「嘘…でしょ?」
誰の発した言葉だったろうか……
きっとその場にいた全員がそう思ったからだろう……
有栖がスポットを占有した。これはつまり、私たちは川の占有権を失い、もし今Aクラスがこの場に現れれば、私たちは非常に肩身の狭い生活を強要されるということ。
例え8時間後の更新を再度待ったところで、お互いに取り合いになり泥試合がはじまる。
けどそれを一週間続けるのは、お互いにあまりに……非効率的。
私が有栖の行動の意図を考えていると、先に堀北さんが声をあげました。
「あなた……なにを考えているの?これで私たちはAクラスのリーダーを知ったわ。あなたの行動でAクラスは最終日にリーダーを当てられて、マイナス50ポイントだわ」
「それにAクラスは今何をしているの?あなたがリーダーカードを持ってここにいるということは、スポットの占有ができないはずよ……」
その通りだよ、堀北さん。つまり有栖は……
「ふふっ、そうですね堀北さん。だから私たちAクラスはスポットを占有していません」
その直後、有栖の後ろの森からAクラスのメンバーが20人ほど現れました。
神室さん……朝に迎えに来るってこういうことだったんですね。
「っつ、どうしてここにAクラスが……」
他の女子と平田くんもどうなっているのか理解に追い付かず戸惑っています。
そして騒ぎに気づいたDクラスのメンバーも続々と集まってきました。
「Dクラスのみなさん」
有栖がDクラスに向けて言葉を発します。
「私たちAクラスは今、この川スポットを占有いたしました。これよりこの川の占有権はAクラスのものであり、川の水をDクラスが使用した際はペナルティが発生いたします」
「えっ、そうなの!?」
「もうこの場所使えないってこと!?」
Dクラスの女子が騒ぎ始めます。
「ただ……Dクラスのみなさんは既にこのスポットに仮設トイレやテントなどを設置し終えており、これから移動するとなると……特に仮設トイレなどは並大抵の苦労では済みません」
さっきまで騒いでいた女子が「そうだよっ」「どうなるの?」と有栖の話の続きを気にします。
ここまで言って有栖は、Dクラスのメンバーを一度大きく見渡してからまた口を開きました。
「ですので、私と契約をいたしませんか?今からお伝えする内容を承諾頂けるのであれば、このスポットはDクラスにお返しいたします」
有栖の提案にDクラスのメンバーはざわつき始めます。
「契約ってなんだよ……」
「けどこれからまた移動とか辛くない?」
「どうなってんだよ……」
「坂柳さん話はわかったよ。まず、契約の内容を確認させて貰えないかな?」
状況を理解した平田くんが声をあげました。
「えぇ、どうぞ。こちらです」
有栖は既に用意していた2枚綴りの契約書を私たちに見せました。
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特別試験における契約条項
第1条
Dクラスはこの試験終了時まで月野栞との接触を禁止する。
第2条
月野栞は、この試験中に限りAクラスの一員として行動し、知り得た情報の全てをAクラスに報告する。
第3条
月野栞が故意または悪意をもって、Aクラスの正当な指示に従わない場合はこれもまた違反とする。
第4条
AクラスはDクラスのリーダーを指名しない。
第5条
Aクラスはこれより、川の占有スポットの更新及び占有を行わない。また、次回更新までの時間についても、Dクラスへの使用許可を与えることで使用可能とする。
禁止事項
この契約内容は試験中のみ、他クラスへ話すことを禁止する。
上記項目に違反した際はクラスのプライベートポイント全てを契約相手に譲渡することとする。
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なにこれっ……
簡単に言えば私がこの試験中、Aクラスに行くことによってDクラスはまたここで生活出来るってことを書いてる。
けどそれだけじゃない……
AクラスはDクラスのリーダーを指名しない。だけどこの書き方は、他のクラスに指名させることは出来る。
それに、逆が書いてない。
この契約だとDクラスはAクラスのリーダーを指名できる。今現時点でのAクラスのリーダーはスポットを占有できた有栖で間違いない。
けどこれは罠……
原作の時に綾小路くんが龍園くんのスパイによるリーダー当てを防いだ方法と同じ。
『正当な理由なくリーダーを変更することはできない』
Aグループのリーダーである有栖はもともと体が弱くて、杖をついている。
無人島の生活に体が耐えられなくなってリタイアすることは正当な理由……
有栖がリタイアして別の人がAグループリーダーになった後に、私たちがAクラスのリーダーを当てようとして、有栖の名前を書けばペナルティでマイナス50ポイントになる。
それに、準備が良すぎる。
昨日有栖はずっと寝ていた。つまりこの契約書は、ここに来る前から書き終えてる。
無人島に上陸してからここまで、全て有栖の手のひらの上。まずはそれをみんなに伝えないと……Dクラスは話し合いのスタート位置にすら立てていない。
『みんな聞い「お待ちください!」』
私の言葉は有栖の声で止められた。
「月野さんがこれ以上、声を出した瞬間。私はこの契約を結ぶことをやめ、BクラスとCクラスにDクラスのリーダー情報を提供し、全クラスでDクラスのリーダーを当てにいきます」
みんなが私の顔を見ます。
誰も口には出しませんが、声を出すな……と目で訴えてきます。
私が口を押さえると堀北さんが有栖に問いかけます。
「坂柳さん、あなたの言ってることは変だわ」
「堀北さん、どういうことでしょうか?」
「あなたは昨日からテントの中でずっと寝ていたわよね?あなたがDクラスのリーダーを知る術はないはずよ?それこそ、この契約をして月野さんをAクラスにするまでは」
うんうん、私は堀北さんがリーダーだってもちろん知ってるから第2条の知り得た情報を全て報告するで、バレちゃうからね!
有栖はその質問をまるで予想していたかのように平然と答えました。
「ふふっ、いいえ、知っていますよ?
Dクラスのリーダー……堀北鈴音さん?」
堀北さんは当てられたことにもまったく表情を崩さず、有栖に返します。
「そう、あなたはそう思っているのね。それで外れたらAクラスはマイナス50ポイントね」
有栖はにやっと笑いながら語るように話します。
「先ほど、あなた方はスポットの更新のために、数人でこちらに歩いてきました。
スポットの更新、責任重大ですね……
堀北さんと月野さん以外はずいぶんと眠たそうに……まるで、他人事の用に歩いていましたね。
そして、月野さんがリーダーになる確率は極めて低いです。彼女は良くも悪くも目立ちますから。
必ず他のクラスからも注目されます
責任感が強くて、目立たない存在。
それが堀北さん、あなただったのではないですか?」
有栖の言うことは全てその通りで、私たちはなにも言葉にすることができませんでした。
「それではどうぞお決めください
契約するか、しないかを……」
こうして私はAクラスの一員となるのです