「ぐっ、はぁ、はぁ……」
「また勝てなかったね、堀北さん」
堀北さんとリレー勝負の話をしてから数日。言葉通り堀北さんは毎日私に勝負を挑み、そして……
まだ一度も私を追い抜くことは出来ていませんでした。
堀北さんは膝に手を当てて肩で息を吐きながら私を睨みます。
「……明日は、必ず勝つわ」
「ねぇ、堀北さんはどうしてAクラスにあがりたいの?」
「私は……」
「お兄さんに追いついて認めてもらうため?」
「……っつ、なんでそれを」
「けど、今の堀北さんじゃ無理だよ? あなたは届かない。私にも、お兄さんにも」
そして翌日……
既にBクラス内で私たちの勝負のことは有名な話になっていて、ここ数日その話が尽きませんでした。
「昨日も堀北さん負けたらしいよー。そもそもなんでアンカーやりたいんだろ」
「なんかお兄さんがアンカーで出場するから一緒に出たいみたい」
そして今日も……
「はぁ、はぁ……」
「ねぇ、どうやってAクラスに上がるつもりなの? 前回の試験みたいに私に全てまかせるの?」
「私は、私だけの力でなんとしてもAクラスに上がるわ」
「堀北さんの力じゃ無理だよ、坂柳有栖には勝てない」
そして後日……
「堀北さん毎日、朝と夜走ってるらしいよ?」
「えっ、ガチじゃん。そこまでお兄さんと走りたいってこと?」
「3年生は卒業だから当分会えないし、最後の思い出作りなのかもねぇ」
その次の日も……
「はぁ、はぁ……」
「ねぇ、堀北さん一人の力でAクラスに上がれるの? 認めてもらえるの?」
「けど、私にはそれ以外方法が……」
それから数日後……
「堀北さんまた走ってるね……」
「うん、さすがに頑張ってほしくなってきた……」
「それだけ本気ってことじゃない? 今日の放課後グラウンド見に行ってみよっか」
更に今日も……
「はぁ、はぁ……どうして、認めてもらえないの」
「堀北さんが一人だからだよ」
そして更に数日後……
「おい、堀北のやつ最近すげー頑張ってるよな」
「ああ、月野との差も縮まってきてるらしい」
「なあ、放課後見に行ってみようぜ」
そのまた後日……
「はぁ、はぁ……けど私には頼れる仲間なんかいない」
「ねぇ、本当にそう思ってるの?」
それからまた数日後……
「……ねぇ外、雨だよ?」
「うん、走ってたね……」
「本気なんだね、堀北さん」
そして本日も……
「はぁ、はぁ……」
「ねぇ、みんなでなら叶えられるんじゃないの?」
そして最終日の放課後
「みんな少しいいかな?」
クラスのみんなが平田くんに注目していました。
「みんな知っていると思うけど、月野さんと堀北さんがアンカー争いで戦ってる。今日はその最終日、みんなも堀北さんの3週間の頑張りを見てきたと思う。クラスメイトがこれだけ必死に頑張っている。僕は、同じ仲間として二人を応援してあげたい。もし僕と同じ気持ちが少しでもある人は一緒に応援に来てくれないかな?」
みんなが無言のまま静寂の時が訪れます。
「俺は行くぜ、堀北は雨の中も毎日かかさず練習してきた。あいつの気持ちは本物だ」
須藤くんが立ち上がります。
「だな、確かに頑張ってたよな、堀北のやつ」
池くんが言います。
「私も暇だし見に行くかな~月野さんも頑張ってるみたいだし」
軽井沢さんが言います。
「わ、わたしも……応援にいきます」
佐倉さんが立ち上がります。
「体育祭も近いしな、結果を見るのは必要なことだ」
幸村くんが言います。
その声に次々と言い訳のように言葉を出しつつもみんながみんな席を立ち、そして教室には誰も残っていませんでした。
普段こそ単純でワガママで問題だらけのBクラスですが、それゆえに情熱的で実は仲間思いで個性的な人も多くて、一度ハマればBクラスは他のどのクラスよりも熱く強いクラスだと私は信じています。そしてBクラスの気持ちは今、堀北さんの熱意に大きく反応しようとしていました……
気がつけばBクラスのほぼ全員がグラウンドまで応援に駆け付けています。
私たちは今日も走り出しました。
等間隔でBクラスのみんなが立っています。
残り150メートル
佐倉さんが応援してくれます。
「月野さんがんばって!」
例え声は小さくても精一杯に想いを込めて……
残り100メートル
「いけええええ堀北あああああ!」
池くんが叫んでいます、いつもふざけてばかりなのに今日は真剣な声で……
残り50メートル
「あと50メートルだ!! 気持ちで負けるなあああああ!!!!」
幸村くんが追走してきてくれます。
本当は誰よりも運動が苦手なのに……
もうゴールまで残りわずか……
私と堀北さんの距離はほぼ互角、そして私と堀北さんの3週間に渡る長い戦いが終わりを迎えます。
「堀北さんがんばれ!!!」
「負けるなー堀北ー!!!!!」
「諦めるなああああああ!!!!」
……ゴール直前、その声援は堀北さんの背中を押して、その日初めて私を追い越しました。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「堀北さんやったー!」
「堀北さんおめでとう!!」
「ナイスファイトだ堀北!!」
グラウンドにBクラスの声だけが響き渡ります。
「やるじゃねえか堀北!」
「ナイスガッツだ!」
「かっこよかったよ、堀北さん」
「おめでとう堀北さん」
平田くんたちリレーの出場メンバーも堀北さんの周りを囲みます。
私たちは肩で息をしながら目を合わせました。
「ねぇ、まだ一人でAクラスを目指したい?」
堀北さんは自分を囲むクラスメイト達を見て首を振りながら言いました。
「……いいえ、私は、私はこのクラスの全員とAクラスを目指すわ」
「うん、私たちが必ず届けるよ。堀北さんをお兄さんのところまで」
……ありがとう、みんな。そして月野さん。
一ヶ月間に渡る長い準備期間を終えて、私たちBクラスは体育祭に向けて気持ちを一丸とし、ついに体育祭の当日を迎えることになるのです。
こうして私たちの体育祭は始まるのです