非存在の存在証明   作:トブト

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【証明】~求めるものは~その2

 

「……………っ!!!?!???」

 

 

アレカは自分の目を疑った。

悪い悪夢だと。

短時間での魔力欠乏による脳の錯覚なのだと。

そこにいるはずのない者を睨んだ。

 

己の全てを懸けて放った一撃はしかしオークの体に傷一つつけてはいなかった。

 

外したのか?

照準がズレたのか?

それともあの光の柱の中を耐えたのか?

あらゆる生命の残存も許さない一撃を?

 

幾層にも及ぶ可能性に頭を巡らすもしかしオークが目の前にいるという事実だけは変わりはしなかった。

 

 

「な…………ぜ…………!?」

 

 

未だ舌が回らぬ口で喋ろうにも言葉は掠れてただの音と化する。

身体を起こそうにも手足に力が入らない。

全魔力を使い切ったエルフの弓使いはもう、何も出来ない。

 

 

「ヨウヤク捕マエタゾ。エルフヨ」

 

 

人あらざる異形の者、オークはその巨大な手で横たわるアレカを慎重につまむと手足の自由が利かないように手で覆うようにして首だけ出る形にして拘束した。

エルフの弓使いも一応の抵抗を試みるもオーク相手に元々の膂力で勝る訳もなく、非力に等しく無謀であった。

その時に、アレカはこの捕まえたオークの頭に刀傷のような跡があることに気づく。

さっきまでこんな傷はなかった。

 

そこでアレカは周りを目だけで見渡すと他にも二体オークがいることを視認した。

そのうちの一体は先程投げ込まれた斧を持ってはいたがやはり先のオークとは異なる。

 

なんてこと………っっっ!!?まさか!?

一体だけではなかったの!?

 

そう、エルフの弓使い、アレカは思い違いをしていたのだ。

襲撃の際はいつも一体だけだった。

北を生息するオークが南のしかも人族の領地に近いところまで気づかれないように来ていたことも踏まえて。

 

他のオークの存在に気づいていなかったのだ。

 

そもそも慣れない気候に単身で挑む程に如何に野蛮な種族と言えどもそこまで浅はかではない。

オークの追跡は常に複数だったのだ。

その内一体は陽動もしくは囮、本命はずっと隠れて機会を待っていた。

エルフを捕まえられる機会を。

 

 

「………………………っっっ!!!!」

 

 

エルフの弓使いは己の浅慮さに血が滲む程に歯噛みした。

己が身命を賭して行ったことの数々。

それがこの事態を招いたことに。

自分がまんまと嵌められたことに。

 

 

「………ろ………しなさ………」

 

「?」

 

 

未だ力が戻らぬ体で、それでもエルフの弓使いは虫が鳴いたような声で言葉を発す。

 

 

「殺………しなさ………。あた……の………負け………」

 

 

それは事実上の敗北宣言。

散々逃げ回り、追い詰められ、決死の特攻も全て水泡に帰す。

相手が一枚上手だったと認めざるを得なかった。

否、自分の浅はかさを思い知らされたのか。

 

野蛮な種族と思って侮っていた。

知性のない獣だと高を括っていた。

これ以上の敗北など無いだろう。

 

もはやこの長い戦いを終わらせるには自身の命を捧げる他ない。

そう思っての発言だった。

 

その言葉を受けて刀傷のオークはエルフの弓使いを見下ろすように持ち上げる。

それはちょうど、刀傷のオークの口の前にアレカの頭が来る位置になる。

ついにその時が来たのだと、最後のエルフはそっと目を閉じたのだった。

 

みんな……ごめんね。

 

 

「オ前ハ我々ヲ勘違イシテイル」

 

 

しかし刀傷のオークの次の行動は正に意外なものだった。

オークはそのままエルフの弓使いを捕まえたまま歩き出す。

仲間であろうオーク達も連なるようにしてその後ろをついていく。

 

 

「え…………?」

 

 

恐る恐る、アレカは目を開ける。

自分がまだ生きていることを実感し、自分を捕えている刀傷のオークを見上げる。

刀傷のオークはおもむろに口を開く。

 

 

「確カニ、我々オーク族ハ、食ベルコトデ魔力ヲ有スルコトガ、出来ル。シカシ、ソレハ生物ガ生物ヲ食ラッテ生キルノト、同ジデ、オ前ノ、雑兵共ヲ食ラッタノモ、コノ慣レヌ土地デ生キ抜クタメニ、シタコトニ過ギナイ」

 

 

まるで今まで散った仲間達のことを捨て駒、しかも自分たちの栄養源のような言い回しに憤りを覚えたアレカであったが現在拘束の身であり、抵抗の力もない状態では何も言うことが出来なかった。

刀傷のオークはひしゃがれたような声で言葉を続ける。

 

 

