日焼け止めをぬり終えた私たちは二人で海へと走って行きました。
「わぁ、冷たいよっ、ひよりちゃん!」
私は海の中に足を入れて振り返り、ひよりちゃんを呼びます。
「……栞ちゃん、待ってください」
ひよりちゃんが私を追いかけて、手を胸の前に重ねながら小さい歩幅で走ってきます。
「栞ちゃん、おいていかないでください」
ひよりちゃんはそういって私の後ろから抱きついて来ました。
「あはは、ごめんねっ。ちょっとテンションあがっちゃったよぉ」
……えっと、たしか少し距離をとって水をかけ合えばいいんだよね?
私はひよりちゃんから少しだけ距離を起きました。
「えいっ」
そしてひよりちゃんに向けて水をパシャっとかけました。
水はひよりちゃんの胸の下にあたり、ひよりちゃんは体を跳ねて驚きます。
「ひゃっ、栞ちゃん、やりましたねっ……」
ひよりちゃんはすぐさま水を私にかけ返してきました。
ただ水をかけあっているだけなのになぜか私たちは楽しくって、気がつくと何回も同じことを繰り返していました。
「じゃぁそろそろ泳ぐ練習をしよっか」
「はい、栞ちゃん。よろしくお願いします」
私たちは足がギリギリつくくらいの深さまで、海の中を歩いていきます。
そして私はひよりちゃんの両手を握りながら歩きはじめました。
ひよりちゃんは水に顔をつけて、パタパタと足を動かしながら懸命に泳いでいます。
ある程度浅いところまで泳いだところで私は手を離して、ひよりちゃんは起き上がります。
その瞬間とてつもなく大きな波が二人をさらいました。
「ひよりちゃん!!」
私とひよりちゃんは波により離されてしまい、波がおさまった水平線にはどこにもひよりちゃんの姿は見当たりませんでした。
「早く探さないと!」
私は急いで水中を泳ぎながらひよりちゃんを探して、30秒もしないくらいですぐに助けることができました。
しかしひよりちゃんは、目を瞑ったまま開けてくれません…
すぐに砂浜にひよりちゃんを連れていって、仰向けに寝かせます。
……これは、人工呼吸が必要でしょうか。
「ひよりちゃん!ひよりちゃん!」
声をかけてもひよりちゃんは反応しません。
近くには誰もいなく、助けも呼べません。
まずは息をしているか確認しないと……
私はひよりちゃんの額に手を当てながら、あごをくいっと持ち上げます。
そしてひよりちゃんの顔に、顔を近づけて……
って、あれ、息してますね……
私は再度ひよりちゃんを見下ろします。
さっきと手の位置が変わってます……
まさかひよりちゃん……
「あの、ひよりちゃん?起きてますよね?」
ひよりちゃんは首をふって答えます。
「人工呼吸はしませんよ?」
「……そうですか、残念です」
ひよりちゃんは頬を膨らませ、いじけました。
海から上がった私たちはビーチタオルを羽織い、シートの上に座っていました。
ひよりちゃんはちょっと疲れたのか、可愛らしいピンク色のイヤホンで音楽を聴きながら本を読んでいます。
そんなひよりちゃんの隣で私は、龍園くんから貰ったなかなかに本格的な水鉄砲を、アルベルトくんの背中に打ち付けていました。
山田アルベルトくん。龍園くんの部下で黒人ハーフのマッチョな人です。
いつもサングラスをかけています。
たまにアルベルトくんが私の方を振り向きますが、水鉄砲を背中に隠して口笛を吹いておきます。
そしてまた前を向いたら水鉄砲を打ち付ける遊びです。
「oh no」
アルベルトくんも楽しんでくれているようですね。
アルベルトくんと遊び終わった私は、ひよりちゃんに「構ってよ」っとツンツンします。
ひよりちゃんはイヤホンを外して、片方を私の耳にいれてくれました。
流れる音楽はとても穏やかで、まるでひよりちゃんのよう……
私はいつの間にかうとうとし、座りながら眠っていました。目を覚ますと辺りは薄暗く、夕日が海に沈みかけていました……
隣を見るとひよりちゃんも座りながら眠っています。
「あれっ、そういえばイヤホン……」
私は音楽が消えていることに気づき周りを探し始めると、ひよりちゃんのイタズラにクスッと笑ってしまいました。
私とひよりちゃんの小指にはピンク色のイヤホンが、蝶々結びで結ばれていました。
こうして私たちは海の音を聴くのです