「それにしても須藤くんのケガが大したことなくてよかったわ、体育祭で須藤くんが抜けるのは大きいもの」
「うん、そうだね。大事に至らなくてよかったよ」
「けどわりいな、完治するまで2週間は体育祭の練習に出れねえ」
体育祭の練習を終えて今は放課後。
推薦競技の1200メートル合同リレーに出場する私たち6人は、出走順を決めるために教室で話し合いをしています。
堀北さんと平田くんが話していたように須藤くんは全治2週間の捻挫のようで、当分は安静にしていなくてはいけないようですっ。
「でも捻挫は癖になりやすいからな、無理はしないほうがいいぞ須藤」
「おお、わかってるって三宅!」
「ねぇ、そろそろ決めない? 合同リレーの順番だよね?」
「そうね、小野寺さんの言う通りそろそろ始めましょう」
3学年合同1200メートルリレー、体育祭の最終種目です。各クラス男女3名ずつの6人が出場し、それぞれが200メートルずつを走ります。上級生も入り混じった12人同時スタートの究極リレーです。
12レーン分用意することは出来ないのでスタートは横並び、スタートダッシュによってインコースを取り有利に立てるレースでもあります。Bクラスからは男子が須藤くん、平田くん、三宅くん。女子が私と堀北さんと小野寺さんです。
三宅くんは弓道部所属の元ヤンチャ少年。小野寺さんは水泳部所属のボーイッシュな女の子です。
ちなみに原作では龍園くんの執拗な攻撃により堀北さんが出られなくなり、櫛田さんと交代。
三宅くんもケガで出場できなくなり、綾小路くんが代わりに出場となっていました。
「僕としてはアンカーに一番速い月野さん、そして第一走者から速い人を順番に並べて行くのがいいと思うんだけどどうかな?」
平田くんの発言に小野寺さんが続きます。
「つまり、須藤くん、平田くん、三宅くん、私、堀北さん、月野さんの順番ってこと?」
「うん、そうだね。みんなはどうかな?」
「おお、いいんじゃねえか! 俺がリード広げて次に繋いでやるぜ!」
「そうだな、俺もそれでいいぞ」
須藤くんも三宅くんも問題ないようですねっ。
「私もそれでいいよっ」
特に問題もなく決まりそうな空気の中、それを止める声が上がりました。
「ごめんなさい、ちょっといいかしら」
「なんだい? 堀北さん」
「……月野さん、悪いんだけど私にアンカーを譲ってくれないかしら?」
あっ、そういえば原作でも同じような事がありました。とりあえず理由を聞いてみましょう。
「堀北さん、理由を聞いてもいいかなっ?」
「それは……」
堀北さんは言うか言わないか迷った雰囲気でおどおどしているので私から聞いてみます。
「もしかしてお兄さんの事ですかっ?」
「えっ、ええ、そうよ……」
話の流れが見えない状況に平田くんが口を開きました。
「堀北さん、お兄さんの事というのは何の話なのかな? 差し支えなければ教えて欲しいな」
他のメンバーも堀北さんの言葉を待ちます。
「私の兄がおそらくアンカーで出場するの……」
「堀北の兄ちゃんって誰だ?」
「生徒会長の堀北学先輩ですよっ」
「マジか!? 堀北って生徒会長の妹だったのかよ!」
須藤くんは驚いていますが、他のみんなは知っていたようですねっ。
「須藤知らなかったのか? わりと噂になってたぞ」
「三宅も知ってんのかよ! もしかして知らなかったの俺だけか?」
無言でみんな頷く中、平田くんが話を戻します。
「つまり、お兄さんと一緒にアンカーをしたいってことなのかな?」
「えぇ、個人的な事情で悪いとは思うのだけど……」
原作でも堀北さんは須藤くんにアンカーを譲ってもらうようお願いをしてアンカーで走る予定でした。ただ、龍園くんの陰謀によりケガをしたことで棄権になってしまい走れなかったんですよねぇ。
……ただ、ここで譲っても良い結果にはならない気がします。それにはまず、堀北鈴音さんについての原作知識を思い出して見ましょう。
堀北会長の妹である堀北鈴音さんはずっと会長の後を追いかけてきました。スポーツも勉強も、がんばるのは全ては兄に認めてもらうため。しかし堀北会長はそれを良しとしません……
幼い妹への大きな才能を感じた会長は、いつか妹が自分を超えるだけの力を身につけて成長することに期待をしていました。
しかしその期待は叶わず、堀北さんは自分が兄に劣っていると決めつけてしまい追い抜くことを諦め、いつしか会長に追い付くことを終着点と考えてしまうようになります。会長はそれが許せませんでした。
兄に追い付こうとする妹と、追い抜きその先へと進んで欲しい兄との葛藤。
それが二人の今の関係です。
兄に執着するこの思いを乗り越えた時、初めて堀北さんは自分の道を進めるようになります。
現在の堀北さんは兄に追い付こうと必死で周囲を見渡す余裕がなく、仲間も作れず、自分一人の力で全てを解決しようとしている状態です。この状態で会長に会っても冷たく突き離されるだけです……
今回は堀北さんの成長の為にがんばりましょう。
「ごめんねっ、堀北さんそれは出来ないよっ」
私が断ると思っていなかったのか堀北さんも他のみんなも驚いていました。
「た、確かに一番速い月野さんがアンカーをやるのがセオリーなのは理解しているわ。だけど、私にはもう時間が……」
このままじゃ3年生の会長はすぐ卒業だもんねっ……
「じゃぁ正攻法でアンカーになってよ? 参加表の締め切りまであと3週間。毎日放課後に私と1回だけ勝負をして、1度でも勝てたらアンカーは譲るよ」
堀北さんは私の目を見て言い放ちました。
「その言葉を忘れないで。アンカーの座は必ずいただくわ」
こうして私たちのリレーは始まるのです