「我々オークハ、確カニ、力、ヲ欲シテイル。カツテ滅ンダ、トサレル、エルフ、ノ、力、ハ、我ラヲ、安寧ヘト導クダロウ。ダガ、タダ捕ラエテ食ベルデハ、我々ハ栄エナイ。タダ一人ガ、強クテモ、全体ガ強クナクテハ、繁栄シナイ。意味ガ、無イノダ」

 

「ど………ゆ………こと?」

 

 

エルフの弓使いは力が入らぬ体で言葉を紡ぐ。

 

 

「食べ………ない………なら………あた………しを………ど…………す………の?」

 

「我々、オーク族ハ、生来ヨリ、男シカイナイ」

 

 

その言葉を聞いて。

その言葉の意味を理解して。

アレカの顔は蒼白く豹変する。

 

 

「コレモ、オーク族、ノ、繁栄ノ、タメダ」

 

 

そう言ってから刀傷のオークは口を閉ざした。

 

つまり………つまりコイツらはあたしを……あたしに………!!?

 

エルフの弓使いの頭に浮かぶ自身のこれからの未来。

それは最悪の未来だった。

 

 

「い………やぁ………いやぁ………いやぁ!!」

 

 

半ばパニックになり絶叫にも聞こえる声がアレカの口から漏れ出た。

刀傷のオークの手から抜け出そうにも力が出ない。

魔力も空。

今のアレカには抵抗すらも許されない。

 

 

「諦メロ、エルフヨ。我ラ、オーク族、ノ、未来ノ、タメニ、ソノ身ヲ捧ゲヨ」

 

 

後ろに続くオークがそう言うと恨みがましい眼光を向けるエルフの弓使い。しかしそれ以上のことは出来ず、特に後ろのオークも意にも介さずに淡々と森の中を進むのだった。

 

いや!いや!!いやぁ!!!

このまま仲間のみんなに会えないどころか生き恥も晒していくなんて耐えられない!死んだ方がマシよ!

今ここで死ねないなら誰か!誰かあたしをーー!!

 

 

「だ………れ………か………」

 

 

誰かを呼ぼうと声を出そうにもエルフの弓使いの体はもうとっくに限界だった。

意識を保つだけで精一杯だった。

そも、仮に声が出せたとしても近隣の村は廃村。仲間たちは遠くに出払っている。

彼女の声は誰にも届かない。

 

それを悟ってか、エルフの弓使いは途端にうな垂れたように俯き出す。

その目には光を失っていた。

 

バチが、当たったのかもしれない。

今まで、仲間のみんなを騙して利用した分のツケが。

あたしみたいなのが今更平穏を望んだことを。

今更どの面下げてみんなに謝るって言うの?許してもらうの?

そんなことしても犠牲になったみんなは帰ってこない。

きっと、許してもらえない。

石を投げられて追い出されるのが関の山。

この結末はそんなあたしに相応しいのかもしれない。

 

そもそもあたしは………エルフは存在しちゃいけなかったのかもしれない。

あたしたちの一族はその高魔力と高度な魔法理論より遥か昔から怖れられ、崇められ、疎まれてきた。

時にはあたしたちを怖れるあまりに根絶を目的とした襲撃も多々あった。そのたびに返り討ちにして………ますます怖れられた。

その繰り返しが長い歴史の中で繰り返されて……エルフは滅んだ。あたしを除いて。

 

あの時、あたしも死ねばよかったんだ。

そうすればオークに付け狙われることも。

みんなが犠牲になることも。

みんなに会うことも。

みんなと過ごすことも。

楽しい日々を過ごすことも。

……………………。

………………………………………。

……………………………………………………………。

 

 

「…………………」

 

 

気づけば、エルフの弓使いの頰に熱いものが伝った。

それはオーク達に気づかれることはなかったが、止めども止めども溢れるようにして流れ出す。

 

嫌だ。

そんなのは嫌だ。

確かにみんなと出会ったのは間違いだったかもしれない。

あたしたちエルフは生きてちゃいけなかったかもしれない。

あたしのせいでまた悲劇に巻き込んでしまうかもしれない。

それでも…………それでも。

あたしは………………みんなと。

 

 

みんなと………同じ未来を………歩きたい。

 

 

 

それは本当に最後の力。

身体中に残る力の全部を絞り出すようにして出した力。

許されないかもしれない。また悲劇に巻き込んでしまうかもしれない。それでも。と。

 

エルフの弓使いは渾身の力を込めて言葉にする。

 

 

「た……………す……………け……………て」

 

 

あまりにか細い声。

虫が鳴いたような音。

側にいたオーク達でさえ誰も気付かない。

もはや呻き声にしか感じ取れないその声は、虚しく森の奥に消えるーー。

 

 

 

◎◉◎◉◎◉

 

 

 

一本の矢が、オーク達の行く手を阻むように突き刺さった。

 

オーク達は歩を止め、アレカも異変に気づく。

意識が途切れる直前、その目に映ったものは。

 

ボ……………ッボ?

 

亜人の小ゴブリンだった。

 

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