブリンのことを言ってるの?んーん、あたしたちの仲間はみんな亜人だけの集まりよ。そもそも亜人と野良じゃ互いに嫌う傾向があるから一緒に行動は出来ないもの」

 

 

その言葉を聞いて少年は心の底から安堵の息を漏らすのだった。

そんな少年を怪訝に思いながらもエルフの弓使いの表情は陰りを差す。

 

 

「でも野良までここまで来てるってことは………いよいよアイツらの縄張りもここまで及ぼうとしてるのね」

 

「でもなんでオークは亜人のゴブリンに拘るんだ?亜人と言ってもゴブリンの魔力量を踏まえるなら他にも狙う対象がいると思うけど」

 

 

亜人の魔力量が高いことから亜人のゴブリンたちが狙われるのは分かる。

しかし自らの縄張りから抜けてまで付け狙うオークのそのただならぬ執着に少年は疑問を感じていた。

 

 

「決まってるでしょ。そうまでしても欲しいものがあるからよ」

 

「なんだよそれ?」

 

「あたしよ」

 

 

一瞬、時が止まったように場が静まるのを感じた。

永遠の一時。されど時は進む。

 

 

「あたしがあの子たちを助けた時……どうやらアイツらは匂いで相手の魔力を感じ取れるみたいなの………だからその時に」

 

 

自分がエルフであることが露呈してしまった。

それから、オークの狙いはいつでも摂取出来る亜人のゴブリンから千載一遇の滅びたとされていたエルフに変わったのだという。

エルフの弓使いはそのまま顔を埋めたままに。

 

 

「助けてるなんて体良く言ってるけど……実際あの子たちは巻き込まれてるのよ。実際アイツらに狙われてるのはあたしなのにまるでアイツらから守るようにして一緒に………本当は隠れ蓑にされてるんだって知らずにいるの」

 

「……………」

 

 

少年は何も言うことは出来なかった。

かつて滅んだとされ、その姿を消したエルフが偶々出くわしたオークとゴブリンの凄惨な光景に耐えられず、助けたと思えば次に自分が狙われる事態になり、頼るあてもない彼女はその場で助けた亜人のゴブリンを護衛という名目で隠れ蓑にすることでしか自分の存在を隠すことが出来なかった。

その事実を責めることなど少年には出来なかった。それはあまりにも酷なことであり、同時にやるせない気持ちが胸中を占める。

その場にいなかった少年にはただ、目の前で泣いているようにうずくまるエルフの話に耳を傾けることしか出来なかった。

 

 

「あたしを追ってきたアイツらに何度も襲撃されて……一〇〇もいた仲間も今では四〇にも満たない数に………挙句にこんな南方にまで逃げる羽目になって」

 

 

今いる亜人のゴブリンたちを見、かつてはここにいる倍以上の数がいたのだと思いを馳せる少年。

それはつまり、それだけの悲劇が彼等を襲ったことになる。

そしてその責任は自分にあるのだとエルフの弓使いは言うのだった。

 

 

「そろそろ……限界もあったのよ。慣れない土地で体調を崩す子が現れだして……かと言って頼れる伝手もないし、追っ手はすぐそこまで来てるしで八方塞がりだったの………あたしのせいであの子たちは安息の時を得ることが出来ないの」

 

 

するとエルフの弓使い、アレカは埋めた顔を上げ、何かを決意したような目で少年を見る。

 

 

「だから、お願いがあるの。あなたに」

 

「お願い?」

 

 

聞き返す少年。

そしてエルフの弓使いは言う。

 

 

「あたしの代わりにあの子たちを安全で笑えるところに連れて行ってあげて。あたしは………この長い因縁を終わらせに行く」

 

 

 

 

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